2003年12月23日 美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 『六ヶ所再処理工場は、スケジュール優先の、無理をした工期で施工されてきた。使用済燃料貯蔵施設(以下、F施設プール)の事業開始は、各原発での使用済燃料プール(以下、燃料プール)貯蔵の逼迫を解消するために、再処理本体より7年も早い開始と決められた。このことが施工工期を制約した。ライニング板の板取り*1などで「通常の施工手順」をとらずに「手抜き」し、日本原燃自体の溶接検査も「手抜き」してまで完成を急いだ。』 目下検討中の「六ヶ所再処理施設総点検に関する検討会」(以下、検討会)に原燃が提出した「資料」(第5回まで)から、こんな姿が浮かび上がる。 291カ所にもおよぶ不正溶接、埋込金物の固定脚(スタッドジベル)*2の不正切断、硝酸溶液に不適なガスケットの取付けなどの不正工事は、安全性よりもスケジュールを優先させ、急いだ、無理をした施工の結果ではなかったのか。 原燃は、根本原因を明らかにしないまま、不正溶接箇所の補修工事を急いでいる。「原因究明 → 点検 → 補修」という通常の順序ではなく、「補修 → 点検 → 原因究明」と逆立ちした手法をとり、不正箇所を覆い隠す補修を先行させている。埋込金物の固定脚の不正切断に至っては、12月22日になってようやく「点検」が終わり、「埋込金物健全性点検結果報告書」を国と地元に報告した。にもかかわらず、またもやスケジュールを優先し、来年早々のウラン試験と各原発からの使用済み燃料の受入れ再開を急いでいる。 その上、検討委員会で原燃の体質が問題にされ、原燃自らが「品質保証上の問題点」の調査中と言明しているその渦中で、原燃全体が最も緊張するべきその最中に、ボヤや労働災害などのトラブルを頻発させている。その度に通報の遅れが指摘されている。度重なる不祥事に、青森県知事が「危険予知活動をしていないのではないか」と注意するほどまでに、安全への配慮が欠落している。 過去ばかりか現在も、安全性を軽視し、無視し、スケジュールを優先する原燃には、極めて危険な放射性物質を扱う再処理工場を動かす資格はない。 1.短期間の工期設定は、各原発サイトでの使用済み燃料プールの逼迫を解消するため? 「工事量が、軽水炉1プラントに対して6倍ぐらいあった。6倍あるにもかかわらず、工事期間は同じであった。・・・(軽水炉に比べ構造が)複雑であった」(原燃・峰松常務/第2回検討会)。 この説明が端的に、短期間の工期設定であったことを物語っている。工事量だけを指標にすれば、軽水炉の1/6という短さである。 加えて、不正溶接が多いH元請会社(日立)のライニング張り期間も軽水炉と比較されている(第4回資料4-1/添・図2)。それによると、H社の工事量は軽水炉の5倍、しかし工事期間は、軽水炉で6ヶ月、F施設プールで7ヶ月とわずか1.17倍でしかない。 なぜ短期間の工期設定になったのか。 工期の設定は、通常は2つの条件が関係する。一つは、工事量と工事費総額から算出される工期。丁寧な施工をしようとすれば工事期間が長くなりそれだけ工事費は増額する。2つ目は、事業開始の日程。例えば、小中などの学校を新設する場合、4月開校に間に合わせることが工期の絶対的条件となる。通常は、この2条件をにらんで「適正な工期」が決定されるのである。 F施設プールの事業開始は、当初、着工(93年4月)から3年後の96年4月に設定された。96年4月を事業開始としなければならなかった理由は何か。原燃は明らかにしていない。 学校が生徒を受け入れる施設であるように、F施設プールは、各地の原発サイトの使用済み燃料を受け入れる施設である。各原発サイト内の燃料プールの状況が事業開始に関係するのは必定である。F施設プールの事業開始時に、各原発での燃料プールの状況はどのようであったのか。 「国内の原発の使用済み燃料貯蔵が限界に近づく」という見出しの日経新聞(97年6月12日付)が、この頃の状況を示している(資料1)。これによれば、96年3月時点で、東電の福島第一発電所では次回定期検査に、福島第二は次々回で原発の運転に支障が生じる。3年後の定期検査で支障が生じる原発も多い。これほどまでに原発のサイト内プールは限界に近づいていた。 各原発の燃料プールの逼迫状況から、事業開始が96年4月と決められたに違いない。そこから逆算して工程表を作成し、軽水炉の1/6という短い工期で完成を急いだに違いない。 各原発の燃料プールの逼迫を解消するために、使用済み燃料を六ヶ所に運び入れ、原発の運転に支障が出ないようにしたい、そのために工事に無理がかかるのを承知の上で96年4月には事業開始にもっていきたい。このような強い要請が電力各社=電事連から、電力各社の共同出資体・原燃に課せられため、無理をした短期間の工期設定になったに違いない。事実、峰松常務は軽水炉との比較で短い工期であったと説明している。第2回検討会で城山委員が提出した質問、「期間的な急いでやれという制約があったのか」(資料2)に対し、本当は、「制約があった。原発のプールが満杯になりかけていたので急ぐ必要があった」と答えるべきではなかったか。 原燃は、96年4月をF施設プールの事業開始とした理由、1/6という短い工期を設定した理由を工程表*3を公表して、明らかにするべきである。 なお、この当時、再処理工場本体の運転開始は、2003年1月の予定であった。F施設プールでの受入れ開始予定の7年後である。燃料受入れの事業開始をいかに急いでいたかを示している。 ちなみに本体の工事進捗率は96年3月で2%のみ。1年後の97年3月でもわずか3%どまり。工事が遅れていたF施設プールの進捗率は83%*4であった。 地元青森県の平野良一さんは96年に次のとおり指摘した。「2003年の1月から再処理施設を操業するんだったら、21世紀に入ってから使用済み燃料を受け入れても、一向差し支えないはずなわけです。97年の6月から使用済み燃料を受け入れるというのは、ちょっと理屈に合いません」*5と。F施設プールの事業開始を97年6月に延期した後ですらなぜそんなに急ぐのかと、当時からスケジュール優先が問題となっていた。 2.短期間の工期に間に合わせるため溶接検査の手間を省いた? 軽水炉では全溶接線を検査、F施設プールではわずか5%のみの検査 溶接の検査について、原燃は、「・・・F施設プール等の試験・検査要領書では、合理化により真空発泡試験を部分的にしか適用しないなど原子力発電所のプールの溶接部の検査と同等ではなかった」(アンダーラインは引用者。以下同様)(資料3)と説明した。部分的に適用した真空発泡試験*6は、継手交差部のみでそれもわずか5%。浸透探傷試験*7も全溶接部の30%にすぎない。これは、全溶接線を真空発泡試験で検査している軽水炉とはあまりにもかけ離れた検査内容であり、安全性を軽視している。 検査対象範囲の縮小は、何を「合理化」するためであったのか。 100%の軽水炉に比べ5%だけに検査範囲を縮小すれば、当然工期も短くて済む。しかも浸透探傷試験と異なり真空発泡試験は時間も手間もかかる。結局、検査対象範囲の縮小で「手抜き」したのは、工期短縮のための「合理化」ではなかったのか。 ところで、原燃は、やたらと元請会社の2社(日立と三菱)や施工メーカの「豊富な経験」「軽水炉での多数の実績」を強調している。「豊富な経験」・「多数の実績」は、どこで手を抜けばよいのかそのホールドポイント(押さえるべき点)のノウハウも自然と身に付けさせる。 加えて、設計が委託(委託先は「設計元請会社」としか公表していない)であったことも5%だけの検査の「合理化」と関係していると推測できる。原燃は、「豊富な経験」の業者任せの施工であったと言い訳するが、業者任せの施工に安住できたのは、設計・施工一括方式(設計と施工を同一の業者が行うもの)であったからではないか。日本に二つとない施設の特殊性からしても一括方式が強く示唆される。一括方式の上に品質管理も業者任せであったとすれば、すべてを業者任せにしていたのと同じである。それならば、設計段階から短い工期に見合う施工方法の採用や短期間ですむ検査の採用も可能である。軽水炉の「実績」からどの箇所を「合理化」すれば工期に間に合うかを提案できる。上手くいけば「合理化」、今回のように不正となれば、同じホールドポイントが「手抜き」となる。いずれにせよ、「工期短縮」に変わりはない。 安全性の軽視につながる「5%だけの検査」と決めた理由が明らかにされねばならない。 3.無理な工期設定のため通常の「手順」「工法」を取ることができなかったのではないか?! 3−1.板取りなどが「通常の施工手順」で行われなかったのはなぜか? 継ぎ足し溶接という「不適切溶接」を行ったことについて、峰松常務は、ライニング板の板取りが「通常の施工手順」を踏んでいなかったと次のように説明した。「板取は設計図でとってから、・・・それを現場の寸法で計って、コンクリート構造体だから随分誤差が出てくるので。その辺をフィードバックをかけて板取りの切断前にその記録を与えて、それに基づいてやる(施工する)という方法が普通だが、今回については、もとの支給している板の中では吸収できないぐらいのものがあったので、それで自分たちで工程上のあれもあったかと思うんですけれども、継ぎ足し溶接等の不適切なことをやってしまった。」(第2回議事録20頁) コンクリート構造体は設計図と実際の寸法とでは大きい誤差が生じるから、設計図で板取りするのではなく、現場で実際の寸法を計測した上でライニング板を切断加工し、施工するのが普通(通常の施工手順)である。現場寸法の計測の手間をかけずに設計図から板取りしたことが「不適切」溶接につながったというのである。 現場寸法の計測の手間をかけなければそれだけ工期は短くてすむ。コンクリートを打設し、型枠を取り払った後でなければ計測はできない。設計図からだけだと打設時期や型枠の存置に関係なく、事前に板取り(切断加工)して準備しておくことが可能である。その分工期が短縮される。 ちなみに、型枠と型枠支柱の存置日数は、建築物の部分(基礎・柱・梁・壁・床など)ごとに建築基準法で定められており、一般に気温が低いほど長く存置しなければならない。 原燃によれば現場計測の必要性は、躯体寸法*8のほか、下地材や埋込金物の位置も現場を計測して板取りに反映させることが「通常の施工手順」であると説明している。(資料4) 原燃の説明は、通常の施工手順を踏んでいないという指摘のみにとどまっている。躯体、下地材・埋込金物の位置などの測定手間をなぜ省いたのか、その答えはない。 明確な答えはないが、上記の峰松常務の説明には、「工程上のあれもあったかと思う」と暗に工期の問題が背景にあったことを認めている。また、施工メーカの現場の最高責任者であるプロジェクトマネージャーと次席の現地作業所長の二人も、「与えられている工期内で仕事をしたかった」と聞き取り調査で述べ、工期を気にしていた。これらから、工期が厳しいために「手間」を省いたに違いないと推定できるのに、原燃は、なぜ「通常の施工手順」を取らなかったかを調べようとしていない。 埋込金物の固定脚(スタッドジベル)の不正切断にも同じ背景が窺える。埋込金物の位置が間違っていたので、出来上がったコンクリートをハツ斫り(少しずつ削り取ること)、埋込金物を取り出す。その際に固定脚を切断する。次に正確な位置に埋込金物を取付け直す。この時、固定脚を付け直してから埋込金物を取付ければ問題とならなかった。ところが、固定脚を付け直す手間を省き、切断したままで埋込金物を取付けたのではないか。なぜか。 固定脚の付け直し手間を省けば、短期間で補正できる。これならば、「与えられた工期内」で仕事ができる。厳しい工期内で仕事が終わる。スケジュールを守ることが優先されたのではないか。 3−2.工程を決める時から「現地寸法計測」を省く工法が採用されていたのではないか? コンクリート躯体などの現地寸法計測を省いて板取りする工法は、工程を決めるときから予定されていたのではないか。このことを強く示唆する資料が出されている。 第4回検討会提出資料「プール不適切な溶接施工の背景と品質保証上の問題点の整理について」に、次の通り記載されている。 「H元請会社の工事施工要領書、製作要領書、工場・現地試験要領書のいずれにも現地寸法の測定要領の記載はなく、測定結果に関する記録も残されていない。」「一方、M元請会社の据付施工要領書には、測定の項目はあったが、具体的な測定方法は施工会社にまかされており、ライニング板毎に寸法を測定するような方法にはなっていなかった。」(資料4-1/添-12頁) ここには、現地寸法を計測することについて何一つとして決められたものはなかったと書いてある。測定結果さえない。これでは、現地寸法を計測する必要性を認めていないのと同じである。 最初から、工程を決めるときから、工期短縮のために現地寸法測定を省く工法を採用したから、何一つとして決めなくてもよかったのではないか。実際の寸法と関係なく、設計図に従ってあらかじめライニング板を切断するという工期短縮の工法が採られたに違いない。 ついでながら、「品質保証体制の点検」の中で、数多くの点検項目を掲げているのに、不思議なことに「工期の適正さ」に関する項目はなく、点検もされていない。 「原因調査がなくそれより前に対策が来るとはどういう順序なのか」という趣旨の指摘(第2回14頁)を城山委員が行っているように、原因を究明したあとで、その原因に沿って点検することこそ、不正工事が生じた場合の「通常の手順」ではないのか。 4.問題の焦点をはぐらかした言い訳 「事業開始を1年2ヶ月延期したからスケジュール優先でない」? スケジュール優先ではなかったという理由として原燃は次の点を挙げた。 「(1)設計及び工事の方法に関する認可申請に係る申請書の書式、構成、具備すべき要件等の検討に時間を要したため、その申請が遅れたこと (2)冬季工事における気象条件が予想以上に厳しく、作業効率が低下したため、当初の計画どおりには工事が進まなかったこと、並びに建物工事において、当初は、一部上階の床を先に施工し、これを屋根として下階の作業を行う計画としていたが、工事の安全確保の観点等により、通常の工法どおり下階から施工する手順に見直したこと (3)燃料取扱装置の試験・検査並びに使用済燃料を使用した燃焼度計測装置の校正に係る試験・検査等に万全を期するため、その期間を見直したこと により、事業開始時期を平成9年6月と変更した経緯があるように、施工にあたっては工程を優先したスケジュールとなっていた事実は見当たらない。」(資料4-1/添-14頁) これは、「事業開始時期」を96年4月から97年6月にまで延期した理由である。工期優先のため不正工事が行われたのではないかという疑問に答えるものでない。焦点をわざとはぐらかしている。 検討委員からも「事業開始時期を1年2ヶ月延期したと述べているが、プールライニング工事の工期には触れられていない」(資料4-2-1の1/9)と指摘されている。 (1)と(3)が、施工工期とどんな関係があるというのか。Bの燃焼度計測装置の校正試験が、問題になっている施工工期に無関係であることは、実施された経過をみれば明白である。使用済み燃料の試験搬入後に校正試験を実施し、終了後に再処理事業開始(99年12月3日)としたではないか。 (2)だけが、工期に関係する内容を含んでいるが、スケジュール優先でなかったという理由になっていない。それどころか逆に、ライニング工事の工程が当初よりさらに厳しくなった要因の一つを示唆するものである。 冬季の気象条件のため、工事が計画どおりに進まなかったことについて、原燃・鈴木再処理計画部長は次のように説明した。「ライニング工事とは直接関係ないが、F施設のスケジュールについてこういうような、例えば2番に書いてあるように、実際に計画どおり工事が進まないような事態がありまして・・・」(第3回27頁)と述べ、工程が遅れた事実を認めた。どこの工程に遅れが生じたのか。 冬季気象条件の厳しさで遅れが生じた工程は、コンクリート躯体工事に違いない。寒さは、打設後のコンクリートの養生と型枠の取り外しを左右する。建築基準法施行令は、「コンクリート打ち込み後5日間はコンクリート温度が2℃を下がらないように養生しなければならない」と規定している。また、コンクリート打設後に凍結するおそれのある場合は「寒中コンクリート」として特別の養生が要求される。先にも指摘したが、気温が低いほど型枠の存置期間は長くなる。従って、気温が低くければ低いほどコンクリート躯体工事の工程に遅れが一般的に生じやすいのである。 コンクリート躯体工事が遅れれば、後工程であるライニング工事に影響を与える。全体を当初工程に戻そうとすれば、ライニング工事などの後工程にしわ寄せされ、より一層厳しくなる。 冬季気象条件を理由とする工事の遅れは、スケジュール優先でないことの証明にならないばかりか、スケジュール優先に一層拍車をかけることにもなる。 原燃は、当初工程表と変更後の工程表を公表し、どの工程に遅れが生じたかを明らかにするとともに、通常の軽水炉での工程表と比較して、工程全体を通してスケジュール優先でないことを証明すべきである。 5.ライニング工事で工期の短い分、「作業員を十分投入した」? H社とM社の仕事量は5:1、ところが作業員比率は1.25:1 「工期が厳しかったので不適切施工に至ったのか」との委員からのコメントに対して、「ライニング工事の現場作業員は、・・・必要な人数は確保されており、工期が厳しかったことはないと考える」と回答している(資料4-2-1の1/9)。軽水炉と比較して工期は1/6程度だが、作業員は十分確保し投入しているので、工期が厳しいことにはならないと原燃は言いたいのだろうが、本当か。 施工メーカとその下請け会社9社の作業員数が作業分野別に資料4−1の添-3頁・図3で示されている(資料5)。それを基にしたH社とM社の作業員の比率は以下のようになる。なお仕事量(工事の規模)は、軽水炉との比較があるのでその比率も示す。また、H社に最大限有利になるよう、M社の兼務者は全員M社では一切作業せず、H社だけで作業したと仮定している。 ◇仕事量(工事量) ― H社:M社:軽水炉=5:1:1 ●溶接士 ―――――― H社15名:M社11名=1.36:1 〔H社14名(うち兼務者12名)、M社12名(うち兼務者1名)〕 ●ライニング関係 ―― H社20名:16名=1.25:1 〔H社20名(うち兼務者17名)、M社16名〕 ●下地材関係 ―――― H社63名:16名=3.94:1 〔H社55名(うち兼務者10名)、M社24名(うち兼務者8名)〕 ●検査関係 ――――― H社20名: 7名=2.86:1 〔H社14名(うち兼務者10名)、M社13名(うち兼務者6名)〕 以上が、「作業員は必要な人数を確保して」いることの実態である。 H社を目一杯有利にする仮定でさえ、仕事量に作業人数が対応していない。「必要な人数」が確保されていない。仕事量にくらべて作業員は1/4程度で、実態はこれ以上に少なく、厳しい。 ところで、原燃は、資料4-1の図-2で「F施設プール/軽水炉燃料プール工事物量比較」の一覧を示したが、意識してか、軽水炉プールでの作業分野別作業員数は明示していない。また、ライニング張り期間について、当初の工期は示さず、事業開始を延期した後の工期は明らかにした。軽水炉で6ヶ月の期間に対し、F施設プールは7ヶ月とたった1ヶ月長いだけである。 工期が厳しかった、必要な人員も確保されていなかった。これが事実ではないか。だからこそ、H社で不正溶接箇所が多かったのではないのか。原因を究明することで施設の「健全性」を向上させようとしているのか、その姿勢すら疑わしい。 こうしたことは、プールだけなのか。再処理施設本体に同様の問題が潜んでいないのか。不正工事での徹底した原因究明が必要になっている理由がここにある。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 『各原発サイトでの使用済み燃料プールの逼迫状況を解消するために燃料受入れを96年4月と決めた。ところが「実績のある」軽水炉の経験から、工事量が6倍なのに、工期は同じで、かなり短いと判断できる。ステンレス溶接の熟練溶接士の人数には限りがある。そこで、工期短縮の方法を探した。溶接部の検査を5%にすれば短縮できる、コンクリート躯体の現地寸法計測をなくせば短縮できる、などなど。これに、思いもかけない寒さのためにコンクリート躯体工事が遅れた。なお一層工期は厳しくなった。』 こんなシナリオが、上記の検討結果から浮かび上がる。 事業開始のスケジュールを優先し、工期短縮を目指した工法の採用や検査の「手抜き」(=「合理化」)が、原燃の資料から指摘できる。 無理な工程で行われた工事は、すべての施工箇所にその痕跡を残す。不正溶接は、ことの一端に過ぎない。使用済み受入れ施設のすべてにおいて、さらには再処理施設本体において安全性が損なわれている可能性が高い。住民の安全性がないがしろにされている。問題を起すたびに「安全の上にも安全を」と電力会社は口にするが、原因究明を徹底して行わないなら、口先だけに過ぎない。 検討会の井川委員は指摘する。「根本的にスケジュール優先というのは、原子力に限らず、最近すべての分野でトラブルを起しているのはすべてそうなんですね。東京電力の例の点検の問題も、出来るだけ短期間に点検を終わらせてパフォーマンスしたい。それから、JRだって一晩で終わらせたいというくくりでやってまたトラブった」(第2回21頁)。原燃の峰山常務さえ、「そういう不適合が起こりましたときには、その事象について原因究明をやりまして、それで、同類のもにつきましては水平展開をやるというふうな改善を継続的にやらせていただいております」(第2回19頁)と原因究明とそれに基づく「水平展開」を強調しているではないか。それなのに、目の前の「不適合」については、「改善」のための原因究明を行わず、次のスケジュールを優先するのである。 不正溶接・不正工事が起こったため、「不適切施工の背景・要因」や「品質保証上の問題点」を調査、点検しているその最中に、火災事故や労働災害事故など新たな不祥事(資料6)を次々に引き起こしている。原燃の安全管理はでたらめである。こんな原燃に「安全」を委ねてよいのだろうか。 原因が究明できていないのに、補修工事を急ぎ、次のステップ=来年1月からのウラン試験と各原発からの使用済み燃料の受入れ再開=を登り始める。「安全の上にも安全」は投げ捨てられている。 こんな原燃には、危険な放射性物質を扱う資格も再処理工場を動かす資格もない。 ウラン試験を中止せよ! 使用済み燃料の受入れ再開を中止せよ! 資料1 97年6月12日付日経新聞 電力中央研究所HP/原子力情報センター「これまでの情報」より抜粋 国内の原発の使用済燃料貯蔵が限界に近づく 日経新聞(6/12,97) 1.1996年3月時点の原発の使用済核燃料貯蔵状況 単位:トン(ウラン換算)
資料2 第2回検討委員会での神田委員の質問と原燃の返答(議事録15頁) 【神田委員】 「・・・要するに業務量、作業量が6倍であるのに管理体制はそのままでやって、期間も同じだったというご説明ですけれども、それは最初からわかる話しなのかなと思いまして、何でそれで動いたのか。つまり逆に言うと、これは期間的な急いでやれという制約があったという話なのか、だとすれば、その現場の人たちは、これはもしかしたらやばいかもしれないぞということは当時から思われていたことが起こってしまったということなのかということが一つですね。」 【原燃・峰松常務】 「・・・やはり、当社といたしましては元請を信頼してしまったということでございます。または、実績があまりにも軽水炉でございまして、それと同じ延長でやった。・・・私どもの受けとめ方が甘かったのは確かでございます。これは反省しております。」 資料3 検査方法に関して(第4回検討会資料 資料4-1・添-10頁) (付-3 プール不適切な溶接施工の背景・要因と品質保証上の問題点の整理(JEACとの比較)<2/6> NO.12の「F施設 建設段階」欄) 「試験・検査管理要領に基づき、個別の試験・検査要領書を定め、検査を実施していたが、F施設プール等の試験・検査要領書では、合理化により真空発泡試験を部分的にしか適用しないなど原子力発電所のプールの溶接部の検査と同等ではなかった。」 資料4 通常取るべき施工手段 (第4回検討会資料 資料4-1・添-12頁) (付-3 プール不適切な溶接施工の背景・要因と品質保証上の問題点の整理(JEACとの比較)<4/6>NO.25の「問 題点」欄 『PWRプール漏えい箇所の継ぎ足し溶接』) 「・コンクリート打設後に下地材、埋込金物の位置を測定し、ライニング板の寸法に反映することは、施工会社が通常取るべき施工手段であり、実際に実施されていたとの証言もあるが、H元請会社の工事、施工要領書、製作要領書、工場・現地試験要領書のいずれにも現地寸法の測定要領の記載はなく、測定結果に関する記録も残されていない。」 資料5 元請2社の作業分野別作業員数 (第4会検討会資料4-1・図-3「F施設 プール・ピット ライニング工事施工メーカ工事体制【H社/M社兼務体制】より作成」 資料6 数々の不祥事 (9月9日の「再処理施設品質保証点検計画書」公表以後) *9月23日 作業員2名に亜硝酸ナトリウムがかかる事故(前処理建屋内)。 *10月30日 溶接作業中に防じんシートの火災事故。県への通報は50分後。県が文章で注意。 *11月30日 社員2名の顔面に水酸化ナトリウムがかかる事故。 *12月6日 プールの冷却ポンプ1台停止、他の2台は作動させず。 *12月8日 溶接作業中に防じんシートの火災事故。 *12月12日 分析建屋で作業員の顔に硝酸がかかる事故。 用語の説明、引用文献 *1 ライニング板の板取り 元々は1枚の板(原板)からそれぞれの部品を取り出すことをいう。(下図参照) 文章中のライニング板の場合は、プール底や壁などの躯体部分に内張りするライニング板(ステンレス板で厚さ4ミリと6ミリがある)の寸法を決め、加工することを指している。 *2 埋込金物の固定脚(スタッドジベル) (原燃の「報告書」参考-5用語集よりコピー) *3 工程表 (建築大辞典 第2版<普及版>より引用) 工事期間内の施工計画を各部分の工事について、着工から完成に至る作業量と日程の相互関係を一目にして明確に判断しえるように表示したスケジュ−ル表のこと。 工程管理とは、着工から完成までの工期内で、各工事の順序関係や作業速度を総合的に計画し、達成すること。適切な工程管理により、施工品質の確保、工事費の削減、工期短縮などが図られる。 *4 各工事の進捗率 (核燃サイクル阻止1万人訴訟原告団のホームページ「資料集」より引用) なお、原典は2000.9.30付原子力資料情報室通信No.316。 *5 1996年11月2日発行「核のゴミがなぜ青森六ヶ所に」37頁より引用。 *6 真空発泡試験浸透探傷検査 (原燃の「報告書」参考-5用語集よりコピー) *7 浸透探傷検査 (株式会社 日鐵テクノリサーチ ホームページよりコピー) 浸透探傷試験(PT)は表面きずを検出する試験です。PTは金属や非金属の表面開口きずの探傷に適用します。 試験体表面に浸透液を塗布すると、開口したきずに浸透していきます。一定時間経過後に余剰な浸透液を除去し、その後現像液を塗布して、きずから浸透液を毛細管現象により吸い出させます。 この模様は実際のきずよりも拡大されていますので、目視観察でも精度高く検出できます。 *8 躯体、躯体寸法 「躯体(くたい)」とは、建築物の基礎・柱・梁・壁・床などの構造体のことをいう。 躯体寸法は、構造体の各部分の長さ、厚みなどの寸法をさす。 |