使用済核燃料の搬入を最優先
原燃の不正溶接の背景には
原発各サイトでの使用済核燃料貯蔵の逼迫状況があった
スケジュール優先の結果の不正溶接。その原因・責任を、
いままたスケジュール優先の切り貼り補修で覆い隠す日本原燃


 日本原燃・六ヶ所再処理工場での不正溶接問題に関して、工事量が非常に多いわりには施工工期が短期間であったことが明らかになった。総合資源エネルギー調査会・核燃料サイクル安全小委員会の下に設置された「六ヶ所再処理施設総点検に関する検討会」(以下、検討会という)で、各委員もこの点が重要と指摘している。例えば、「期間的に急いでやれという制約があったのか」(城山委員)、「工程管理上かなり無理があったのではないか」(竹下委員)などと指摘した(10月9日第2回検討会)。
 これら委員の指摘に対して、同検討会で、原燃・峰松常務取締役は次のように説明した。「工事量が軽水炉の1プラントに対して6倍ぐらいあった。工事量は6倍あるにもかかわらず、工事期間は同じぐらいでやっている」と。このことに加えて、「通常の原発に比べ、構造が複雑であった」と語り、実質的には6倍をはるかに超える工事量であったことを認めている。さらに、1995年12月にPWRプール床板の不良溶接を行った大江工業の現場作業所長も、「自分の責任工程に影響しないよう(不良溶接を)実施した」と聞き取り調査に答え、工期に間に合わせるための不正溶接であったことを事実上認めている。
 では、なぜ不正溶接をせざるを得ないほど無理をした短期間の工期設定としなければならなかったのか。その背景には何があったのか。
 この背景には、各原発サイトでの使用済み燃料貯蔵の余裕がなくなり、逼迫していた状況があった。

限界に近づいていた原発各サイトの燃料貯蔵
 97年6月12日の日経新聞は、「国内の原発の使用済核燃料貯蔵が限界に近づく」という見出しの記事を掲載した。下記資料(1)から分かるとおり、東電の福島原発第一発電所では、96年3月から1年以内にサイト内の燃料貯蔵プールで貯蔵できなくなる程度にまで逼迫していた。他のいくつかの発電所でも、1.5年から3年程度の余裕しかないほどに逼迫していた。
 この状況を見越して、福島県の佐藤知事からは、93年4月に福島第一原発の共用プール設置に関する事前了解をした時点で、使用済み燃料を持ち出すことに関する約束を政府に迫っていた。
 このような状況が、六ヶ所プール建設当初から原燃の肩に重くのしかかり、軽水炉と比較して1/6以下という短期間の無理をした工期設定をせざるを得なくなった理由にちがいない。しかも、大江工業はほぼ同時期に、福島第一原発共用プール(97年10月運用開始)の建設も請け負っていた。
 他方、限界に近づいた貯蔵能力に対応するために97年3月ころに、通産省・科技庁・電事連の三者によって原発敷地外に使用済み燃料を貯蔵するための協議会が設置された。柏崎刈羽原発では98年6〜7月にサイト内移送が、福島第一原発でも共用プールへの移送が実際に行われている。
 このように電力各社と国が六ヶ所使用済核燃料プールの早期完成を迫っていたのは確実である。その下で建設が開始された再処理工場での不正溶接問題は、氷山の一角ではないのだろうか。短期間の工期は、溶接以外のコンクリート躯体、各種設備機器などにも無理強いをしているはずである。切り貼り補修ではなく、徹底した原因究明こそが何よりも優先されるべきである。

六ヶ所プールでは、当初設定工期よりも工事の進捗が遅れていた
 六ヶ所プールの当初の工期は、93年4月28日に着工し、96年4月に再処理事業を開始する(使用済み燃料の本格的受入れ)という3年間の予定であった。ところが、着工2年後の95年3月のプール工事進捗率は46%であり、完成予定の96年3月でも進捗率はまだ83%に止まっていた。PWRプールでの不正溶接が行われたのが、このあいだの95年12月14日(推定)のことである。
 その前の95年7月にはすでに、当初の工期内で遅れを取り戻すことは出来ないと判断したからか、事業開始(プール使用)を97年6月に変更している(第3回検討会資料3-3-1・3/8)。当初完成予定より1年遅れの97年3月になってようやく進捗率は98%に達した。(98%は建設工事・設備工事完了段階を意味し、後は、試験搬入と燃焼度計測装置の校正試験を終えて100%となる。)
 他方、96年4月26日付の再処理事業変更許可申請では、「96年12月以降に試験搬入(50トンU)」を予定していた(99年12月3日付原燃プレスリリースによる)。従って、本格受入れの事業開始は97年6月であっても、建設工事や設備工事の完了は12月以前が予定されていたはずである。工事終了(進捗率98%)後、安全協定締結や試験搬入などのために最短でもおよそ6ヶ月は必要であっただろうから、実質的な工事延期は、95年9月から96年12月までの最長1年3ヶ月ほどと推測できる。
 工期の遵守は、関係者にとっては重要事項である。工期の延長は建設費の高騰にもつながることから、進捗状況は常に点検されているはずである。95年7月に工期を見直したとしても、当初計画よりの遅れを出来るだけ取り戻すことを工事関係者は考える。2年半の工期を1年以上も延すことは工程管理のまずさを示すものであり、96年12月には是が非でも仕上げなければならない。工事の遅れた分だけ、一層工事進捗に気を配らざるを得ない。こうしたことが、不正溶接につながったのではないか。12月に行われたPWRプールの不正溶接は、7月の工期変更のためにより一層工事進捗をせかされ、工期遵守の有言無言のプレシャーが関係者からかけられていた最中に、起こるべくして起こったことではないだろうか。冒頭に引用した「現場作業所長」の言い訳は、このことを如実に示している。原燃自体と元請の日立製作所などの責任は免れ得ない。

切り貼り補修を中止せよ!来年1月からのウラン試験をやめよ!
 先日の11月1日、埋込金物の「計画外施工」が新たに90箇所も見つかったと河北新報は報じた。大江工業以外の業者が施工した箇所であるとも報じている。不正溶接の原因となったスケジュール優先、無理強いの姿勢は、いままた新たな問題を引き起こしている。来年1月からの使用済み燃料搬入再開とウラン試験開始というスケジュール(工期)に合わせるために、切り貼り補修が強行されている。それは同時に、不正溶接の原因と責任を覆い隠すための既成事実を積み重ねる姿勢でもある。きちんと点検してから補修するべきなのに、補修が点検と平行して行われている。さらに、検討会によって事前に点検計画がチェックされるべきであるのに、それを無視して点検作業が実施されている。再処理工場の是が非でもの稼動=核燃料サイクル維持という既定の大きなスケジュールの下に安全性が切り詰められている。これでは、プールだけでなく、再処理工場本体でも隠された欠陥が無数にあると考えざるを得ない。  
 切り貼り補修を中止させよう。来年1月からの使用済み核燃料搬入再開、および、ウラン試験を中止させよう。青森県が県民の安全の立場に立って、スケジュール優先を認めないよう強く要請しよう。
2003年11月4日
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会


資料(1)  電力中央研究所HP/原子力情報センター「これまでの情報」より抜粋
http://criepi.denken.or.jp/jpn/nic/seisaku/htmls/oldidx.cgi
1.1996年3月時点の原発の使用済核燃料貯蔵状況 単位:トン(ウラン換算)
発電所 発電所の
貯蔵可能容量 *A
96年3月
末の貯蔵量 *B
約1年間の
発生量 *C
推定貯蔵
可能年数 *1
北海道 泊
東北  女川
東京  福島第一
     福島第二
     柏崎
中部  浜岡
北陸  志賀
関西  美浜
     高浜
     大飯
中国  島根
四国  伊方
九州  玄海
     川内
原電  敦賀
     東海第二
420
370
780
1,040
1,200
760
100
300
1,100
840
390
470
520
570
450
260
140
70
680
840
660
430
30
150
510
270
140
170
130
430
320
160
30
40
150
140
170
110
20
50
100
120
40
60
60
50
40
30
9.3
7.5
0.7
1.4
3.2
3.0
3.5
3.0
5.9
4.8
6.3
5.0
6.5
2.8
3.3
3.3
*1:(A−B)/C 情報提供者が算出  (アンダーラインは引用者による)