2006年3月28日 青森県知事は、「決め手は青森県産」、「安全安心の食材」をキャッチフレーズに、自らが先頭に立って売り込みを図っています。この方針と食品に放射能が混ざることとの矛盾が、2月7日の公表資料によって人々の目にはっきりと見えるようになりました。農業を守りたいという農業者の真情と、安全な食材を求める消費者の思いが一つに重なって、食品の放射能汚染を憂慮する動きが全国に広がっています。また、放射能から三陸の海を守れという声が岩手や宮城で湧き起こり、またたく間に大きく広がっています。三陸の海産物の汚染を心配する声も全国に広がっています。 放射能汚染を憂慮するこれらの動きに対し、青森県は3名の放射線分野の「専門家」を顧問として雇い説得に乗り出さざるを得なくなりました。その決め手は微量放射線の無害論です。 微量放射線でも害があるとなれば、農業者、漁業者ばかりでなく青森県民、全国の消費者も再処理工場の被害者となります。被害者には被害を防ぐ権利があり、日本原燃にはこの問題で説明責任が生じます。農業者や漁業者には損害賠償を求める権利も生じます。しかし、微量放射線が無害となればこれらの権利や主張をすべて封じ込めることができるというわけです。 青森県・商工労働部資源エネルギー課は3月17日の東奥日報に全面広告を出し、微量放射線無害論を大々的に打ち出しました。その象徴が全面広告の中にある「教えてもらいました 放射線と私たちの暮らし 講師 阿部道子氏」という囲み記事です。その中で阿部道子氏は、主に次の2点を強調しています。 (1) 「一度に200ミリシーベルト以上の放射線量を受けない限り人体への影響は確認されていないのです。」 (2) 「一般公衆の線量限度である年間1ミリシーベルト以下であれば、まったく影響はありません」。 このような主張は国際的に認められた理解に反する特異なもので、明らかに人々に被ばくを強要する論理です。 まず(1)の「一度に200ミリシーベルト」とは、明らかに広島・長崎の原子爆弾による外部被ばくを想定しており、その場合は成人のガンや白血病が問題になっています。ところが、ICRPの1990年勧告(Publication60)は、広島・長崎における原爆被爆者の死亡率調査の結果から「95%レベルで統計学的に有意ながんの過剰は約0.2Sv[200mSv]以上の線量でのみみられる」とした上で、「もっと低い有意レベルならば、0.05Sv[50mSv]ぐらいの線量で過剰がみられる」としています。この調査の最新の報告では、5〜125mSvの線量区間(平均線量35mSv)でも、ガン死の過剰発生が統計的に有意であるとされています(第13報2003年)。 また、阿部氏は成人のガンや白血病に限定せずに、一般的に「影響は確認されていない」と主張しています。ところが胎児への影響については、ICRP−84によれば、出生前の胎児のX線被ばくにより、約10ミリグレイ(およそ10ミリシーベルト)程度でもリスクがはっきり高まるとされています。阿部氏はなぜこのような事実に目をつぶるのでしょう。自らの主張の論拠を明らかにすべきです。 次に(2)の「年間1ミリシーベルト以下であれば、まったく影響はありません」とは驚きです。なぜなら、放射線量にはこれ以下なら無害だというしきい値はないというのが国際放射線防護委員会のとっている立場だからです。一般公衆の線量限度1ミリシーベルトは、それ以下なら無害だというものではけっしてありません。いかに微量でも放射線被ばくは危険だと認めながら、他方では放射線を出す原子力施設の存在を認めるという矛盾を「解決」するために、法的に設けた目安に過ぎないのです。つまり1ミリシーベルトとは、それ以下なら無害だというのではなく、その程度のリスクは社会的に容認すべきだとして設定されたものなのです。このことを明らかにするために、日本原燃にクリプトン85の集団被ばく線量をぜひ計算させるべきです。 阿部氏は、なぜ国際放射線防護委員会の立場に反してまで微量放射線の無害説を唱えるのかについて明確に答えるべきです。青森県はなぜ、人々に被ばくを強要するこのような人物を顧問に雇ったのか、いったいいくらの顧問料を払っているのかも問題になるところです。 いかに微量でも放射線被ばくは危険だというのが国際的に認められた立場です。それなら、再処理工場からの放射能がもたらすリスクを、青森の県民や農業者、岩手の漁業者はなぜ受容しなければならないのか、全国の消費者はなぜ受容しなければならないのか、これら一つひとつが問題になります。同時に、そのことについて原燃や青森県や政府は説明責任を負うことになります。 再処理工場から大量の放射能が放出されるという事実は否定しようのないことです。放射能汚染を危惧する青森県内外の動きは、これまで見られなかったような新たな連携と勢いで、県の従来どおりの姿勢の前に立ちはだかろうとしています。青森県はこの新たな状況を重視し、放射能の被害を受ける農業者をはじめとする県民や三陸の人々や全国の消費者の声に真摯に耳を傾けるべきです。アクティブ試験を許す安全協定の締結などけっしてなすべきではありません。 |