2004年11月16日 青森県知事 三村申吾 様再処理とめよう!全国ネットワーク 貴職は近く六ヶ所再処理施設ウラン試験のための安全協定を締結する意向であると報道されています。私たちはこのことに強い危惧と疑問を抱くものです。貴職が六ヶ所再処理施設の安全性にもかかわるとの認識を表明された美浜3号機事故については、まだその直接原因さえ解明されていません。ウラン試験へ移行するための前提条件である化学試験の終了や保安規定の認可は、全体的にはまだ達成されていません。安全協定素案そのものに対しても、青森県弁護士会などから多くの疑問が提起されたままになっています。 さらに、10月20日に原子力委員会によって青森市で開催された「長計(原子力開発利用長期計画)へのご意見を聴く会」では、県民から再処理への強い不安や疑念が次々と表明されましたが、それらは事実上無視されたままになっています。策定会議に報告されても、再処理推進派が圧倒的多数の委員構成では、疑念の反映などされるはずは初めからなかったということです。 これらを考慮すれば、いまはとても安全協定を締結できるような段階にないことは明らかです。 そればかりか、新長計策定会議の議論を通じて、いったいなぜ再処理を行わねばならないのかという根本問題に関する疑念がむしろ強まっています。再処理をやめれば核のゴミ処理に困るからというのが再処理推進の本質的な理由であることが明らかになりました。 再処理施設からは、大気中にも海中にもあらゆる種類の放射能が日常的に放出されます。原発では5重の壁に囲まれてけっして出ないとされているプルトニウムまでが大量に放出されます。赤ん坊が吸ったプルトニウムは成人するころにもまだ体内に残るほどに蓄積され、じわじわと健康を蝕んでいきます。プルトニウムの毒性はこれまで考えられたより桁違いに強い可能性があるため、国連の委員会でも基準の見直しが進んでいるほどです。 まずは、このような被害に実際にあう人たちの不安の声や意見に真摯に耳を傾けるべきではありませんか。さらに多くの人たちの疑問にも答えるような説明と議論の場を早急に設けるべきではありませんか。そこで、次の点を要請し、また疑問点について質問します。質問事項については、安全協定を日本原燃に提案される前に回答してくださるよう要請します。 要請事項:県民などの疑問や意見を十分聴くまで安全協定の締結はしないでください。 質問事項:以下の疑問点に早急に答えてください。 疑 問 点 1.美浜3号機事故問題が解決するまで、安全協定の締結はできないのではありませんか貴職は、美浜3号機事故が8月9日に起こってすぐにスタッフを福井県現地に派遣して調査し、ウラン試験のための安全協定に関する議論を延期して、全員協議会で美浜事故を優先議論することにしました。9月24日の第8回策定会議では、美浜事故に関し「度重なる原子力施設の事故などにより、私ども県民の間に原子力の安全性に対する不安や、原子力行政に対する不審がつのり、それが払拭されない状況にあったと認識しております」と述べています。つまり貴職は、美浜事故問題を再処理施設にも共通する原子力施設の安全問題として捉えています。 この認識からすれば、少なくとも美浜事故問題が解決するまで安全協定は締結できないことになるはずです。その美浜事故については、直接原因さえまだ不明のままで、原子力安全・保安院はこれから調査を本格的に行うと11月9日に市民に表明しました。美浜事故全体の調査は、9月27日に「中間とりまとめ」が出されただけでまだ終了していません。それなのに、関西電力の藤社長が全員協議会に出席して謝罪しただけで、どうして事故が解決したことになるのでしょう。原子力施設の安全性が保証されたことにならないのに、どうして県民の安全を第一に考えていると言えるのでしょうか。 関電の藤社長は日本原燃の会長でもあり、また、安全協定の締結には電事連会長の立場で立会人としても関与することになります。死者5名もの事故を起こした張本人が、このような重要な役割をすることが許されていいのでしょうか。このことは、六ヶ所再処理施設のウラン試験が様々な問題を引き起こすことを許すことにもつながるのではないでしょうか。 貴職の当初の認識からすれば、少なくとも美浜3号機事故の問題が解決するまで、安全協定の締結はできないのではありませんか。 2.保安規定の認可が終了するまで安全協定の締結はできないのではありませんか ウラン試験に入るための前提条件には、「保安規定が認可されていること」があります。ウラン試験は、全体の施設を3つのグループに分けて順次実施されるため、保安規定の認可もそれに対応して順次行われています。第1グループの保安規定は6月に認可され、第2グループは11月10日に認可されました。したがって、第1と第2グループはウラン試験を行う条件を満たしたことになります。しかし、11月12日現在、残る第3グループについてはまだ保安規定の申請書も出されていませんし、化学試験も終わっていません。 第3グループの中にはガラス固化施設が含まれています。例えばイギリスのソープ再処理施設では、ガラス固化施設の生産ラインが目詰まりを起こして稼働しないために、高レベル廃液の処理ができず廃液があふれるほどに貯まるような事態にしばしばなっていました。この施設が再処理の過程でネックになっていたのです。それほどに重要な施設の化学試験さえ終わっていない段階でウラン試験に入るなどはきわめて無謀なことではありませんか。 保安規定は、それによって施設の品質保証活動をチェックするというように、東電の不正事件を受けた昨年の改定で、非常に重視されるようになったものです。まして、使用済み燃料受入・貯蔵プール問題を起こした日本原燃の場合、保安規定については特に厳しく監視することが不可欠ではないでしょうか。 安全協定はグループごとに締結されるのではなく、施設全体のウラン試験に関して締結されるものです。それゆえ、施設全体について保安規定の認可が終了するまで、安全協定の締結はできないのではありませんか。 3.安全協定素案での放出放射能の規制はなぜそんなに甘くしているのですか 安全協定素案別表での放出放射能規制値は、年間放出量で規定されています。特に問題になるのはウラン試験によるウランの放出量で、それには次の2つの疑問が生じます。 (1)ウランの放出量は、本番の再処理での年間ウラン放出量がそのまま採用されています。つまりそれは、使用済み燃料800トン中のウラン約770トンを扱ったときの放出量です。ところが、ウラン試験で用いるウラン量は約53トンなので、上記770トンの6.9%です。だから、ウラン試験でのウラン放出量の規制値も本番の放出量の6.9%にしないと規制値としての意味をもたないのではありませんか。 (2)事業許可申請書で引用され、放射能放出量評価の基礎となっている平成12年科技庁告示第13号によれば、再処理施設からの放出放射能量の規制方式は次のようになっています。 ・大気放出に関しては、空気中の放射能濃度の3ヶ月平均値で規制(第9条第2項)。 ・海洋放出に関しては、実効線量の3ヶ月平均値で規制(第9条第3項)。 ところが、安全協定案の別表では、どちらも3ヶ月平均ではなく年間放出量で規制しているため、非常に甘い規制の仕方になっています。なぜ期間を1年ではなく3ヶ月にとらないのですか。また、告示では大気中放出は濃度規制になっています。なぜ濃度規制値を採用しないのですか。 ただし、例外として、経済産業大臣が認めた場合は実効線量について1年間につき5ミリシーベルトにするとの規定があります(第9条第4項)。安全協定素案ではこの例外規定を採用したのでしょうか。もしそうなら、甘い例外規定をわざわざ採用して県民を危険にさらす方式を貴職は選んだことになります。 茨城県では、3ヶ月平均濃度を大気中放出ばかりか海中放出に対しても適用し、さらにクリプトンについては1日や1時間平均濃度までも規制値として適用しています。なぜそのようなきびしい方式を採用しないのですか。 4.六ヶ所再処理施設は架空の前提に立っているのではありませんか 再処理施設は、使用済み燃料が搬入され、それを再処理してMOX燃料を製造・搬出することによって成り立ちます。ところがこの搬入と搬出の前提について次の疑問が生じています。 (1)美浜事故によって、関電の高浜3・4号機プルサーマルは棚上げ状態になっています。その前に、東電のプルサーマルはまったく目途さえ立っていません。東電と関電という代表的な電気事業者のプルサーマルで見込みが立たないのに、六ヶ所再処理施設でMOX燃料を製造する見込みがどうして立つのですか。 プルサーマルは全体的に、電事連の立てた計画から大幅に遅れているのは否定しようのない事実です。この状態で六ヶ所再処理施設を予定どおり動かせば、現在でも30数トンある余剰プルトニウムがますます増えることは誰の目にも明らかです。逆にそのことが、六ヶ所再処理施設のあり方に対する制約となる可能性があるでしょう。 国との協議会で、プルサーマルの実施についての口約束を受けるだけで済ませるのではなく、実情から判断すべきではありませんか。 (2)福井県知事も指摘しているように、美浜事故は老朽炉の危険性を示しました。ところが新長計策定会議では、原発の60年寿命と85%設備利用率を仮定しています。さらに60年寿命で廃炉になってもすぐに新・増設されることを仮定しています。このような設定に立って使用済み燃料の発生量を想定し、再処理コストを導いていますが、その設定が架空の前提に過ぎないことは原子力委員も公の場で公言しています。 ところが同時に、その架空の前提で再処理か直接処分かという2者択一の土俵を設定し、選択を強要し、そのようにして再処理路線を決めたことにしているだけなのです。 しかし現実には、老朽炉に鞭打つ路線は破綻しています。電力自由化の中で、原発の新・増設など思いのままに進むわけがありません。そのような現実的な見通しに立てば、再処理の必要性についても別の見方が生まれるのではないでしょうか。架空の前提ではなく、そのような現実的な前提で広く議論をしなおすことが必要なのではないでしょうか。 5.六ヶ所再処理施設は核のゴミ処理のために必要なだけだとされているのではありませんか 新長計策定会議では、「政策変更」に関して六ヶ所再処理施設が稼動しなければどうなるかとの設問を設定し、それに次のように答えています(第8回策定会議・資料第8号)。 ・使用済み燃料の行き場がなくなるどころか、返却されて原発が止まる。 ・海外から返却される高レベル廃棄物の行き場がなくなる。 ・原発から六ヶ所へ運び込んでいる低レベル廃棄物の行き場がなくなる。 さらに、策定委員から「中間貯蔵は絶対見つからないので、だから再処理をしなければいけない」との声もだされています。これらを裏返せば、要するに核のゴミ処理に困るからというのが、再処理を進める基本の理由となっているのではありませんか。ゴミ処理のために県民を放射能の危険にさらすようなことが許されるとお考えなのでしょうか。 また、10月20日に青森市で開かれた前記「ご意見を聴く会」では、最終処分地が決まらないまま再処理を進めるのはいかがなものかとの主張が、再処理推進のパネラーからさえ出されました。すなわち、再処理をしても青森県が核のゴミ捨て場にならざるを得ないという強い危惧があるということではありませんか。このような危惧にどう答えるのですか。 6.いまこそ県民の声に真摯に耳を傾けるべきではありませんか 新潟県の刈羽村住民は、2001年に住民投票でプルサーマル計画の受け入れを拒否しました。その重要な理由として、もんじゅ事故によって高速増殖炉計画は破綻したとの判断があります。実際、高速増殖炉路線をプルサーマルで置き換えることが不可能なことは誰の目にも明らかです。そして、高速増殖炉路線が事実上破綻していることも明らかです。すなわち再処理路線は事実上破綻しています。 新潟県、福島県及び福井県の3県知事は、核燃料サイクル政策には国民的合意ができていないと政府に申し入れています。国策を無批判に受け入れることが、はたして県民の福利向上につながるのか、根本的な疑念があったからではないでしょうか。 再処理施設の稼動を認めれば、土壌や海に蓄積される放出放射能とともに、放射能に汚染された膨大な施設を子々孫々の代にまで残すことになります。そのことを懸念する県民の声は高まってきています。重要な判断の岐路に立っているいまこそ、県民の声に真摯に耳を傾けるべきではありませんか。 再処理とめよう! 全国ネットワーク 連絡先:(〒039-3215) 青森県上北郡六ヶ所村倉内笹崎1521 菊川方 【再処理とめよう!全国ネットワーク・連絡団体】 花とハーブの里 みどりと反プルサーマル新潟県連絡会 グリーンピース・ジャパン グリーン・アクション 美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 脱原発ネットワーク・九州 |