2006年4月13日
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 4月11日午前3時40分ごろ、六ヶ所再処理工場・前処理建屋の溶解槽セル(部屋)内においてハル(燃料被覆管)を洗浄した水約40リットルが漏えいした。溶解槽では、4cm程度に切り刻んだ使用済み核燃料棒を硝酸で溶かす。ハルと呼ばれる溶け残った燃料棒のサヤにはドロドロの放射能がこびりついている。洗浄水によってその放射能を洗い落とすため、放射能は洗浄水中に移行する。それゆえ、漏れた洗浄水40リットル中には、あらゆる種類の放射能が大量に含まれている。たとえばプルトニウムは、再処理工場から1年間に外部に放出されるのと同程度あるいはそれ以上もが含まれていた。溶解槽セル内で気体になった放射能は、主排気筒から外部環境に放出された疑いがある。この事故を日本原燃が青森県に報告したのが6時間後、ホームページで公表したのが12日の午後だという。公表まで約1日半もかかっている。しかもその公表内容はきわめて簡単なもので、これを読んでも実態が把握できない(原燃HP)。公表が翌日の午後になったのは、県や六ヶ所村と取り決めた「情報・公表区分」(今回の場合はB情報:1リットル以上100リットル未満の漏えい)に従ったためだということだが、原発立地県ならばこのような報告遅れはただちに問題になる[4月13日朝日新聞WEB版]。しかし青森県知事は、原燃を呼びつけることもせず、「大事に至らなかったが、県民に不安を抱かせないよう慎重にやってほしい」と県当局が話しているだけだ[4月13日デーリー東北]。こんな姿勢で青森県民の生命が守れると思っているのか。 事故が起こったまさにその日に、青森県農協中央会などから、「風評被害は、本県農業・農業者にとっても死活問題」だとして安全・安心を厳しく求める要望書が県知事に出されたが、そのときこの事故のことは知らされていなかったことになる。いくら県知事が「攻めの農業」などと叫んでも、事故はすべてをだいなしにするのだ。青森県知事は安全協定を撤回すべきだ。 この事故は余りにもずさんな日本原燃の体質を如実に示している。熊坂宮古市長が「原燃の管理体制の問題が露呈した」と述べたとおりである。このままアクティブ試験を継続すれば、どんなひどい事態が到来するか知れたものではない。アクティブ試験はただちに中止すべきである。 1.漏えいしたハル洗浄水にはプルトニウムを含む大量の放射能が含まれていた 日本原燃広報によれば、ハル洗浄槽には200リットルの洗浄液が溜まっており、5分の1にもあたる40リットルが漏えいしたという。漏えいした40リットルに含まれている放射能は、プルトニウムなどの全アルファ核種が164億ベクレル、全ガンマ核種が1240億ベクレル含まれていた。そのうち、ウランが重量表示で260グラム、プルトニウムが1グラムだという。 ちなみに、通常運転で海洋に1年間に放出される予定の全アルファ核種は38億ベクレルだから、今回の漏えいアルファ核種はその4.3倍に相当する。そのうち海洋への年間プルトニウム240(Pu−α)放出量は30億ベクレルである。これを重量に直すと0.36グラムだから、今回の漏えいプルトニウムはその2.8倍もある。 ハルは使用済み核燃料の被覆管が溶解せずに残ったものである。洗浄タンクに来る前は、溶解槽の中でどろどろに溶けた使用済み核燃料にまみれていたのだから、あらゆる放射能を身に付けている。そのこびりついた放射能を水で洗い落としたその洗浄水中にはあらゆる放射能が混入する。漏えい水に大量の放射能が入っているのは当然である。また、それだけセル内が汚染されたことになる。 2.気体放射能は主排気筒から放出された疑いがある 日本原燃がホームページで公開している図では、小さなセル内にハル洗浄槽だけがあるかのように見えるがそうではない。溶解槽セルは、溶解槽やヨウ素追い出し槽なども据え付けられている天井の高い大きな部屋である。 漏えいした洗浄水は下部の受け皿にたまったが、気体状の放射能はセル内に放出され、排気系統に導かれて主排気筒から大気中に放出された疑いがある。事実、日本原燃は、「洗浄水には放射性物質が含まれておりましたが、本事象による主排気筒モニタおよびモニタリングポストの指示値に変動はなく、環境への影響はありませんでした」と述べている。つまり、放射能は外部に出なかったというのではなく、モニタの指示値に変動を起こすほどではなかったと認めている。 実は、これらモニタの指示値はきわめておおまかで多少の変動があっても読み取れないようになっているのである。事故が起こっても、事故をキャッチできないようなモニタリングシステムであることを図らずも露呈したことになる。現在のモニタリングシステムや指示値の公表の仕方などは根本的に改めるべきである(例えば、原燃HPでは10分毎にモニタの値が表示されているが、10分前の数値は確認できない)。 3.漏えい原因−あまりにもずさんな管理 日本原燃広報によれば、今回は、蒸気ジェットポンプからのホースをノズルにつなぐ試験を行っていたという。何のための試験かいまだにはっきりしないが、ホームページの説明からは、洗浄水を抜き出す作業をしていたように読みとれる。ただし、4月13日付デーリー東北の記事では「洗浄水の中に金属片のくずがどれぐらい含まれているかを調べるための試運転作業中」となっている。 洗浄水タンクには、洗浄水を抜き出すための細いL字型ノズルが底部から突き出し、外部ノズルの上部は閉止プラグ(栓)で止められている。ホースをノズルにつなぐためには、閉止プラグを取らねばならない。閉止プラグの高さは洗浄水槽内の水位より高いため、閉止プラグを取っても水は漏れないようになっている。閉止プラグを取る操作は、操作員がセルの外から窓をのぞきながら遠隔操作のアームで行うのである。 ところが今回操作員は、遠隔操作で閉止プラグを取りはずすべきところ、閉止プラグが取り付けられている接続用部品をねじって取りはずしてしまった。接続用部品の下部は内部水面より下になるため、中の水があふれ出たのである。 操作員には、窓から閉止プラグは見えている。接続用部品までが閉止プラグだと思い込んでいたというのだろうか。原燃は、「キャップと接続部品、配管はいずれもステンレス製で同じ色をしており、『見えにくかった』と説明している」という[4月13日デーリー東北]。あきれかえる言い訳だ。接続用部品をはずせば漏えい事故が起きるという基本的な教育も訓練もなされていない。原燃のずさんな管理を物語っている。 4.閉止プラグをめぐる奇妙な構造 この事故は単なる操作員の操作ミスを示しただけではなく、なぜ操作ミスが起こるような構造にしていたのかという問題を提起している。 第1に、図で見ると、ずいぶん下の方に閉止プラグがあるが、これでは何かの拍子に少し水位が上がれば閉止プラグ位置からでも水は漏れる。 第2に、いまの構造を認めたとして、なぜ閉止プラグの下にある接続用部品が簡単に取り外せるような構造になっていたのだろうか。 第3に、何よりも奇妙なのは、なぜ、ジェットポンプへの接続ホースを常時つないでおいて必要なときだけコックを開けるようにしていないのかということである。そうしておけば、わざわざ外から、しかも1mもある鉛ガラス越しに手動の遠隔操作で閉止プラグを外したり付けたりする必要はない。この理由はおそらく、ジェットポンプは洗浄水の移送専用ではなく、別の役割もさせるように想定しているためであろう。たとえば、今回のように洗浄水が漏れて受け皿に溜まった場合、このジェットポンプでくみ出すことができる。仮にそうだとすれば、漏れた場合に備えるために常時接続にしなかったことが原因で実際に漏れるという皮肉が起こったことになる。このような構造にしたのも、費用の節約のためではないだろうか。 原燃は、今回の特別な作業の目的、閉止プラグの構造等について明らかにすべきだ。 5.日本原燃のずさんな体質 日本原燃は、すでに2月17日に低レベル廃棄物処理建屋で放射能を含む廃液漏えい事故を起こしている。この低レベル廃液はウラン試験の過程で産み出されたものである。それゆえ、この漏えい事故の実態や漏えい原因などはウラン試験の一環として保安院に報告され審査されるべきものであったはずだ。ところがそのような措置が何もなされないまま、アクティブ試験に突入してしまった。スケジュール優先だとしか言いようがない。 いったいなぜ低レベル廃液が漏えいしたのだろうか。日本原燃によると、中和するために硝酸という強酸を一気に大量に槽内に入れたために、沸騰するような感じで噴出したという。ではなぜここにそれほど強いアルカリが存在したのか、とても考えにくいことである。攪拌装置も通常と違ってパイプによる循環型である。とにかく疑問が残されたまま、いまだ具体的な報告書が出されていない。 また、昨年には、使用済み核燃料貯蔵プールの漏えい問題が強引に幕引きされている。プールの水位が低下しない限り漏えいは認められるのだという保安院の見解がまかり通っている。 さらに、ガラス固化体貯蔵建屋ではコンクリート温度が規制の上限値を超えることが分かっているのに、改造しないでもよしとする見解が保安院と日本原燃の謀議でまかり通っている。 このように、安全管理をないがしろにする姿勢、スケジュール最優先の姿勢がアクティブ試験の前にすでに見えていたのである。このような姿勢のままアクティブ試験に入れば、事故が起こるのは必然であると我々は2月10日の青森県知事への要望書の中で警告した。その危惧がやはり今回の事故で現実のものとなったのである。 結局、今回の事故は、単なる人為ミスや単なる構造の欠陥で起こったというのではなく、これら一連の安全管理上のずさんな姿勢から、必然的に起こったものとして捉えるべきである。 6.安全な食品、青森・三陸の農業・漁業をこれ以上脅かすな 事故が起こったちょうどその日に、青森県農業共同組合中央会などは、農産物の安全・安心を死活問題であるとして「ゆるぎない安全性の確保」を厳しく求める要請書を青森県知事に提出していた。アクティブ試験によって、何も事故がなくても日常的に放出される放射能によって食品が汚染される。このことを憂慮する厳しい声が全国の消費者から寄せられているという。 しかし、知事がいかに「攻めの農業」を叫び、電事連にまででかけて安全・安心への協力を訴えても、日本原燃が事故を起こせば元の木阿弥である。今回の事故で日本原燃は、農業者の切実な願いを見事に踏みにじったのである。食品の安全・安心を脅かすすべての責任が第一に日本原燃にあることは明らかである。同時に、「原燃の品質保証体制は万全」などとしてアクティブ試験入りを認めた青森県知事の責任も重大だ。青森県知事は安全協定を撤回すべきだ。青森県産品を守るためにはそれしかない。 7.アクティブ試験をただちに中止せよ 今回の事故で、あまりにもずさんな日本原燃の体質が誰の目にも明らかになった。ところが日本原燃はアクティブ試験をこのまま継続する意向だと伝えられている。とんでもないことだ。この体質で、これから分離、精製過程と進んでいけば、臨界事故さえ起こしかねない。 いまならまだ放射能汚染もわずかなままで済ますことができる。これ以上食品の安全ばかりか人の生命を脅かすことはやめるべきだ。ただちにアクティブ試験を中止すべきである。 |