原燃は4月28日に海に放出した放射能の核種と量を公表せよ
トリチウムの放出量は「年間管理目標値の1億分の1」(原燃)
そのトリチウム濃度は、通常の海水に含まれる濃度の約600倍


2006.5.10
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会

 日本原燃は4月28日に放射性廃液約600トン(600m)を海洋に放出した。アクティブ試験開始後、初めての海洋放出である。今回の放出について、原燃は「放射能核種や放射能量については、月毎にまとめて報告することになっているので、4月28日の放出分について個別にその内容を明らかにすることはしない。4月に放出した分は、5月末か6月初めに月単位で報告する」と電話で答えている。三陸沿岸の人々をはじめ、多くの人々が放射能の海洋放出について憂慮している声を無視して行った海洋放出で、その具体的内容についても明らかにしない原燃の姿勢は決して許されるものではない。原燃に対して、海洋放出の実態を明らかにするよう要求していこう。
 このような状況であるため、4月28日の海洋放出については新聞報道に頼る以外にない。
報道からわかるのは(1)「トリチウムの放出量は年間管理目標値の1億分の1」、(2)「6時間をかけて600mを放出した」、そして本格運転では「2日に1回の割合で600mを放出する」ということだけだ。これは、上記3点を元に、海洋放出の問題点に関する暫定的なメモである。

1.使用済み核燃料のせん断量
・5月4日19:50〜5日にかけて、主排気筒モニタが変動している。予告どおり10体の使用済み核燃料のせん断をしたことを5月8日に公表した。4月の8体と合計で18体となった。

・この時期の試験で使われている使用済み核燃料は17×17型のPWR燃料集合体。1体は0.46tUなので18体で8.3tU分がせん断されたことになる。

・4月28日の海洋放出以前にせん断された8体は3.7tUで、通常運転での年再処理量800tUの0.46%に相当する。

2.4月28日の海洋放出について新聞報道から分かること
[デーリー東北4月29日記事概要]
 日本原燃は二十八日、・・・放射性物質のトリチウムを含む廃水約六百トンを海洋に放出した。原燃は、トリチウムの量は年間放出管理目標値を大きく下回るもので、環境への影響はないとしている。
 原燃によると、海洋放出は午前十一時ごろから約六時間にわたって行った。・・・。
 今回放出した廃水中のトリチウムの量について、原燃は「管理目標値の一億分の一程度」と説明。濃度についても、既に修了したウラン試験などの時の放出とほぼ同じだという。
 本格操業が始まると二日に一回程度、約六百トンの廃水を海洋に放出する見通し。

(1)約600トン(約600m)を6時間かけて放出
・1時間あたり100mを放出していることとなり、放出ポンプ(第1または第2)1台を定格どおり動かしていることになる(2台のうち1台は予備−このことは放出ノズルからの放出率の記述からも分かる)。

(2)放出したトリチウムは「管理目標値の1億分の1程度」と原燃は語っている。
・仮に使用済み核燃料1体をせん断すると、その処理量は0.46tUで800トンの0.058%となる。廃液中のトリチウムもその程度の割合で含まれるはずなので、その割合で計算すれば、1体の処理によって出てくるトリチウム量は1.0×1013Bq(10兆Bq)となる。

・今回の放出トリチウム量が「管理目標値の1億分の1」だとすると、その量は1.8×10(1億8千Bq)。これは、1体の使用済み核燃料のせん断から出てくるトリチウム量の約6万分の1程度に相当する。
・8体の使用済み核燃料をせん断しているが、今回の放出は、1体処理した場合にでるトリチウム量の6万分の1程度ということになる。

・原燃のいう「1億分の1」が本当だとすると、今回の放出分には、アクティブ試験でせん断した使用済み核燃料からのトリチウムはわずかしか含まれていないと見なされる。その意味では、本格的な放射能放出はこれからということになる。しかし、この「1億分の1」が事実なのかどうか、アクティブ試験との関係はどうなのか、具体的内容について原燃は明らかにすべきである。

・他方、今回放出したトリチウムの濃度は、通常の海水中のトリチウム濃度の約600倍にあたる。「1億分の1」で少ないといっても、自然界のレベルと比べると高いことがわかる。
・トリチウム放出量:年放出量1.8×1016Bq
            年間放出量の1億分の1=1.8×10Bq
・トリチウム濃度:
 1.8×10Bq/600m=3.0×10Bq/m=0.30Bq/cm
・通常の海水中のトリチウム濃度:およそ0.5Bq/リットル=0.0005Bq/cm
 今回の放出濃度は、自然界レベルの約600倍
(通常の海水中のトリチウム濃度については、もっと低いとする論文などもあり、そうなると今回の放出濃度は約1000倍にもなる。ここでは、東電が公表した数値を使っている)
・原燃はトリチウム以外の放射能核種について、どれだけ放出したのか一切明らかにしていない。

(3)本格操業では2日に1回程度、600トンを放出する見通し。
 これは後記の廃液ルートとその能力からすれば十分あり得るし、もっと頻繁に放出することもあり得る。

◆2日に1回600mを放出する場合のトリチウム濃度は、原発の濃度限度の2700倍
・年800トン再処理の場合、トリチウムの年放出量は、1.8×1016Bq
・2日に1回の放出とすると年に365/2=182.5回放出
・1回当たりのトリチウム放出量は
 1.8×1016/182.5=0.986×1014Bq
・これが600mの中に含まれるので
 濃度:0.986×1014Bq/600m=1.64×1011Bq/m
     =1.64×105Bq/cm=約16万Bq/cm
   −今回放出濃度の約53万倍となる。
・原発などの一般原子力移設の場合、トリチウムの濃度限度は60Bq/cmであるで、そのため2700倍の濃度で放出する。

◆2日に1回600トンを放出する場合の、他の放射能(核種)の濃度と一般原子力施設濃度限度との比較
 2日に1回の割合で600トンの廃液が海に放出されると仮定した場合、トリチウム以外の放射能について、原発などで適用されている濃度限度を比べたのが下表である。本格運転になれば、2日に1回、ヨウ素129で原発濃度限度の43倍、プルトニウム240で6.75倍もの濃度の放射能が海に垂れ流されることになる。再処理工場では、海に放出する放射能が大量になるため、濃度限度さえ取り払わなければ運転できない。
放出量
Bq/600m
濃度
Bq/ cm
一般濃度限度
Bq/ cm
濃度倍率
ヨウ素129
ヨウ素131
ストロンチウム90
セシウム137
プルトニウム240
プルトニウム241
ルテニウム106
4.3×10^10
1.7×10^11
1.2×10^10
1.6×10^10
3.0×10^9
8.0×10^10
2.4×10^10
0.39
1.55
0.11
0.15
0.027
0.73
0.22
0.009
0.04
0.03
0.09
0.004
0.2
0.1
43
39
3.7
1.7
6.75
3.65
2.2
 (注:10^10は1010のこと)
 このように、再処理工場に濃度限度を適用すると、年に800トンの2700分の1しか再処理できないことになる。そのため国は、科技庁告示(H12年第13号)によって、一般原子力施設と区別して、再処理工場には濃度限度を適用しないことにしたのである。


<海洋放出の仕様と廃液流入ルート>
◇放出前貯槽には第1と第2がある。
・第1は低レベル廃液処理建屋の地下2階に600mが4基ある。1基は(物差しで)幅10m×奥行14m×深さ4.3mである。ステンレス鋼のライニングプール式である。
・第2は使用済み燃料の受け入れ貯蔵に係る設備で、使用済燃料受入れ・貯蔵管理建屋の地下3〜地下2階に100mが2基あり、ステンレス鋼製の縦置き型円筒形である。洗濯廃液ろ過装置も同じ建屋の地下3階にある。

◇第1放出前貯槽の出口は第1海洋放出ポンプ(1台約100m/hが2台)につながっている。第2放出前貯層の出口は第2海洋放出ポンプ(1台約100m/hが2台)につながっている。これら第1と第2ポンプは両方とも同じ海洋放出管につながっている。

◇海洋放出管は陸上が直径150mmのステンレス鋼製、海域が200mmの炭素鋼製で、放出ノズルは海底から3m立ち上がり、直径75mmである。結局直径200mmから75mmに狭めることによって放出速度を大きくしている。100m/hのポンプが働いているとき、ノズルからの放出速度は約6.3m/sとなる。

◇第1放出前貯槽へ流入する廃液のルートと1日の流入量−図参照
★数字は蒸発缶などの能力を表している。能力量が明確なものだけ集めると、
1日の流入量は最大で 312+84(+72)=396〜468m

◇第2放出前貯槽への流入ルート−使用済燃料貯蔵系から−図参照
★1日最大で108m〜180m

海洋放出に関する廃液ルート


日本原燃パンフ「海洋放出管のあらまし」より