2004.9.8 美浜の会 9月6日開催の美浜3号事故の第4回事故調査委員会は、早くも中間報告の骨子を出して幕引きを図っている。2次系の管理指針には基本的に何も問題はないとの判断である。事故の原因は、関電の管理が悪かったことにつきるのだという宮委員の締めくくり演説がこの線を象徴している。2次系管理指針に問題はないという保安院の判断は、電力会社から原発1基につき1例の減肉率データを集めた(美浜3号だけは多く集めた)というきわめておそまつな「解析」に基づいている。どの1例を選ぶかも電力会社まかせにしたという。この「解析」の結果、減肉率は管理指針で想定した範囲に収まっているから妥当なのだというだけの子供だましに過ぎない。 第4回事故調では資料4−1−3の別紙5で、保安院は次のように説明した。美浜3号の減肉率を計算すると0.47×10^(-4)mm/hrとなる。これは管理指針で想定した0.45×10^(-4)mm/hrとほぼ同程度だから問題はないと。しかし、管理指針の0.45はすべての場合を包絡するように大きな値を想定したはずだ。今回はそれを超えたのに、驚きもしないとはどういう神経なのだろうか。問題はそれだけではない。計算値の0.47は運転開始から事故までの減肉量を単に時間で割っただけの平均値である。そして、実際に管理指針では、減肉率(減肉の進む速度)がいつも一定であると仮定されている。この仮定は妥当なのだろうか。 そこで、管理指針についてとりあえず次の2つの問題点を指摘しよう。 (1) 減肉率は一定ではなく、後になるほど加速する場合がある(玄海2号、大飯1号の例)。このとき、予想外に早く寿命がくるので、管理を誤り破断を招く危険性がある。 (2) 管理指針では減肉が進まないとして「その他」の部類に分類されている部位がある。その部位で予想外の大きな減肉が起こっている(大飯1号)。この部位では10年で25%をサンプリング点検することになっているが、この方式は事実により破綻している。 以下、具体的に玄海2号と大飯1号の例を見ていこう。 例1.玄海2号の復水系統エルボ(147℃) 九州電力は今回の保安院からの8月11日付け報告徴収に対して、玄海2号についてはこの部位を選んでデータを提出した。「過去に点検があり、ここ2年以内にも点検があった部位から選ぶことにしたと」九電はいうが、それだけではこの部位を特定する理由にはならない。何らかの都合で選ぶ余地は否定できない。この部位は、温度が147℃で美浜3号の破断部位と同様に点検対象となる部位であり、管理指針で想定されている初期減肉率は0.45×10^(-4)mm/hrである。 ところで管理指針では、対象とする部位の3回目の点検からは、測定値を用いた最小自乗法で減肉率を求めることになっている(実際は、その部位のいろいろな測定点で減肉率を計算してそれが最大となる測定点のデータを選んでいる。また、運転時間は単なる暦時間ではなく、実際に電気を送っている間の時間をとっている)。九州電力が計算しているのは、線形回帰と呼ばれる方法で、データがほぼ直線上に乗る場合に妥当な方法である。これは減肉率(グラフの傾き)がどこでも一定だと仮定しているのと同等である。 その直線を下記のグラフで示しているが、明らかに無理がある。最初の4点と後の4点をそれぞれ選んで最小自乗法で直線を引いてみると、明らかに傾きが大きく異なり、後になるほど減肉が加速していることが分かる。 そこで、今度は2次曲線を仮定して最小自乗法で決めると、グラフに示す曲線になる。明らかにこの方が適していることが分かる(3次曲線でも2次の場合とほとんど変わらない)。そうすると、最後の点検時での減肉率は、線形の場合の値(ある種の平均値)0.30×10^(-4)と比べて倍以上の値0.63×10^(-4)をとる。すなわち、減肉が加速している。その結果、余寿命は九電の計算値の半分以下になり、危険が予想外に早くやってくることを示しているが、そのことはいまの管理指針ではまったく考慮されていない。 例2.大飯1号の主給水管エルボ(B系)の予期せぬ減肉 主給水管を流れる水は230℃と高温なので、管理指針によれば減肉は起こらないと想定されている部類に属する。このような部位は、10年で25%を点検すればよいというのが、いまの管理方式である。最も長い場合では、40年後になってやっと点検されることになる。 大飯1号では、まさにそのような部位でひどい減肉が起こった。A〜DのうちのB系統を採り上げて3点の測定値(この場合は肉厚の最小値)を通る2次曲線を求めたのが下記のグラフである(明らかに減肉が加速しており、直線では合わない)。法律で定められた肉厚の限界値(計算上必要厚)を1997年初期に超えて減肉が進んでいたが、7年以上もそれを知らずに違法運転をしていたことになる。これは恐ろしいことである。減肉率は今年では、約1.0×10^(-4)mm/hrという非常に大きな値をとっている。放置していれば、さらに減肉が加速して非常に危険な状態になるところだった。 大飯1号のこの部位は幸いにも前の点検から10年目に点検されたが、これはたまたま「10年で25%」の最初の25%に入ったおかげである。しかし他では、すでに20年、30年たってもまだ一度も点検されたことのない部位がたくさんあるに違いない。まだ一度も点検されたことのない部位は、関電の11機で約11,500にものぼるのである。今回の事故後の点検ではそのうち276部位を点検しているだけなのだ。 いったい2次系の実態はどうなっているのか、関電にも本当のところは分からない。いつ破断が起こっても不思議ではない恐ろしい状態にある。一刻も早くすべての原発をくわしく点検することが不可欠である。それができないのなら、老朽炉は永久に止めるしかない。 |