柏崎刈羽原発2号機の原子炉水位は、地震後明らかに異常な振る舞いをした。それは「原子炉水位調整用ポンプ」が故障したためであり、その故障は「電気的な誤信号が原因」だと報道されている。 ◎<柏崎刈羽原発>地震直後、緊急炉心冷却装置を手動で作動 8月11日0時30分配信 毎日新聞 しかし、東電が公表した説明資料(8月10日付)には、この水位制御系の故障は明記されておらず、ただ「止める」、「冷やす」、そして「閉じ込める」ことに成功したとされている。しかし、本来は冷却材喪失事故等で炉心水位が大きく低下した際に利用する低圧炉心スプレイ系(緊急炉心冷却装置ECCSのひとつ)まで利用して給水する事態に追い込まれ、それでも水位を安定させられなかったのが事実である。 説明資料には「地震発生後数分間の計算機打出しが欠測したり印字時間のずれが生じていた」とある。地震動によってコンピュータが故障し、全く記録のない時間がある。一定の機能回復後にも時間にずれが生じており、「コンソール CRT 2 故障」という表示も見られる。一時的にコンピュータの電源が喪失した可能性が指摘できる。 下記東電資料(8月10日付)3頁より
図1 柏崎刈羽2号機系統(東電資料より作成) 地震発生以前には炉心水位は復水ポンプによって維持されていたとされているが、地震後、原子炉への注水はうまく行えなくなり、「原子炉水位調整用ポンプ」も故障したために、温度も圧力もほとんど下がらず、それにもかかわらず炉心水位が徐々に上昇する事態に陥った。図1には原子炉冷却材浄化系も「原子炉水位調整用ポンプ」も示されていないが、原子炉再循環系から分岐していると考えられる。 運転員は10:59にタービンバイパス弁を開く。これは最も効果的な冷却操作である。この時、炉心の温度も圧力も急速に下がっているにも関わらず、炉心水位は最も急速に上昇し、11:04にこの期間で最も高いピーク値に達する(図2参照)。原子炉内のいずれかの部位で予期しない減圧沸騰が生じ、沸騰によるボイドによって原子炉水位を見かけ上押し上げていた可能性が指摘できる。 そこで、原子炉水位がピークに達した11:04に主蒸気隔離弁を閉める操作を開始し、タービンバイパスではなくて、主蒸気逃し安全弁から格納容器内の圧力抑制プールに蒸気放出する操作が行われるが、水位は安定しない。そのプールの水を緊急炉心冷却装置ECCSのひとつである低圧炉心スプレイ系を用いて炉内に注水するものの、水位の上下動に示されているように、それはスムーズには行われていない。その後、制御棒駆動機構からの注水が継続的に行われた。
このように2号機では、地震によって原子炉の水位維持や冷却に必要なポンプが故障し、通常でない操作が行われたことは明らかだ。プラントの動きを記録するコンピュータも故障した。地震によって、思いもよらない、しかし原子炉の基本的な機能を脅かす箇所での同時の故障が引き起こされた。このような事態に直面しながら、東電の報告は表面的だ。「止める」「冷やす」「閉じ込める」、このようなことをただ宣伝しても、地震時にプラントで何が起きていたのかを知ることはできない。 地震が原子炉に与えた影響を分析する場合には、地震動によって機能喪失した機器とそれによって出来なくなった操作や余儀なく行われた操作変更、複数の同時故障がもたらした効果間の相互干渉をリアルに把握する必要がある。東電公表資料はそのような分析にたえるものではない。それはチャートの単なるコピーの寄せ集めであり、ポンチ絵のような情報量の少ないものばかりである。原子炉温度や圧力、各種機器の動作状況等が一覧できる詳細な時系列データ、運転員の操作とその意図を含めて、詳細な資料を公開すべきである。 (07/08/21UP) |