日本原燃の海洋への放射能放出に抗議する

2006年4月29日
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会

 日本原燃は4月28日に放射能廃液約600トンを海洋に放出した。これに強く抗議する。
 4月25日に岩手の10市町村から六ヶ所再処理工場に視察に出向き、岩手現地で説明会を開くよう要求したのに、日本原燃はそのとき放出のことは何も言わず、結局は要望を黙って踏みにじった。さらに、5月2日には岩手県市長会の視察が、5月11日には岩手県議会環境生活常任委員会議員の視察が予定されている。今回の放出はこれらの人たちの顔に放射能をぶっかけるような行為である。
 600トンは4基ある放出前貯槽の1基分である。まだ3基分1800トンを貯蔵する余裕があるのに、急いで放出する必要はなかった。三陸の人たちの憂慮に対して、急いで既成事実をつくろうとしているとしか考えられない。
 しかも、放出したのは金曜日であった。まさに「魔の金曜日」というべきである。土日の公表は休むという日本原燃の方式では、この事実がホームページに出るのは次ぎの月曜日(5月1日)の午後3時になる。放出の事実が知られるのをなるべく後にするという、実に姑息なやり方だ。
 海はすべての生命の源泉であり、すべての生物が生きる糧を供給し続けてきた。とりわけ三陸沿岸で暮らす人々にとっては、海の放射能汚染は死活にかかわるほどの重大な問題である。その人々の声に耳を傾けようともせず、目の前に大量の放射性毒物を捨てるなどということが許されるわけがない。
 日本原燃は、海に放射能を捨てるのをやめよ。直ちにアクティブ試験を中止すべきである。


日本原燃は生命の源泉である海を放射能で汚すな
三陸沿岸の人たちの声に真摯に耳を傾けよ

 日本原燃はついに海に放射能を放出した。4月28日の午前11時から約6時間にわたって、600トンすなわち約600m3の放射性廃液を放出したという。1時間当たり約100m3は予定どおりの放出率を示している。直径7.5cmの放出口から毎秒約6mの速度で放出したことになる。約600m3の廃液中に、トリチウムは年間放出量の1億分の1程度が含まれていたという。すなわち約1億8千万ベクレルのトリチウムが廃液600m3中に含まれていたことになる。放射能濃度にすれば、廃液1cm3当たり0.3ベクレルとなる。
 放出前廃液を測定するRモニタの指示値は目に見えるほどの変動を示していないが、これはメモリが荒っぽいせいである。これでは人々が放出を知ることはできない。
 もし本格操業になると、2日に1回は廃液600m3を放出することになるという。すなわち年に約183回放出する。年に放出するトリチウムは1.8×10の16乗ベクレル(1億の1.8億倍ベクレル)だから、1回放出分の廃液600m3中に約1700億ベクレルのトリチウムが含まれることになり、濃度にすれば1cm3当たり17万ベクレルとなる。これは原子力施設に適用されている濃度限度である1cm3当たり60ベクレルの2800倍にも相当する。もし原子力施設一般に適用されている濃度規制が六ヶ所再処理工場からの海洋放出にも適用されるならば、年間予定使用済み核燃料800トンの2800分の1程度しか再処理できないことになり、事実上再処理は不可能になる。そのために再処理工場については、2000年(平成12年)科技庁告示第13号で、濃度規制を取り払ってしまったのである。
 本格操業となれば、このように恐ろしい海洋への放出が行われるが、アクティブ試験においても、次第にこのような放出に近づいていくものと思われる。いよいよ大量の放射能が三陸の海に押し寄せる状況が近づいている。それがどのような問題を引き起こすのか、日本原燃には説明する責任があるはずだ。日本原燃に何を説明させるのか、その内容を検討しておくことは差し迫って重要な課題であろう。

1.海に捨てられた放射性廃液は三陸沿岸に直接向かっていく
 日本原燃は、再処理工場から地下にパイプを通し、むつ小川原港の沖合い3km地点、深さ約50mの海底から上を向けて放射性廃液を放出する。直径約7.5cmの放出口から毎秒約6mの速度で放出される廃液は海面に浮かび上がり、そこから海流に乗って流されていく。
 下北海域の流れを支配するのは、日本海から津軽海峡を渡ってきて南に向かう津軽暖流である。このことは、原燃が政府に1989年(平成元年)3月に提出した再処理事業指定申請書でも明確に記載されている。その第3.1−1図に見られるように、津軽暖流は東側を親潮寒流の壁によって制約されながら、下北海域から三陸沿岸へと沿岸に沿うようにして流れている。放出された放射能の基本的にすべてが三陸沿岸の非常に狭い領域を通っていくことは一目瞭然である。


 市民が行ったはがきの放流実験では、はがきが山田湾内の定置網に入っているが、発見されたときは湾内に入ったと推定される日から数日経過していた。湾内でウロウロしてから定置網に入ったためであろう。放射能がリアス式湾内に入り、そこに蓄積し生物濃縮されるのは必然である。
(海流の季節による違いは、海上保安庁の海流推測図を見れば分かる。http://www1.kaiho.mlit.go.jp/KANKYO/KAIYO/qboc/index.html の一番下にある「バックナンバー」を参照)。

2.原燃は三陸沿岸の汚染をまったく考慮していない
 原燃は三陸は遠いので拡散で薄まるというだけである。原燃は海流調査を行った上での判断だというが、実際に海流調査したのは下北海域だけである。1986年(昭和61年)6月から放出口の北20kmから南20kmの間に等深線に沿うような21地点で海流観測している(再処理事業指定申請書 第3.2―1図)。そのうち放出口付近の3地点では1年間連続的に、他の18地点では30日ずつ年に4回実施した。その結果、「水深約50m以深の観測点における海面下5mの流向は各期ともほぼ等深線に沿った流れが卓越し」ていると述べている(再処理事業指定申請書p.4-3-6)。
 このように、原燃が実際に実施した海流調査は下北海域だけである。同時に、その結果から海流は南に向かっていること、しかも、ほぼ等深線に沿って流れていることが確認されている。そこで等深線に注意すると、50mばかりか100mの等深線も三陸沿岸ではほとんど海岸線と区別できないほどに沿岸近傍を通っている。等深線に沿って流れる放射能が三陸沿岸の近傍を流れることが十分に予測できる。
 特に晩秋から春にかけての流れは、津軽海峡を東に出たところから明確に沿岸沿いになっている(再処理事業指定申請書 第3.1−2図)。原燃は、三陸沿岸に放射能の影響はないと主張する前に、海流の調査を三陸沿岸にまで延ばして実施するべきではないか。はがきの放流実験は市民によって、津軽暖流の噴出しの強い8月末にすでに行われている。日本原燃がこれから行うのであれば、津軽暖流の噴出しの弱い季節、いまなら5月中に行い、どれだけがリアス式湾内に入り込むかを調査すべきである。

3.原燃は放射能の年々の蓄積(累積)をまったく考慮していない
 原燃は、被ばく線量は最大で年に0.022mSvであると計算しているが、これは魚類による濃縮係数を低く見積もっているなどの問題がある。それはさておき、この年間の被ばく線量値は、奇妙なことにどの年でもまったく同じである。それもそのはず、原燃が再処理事業指定申請書で記述している計算方式を見れば、年々の放射能の蓄積(累積)をまったく考慮していない。ある年に放出した放射能による被ばく線量を計算すると、その年の放射能は除夜の鐘とともにきれいさっぱり消えてなくなり、翌年への持ち越しはないというわけだ。
 しかし海洋汚染で問題になるのは、微量であっても生物や海底に蓄積していくというまさにその性質ではないだろうか。海水中のヨウ素129などは海藻で何千倍にも濃縮される。この過程に翌年の放射能が累積されていく。この累積効果が完全に無視されているのである。

4.日本原燃のなすべきこと
 六ヶ所再処理工場の通常運転で、原燃が毎年海に放出する放射能は、経口急性致死量で4万7千人にも相当する。トリチウムだけで年に1.8×10の16乗ベクレル(1億の1.8億倍ベクレル)であり、ヨウ素129、ストロンチウム90、プルトニウム、セシウム137など、これまで地球上に存在しなかった人工放射能がおよそ数千億ベクレルもある。1ベクレルは1秒間に1回放射線を出すという放射能の単位である。トリチウムを除いても1秒間に数千億回も放射線を放出するだけの放射能が放出されることになる。ただの1本の放射線でも生物の細胞の遺伝子を傷つける。人のガン死がわずかしか起こらないから害がないなどという論法は、生物の生存権を無視するものではないだろうか。
 原燃は三陸沿岸への影響について、(1)海流の調査を行い、リアス式湾内にどの程度の放射能が入りこみ、蓄積されるかを調査すべきである。(2)年々に放出される放射能の累積効果、生物濃縮、海底のどろなどによる蓄積と生物への移行過程などを調査検討すべきである。
 日本原燃は直ちに三陸沿岸に自ら出向き、そこに住むすべての人々に懇切丁寧な説明をすべきである。人々の声に真摯に耳を傾け、これまで上記のような調査検討をしてこなかったことを、正直に吐露すべきである。
少なくともこのような場をもつまでは、けっして放射能を海に捨てるべきではない。