福井県知事 西川一誠 様 関西電力(以下、関電)は現在、新指針に基づく耐震安全性の調査を進めており約2年後の9月に公表する予定にしていますが、それとは別に自主的に、9月20日に「柏崎刈羽原子力発電所で観測されたデータを基に行う美浜発電所、高浜発電所及び大飯発電所における概略影響検討結果報告書」(以下、「概略影響検討結果報告書」)を貴職に提出しました。 その報告書では、7月16日の中越沖地震で柏崎刈羽原発が被った地震動が関電の原発で起こった場合を想定し、評価の結果、その振動によっても「主要な施設の安全機能は維持される」と結論づけています。この結論からは、あたかも一般的に安全性の維持が確認されたかのような印象を受けます。 しかし、私たちは10月2日、関電にその想定について具体的に確かめましたが、その結果、本来なら適用できない地震動を敢えて関電の原発に適用していることが明らかになりました。この点を貴職にお伝えし、改めて関電が評価をやり直すよう要請していただきたく、要望書を提出いたします。 私たちの主な主張点は以下です: (詳しくは後述の「補足説明」及び「別紙説明資料」を参考にして下さるようお願いします)。 1.関電は、柏崎刈羽原発の基礎版上の床応答スペクトルを、そのまま自らの原発の基礎版上の床応答スペクトルとして適用していますが、これは次の理由から不適当な方法です。 関電の原発の基礎版は岩盤に密着していますが、柏崎刈羽原発の基礎版と岩盤の間には200メートル以上の軟岩層があるため、基礎版の床応答スペクトルは長周期側に卓越した形をしています。他方、関電の基礎版床応答スペクトルは、岩盤と同様に短周期側にピークをもつ形をしています。このように、2つの応答スペクトルは著しく特性が異なっており、性質の違うものを二つ比べるのは不適当です。 2.関電が評価の対象とした主要な機器の固有周期は短周期になっています。そのため、関電のとった上記の方法では、必然的に機器の揺れを過少評価することになります。このような欺瞞的な方法で安全との結論をだしても、それは無意味なことです。 3.もし敢えて柏崎刈羽の地震動を適用するのであれば、関西電力が国の耐震指針が規定しているように、解放基盤表面での地震動から出発するべきです。柏崎刈羽1号機の岩盤に近い地下250メートルでは最大加速度振幅993ガルが観測されています。解放基盤表面での地震動に近いと見なせるこの詳しい記録はメモリ不足で失われたとされていますが、東電は再現するつもりでいると聞いています。この揺れを関電の原発の解放基盤表面に適用し、それから基礎版上での床応答スペクトルを導くのが原則的な方法ではないでしょうか。 4.関連して、以下のような問題のあることが明らかになりました。 (1)関電の限られた方法でも、柏崎刈羽の揺れが関電のS2地震動を超える機器があることを確認していながら、その重要性をまったく無視しています(「別紙説明資料」)。 (2)柏崎刈羽の揺れを適用したときに発生する応力がS2許容応力に等しい場合が存在している(高浜1号原子炉容器(支持構造物))のに、それでも安全だとする関電の姿勢は、安全余裕がゼロでもいいとしていることになります。 (3)さらに、安全余裕に及ぼす老朽化の影響については、具体的な定量的見解を示していません。 (4)敦賀半島の近くにある野坂断層について、政府の地震調査研究推進本部はマグニチュード7.3の地震を引き起こすと評価していますが、関電はいまだに野坂断層をどう扱うのか明らかにしていません(「別紙説明資料」)。 以上を踏まえて以下の点を貴職に要望します。 要 望 事 項 1.関西電力の9月20日付「概略影響検討結果報告書」の見解は不適当な手法に基づくものであるため、柏崎刈羽原発の岩盤の地震動を関西電力原発の解放基盤表面の地震動として適用するような方法で評価をやり直すよう、関西電力に要請してください。2.限られた手法に基づく結果でも、柏崎刈羽原発の加速度が関西電力原発のS2加速度を超える場合があることを関西電力が自ら確認したことは、従来の関西電力の耐震評価が崩壊したことを意味します。直ちに原発を止めて関西電力の原発の耐震安全性評価をやり直すよう関西電力に要請してください。 3.老朽化の影響が耐震性の評価にどう影響するのか、その具体的な定量的評価をだすよう関西電力に要請してください。 4.野坂断層が起こすマグニチュード7.3の地震が美浜原発に与える影響について、早急に調査結果を出すよう関西電力に要請してください。 2007年10月12日 グリーン・アクション(代表:アイリーン・美緒子・スミス) 補 足 説 明 ここでは要望書で述べた主張点の1〜3についてのみ補足説明します。他の点については別紙説明資料を参考にしていただきたいと思います。関電が実際に採用した柏崎刈羽原発の地震動とは、1号機と4号機の基礎版(建屋の基礎)上での床応答スペクトルであり、それをそのまま関電の原発の基礎版上での床応答スペクトルとして適用しています。ところが、これら2つの床応答スペクトルは添付の図3から明らかなように、形が著しく異なっています。その理由は、関電も認めるとおり、基礎版の置かれている地盤の違いにあります(下図)。 関電の原発の基礎版は固い岩盤のすぐ上に密着するように存在しています。他方、柏崎刈羽1号機の場合、岩盤が地下約280mもの深さに在り、基礎版との間に厚さ200m以上の軟岩層が存在しています。そのため、岩盤の短周期の揺れが軟岩層によってゆっくりした揺れに変わり、長周期側が卓越するような床応答スペクトルになるというわけです(別紙参考資料)。 このことは後の図から明らかです(古い美浜原発等の解放基盤表面でのS2応答スペクトルが公表されていないため、ここでは大飯3号を例としてとりあげます)。関電の大飯3号機で見ると、短周期側にピークをもつ解放基盤表面での応答スペクトル(図2)の特徴が、ほぼそのまま基礎版上の床応答スペクトル(図3の実線)に引き継がれています。そして、柏崎刈羽の岩盤での応答スペクトルは、申請書の場合でも、過去に地下250m地点で実際に観測された場合でも、ほぼ大飯3号と同様の特徴をもっています。ところが、基礎版になると、図3の点線グラフのように、長周期側にピークをもつ形になっています。 (旧)耐震指針では、「原子炉施設の耐震設計に用いる地震動は、敷地の解放基盤表面における地震動に基づいて評価しなければならない」と規定されています。柏崎刈羽の基礎版上の地震動ではなく、岩盤で観測された最大加速度振幅993ガルの地震動(または推測される地震動)を関電原発の解放基盤表面の地震動として適用し、それに対応する基礎版上の応答スペクトルを求め、それで機器の安全性を確かめるべきです。その場合、その新たなスペクトルは図3の実線グラフを大きく引き上げた形、つまり実線グラフを大きく覆うような形になるはずです。その結果は、今回の結果とは比べものにならない厳しいものとなるに違いありません。
(07/10/12UP) |