4月27日、午後3時〜5時過ぎまで、美浜3号機事故の「最終報告書」などに関して、原子力安全・保安院と交渉した。この日の交渉も、近藤正道参議院議員の尽力でもたれ、議員と市民6人が参加し、参議院議員会館の面談室で行われた。保安院からは、検査課から森下班長、防災課から白神班長という、いつもの顔ぶれだった。この日の交渉では、今後の配管管理に関する保安院の暫定指針と機械学会の規格案に重点をおいた。時間の制限もあり、その他の質問事項については触れることができなかった。交渉の最後には、事故が保安規定違反かどうかという問題でやりとりを行った。ポイントを絞って報告する。 冒頭、4月7日付で出していた質問書と資料請求に関して、近藤議員が資料請求に対する回答を求めた。すると森下氏は、「質問書も資料請求ももらっていない、そのため資料請求に対する回答は持ち合わせていない」と言い出した。議員事務所から保安院に質問書が出されていることは確かであり、森下氏に質問書が届いていないというのは、保安院内部の問題だ。再度議員から資料請求を要請し、後日回答することとなった。 ■保安検査官は、事故当日も、それ以降毎日美浜3号機を訪れているが、蒸気流入を知ったのは10月初め 中央制御室への蒸気流入を現地の保安検査官は事故当時に知っていたのではないのかという問題から始めた。白神氏は、「蒸気のもやで制御室がもうもうとしているような状況ではないので、当日は分からない。痕跡はシミのようなものだから」と繰り返した。しかし関電は事故当日の写真も公開し、事故当日から蒸気流入を知っていた。それを毎日発電所に通っている検査官が、10月に関電に言われるまで気づかなかったとはおかしい。検査官は何を見ているのかと追及されても、「痕跡はシミのようなものだから」を繰り返すばかり。 さらに、関電が行った電気ケーブルの絶縁抵抗の測定結果を公表するようにと問うと、「検査結果を収集する意義を感じませんので」と白神氏は繰り返した。そこで、絶縁抵抗の低下は事故の安全解析の前提にも係わるほどの重大問題ではないかと問うと、安全解析は我々の担当ではありませんのでと白神氏はかわした。 ■「関電が暫定指針を取り入れていることを確認した」−保守管理要領書に「通達に即して管理します」と書いているだけ 2月18日に保安院が出した配管管理の暫定指針の問題については、「関電が保守管理要領書を改訂したことを、私が確認しています」と森下氏。しかし、「関電広報は、保安院には報告していないと言っているが」と問うと、「誰ですか、そんなことを言っているのは」と不快な顔をしていた。よく聞くと、保守管理要領書に「通達に即して管理します」という文言が入っているだけで、具体的にどのように管理を変更したのかは書かれていないようだ。基本的には電力まかせということ。 ■機械学会の配管減肉管理に関する規格案へのご意見募集とその回答の問題について (1)機械学会規格案で、規格を採用するかどうかは事業者まかせになっている問題については、機能性規格は火力発電なども対象にしているので、そういう書き方になってもおかしくないとの回答だった。ただ、原子力については規格を採用して配管管理を行うことになるという。 (2)規格策定のために10万件の減肉データを採用するといいながら、機械学会は論文で公表されたものを採用すると回答している件については、論文に出ないと学会としては採用できないからそう言っているのだろうとのこと。減肉データは事業者が自主的に出すものだそうだ。減肉率が大きく変化するデータなどを果たして電力会社は提出するのだろうか。 (3)機械学会が策定している規格について、保安院は「行政手続き上の判断基準として位置づける」としている。その意味は、JEAC4111(品質保証規程)等と同じように、保安院がその規格を配管管理の基準として位置づけ、法的にも守らなければならない基準にするとのこと。現行の技術基準は、技術評価上の判断基準として残り、それとは別に、規格は配管管理の判断基準となるという。 (4)現行の「その他部位」については、「中期計画」を立てるというだけで、現在の検査より大きく後退するのではないかと問うと、後退しないようにするつもりですと答えた。 全体として、配管管理の実態がどのように変わるのかはまだ分かりにくい状況だった。機械学会の規格策定は9月にずれ込みそうだとのこと。今後出される機械学会の「技術規格案」等を監視していく必要がある。 ■美浜事故は保安規定違反ではないのか? 交渉の終盤で、美浜事故は原子炉等規制法37条で定められている保安規定違反ではないのかと追及した。国は、管理指針さえ守っておれば事故は起きなかった、28年間も当該部位の検査を見落としていたこと(=管理指針違反)が事故の原因だというのが基本的姿勢だ。事実、保安院の「中間報告書」28頁には、「現行制度においては、二次系配管の肉厚管理に関する社内規定(引用者注:PWR管理指針のこと)は、事業者の「保安規定」の下部規定と位置づけられている」と明記されている。それならば、管理指針違反は、保安規定違反ではないのかと問うた(引用文中の「現行制度においては」とは、東電事件を受けて2003年10月に原子炉等規制法が改定され、品質保証体制について保安規定に明記することが義務づけられたこと等を指している)。 すると森下氏は、「以前にも言ったかもしれませんが、新制度は遡及適用はできないのです」と言い出した。「リスト漏れが28年も前のことだからということか」と問うと、「いや、新制度は美浜3号については、事故数日後から始まる定期検査から適応になっていた。先輩達が努力して品質保証体制などで法改正をした。先輩達ががんばってくれた法改正を適用できなくて、残念なんです、悔しいんです」とこぶしを握って力説しだした。すると、隣の白神氏が、「それは違うでしょう。8月14日の定検で適応されるのは、原子力安全基盤機構が行う、定期安全管理審査のほうでしょう。保安検査とは別でしょう。法改訂後の新たな保安規定は昨年6月頃に許可されていたのでは」と。森下氏は、あれっという表情で沈黙。「6月に新たな保安規定が許可されているのなら、8月の事故は明らかに保安規定違反ではないのか」、「先輩の努力云々で残念ですなんて、当てはまらないでしょう」と問われても、何も答えることはできなかった(事実、美浜原発の保安規定は昨年6月16日に許可されている)。さらに、関電は事故の約一ヶ月前の7月には、大飯1号の減肉問題の水平展開で、美浜3号の当該箇所が未点検であったことを知っていたと、3月1日付の「事故報告書」に書いている。そうであれば、なおさらのことだ。結局、後日確認して回答するということになった。 保安規定は、原子炉等規制法第37条で定められている。保安規定が原子炉の運転による災害の防止上十分であること、さらに原子炉設置者・従業者は、保安規定を守らなければならないと定められている(下記条文参照)。 さらに、基盤機構が行う定期安全管理審査では、電力が行う配管検査の結果、それが技術基準に適合しているかの判断は行わないことを確認しようとした。すると両氏とも、「配管肉厚を実際に測定したりはしないが、技術基準に適合しているかどうかの判断は行う」と言い張る。それで、定期安全管理審査は「原子力発電所の技術基準適合性を判断するものではない」と書かれている基盤機構のHPを示すと、「なんでこんな事書くのかな・・・」等とまたも不快な顔をしていた(この資料は、基盤機構が昨年10月28日に行ったシンポジウムで、検査業務部長の井元良氏の報告資料「定期安全管理審査の実施状況」と題する資料の4頁目にある)。 二次系配管の管理について、国は基本的に何も行わず、電力会社にまかせて大事故を引き起こした。この日の保安院の対応は、自らの責任が具体的に明らかになることを必至で隠そうとする意図に満ちていた。美浜3号機事故は保安規定違反ではないのか、これへの回答を即刻示すべきだ。 「最終報告書」では、関電に対して「特別な保安検査などで指導・監視する」となっている。「特別な保安検査」とは、保安検査官を倍増して厳しく検査するとのことだそうだ。検査の強化という文言だけで、美浜3号機事故と国の責任に蓋をすることができるのだろうか。 (参考資料)
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