パンフレット
『劣化ウラン弾−被害の実態と人体影響』

増刷にあたって



 2001年4月に発行したパンフレット『劣化ウラン弾―被害の実態と人体影響』を増刷することにした。イラクの地に、再び劣化ウラン弾が大量にばらまかれようとしているからである。米ブッシュ政権は、対イラク戦争に向けた最終準備を着々と進めている。日本政府は、昨年12月に海上自衛隊のイージス艦をインド洋に派遣した。通常国会では、包括的な参戦法の制定が狙われている。イラクに対する攻撃が始まれば、1991年の湾岸戦争をはるかに超える大量の劣化ウランが使用され、イラクの人々を苦しめることになるだろう。国連、EU諸国や中東諸国での開戦延期論の台頭、対米追従に対するイギリスの逡巡と動揺、そして何よりも戦争反対の国際的世論と国際的な運動の力が、今の所アメリカの暴走に何とか歯止めをかけている状況である。
 本パンフレットは、2001年初頭に大きく政治問題化したバルカン・シンドロームをきっかに作成したものである。事実資料や証言に即しながら、劣化ウラン弾の人体影響と被害の実態についてまとめることを目的とした。湾岸戦争後にイラクで発生している深刻な被害の実態も含まれている。アメリカの対イラク戦争を押しとどめることが差し迫った課題となっている中、アメリカの戦争=劣化ウラン戦争の非人道性を明らかにし、アメリカの戦争犯罪を再度問い直すことは重要な意味を持つと考える。
 増刷にあたり、米軍が劣化ウラン兵器をアフガニスタンに対して大量使用したという重大な疑惑が出てきていることについて簡単に紹介する。また、最近明らかになった、イラクでの劣化ウランによる被害の状況についても紹介する。

アフガニスタンにおける米軍の劣化ウラン兵器大量使用疑惑が浮上
 対イラク戦争準備が進められる中、アフガニスタンに対する戦争でアメリカが劣化ウラン兵器を大量使用しているという重大な疑惑が浮上してきた。米ニューハンプシャー大学のマーク・ヘロルド教授と、イギリスのダイ・ウイリアムズ氏は、ねばり強い調査・研究の結果、貫通爆弾(硬化目標を破壊するための兵器)の材質に、劣化ウランが使用されている可能性が非常に高いことを突き止めた。貫通爆弾は、アフガニスタン東部のトラボラを中心に大量に投下されている兵器である。さらに、アメリカUMRC(ウラニウム医療研究センター)のドラコヴィッチ医師は、アフガニスタン現地で尿や土壌のサンプル調査を行っている。この調査の結果、住民の尿中から高濃度のウランが検出された。住民の間にかなり重篤な急性症状や、湾岸戦争症候群と同様の健康被害が発生しているという。
 この重大な疑惑については、「アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局」が発行している『アフガニスタンにおける劣化ウラン戦争−重大疑惑と検証』を是非参照していただきたい。
(
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/Bushwar/pamphlet_du_war_in_afghanistan.htm)

対イラク戦争は、湾岸戦争を遙かに超える過去最大規模の劣化ウラン戦争となる
 アメリカは、90年代以降の戦争で必ず劣化ウランを使用してきた。1991年の湾岸戦争、1995年のボスニア軍事介入、1999年の旧ユーゴ空爆、2001年の対アフガニスタン戦争。イラクに対する戦争でも必ず使用するに違いない。戦車砲弾から誘導爆弾、巡航ミサイルに至るまで、劣化ウラン兵器は米軍の標準兵装となっている。対イラク戦争は、湾岸戦争や対アフガニスタン戦争を超える、過去最大規模の劣化ウラン戦争となるだろう。まず第一に、陸上部隊の侵攻に伴って、戦車砲弾や航空機から機銃弾として劣化ウラン弾が大量に使用されることになる。またさらに、開戦初期の空爆では、貫通爆弾がアフガニスタンとは比較にならないほど大量に使用されることになるだろう。もし疑惑の通り、貫通爆弾が劣化ウラン製であれば、対イラク戦争でまきちらされる劣化ウランの量は、前回とは比較にならないほど膨大なものになる。さらに重要なのは、湾岸戦争の場合、比較的人口の密集していない南部の、しかも砂漠地帯が主戦場であったが、今回は首都バグダットとその周辺が主戦場になると予想されることである。貫通爆弾は、主にバクダットに存在する地下施設を破壊するために使用される。直接の死傷者数・被害が増大するだけではない。人口が密集している都市部に、劣化ウランがばらまかれることになるのである。同じ量の劣化ウランでも、その被害の大きさは前回の比ではないであろう。

深刻さを増す、イラクにおける劣化ウラン被害
 湾岸戦争でアメリカは、推定320トンもの劣化ウランをイラクの国土にまきちらした。その結果、戦場に近いイラク南部のバスラを中心とした諸都市で、癌・白血病の発生率が増加しているという事実がこれまでに明らかにされてきた。
 最近の報告によれば、1999年以降、癌・白血病がさらに急激な勢いで増大し始めているという。特に子どもの癌・白血病が増大している。2002年12月1日、広島で開催された「イラクの医師を囲む集い」に講演者として招かれたバグダット大学医学部のジョルマクリー医師は、最新のデータを用いてそのことを明らかにした。南部の都市バスラにおける小児白血病の発生数は、1998年までは24人前後で推移していたが、1999年は30人、2000年は60人、2001年は70人と急激に増大している。湾岸戦争前(1990年)の発生数15人に対して、5倍近い増加である。リンパ腫については、1998年までは10人以下だったものが、1999年には19人と倍増した。2000年は13人、2001年は18人と高い発生率を維持したままである。また、バスラでの15歳以下の子どもにおける悪性腫瘍の発生率は、1994年〜1998年は10万人当たり7人前後で推移していたが、1999年〜2001年には11人〜13人と急激に増加している。その中でも5歳未満の乳幼児の白血病発生率の増加が顕著で、2001年度における15歳以下の子どもの白血病の発生数70のうち41が5歳未満であった。これまでの被害は、まだ前触れに過ぎなかったのかも知れない。潜伏期間を終え、これから被害が本格化するのかも知れない。さらに、被害は癌・白血病だけではない。出産異常や、戦争後に生まれた子供たちの間で様々な先天的な障害が頻繁に現れている。
 すでにイラクの人々、とりわけ子供たちは、劣化ウランの被害に呻吟している。アメリカはその子ども達の上に、再びより大規模に劣化ウランをまきちらし、さらなる苦しみを与えようとしているのである。

 私たちは、アメリカの対イラク戦争と、日本の事実上の参戦に断固反対する。また、放射能汚染反対・被曝反対の立場から、深刻な放射能汚染と被曝被害をもたらす、対イラク戦争と劣化ウラン兵器の使用に反対する。最悪の非人道兵器=劣化ウラン兵器の使用を断じて許してはならない。このパンフレットが、対イラク戦争に反対する運動の一助になれば幸いです。
2003年1月



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