パンフレット・東海臨界被曝事故
政府は被曝集団のリスク評価を行い、
ガン死の危険を認めよ!



はじめに

1.東海臨界事故は、多数の住民と労働者の被曝事故である。東海住民は、国によって「いわれなき被曝」を強要された。私達の試算では、少なくとも1000人以上の人々が1mSv以上の被曝を蒙っている。地元住民の間では、事故直後から皮膚に斑点が現れたり、下痢や嘔吐が続くなど体調の異変が起こっている。さらに、今後数年から、10年、20年後に現れるであろうガン・白血病等々に対する不安が高まっている。
 他方、地元の説明会等に出席する「専門家」達は、「特別な健康診断などやる必要はない。一般的な健康診断を国が恩情でやってあげるのだ」、「そんなに被曝が心配なら墓石を持ってこい、線量を測ってやる」、「1mSv増えたからといって何のメリットになるのか」等々の暴言を吐いている。「専門家」という権威をカサに着て、住民を侮辱し愚弄している。政府・科技庁、「専門家」一体となって、被曝被害を切り捨て、闇に葬り去ろうとしている。政府・科技庁に対し、住民一人一人の訴えに真摯に耳を傾け、徹底した被曝被害の実態調査を行わせよう。

2.国の健康管理検討委員会は、3月31日「最終報告」をまとめた。結論は、50〜200mSv以下では被曝による健康被害は現れない。よって特別な健康診断の必要はないというものである。
 政府・科技庁は、この「最終報告」で事故の幕引きの総仕上げを行おうとしている。中曽根科技庁長官は、「国には刑事責任も民事責任も行政責任もない」と発言し、国の責任を一切否定している。「国策」の名の下に進められてきた原子力による被害の責任を、国が取らずにいったい誰が取ると言うのか。

3.国の被曝者切り捨ての手口はこうである。@まず調査対象を350m避難区域の住民に限定し、それ以外の住民を門前払いする、Aあらゆる手段を使って被曝線量を過小評価する、B被曝の人体影響をことごとく否定する。
 そして「最終報告」で被曝受忍論を展開する。@中性子の特異な猛毒性に口をつぐみ、A「しきい値なし」の原則を事実上否定し、50〜200mSvを政策的・実務的しきい値として、それ以下ならば被害は現れないと切り捨て、B低線量被曝の危険を全面的に否定する。「最終報告」は「専門家」を総動員して、被曝被害をばっさり切り捨てることを狙っている。

4.「最終報告」の内容は、現地の説明会で「専門家」達が繰り返し述べる次の言葉に集約されている。「ガンは絶対に起きません」。しかし、彼らの切り縮められた線量評価でも、ひとたび集団リスクを求めれば、確実にガン死の危険が現れる。「最終報告」は意図的にこの危険を隠すため、集団線量のリスク評価を避けている。東海事故に即して、住民集団のリスク評価を行わせ、「ガンは絶対におきない」=「被曝被害なし」を撤回させる突破口にしよう。

5.地元では、JCOはもとより政府・科技庁の無責任極まりない態度に対する怒り、子供達の将来に対する不安の高まりから「臨界事故被害者の会」が結成された。政府・科技庁の責任の追及、健康管理等に関する国の保障を求めている。原子力推進のメッカであり、「地縁・血縁・原子力縁」の東海で、地元住民の怒り・不安を汲み上げながら、長期にわたる困難な活動が開始された。「被害者の会」の運動と連帯し、地元の運動が発展するよう支援しよう。事故に対する国の責任、被曝被害切り捨てを具体的に追及していこう。

6.「最終報告」は東海住民だけの問題ではない。それは今後の「被曝管理指針」とすることを明記している。すなわち、福井で、新潟で、福島等で原発事故が起きた場合にも、50〜200mSv以下は切り捨てることを宣言している。この意味で東海事故の被曝評価は、まさにすべての人々の問題である。全国の反原発運動が、東海臨界被曝事故に再度関心を集中し、被曝切り捨てに反対する運動を自らの課題として取り組んでいこう。

7.ICRPは、放射線防護基準の抜本改悪に着手しようとしている。公衆の被曝限度1mSvを廃止し、政策的・実務的しきい値(30−50−100mSv)を導入、さらに集団リスク評価の廃止を狙っている。東海事故の「最終報告」は、この改悪を先取りして攻撃をかけている。検討委員会の「専門家」達は、そのことを自負し、ICRP基準改悪のお先棒を担いでいる。東海住民の被曝切り捨てを許さない運動を通じて、ICRPの基準改悪に反対していこう。

8.「最終報告」は内外の低線量被曝の危険性に関する研究結果を一切否定している。しかし、昨今、低線量被曝の危険性を示す疫学調査等が次々と公表されている。私達が知りえた限りでも、雑誌『ランセット』に発表されたセラフィールドの男性労働者の被曝とその子供の死産の間に因果関係があることを明らかにした疫学調査(99年10月)。イギリスのヒンクリーポイント原発周辺住民の乳ガンの増加に関する調査報告(2000年4月)。アメリカのスティーブ・ウィング博士らの放射線被曝と多発性骨髄腫による死亡率の関係の調査報告(2000年4月)等々。また、アメリカでは、核兵器製造工場での被曝とガンの因果関係を認め、労働者に賠償を開始しようとしている。パンフの中では、翻訳できたいくつかの論文・記事の概要等を紹介している。これらの翻訳・紹介は今後の課題としたい。
 全体として、被曝問題については、調査・検討を開始したばかりであり、皆様からのご批判をお願いする次第です。

 「被曝集団のリスク評価を行わせ、ガン死の危険を認めさせよう」。これを突破口にして「被曝被害なし」を撤回させよう。政府・科技庁の被曝切り捨てを具体的に追及していこう。そのために、このパンフレットが少しでもお役に立てば幸いです。

パンフレットは5部構成になっている。
 第1部は、健康管理検討委員会の「最終報告」批判である。
 第2部は、東海事故被曝者に対する差別的取り扱いをやめて、原爆被爆者認定と労災認定の原則を適用し、国が責任をもって健康・医療の制度的保障を行う必要性を明らかにしている。
 第3部は、ICRPの放射線防護基準の抜本改悪に対する批判である。
 第4部は、中性子線被曝の特異性とその際だった危険性についての「解説」。「最終報告」の最大の特徴の一つが、中性子線被曝の猛毒性を隠すことにある。そのため、詳しい解説を記した。
 第5部は、資料編。私達はこのパンフレットを作成するために、健康管理検討委員会の議事録(約500頁)を検討した。その中から「専門家」達の好き勝手な暴言、上記内容にかかわる発言録を掲載している。さらに、ICRP委員長のロジャー・クラークの論文、この改悪を批判するWISEの最新記事等、最低限必要な資料を掲載した。

    2000年4月24日
美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会



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