老朽原発の方が配管の減肉は小さいかのごとく見せかける
老朽化による配管減肉の実態を覆い隠す国・電事連の詐欺的な手法


 国・電力会社は美浜事故1年を前に、配管管理と老朽化対策について、火事場泥棒とでもいうべき改悪を急ピッチで推し進めようとしている。日本機械学会は2005年3月に配管管理の機能性規格を策定し、2005年7月を目途に技術規格の策定を進めている。総合資源エネルギー調査会の原子力安全・保安部会に設けられた高経年化対策検討委員会は、昨年12月にスタートし、すでに5回開催されている。8月には最終報告をまとめ、原子力安全・保安院が策定した60年寿命の運転のための指針を確認する方針である。
 配管管理の抜本的改悪の内容については幾度か述べてきた。国が進めている高経年化対策の内容についても今後紹介していきたい。今回は、老朽化による配管減肉の実態を覆い隠そうとする国・電力会社の詐欺的手法を明らかにしたい。

 原子力安全・保安院は第4回の高経年化対策検討委員会(2005年4月6日)で、「配管減肉に係る高経年化対策について」という報告書を出した。この保安院報告書のベースになっているのは、電事連がまとめた「電気事業者における配管減肉データの分析結果について(2005年4月6日)」(同報告の別添2/以下電事連報告書)である。電事連報告書は、(1)減肉速度の加速は認められないとし、(2)老朽原発の方が配管減肉は小さいと見せかける、(3)「その他部位」については老朽化に伴って交換数が増加することは認めているが具体的な対策については何も示していない。以下、この電事連報告書の内容に即して、国・電力会社のごまかしの手法について述べる。

◆加速のない、わずか4例だけで「減肉速度の加速は認められない」
 まず第一に、電事連報告書は減肉率が経年的に増大していくような場合、つまり減肉が加速するような可能性の有無について検討したとしている。現在の配管管理は、過去の測定データから減肉率を計算し、それをそのまま将来にも当てはめて減肉を予測し、配管の余寿命を評価している。つまり、減肉率が常に一定不変であることを前提にしているのである。そのため、もし、減肉速度の加速がありうるならば、「運転年数に応じた配管管理の方法を検討する必要がある」ことになる。
 この問題について電事連報告書は、「減肉率と運転年数の関係を、実機の肉厚測定データに基づき調査した」とし、その結果、「これらのデータから判断する限り、減肉率には運転年数の影響は認められない」としている。減肉の加速がないことを前提とした現状の配管管理手法は、老朽化原発に対しても妥当との判断である。
 しかし「これらのデータ」として、電事連報告書が挙げているのは、PWRについては美浜3号の2例(スケルトン図番号08-26と100-57−下図)、BWRについては福島第一原発2号機の2例だけである。これら4例に限って見れば、肉厚測定値が丁度直線上に載るような形になっている(つまり、減肉速度が加速しない)。これは、そのような都合の良い事例だけを取り出してきたからである。
 実際には、減肉の進展の度合や分布の形態は、僅かな条件の差によって様々な形を取るものである。減肉速度が加速するような事例も数多く存在する。


◆減肉速度が加速しているような事例を意図的に排除
 例えば、大飯1号機の主給水管の曲がり部の肉厚測定値を用いて2次推定してみると下図のようになる。明らかに減肉率(グラフの傾き)は加速している。しかも、最後の辺りの減肉率は年に0.9mm強と、通常考えられている減肉率の2倍程度と非常に大きな値となっている。
 電事連報告書は、「これらのデータを含め、これまでに採取された肉厚測定データに、運転年数の長期化に伴い減肉率が増加に転じることを示すものは見当たらない」としている。しかし「これまでに採取された肉厚測定データ」から、この大飯1号の例などは排除している。電事連は、都合の悪いデータを意図的に無視し、都合の良い事例だけを取り上げて「減肉速度の加速はない」と断定しているのである。


◆交換後のステンレス配管も一緒くたにして減肉率を平均化、老朽原発の方が減肉は小さいかのごとく見せかける
 2次系配管では、管理されるべき対象箇所は膨大な数にのぼり、老朽化に伴う減肉の進展によって、補修・交換の必要性は増大する。そのため、管理されていない部位や、長年検査していない部位で破断等が発生する。これが、2次系配管の老朽化問題である。美浜3号機事故では、正にそのことが問題となった。未点検箇所で減肉が進んでいるのではないか。見逃している配管はないか。そのような点に目を付け、配管管理の徹底を計ることが、事故からくみ取るべき教訓である。したがって、老朽化対策は未点検箇所や未交換の配管における減肉の実態を正確に捉える所から始められなければならない。しかし、電事連はそのことを全く無視しているばかりか、統計的なゴマカシを用いて、老朽原発における減肉の実態を隠そうとしている。

 電事連報告書は、「配管減肉に対する高経年化の影響」を検討したとして、「エロージョン/コロージョンの感受性は運転年数の長期化に対応して徐々に低下していく」と結論づけている。つまり、老朽炉の方が減肉が小さいという。その唯一の根拠として電事連報告書が挙げているのは、美浜3号の第11〜15回定検と、第16〜20回定検の平均減肉率を比較したグラフ(下図)である。ここで比較されている平均減肉率とは、交換された新しいステンレス鋼配管も含め、検査された全ての配管の減肉率の平均を取ったものである。そして電事連は、第16〜20回定検の方が平均減肉率が小さくなっていることから、老朽原発の方が減肉が小さいとの結論を引き出している。そして、このような主張は、老朽原発があたかも安全であり、ことさら厳重な配管管理は必要ないかのような印象を与える役割を果たしている。

 しかし、このような比較は統計的ゴマカシに他ならない。定検の度に、減肉の進んだ炭素鋼配管が、より減肉し難いステンレス鋼や低合金鋼に取り替えられているからである。第15回定検時点で累計約900箇所がステンレス鋼や低合金鋼に交換済みである。一方、第20回定検時点での取り替え済み箇所は約1200箇所である(1200箇所は、PWR管理指針に基づく点検箇所の総数5700箇所の約2割)。つまり、彼らが比較している第16〜20回定検の「平均減肉率」には、約300箇所の交換済みの配管が新たに加えられているのである。
 減肉率の小さなステンレス配管を加えて平均を取れば、「平均減肉率」が減少するのは当たり前である。さらに、未交換の配管と一緒くたにして平均化してしまえば、未交換箇所での減肉率や減肉の進展度合はまったく把握できなくなる。「平均減肉率」の比較は、老朽化による減肉の実態を覆い隠すための詐欺的手法という他ない。

◆「その他部位」で交換数が増大することは電事連資料でも隠しきれない。しかし、具体的対策はなし
 「その他部位」はこれまで十分に管理されてこなかった。その「その他部位」で老朽化の進展と共に減肉が進み、交換・補修が必要となる箇所が増大する。これが老朽化の大きな問題である。
 電事連報告書の想定に基づいて、「主要点検部位」と「その他部位」に分けた今後の取り替え数の推移を次表(電事連報告書より作成)に示す。(1)老朽化に伴って、主要・その他の取替数が増大すること、(2)主要に対してその他の取り替え数が上回り、経年化と共にその差が大きくなることは明らかである。

 しかし、電事連報告書の想定は最低限のものと言ってよい。電事連は「その他部位」の評価部位数4200の内、85%は取り替えなくても60年運転できるとしているが、この間見つかっている減肉がほとんど「その他部位」であることを考えると到底信じられない。老朽化に伴って、電事連が考えるよりも、「その他部位」の取り替え頻度は大きくなるに違いない。
 電事連報告書では「『主要点検部位』、『その他』という分類に依存した配管減肉管理から、減肉の予想される『その他』について点検計画を前倒ししていく配管減肉管理への移行が必要となってくる」としている。一応は「その他部位」の管理に関心を示しているようである。しかし、膨大な数の「その他部位」をどのように管理していくのか、具体的な方針は一切示されていない。美浜3号で問題となった類似箇所を他原発に適用し、前倒しで点検することで「適切な配管減肉管理が可能」としているだけである。実際には、次に述べる「見かけ上の減肉」という概念を導入し、ごまかそうとするものだ。

◆「見かけ上の減肉」という概念で、「その他部位」の検査・配管取替の手抜きを図る
 電事連報告書は、形の上では、「その他部位」で管理が必要になることは認めているように見えるが、本当にそうなのだろうか。
 関西電力は5月11日、福井県原子力安全専門委員会に「美浜発電所3号機2次系配管の点検結果について(第3回報告)」を出した。関電はこの第3回報告の中で、「見かけ上の減肉」という考え方を導入し、余寿命5年未満(次回定検時)の配管の4割近くが「見かけ上の減肉」であって、実際には減肉ではなかったとしている。また、減肉率が大きくなっている「その他部位」を全て「見かけ上の減肉」とし、その結果、「その他部位」の減肉率は小さかったと結論づけている。(関連記事)
 「見かけ上の減肉」という概念を導入する狙いは、配管の交換・補修を極力減らし、検査を簡略化することにある。特に、検査箇所数が膨大な数となる「その他部位」の検査・取替を手抜きすることが目的である。
 この「見かけ上の減肉」という概念を老朽化対策にも適応していくに違いない。そうやって、「その他部位」の配管管理を手抜きしようとしている。

◆電力会社による配管管理の手抜きを認め、先導する保安院
 原子力安全・保安院の4月6日の報告書「配管減肉に係る高経年化対策について」は、以上述べてきたような電事連報告書に基づいてまとめられている。保安院も、老朽化に伴ってこれまでほとんど検査されてこなかった「その他部位」の管理をどうするかに関心を示している。しかし保安院は、「対象は膨大である一方、多くの減肉が僅かにしか進展しないことを考慮する」とし、各プラント毎に検査をやるのは困難なので、各電力で測定箇所や評価を分担してやればどうかと提案しているだけである。保安院は、「その他部位」について対策が必要であることについては一般的に承認しながら、そのための具体的方策を一切示さないという無責任極まりない姿勢に終始している。また、「検査の分担」とは電力会社の手間を省くことを認めるものだ。保安院は、「その他部位」の管理方針を示さないばかりか、配管管理の手抜きを先導している。国・電力会社にとって、点検箇所数の多い「その他部位」の管理は頭の痛い問題であるに違いない。そこで、彼らは「見かけ上」や「役割分担」で切り抜け、何とか検査を手抜きしようとしているのである。このようにして、老朽化というあるがままの姿を見ないように策動している。そして、老朽炉にむち打つ60年運転を強行しようとしている。


─福井県原子力安全専門委員会での議論より─
「見かけ上減肉していれば安全性を優先させて全部取替るのか」
→「減肉がはっきりしなければ取替の必要なし」

その他部位の検査が終了するのは3年後
→「まだ3年間はびくびくしなければ」

 「見かけ上の減肉」に対して、5月11日の福井県原子力安全専門委員会では、県の委員から次のような質問があがった。「いろいろな原因により、配管厚さが実際よりもより減っているように計測される場合もあるし、現実に減っている場合もある。しかし外側からは実際に減肉しているかしていないかは分からない。見かけ上減肉していれば、安全性を優先させて全部取替えるということなのか」。これに対して関電は、「見かけ上の減肉については、例えば今回交換しても来年また同じような数値が出てきてしまい、毎年交換しなければいけないということに陥ってしまうものもある」などとし、「明確に減肉がないとはっきりしたものは、交換する必要はないと考える」と答えている。 また、関電は前倒しで配管検査を進め、高経年化の原発では後2回の定検、他の原発では後3回で全ての未点検箇所を点検するとしている。つまり、未点検箇所を抱えたまま原発を動かし続けているということである。ところが、美浜3号機の点検では、未点検箇所で減肉が進んでいたことが明らかになっている。県の委員からは「まだ3年間はびくびくしないといけない可能性があるのか」との指摘もあった。(「第19回 福井県原子力安全専門委員会 議事概要」より)