美浜3号機事故の背景−老朽炉にムチ打つ、修繕費削減・定検短縮
関西電力による経済性最優先の危険な原発運転の実態


 美浜3号機事故の背景には、関電による経済性最優先の無謀な原発運転があるのではないか。このことを明らかにするため、原発修繕費や定検日数、原発の稼働率等のデータを過去に遡って調べてみた。その中で、原発の老朽化が進んでいるにもかかわらず、修繕費を削減し定検日数を短縮する、危険なまでに稼働率をアップするといった、安全性無視の経済性追求に血道をあげる関電の姿がはっきりと浮かび上がってきた。美浜3号機事故は、関電による、事故ギリギリの危険な原発運転の実態に警告を発している。データを示しながら、以下に解説したい。






















(1)原発修繕費の大幅な削減

 【グラフ1】は、関西電力の過去20年間の有価証券報告書から発電設備についての修繕費を読み出し、その推移をグラフ化したものである。修繕費全体は1993年度の2554億円をピークに低下し、2003年度は1084億円と、20年前の水準(1983年度-1120億円)を割り込むまでになっている。
 【グラフ2】は、原発分の修繕費だけを取り出したものである。原発についても1995年度の1170億円をピークに修繕費は低下し、2003年度は707億円と、ピーク時から約4割削減されていることが分かる。
 このような修繕費の大幅な削減が何によってもたらされたのか、もう少し詳細に見てみよう。【グラフ3】は、電事連が公表しているデータを基に関電の発電量の推移を示したものである。発電量はトータルでピーク時の1358億kWh(1996年度)から1170億kWh(2003年度)へと約15%削減である。このグラフと、修繕費のグラフ1を比較してみると、修繕費全体の削減は、大きくは火力の発電量の減少=火力の休止に伴ってもたらされたものであることが分かる。次に、原発の修繕費の削減が効いている。しかし、こちらは火力とは事情が異なる。原発の発電量は増加しているにもかかわらず、反対に原発の修繕費は一貫して減少しているのだ。
 このことを別の側面から見てみる。【グラフ4】では、原発の発電量100万kWh当たりの修繕費を求め、その推移を示した。これを見ると、1995年には100万kWhを発電するために必要な修繕費は192万円だったが、2003年には92万円と半減していることが分かる。
 修繕費とは、設備を保全し一定の運転条件に維持するための点検と補修等にかかる人件費と材料費のことである(上蓋や蒸気発生器の交換の場合、交換された設備は資産に計上されるため通常は修繕費には入らない)。
 関電の原発は比較的新しい大飯3・4号を除けば、老朽炉といってよい(美浜1・2は30年を超え、美浜3、高浜1・2、大飯1・2は、20年〜30年、高浜3・4は19年〜20年)。本来なら、老朽化の進んだ原発は、通常より念入りな検査と補修が必要なはずであり、修繕費は年を追うごとに増加していてしかるべきである。それにもかかわらず原発の修繕費は、4割も削減されている。手抜き検査で補修費等をケチり、コスト削減に血道をあげている。それを老朽原発で行っているのだ。今回の美浜3号機事故の背景には、このような修繕費の大幅削減がある。


(2)定検の短縮と設備利用率の上昇

 次に、関西電力のプレスリリース等を基に、関西電力の全原発の定検日数の平均と最短日数を計算し、【グラフ5】に示した。このグラフを見ると、定検日数の平均は、1995年から2003年までの間に、166日間から67日間へと半分に減少している。また、調整運転を含まない定検日数(正味原子炉を止めていた日数)の最短は、1995年には82日間だったが、1998年以降は40日前後となり、2002年には31日間にまで短縮されている。
 このような定検日数の短縮に照応して、関電の原発の設備利用率は大幅に上昇している。【グラフ6】は、原子力発電所運転管理年報データから関電の原発の設備利用率の平均の推移を示したものである。
 1975年には約40%に過ぎなかった設備利用率は、80年代を通じて上昇し、1985年には約80%にまで達する。しかし、その後、チェルノブイリ事故を経て、蒸気発生器細管がボロボロの状態にあることが発覚、1990年代前半は、蒸気発生器の取替え等のため、設備利用率は70%を下回る水準で横ばいしている。そして1995年以降、90年代前半の遅れを取り戻すかのごとく右肩上がりの上昇を見せ、1990年代後半には80%を超え、2002年にはほぼ90%にも達している。2002年、2003年は特段に高い。相当無理な運転をしている。1995年以降、設備稼働率は急激に上昇(つまり定検短縮)しているが、これは先に示した原発修繕費の1995年以降の減少と照応するものである。
 【グラフ7】は、それぞれの原発について、設備利用率の推移を示したものである。比較的新しい大飯3・4号機や、80年代に入って運転を開始した高浜3・4号機は平均86%の高い稼働率となっている。他方、運転年数30年を超える美浜1・2号や、高浜1・2号、大飯1・2号は、90年代前半の蒸気発生器取替による利用率の落ち込みを挽回するかのように、1990年代後半から設備稼働率75%を超えるような運転を続けている。関電は、文字通り、すべての老朽炉を鞭打ち働かせ続けているのである。
 今後一層稼働率を上げるためには、これら老朽炉の稼働率を上げる以外にはない。その最中に、美浜3号機事故は起きたのである。


(3)9電力の中で最も原発依存度が高いという関西電力の特殊性

 関電が原発の修繕費削減、定検短縮に血道を上げるのは、他の電力会社と比較して、関電の原発依存度が飛び抜けて高いという事情がある。
 【グラフ8】は、電事連が公表しているデータを基に、各電力会社の総発電量に占める原発の発電量の比率、つまり原発への依存度を示したものである。関電の原発依存度は右肩上がりで上昇し、2003年度で65%と、だんとつトップである。2位の九州電力(55%)と10ポイントも差をつけている。東電の場合、検査記録ねつ造事件という特殊要因のため、2002年度、2003年度は原発の依存度が大幅に下がっているが、1990年代後半を通じて、原発の比率は45%〜50%である。関電の原発比率の高さは突出している。
 このように、関電は原発依存度が高いため、全体のコストを削減するためには、原発部門のコストを徹底して削減するしかないという特殊事情を抱えている。このこともまた、今回明らかになった異常なまでの関電の手抜き検査等の背景にあることは明らかである。


(4)修繕費の削減と高稼働率の維持を謳う関電の経営計画

 関西電力の「平成16年度 経営計画」は、「お客さま満足No.1企業」をキャッチフレーズに、「抜本的なコストダウン」を謳っている。その中身は、原発の高稼働率を維持し続けるというものである。「経営計画」の中で関電は、「定期検査中の特別工事の集中化や定格熱出力一定運転により、85%以上の原子力利用率を維持することを目指」すとしている。また、「修繕費、諸経費の低減」との一項目を設け、「事後保全化の範囲拡大や点検周期、工事範囲の見直しを行うことによって設備保全の効率化を図」るとし、「修繕費、諸経費のさらなる削減に努め」るとしている。
 先に見たように、原発の修繕費は1995年以降約4割カットされている。これを一層進めるために、「経営計画」では、「品質とコストダウンを高次元で両立させる技術力の確保」を謳っている。その内容は、「劣化・予寿命診断技術や高度な保全システムの確立などにより、高度な保全と効率的な業務運営の達成を目指します」という。今回の事故とその後明らかになっているのは、劣化が進み余寿命がとうに過ぎているのにそれを放置する、「他の原発から類推して安全」と判断し検査を行わない、「他の部位から類推して検査を省略する」等々である。美浜1号・2号では、火力の技術基準の「ただし書き」を悪用し、故意に必要管厚を小さく見積もって計算、配管の余寿命を水増ししていたことも明らかになっている。これらは、関電の「経営計画」の中に明確に位置づけられ、今後一層そのような手を使って効率化を図るというのである。「高度な保全と効率化」は両立しない。そのことを事故は示している。
 さらに、「経営計画」は、上記に続けて、「関西電力グループとしての最適な技術力確保」を謳っている。これは、関電自らの技術力ではなく、関連会社「日本アーム」への検査丸投げを一層進めていくとの表明でもある。

 以上見てきたように、美浜3号機事故の背景には、「1回の判断ミス」で起きたものではない。定検短縮で稼働率を上げ、修繕費を削減して効率化を追及するという、経済性最優先の危険な原発の運転がある。そして、関電は、今後これらを一層押し進めようとしている。原発依存度の高い関電にとっては、電力自由化の下、修繕費をカットし、定検短縮を進め、手抜き検査による運転を続ける以外にない。「経営計画」が示しているのは、手抜き検査や、検査基準のねつ造や検査記録の改ざん等々、増えることはあっても減ることはない。老朽化が進む下、安全無視の強行運転をこれ以上許せば、更なる大事故の発生は避けられない。老朽炉の運転を止めていかなければならない。