質問・要望書
国土交通省の規則に違反する海上輸送は行うべきでありません
MOX燃料輸送容器に臨界事故の危険性があります
MOX燃料の海上輸送はやめてください
質問と交渉での回答(2010年3月3日)


関西電力(株)社長 森 詳介 様
2010年2月16日

 貴社は、高浜3・4号プルサーマルのMOX燃料をフランスから海上輸送するための準備を始めています。この輸送は、九州電力の2回目のMOX燃料と同時に輸送すると発表しています。貴社は2月6日の福井新聞に一面広告を出し「万全の安全対策を施したうえでMOX燃料を海上輸送します」と宣伝しています。しかし、輸送容器の安全性については大きな問題があり、このまま輸送が開始されれば、臨界事故を引き起こす危険性があります。
 ちなみに、昨年の九州電力・四国電力・中部電力のMOX輸送時には、現在の前原誠司国土交通大臣をはじめ20名の国会議員から輸送容器の安全性が確認されるまで輸送を中止するようにとの要望書が国交省に出されています(昨年2月26日)。また、この問題は私達だけでなく、輸送ルートにあたる国の人々にも危険と不安を与えるものです。
 MOX燃料の輸送中に臨界事故を引き起こす危険性については、現在にいたっても何も解決していません。そのため、以下の質問と要望を提出します。至急回答してください。
 下記で引用している「国交省の告示」は「船舶による放射性物質等の運送基準の細目等を定める告示」を指しています。


質 問 事 項

1.MOX燃料の海上輸送に関する安全性について
(1)臨界事故の危険性について
 輸送中のMOX燃料が臨界事故を引き起こさないために、日本原子力学会は、中性子増倍率が0.95を超えないことを基準としています。国交省の告示別記第9の2項では「放射性物質は中性子増倍率が最大となる配置及び減速状態にあること」と規定されています。
 他方、2007年10月に発表されたファリントン論文では、落下で燃料棒に変形が生じ(1〜3o)、それによって中性子増倍率が0.95を超えると指摘しています。
 貴社が2006年に容器設計承認を出した輸送容器[TN12P(M)]では、この中性子増倍率は0.929となっていますが、これは変形なしの場合です。四国電力が出した1o変形での変形なしの場合に対する倍率は1.019です。この倍率を考慮すれば、貴社の場合、0.929×1.019=0.947となって、中性子増倍率は基準の0.95に近づきます。

@落下試験によって燃料棒に1oと3oの変形があった場合に、中性子増倍率はそれぞれいくらになると評価していますか。

(答) ファリントン論文は9m落下時に燃料棒が1oや3o変形すると言っているものではなく、1oや3oの変形に関する臨界計算は変形による中性子増倍率の影響を見るために仮想的に臨界計算したものであります。安全解析では、9m落下時において輸送容器が受ける衝撃加速度において、燃料被覆管に発生する圧縮応力が降伏応力より小さいことより、臨界安全性に影響を与えるような、燃料棒の変形はないものとの前提で臨界安全性の評価を行っています。
 安全解析書に書かれている7つのケースについて仮想的に燃料棒の最下部スパンに1o/本の変形が起こった場合の臨界解析結果は、ケース@0.941 ケースA0.935 ケースB0.942 ケースC0.939 ケースD0.936 ケースE0.939 ケースF0.943 です。
 なお、3o変形は仮想的なケースであり、あり得ないことから確認する必要はないと判断し、計算しておりません。


(2)9メートルの落下試験について
 貴社は福井新聞の一面広告で「日本国内の法令はもちろん、国際的な取り決めにしたがった様々な安全対策を実施します」と書いています。その中で、「9メートルの高さからの落下試験」等を挙げ安全性が確保されていると宣伝しています。
 国交省の告示第14条の3では、落下試験について「当該核分裂性輸送物と同一のもの」を9メートルの高さから落下させると規定しています。輸送中のMOX燃料集合体の温度は約300℃になり、燃料の強度は4〜9割程度に低下すると北海道電力は述べています[北海道庁の「泊発電所3号機のプルサーマル計画に係る安全性の検討状況について(最終報告)の付属資料」(2008年・平成20年12月14日)]。2007年12月〜2008年3月に電気事業者が行った9メートル落下試験では、燃料ペレットとして鉛+アンチモンを用いており、MOX燃料のように温度が高くなることは考慮していません。この温度による強度低下を考慮すれば、上記の中性子増倍率は基準を超えてしまうと思われます。

@福井新聞の一面広告で「落下試験」「耐火試験」「浸漬試験」を行っていると書いていますが、それぞれいつ試験を行ったのですか。

(答) 国土交通省告示第14条は、危険物船舶運送及び貯蔵規則第81条第2号に基づき核分裂性輸送物が臨界に達しないことを確認する際の条件を定めたものであります。
 MOX燃料の海上輸送に使用する輸送容器は福井新聞の広告にある国際原子力機関IAEAの輸送規則で定められている主な安全要件、落下試験・耐火試験・浸漬試験を満足することを確認しており、これら安全要件にかかる安全性評価は輸送規則で認められている解析により実施しております。なお、平成22年2月6日の福井新聞の広告において、試験を行っているとの表現は使用していません。


A「9メートルの高さからの落下試験」について、300℃の模擬物を使った落下試験を行ったのですか。

(答) 国土交通省告示第14条は、危険物船舶運送及び貯蔵規則第81条第2号に基づき、核分裂性輸送物が臨界に達しないことを確認する際の条件を定めたものであり、通常解析により評価されています。平成22年2月6日の福井新聞の広告にある国際原子力機関IAEAで定められているMOX燃料輸送容器の主な安全要件、落下試験・耐火試験・浸漬試験にかかる安全性評価は輸送規則で認められている解析により実施しております。

Bもし300℃の模擬物を使えば、常温の場合に比べて中性子増倍率は何倍になると評価していますか。

(答) 安全解析では9m落下時において輸送容器が受ける衝撃加速度において、燃料被覆管に発生する圧縮応力が降伏応力より小さいことより、臨界安全性に影響を与えるような燃料棒の変形はないとの前提で、臨界安全性の評価を行っています。
 なお、PWR燃料集合体の落下時挙動を評価する解析モデル開発のために必要なデーター取得のために実施した常温での実物大模擬燃料集合体の落下試験、これは燃料集合体に有意な変形を生じさせるために大きな加速度負荷しているものですが、落下試験では最下スパンの燃料間隔が約0.5o拡張する結果となった。
 この結果をもとに、設計上の輸送時の最高温度283℃を考慮して安全側に最下部スパンが1o拡張するとして臨界評価を実施し、未臨界性が確保されることを確認しています。なお、常温の場合の実効増倍率は計算しておりません。



(3)落下試験と耐火試験の連続性について
 福井新聞の一面広告で、貴社は「国際原子力機関(IAEA)で定められているMOX燃料輸送容器の主な安全要件」として、落下試験(9mの高さから硬い鋼板の上に落下)、耐火試験(800℃で30分)、浸漬試験(深さ15mの水中に8時間)をあげています。国交省の告示別記第5では、落下試験の後に、耐火試験を行うよう規定されています。すなわち、この二つの試験は連続して行うことが求められています。

@貴社が行った試験では落下試験と耐火試験を連続して行っているのですか。

(答) 先ほどの回答にあるとおり落下試験と耐火試験は解析により実施しております。落下試験の結果は耐火試験の解析条件に反映されており、落下試験と耐火試験を連続して行った解析結果となっています。

2.欧州内陸上輸送でのMOX燃料輸送容器への異物混入について
 貴社はMOX燃料の欧州内陸上輸送で輸送容器に異物(木くずとプラスチックスの破片)が混入していたことについて、2月3日に簡単な「調査報告」を出しました。そこでは、「推定原因」として、「木くずは保管庫の床の木くずが混入し」、「プラスチックスの破片はメンテナンス器具の保護材が混入し」、輸送前には見つけることはできず、「輸送中に容器底部に移動した」となっています。
 また、燃料集合体の外観検査で燃料集合体に木くずなどの混入はなかったと発表しています。以下の質問に回答し、分かりやすく説明してください。

@ 保管庫の床の木くずが混入したとのことですが、保管庫の床は木くずだらけなのですか。
どのように混入したのか具体的に説明してください。

(答)  保管中のバスケットはビニールシート等で養生していましたが、その隙間から木くずが混入したものと推定しました。今後は、ビニールシートがバスケットを密封するように養生することにしています。

A 同じ保管庫にあった他の輸送容器に木くずが混入していなかったのはなぜですか。

(答) 当該容器のみ当社向け陸上輸送に使用する前に容器本体からバスケットを抜き出して倉庫での一時保管及びメンテナンスを行ったため。

B メンテナンス器具の保護材が混入していたとのことですが、メンテナンスとはどのような作業をしたのですか。

(答) 陸上輸送容器からバスケットを抜き出して、固縛力の調整を行った。なお、当該容器のみメンテナンス作業を行った理由やメンテナンス機器及び作業の詳細はメロックス社のノウハウに関する情報でありお答えできない。

C 燃料棒に異物が混入していないかについて、前回の交渉では「X線での確認はしていないが、別の方法で確認している」とのことでした。具体的にどのように確認したのですか。

(答) 異物の付着等燃料集合体に異常がないことを目視等により確認している。詳細についてはメロックス社の商業機密にあたるため、お答えできません。



要望事項

1.臨界事故の危険性がある、MOX燃料の海上輸送はやめてください。


2010年2月16日

  グリーン・アクション 代表:アイリーン・美緒子・スミス
      京都市左京区田中関田町22-75-103 TEL 075-701-7223 FAX 075-702-1952

  美浜・大飯・高浜原発に反対する大阪の会 代表:小山英之
      大阪市北区西天満4-3-3 星光ビル3階 TEL 06-6367-6580 FAX 06-6367-6581


(10/03/08UP)