─関西電力の原子力発電所に関わる耐震安全性問題─
9月20日の「概略影響検討結果」に関する質問書


関西電力社長 森 詳介 様

2007年9月26日

 9月20日に貴社が公表した「概略影響検討結果」(「柏崎刈羽原子力発電所で観測されたデータを基に行う美浜発電所、高浜発電所及び大飯発電所における概略影響検討結果報告書」)に関して、下記の質問に回答してください。

1.柏崎刈羽原発の受けた地震動の影響はまだ調査中であり、解放基盤表面近くの地下250mでの地震動記録も(最大振幅を除いて)失われたまま、まだ再現されていません。それなのに、この段階で貴社の原発への影響を検討し「安全機能は維持される」との結論を早々に出したのは何のためですか。
(答)7月に発生した新潟県中越沖地震では柏崎刈羽原子力発電所において、設計を大きく超える地震動が観測されたことなどにより、原子力発電所の耐震設計に対する地域の皆様の不安が高まっている。そのため、現在実施している耐震安全性評価(バックチェック)を早急に進める必要があるが、その評価を行うには、発電所ごとに地質調査を行い、その結果などから基準地震動を策定した上で、建物や機器の評価を行う必要があり、相当な時間が必要とされます。これは、先ほど言ったとおり、終了まで(2009年9月まで)あと2年ぐらいかかる。そこで、当社としては、今回柏崎刈羽原子力発電所で観測された原子炉建屋基礎版上の床応答スペクトルと当社原子力発電所における耐震安全性の確認のために、設計または安全性確認のために用いた地震動(これはS2と通常呼んでいるものでございます)とを比較することによって、安全上重要な機能を有する主要な施設の安全維持に対する影響を検討することとしたものです。
 なお、柏崎刈羽原子力発電所における地震動に関する検討結果や新たな知見が得られた場合、必要に応じて当社各施設の耐震安全性評価に反映させることにしております。

2.結論として、「主要な施設の安全機能は維持される」としていますが、「安全機能は維持される」とはどのような意味においてですか。
(答)地震によって発生する応力で構造物の相当部分が降伏し、塑性変形する場合でも、過大な変形、き裂、破損が生じその施設の機能に影響を及ぼすことがないことを意味しております。

3.9月20日に公表した報告書は「概略影響検討結果報告書」となっていますが、この「概略」の意味は何ですか。評価した機器が限られているという意味ですか。
(答)原子炉等安全上重要な機能を有する主要な機器を対象に、原子炉建屋の揺れを代表する基礎版上の床面での揺れでの加速度を比較することや比例計算で余裕の確認をする手法を用いたものであることから「概略影響検討」としております。

4.基礎版上の応答スペクトルを検討対象にしたことについて
柏崎刈羽原発の基礎版上の揺れ(床応答スペクトル)と貴社の原発の基礎版上の揺れとを比較しています。しかし、柏崎刈羽原発は地盤の軟弱性などが当の東電から指摘されており、最大振幅が解放基盤表面近くの地下約250メートル地点では993ガルなのに、地下1階の基礎版上では680ガルと減少しています。他方、美浜原発などは解放基盤表面である岩盤のすぐ上に基礎版があります。
(1)地盤の性質が違うのに柏崎刈羽原発基礎版上の床応答スペクトルを美浜原発などの床応答スペクトルとしてなぜ適用できるのですか。
(2)旧耐震指針では、「原子炉施設の耐震設計に用いる地震動は、敷地の解放基盤表面における地震動に基づいて評価しなければならない」と規定されています。今回の方法はこの規定に反するのではありませんか。
(答)(1)(2)は同じ回答でございますので読ませていただきます。
 今回の検討は、新潟県中越沖地震の際に柏崎刈羽原子力発電所において、設計を大きく超える地震動が観測されたことから、仮に当社の原子力発電所が柏崎刈羽原子力発電所と同じ揺れを受けた場合を想定して、「止める、冷やす、閉じ込める」という機能が維持されるかどうかを検討したものである。従って、同じ基礎版上の地震動どうしで比較するのは妥当と考えております。

(3) 柏崎刈羽原発の基礎版上の680ガルの揺れではなく、解放基盤表面付近の993ガルの揺れを採用し、美浜1号などの解放基盤表面に適用するという方法をとるべきではありませんか。
(答)先ほど述べたとおり、同じ基礎版上の地震動で比較するのは妥当と考えております。しかし、本来の耐震安全性評価というものは、各発電所それぞれ地質調査を行い、その結果などから、その地点における解放基盤表面での基準地震動を策定し、建物、機器の評価を実施するものであり、現在耐震バックチェックで詳細に評価しているところであります。今後、柏崎刈羽原子力発電所における地震動に関する検討結果や新たな知見が得られた場合、必要に応じて当社の各施設の耐震安全性評価に反映させていくことにしております。

5.貴社の原発で想定されている揺れ(S2地震動)は、これまで、これ以上の揺れはあり得ないとして設定されてきたものです。しかし、貴社の評価結果では、柏崎刈羽原発の揺れはこれを上回っています。このことは、従来の耐震安全性が崩壊したことを意味しているのではありませんか。
(答)今回の検討というのは、先ほどから述べている通り「止める、冷やす、閉じ込める」という機能が維持されるかどうかを検討するために、既に評価を実施して安全性を確認しているS2(当社のS2)と比較したものであります。
従って今回、柏崎刈羽原子力発電所で当社の原子力発電所のS2を上回る地震動が観測されたから従来の耐震安全性が崩壊しているとする判断は適切でないと考えております。

6.柏崎刈羽原発の揺れが貴社のS2地震動の揺れを超えた場合、貴社は、各機器ごとに、柏崎刈羽原発の揺れに対する応答値とS2許容値を比較して、許容値以下であれば「安全機能は維持される」としています。
(1)これまで貴社は、例えば原子炉容器(支持構造物)で、許容値/応答値を最低1.25とし、安全余裕を25%以上とっています。今回の評価では、このような安全余裕はなくてもよいというように姿勢を変えるのですか。
(答)今回の検討では、安全上重要な機能を有する主要な施設の安全維持について検討したものであり、安全余裕について検討しているものではございません。

(2)一般に安全余裕はなくてもいいとの考えですか、それとも、S2許容値を超えても破壊に至る許容値までにはまだ余裕があるから許されるとの考えですか。
(答)物を設計するためには、必要な安全余裕を考慮して行うものであるが、今回の検討では、安全上重要な機能を有する主要な施設の安全機能維持に対する影響を検討することとしたためでございます。

(3)後者の場合、S2許容値を設定する意味がなくなるのではありませんか。
(答)本来、原子力発電所の配信安全性評価については、発電所ごとに地質調査を行い、その結果などから基準地震動を策定した上で建物、機器の評価を行うものであることから、各施設の詳細な評価については、現在実施している耐震安全性評価・バックチェックの中で適切に評価していきたいと考えております。

7.原発の老朽化が進み、維持基準が適用される状態では、それだけ安全余裕を食いつぶし、それだけ許容値が下がるのではありませんか。美浜1号の場合、新品の頃と比べて、具体的にどれくらい許容値が低下していると評価しているのですか。
(答)原子炉について30年を超えるものにつきましては、長期保全計画に基づいて保全活動を実施し、定期検査で性能を確認していることから、現在の状態でも設計上必要な性能は維持されていると考えております。

8.貴社の評価方法に従ったとしても、
(1)高浜1号の原子炉容器(支持構造物)では、応答値とS2許容値は同じ値であり、S2許容値に関する安全余裕はゼロではないですか。
(答)小数点第3位以下について、αの方は切り上げて、βは切り下げた結果、同じ数値になっている。数値の大小で見れば、α<βとなっており問題はないと考えております。

(2)また美浜1号の原子炉容器でも、ほとんど安全余裕はないのではありませんか。
(答)α<βとなっており問題はないと考えております。

9.原子炉容器の評価にあたっては、容器そのものではなく、支持構造物の評価を行っているのはなぜですか。また、限られた8つの機器の評価と、その限られた部分だけの評価で、原発全体が安全だと言えるのですか。
(答)今回は評価に考慮する地震力の大きさが変わった場合に、耐震性に影響を受ける感度が高い部分について評価部位として選定しております。
 ちなみに、原子炉容器本体に関しては、内圧による応力の方が大きい、地震による応力よりは。内圧が157気圧というすごい圧力がかかっているので、その圧力に耐えるために物を丈夫に造っているので、地震による応力が増加して影響を受けるよりは、内圧に耐える要求が高いので余裕がある。例えば、地震力によって必要な応力がこの高さとすると、内部の圧力よって必要なもっと大きいものが要求されているので、地震力が多少増えても、圧力に耐える強度が必要になっているので、容器としては健全性が保てますということです。
 対象設備の選定に関しては、「限られた8つ」と書かれていますけれども、PWRでは9つを選んでおります。今回の概略検討では、安全上重要な機能を有する主要な施設の中で、一部対象としていない施設は存在するものの、代表的な9施設において安全機能の維持が確認できたこと、及び、その他の施設もこの9施設と同様に耐震設計を行っていることにより、その他の施設の裕度もそれほど大きく変わらないことが推測され、主要施設全体を見ても概ね安全機能は維持できるものと考えております。
 なお、先ほどからのくり返しになりますが、原子力発電所の耐震安全性評価については、今行っているバックチェックの中で適切に評価していきたいと考えております。

10.「安全機能は維持される」という結論はまだ暫定的なものだということですか。
(答)今回の検討結果より、概ね安全機能が維持できるものと考えております。しかし、くり返しになりますが、本来の原子力発電所の耐震安全性評価については、今進めておりますバックチェックの中で適切に評価していきたいと考えております。

11.従来の耐震安全性が崩れた以上、まずは、全ての原発の運転を停止して、詳細な調査を行うべきではありませんか。
(答)当社の原子力発電所の建設にあたっては、敷地周辺の詳細な調査等に基づき基準地震動が策定された上、十分余裕を持った耐震設計が行われたものと考えているが、昨年9月の原子力安全保安院の指示を受け、耐震設計審査指針に照らした既設プラントの耐震安全性評価を進めているところでございます。

12.貴社は耐震補強工事を一部進めています。8月末には、美浜2号機で、格納容器冷却水クーラの支持脚部分の補強工事を行っています。新聞報道によれば、この工事によって「揺れに対する強さが2割以上向上する」とのことです。「2割以上向上」して、何ガルまで耐えられることになったのですか。
(答)目安として旧指針の基準地震動、先ほどから言っている405ガルですけれども、これより少なくとも2割程度大きい地震動に対する余裕を持たせたいと考えております。2割程度以上ですね。何ガルかと言われましても、何ガルまでということではなくて、2割程度以上ということです。

以上
(07/10/11UP)