美浜3号機事故を受けて原子力安全・保安院は、原発2次系の配管管理を厳しくチェックすべき立場におかれている。関電の他の原発についても自ら管理状況を点検し、いくつかの「不適切な減肉管理」を見出した。その結果を水平展開する過程で、東電福島第一原発5号機で、関電と同様の「不適切な減肉管理」の事実を見出した。ところが保安院は、違法運転となるべきその事実を意図的に見逃したばかりか、見逃すことに自らへ理屈をつけて、国が定める技術基準を守らなくてもよいとする見解を出した。保安院は、法的原則を否定し、安全管理の壁に一穴を開けてしまったのである。 他方、福島県はこの保安院の見解を「開き直りとも受け取れ、怒りを通り越してあきれる」と批判した。東電に対しては、当該部位を取替えるよう直接要請し、事実上の運転停止を求めた。週明けには保安院を呼び抗議するという。 保安院は、自ら定めた法を踏みにじる無法者としかいいようがない。保安院に抗議の声を集中しよう。 東電は、福島第一原発5号機に関する昨年2月からの定検で、2次系配管の余寿命が減肉のために10ヶ月しかないと判断された部位があったにも係わらず、取替えをしないまま9月12日から調整運転を始めた。現在では1年以上過ぎているため、法的な最小許容肉厚を割り込んだ違法運転状態にある可能性が高い。東電は11月まで運転を継続するという。しかし、11月には配管厚みは3.7ミリとなり、技術基準の3.8ミリを割り込んでしまう。 この福島原発での「不適切な減肉管理」は、関電の場合と同様の性格のものであるため、直ちに運転を停止して当該部位を取替えるよう保安院は指示すべきであった。ところが保安院は何のおとがめもしなかったどころか、安全管理に自ら一穴を開けるようなへ理屈をこねて、今年11月までの運転を容認していたのである。 この事実を東電からの説明で知った福島県は、保安院へ説明要請を出し、それによってこの問題が明るみにでた。それに対して保安院は、10月7日付「福島第一原子力発電所5号機の配管減肉管理について」(以下、保安院見解という)を発表し、自らの行為を正当化した。ところが、福島県は翌日の10月8日に東電に対し、「11月まで待てない」として当該配管部位を早急に取替えるよう要請した。そのことで、保安院の見解を否定した。 この問題に対する保安院見解には到底見過ごすことのできない危険な考え方が含まれている。その点を以下で明らかにしたい。 1. 東電の計算した減肉率が高すぎるとは 保安院はまず、配管の当該部位を取替えずに運転することを認めた理由として、次のように述べている。「今回、東京電力が評価に用いた減肉進展速度は平成7年第14回定期検査時の測定値と平成15年第19回定期検査時の測定値の2点から算定した0.6ミリ/年という減肉率が採用されている。美浜発電所の事故で当院が解析した結果によれば、水質の違いからBWRよりも減肉率が大きいPWRでも0.2〜0.3ミリ/年と計算され、減肉率が過大に評価されている可能性があると考える。したがって、当院としては、次回定期検査が行われる11月時点で(肉厚が)技術基準を下回るとは評価していない」。 (1)まず、0.6ミリ/年という減肉率は東電が測定値を用いて算出した事実なのであるが、それに対してそんな高い値はあり得ない、もっと低い値でないとおかしいと保安院は言っている。これは事実に対して観念を対置し、しかも安全側ではなく危険側に評価すべきだという、規制当局としてあり得ないはずの姿勢である。 (2)対比として保安院が挙げているPWRで0.2〜0.3ミリ/年という減肉率は、おそらく、今回の事故調査で保安院が出した資料3−1−3の図1にある21例の平均値0.23ミリ/年のことであろう。しかし、問題になるのは平均値ではない。美浜3号の例では1.4ミリ/年がある。BWRでも女川2号機のように、3.4ミリ/年というすさまじい減肉の例もある。電力会社が選んだわずかな例の平均値だけを都合よく使って、事実を無視するような手法をもてあそぶのは許しがたい危険なことである。 2. 技術基準を自ら否定する さらに、保安院は自らの規制の法的基準を次のように否定する。「加えて、現在適用している配管肉厚に関する技術基準には、元々十分な安全裕度が盛り込まれているため、前回の定期検査の時点で一定の裕度を持って技術基準を満たしていた配管については、その後の運転期間中に減肉が進み、仮に技術基準上の最小許容肉厚に達したとしても、これがただちに安全上の問題に結びつくことはない」。 技術基準に安全裕度が含まれているのは当然であり、それは人知ではかり知れないような不確定要因のあることを予測しているためである。それを理由に、技術基準は守らなくてもよいと言い、技術基準を守らなくてもよいように指導しているのである。 電気事業法第39条では、原発を「技術基準に適合するように維持しなければならない」と規定している。今回の配管はこの39条違反の可能性が極めて高い。保安院は、これを守らなくてもいいとして、自ら法を踏みにじっている。さらに、同法第40条(技術基準適合命令)では、技術基準に適合するよう、修理や改造を命じ、その使用を制限することができると定められている。保安院は、事故で運転を停止している美浜3号機に対しては、この第40条を適用し「運転停止命令」を出した。しかし、動いている福島第一原発5号機には運転停止命令は出せないということなのか。そうであれば、保安院は自らの職務を全て放棄したことになる。 この問題で示された保安院の態度は、美浜事故による11名の死傷者の犠牲をも、美浜事故の教訓をも踏みにじるものである。2次系配管の管理を国が責任をもって行うよう要請した福井県をも踏みにじるものである。 今回の保安院の姿勢は、福島第1原発5号機に限られるものではない。技術基準に違反していても運転を容認するという普遍的問題である。これでは、いったい何を基準に配管管理を行うのか。何のために「技術基準」はあるのか。 福島県知事は「今後、経年化した原子炉の廃炉が問題となってくるが、安全に対する基準はどうなるのだろう」と述べている。今回の保安院の見解を許しておけば、老朽原発は穴だらけになる。保安院の姿勢は、老朽炉の運転に関する多くの人たちの不安を無視し、老朽炉に鞭打つことを容認するものである。これでは次の大事故は避けられない。 各方面から保安院に対し直ちに抗議の声を上げよう。自ら定めた技術基準を否定する、保安院の見解を撤回させよう。責任者の罷免を含め、責任を明らかにさせよう。 東電は、自ら直ちに福島第一原発5号機を止めて当該部位を交換すべきである。 2004年10月9日 美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 代表:小山英之大阪市北区西天満4−3−3 星光ビル3階 TEL 06-6367-6580 FAX 06-6367-6581 |