トラブル多発の原因→下請け作業員の「し忘れ・し間違い」 トラブル低減の取り組み→関電社員が「作業計画の読み合わせに参加」 |
関西電力は1月15日、「トラブル低減に向けた取り組み計画」(以下「取り組み計画」という)を福井県に提出し公表した。これは、関電のプルサーマル再開を巡って、11月30日に福井県知事が議会の答弁で「トラブル減少」を含む4項目の対策が必要と発言したことに対する回答として出したものだ(4項目は、美浜3号機事故への誠実な対応/トラブル減少対策/高経年化対策/耐震安全性の確保)。 関電の原発では事故やトラブルが頻発している。2006年度は「異常事象」が7件だったのに対し2007年度は12月末現在で19件にも達し、既に2倍以上となっている。とりわけ昨年8月以降にトラブルが増加し、福井県知事が「トラブル低減が必要」と発言したとたんに12月だけで6件も起こった。 関電はプルサーマル再開のために、知事の4項目に対して回答せざるをえなくなり、今回その第1弾として、「取り組み計画」を出した。今後、この計画の具体化と他の3項目に対する対策を早急に出して、プルサーマルの再開を狙っている。 ◆過去5年間のトラブルを対象とすることで、今年度のトラブル多発を覆い隠す 5名もの死者を出した美浜3号機事故を、「軽微事象」と同列に並べて1件とカウントし、重大な事故を覆い隠す 関電は「取り組み計画」の中で、「平成19年8月以降トラブルが多発」と認めながら、「過去5年間のトラブルについて発生要因を分析」するという手法をとっている。このように、対象を美浜3号機事故以前の2003年からの5年間とすることによって、今年度のトラブル多発に焦点を当てないようにしている。知事の要求した「最近のトラブル増加への対策」に全く答えていないことになる。 今年度のトラブル多発の特徴は、法令違反や福井県との安全協定の対象となっている「異常事象」が多発していることである。昨年度の7件に対して、19件も起こっている。また、「軽微事象」10件の2倍近くもある。2004〜2005年度も「異常事象」が19件、20件と多かったが、2004年には美浜3号機事故が起こり、その翌年は「総点検」で二次系配管減肉が多数確認されたためであり、それらは過去数十年間のつけでもある。しかし、2006年度に一旦減少した「異常事象」がなぜ今年度にこれほどまでに増えているのか。この重要な点については一切説明がない。後で述べるように、今年度は関電の安全管理のずさんさを改めて示す事故や、新たな重要な事故が起きている。5年間のトラブルを対象にすることによって、これらを意図的に覆い隠そうとしている。 さらに関電の今回の手法は、「異常事象」と「軽微事象」を合計して156件のトラブルを対象としている。5名もの死者を出した美浜3号機事故も1件とカウントし、「軽微事象」1件と同じ扱いにしてしまっている。昨年11月に明らかになった大飯2号機での二次系配管の大幅減肉は、配管肉厚測定を17年間も行わず、美浜3号機事故後の「総点検」でも点検を行わなかったことによるが、これも「軽微事象」と同列扱いで多数の中に埋もれさせている。このようにして、重大な事故と関電の安全管理のずさんさを覆い隠している。
◆関電の安全管理の問題点を覆い隠す恣意的な要因分析 関電は、156件の要因分析を行い、「設備面のトラブル」38%、「運転管理面のトラブル」62%と区分し、「運転管理面のトラブル」を主要なものとしている。そしてその内「作業不良、保守計画不良、作業計画不良、運転不良が大半を占めている」として、それらの対策を立てることになる。 しかし、この要因分析の区分のしかたそのものも、関電の安全管理の問題点を覆い隠す恣意的なものである。 ・例えば「二次系配管減肉」(8%)は「設備面のトラブル」に入れているが 他方「肉厚管理不良」(4%)は「運転管理面のトラブル」に入っている。 両者のどこが違うのかの説明すらない。 ・美浜3号機事故がどの区分に入っているのかさえ明らかではない。 1月16日の福井県原子力安全専門委員会では、関電の肥田副事業本部長が「取り組み計画」を報告し、議論が行われた。委員からは「水平展開の突っ込み不足によるトラブルはなかったのか。水平展開の立て方に問題はないのか」「大飯2号機の配管減肉は大飯1号機の配管減肉の水平展開不足ではないのか」との意見が出された。しかし、関電の要因分析には、現実に起こっている「水平展開不足」、関電の安全管理の問題を具体的に指摘するような「要因分析」は一切存在しない。 ◆トラブル多発の原因は下請けの「し忘れ・し間違い」 このようにして関電の要因分析では、トラブルの最大の要因は「作業不良」(全体の18%、29件)となっている。そして、その原因を「実作業時の確認不足、し忘れ・し間違い、予見・考慮不足が大半を占めている(協力会社)」と分析。その対策として、毎定検時に「元請け、下請けの定期検査工事作業計画書の読み合わせに、当社作業担当者が全て参加する」というものだ。 結局、トラブル多発の原因は、下請けの「し忘れ・し間違い」であり、対策は、関電社員が「作業計画書の読み合わせに参加する」というものだ。下請けに責任をなすりつけ、幼稚な「対策」を編み出してその場をしのぐ相も変わらぬ傲慢な体質である。 ◆今年度の事故・トラブル−関電の安全管理のずさんさや新たな重要事故の発生を示している 今年度の事故・トラブルには重要なものが多く含まれている。先にも述べた、大飯2号の二次系配管での大幅減肉は、17年間も肉厚測定を行わなかったことによる。2004年7月の大飯1号の予測外の著しい減肉の水平展開を行わず、8月の美浜3号機事故後の「総点検」でも測定せずに放置していたものだ。その結果、10年間も技術基準を割り込んだ違法な運転を続けていた。このことに対して、昨年12月12日の関電交渉では、一言も反省の言葉はなかった。また昨年12月には同じ大飯2号で、別の二次系配管に穴まであいた。 さらに、別の問題として、蒸気発生器入口管台溶接部でひび割れが確認された。これは今回初めてである。9月に確認された美浜2号に続き、12月には高浜2号機でもBとCの蒸気発生器管台でひび割れが見つかった。インコネル600を材料としている部位でのひび割れは、以前に原子炉容器の上蓋管台や計装筒管台でも頻繁に起きていた。それにもかかわらず、昨年12月12日の関電交渉では、ひび割れの時期について予測計算は行っていなかったと回答している。さらに他の原発については、次回定検まで「漏えい監視」を行うだけだという。高温高圧の一次冷却水が流れる配管に亀裂が入れば、150気圧の差で瞬時に大量の冷却水が噴出し大事故の危険性がある。多発しているこれら蒸気発生器管台のひび割れについては、いまだ詳細な調査結果は出ていない。 今年に入っても、高浜1号機での燃料棒のピンホールが原因と思われる一次冷却水のヨウ素濃度の上昇、日本原燃に搬出した低レベル廃棄物ドラム缶の放射線測定の誤りなどが続いている。放射能を垂れ流している日本原燃から「関西電力株式会社に再発防止の徹底を求める」とまでいわれている。 ◆福井県は関電に対し、「トラブル低減対策」の根本的変更を要求すべき 以上のように、関電の「取り組み計画」は、福井県知事が要求した「トラブル低減対策」にもなっていない。本質的には、関電の安全管理のずさんさの責任を下請けに押しつけ、プルサーマル再開のためだけに幼稚な対策でその場を切り抜けようとするものである。電力独占という特異な地位にあぐらをかいた傲慢な姿勢と安全軽視の姿勢はなんら変わっていない。 15日に関電から「取り組み計画」を受け取った副知事は、「新たな取り組み」と一定評価し、実施時期などの具体化を要求した。幼稚な対策の具体化ではなく、福井県は、安全専門委員会での議論も踏まえ、「水平展開の不十分」など、今年度のトラブルに即して、関電の安全管理のずさんさに焦点をあてて問題にすべきだ。関電に「トラブル低減対策」の根本的な変更、出し直しを要求すべきだ。こんな対策では事故は続き、またしても県民が犠牲になる事故が繰り返されるに違いない。 知事の4項目の中には、耐震安全性の問題も含まれている。関電は3月に耐震安全性の見直しに関する「中間報告」を出す予定になっている。柏崎刈羽原発の被害状況、活断層調査の問題などまだまだこれからだ。それらを踏まえて、じっくり検討すべきである。 (08/01/18UP) |