関電の耐震バックチェック「中間報告」では
「耐震安全性」は確保されない
直下に活断層がある美浜原発は閉鎖せよ
活断層の連動性を正当に評価せよ

 関西電力は、3月31日、各原発の「耐震安全性評価結果中間報告の概要」を発表した。
 中越沖地震や能登半島沖地震などにより原発の耐震安全性に赤信号が灯る中で、海域や陸上での活断層の評価、耐震安全性の証明、これらがバックチェックに課された課題であった。
 「中間報告」で関電は、「耐震安全性が確保されていることを確認」したとしている。しかしその実、「耐震安全性」は全く不十分で、確保されていない。
 美浜原発では直下に活断層があり、柏崎刈羽原発と同じく本来立地してはならないところに建っている。中越沖地震や能登半島沖地震で明らかになった活断層が連動して動くことについて、関電は、政府の地震調査研究推進本部等の評価を考慮して評価したと記載している。しかし、その検討の仕方は、姑息であり、活断層の連動性を正当に評価しているとはいえない。また、これまでは考慮対象外、評価外、影響は小さいとして主要な活断層と見なしていなかった断層を、耐震評価において考慮すべき主な活断層に変更した。変更した「新」活断層は11断層もあり、考慮すべき主な活断層(21断層)の半数以上を占める。各原発の基準地震動の元になっている活断層は、この「新」活断層に属している。にもかかわらず、過去の評価誤りについての反省は一言もない。総括もない。
 (以下の図・表は断りのない限り「中間報告」からの引用である。)

◆美浜原発の直下に活断層 美浜原発は閉鎖せよ
 美浜原発の直下に活断層(C断層)があることが3月31日の記者会見で明らかになった(右下イメージ図参照)。
 C断層は、今回新たに美浜原発の基準地震動Ssの基になった活断層で、敷地に最も大きく影響する断層と関電はみなしている。その断層が原発の真下4kmにある。地震が発生すれば、揺れだけでなく、地盤が変形、破壊する。地盤に亀裂が走り、数十センチ以上の不等な隆起や沈下が生じる。2〜3mのズレさえ生じる。地盤が変形し破壊されれば、その上の施設や機器は、股裂き状態となる。耐震設計は役に立たない。


 1995年、阪神淡路大震災となった兵庫県南部地震(マグニチュードM7.3)を踏まえ、初めて耐震安全性のバックチェックが行われた。この時には、「活断層を避ける」ことが、「原発の耐震安全性」を保証する筆頭に掲げられていた。
 当時の規制当局・資源エネルギー庁は、「活断層を避ける」を95年2月付けのパンフに明記した(表紙と23頁を右に掲載)。
 さらに、下に掲載した6頁では、「敷地の地質・地盤調査」は、「活断層を避ける」ために行うと言明している。
 今回のバックチェックで、美浜原発の真下に活断層があることが判明した。美浜原発は、「活断層を避け」ていない。
 活断層の上に建つ美浜原発は閉鎖されるべきである。

(1995年時の規制当局の見解資料として、2月17日付の科学技術庁原子炉規制課の文書を末尾に添付しているので、参照されたい。)







◆活断層が連動して動くことを検討しているが 恣意的で姑息
 −政府の「地震調査研究推進本部等の評価を考慮」−
 関電の「中間報告」では、「断層の連動に関する検討」を「参考」として添付している。中越沖地震や能登半島沖地震に照らせば連動性の検討は、不可欠だ。  
 連動性の検討について関電は、政府の地震調査研究推進本部(以下、推本)の評価と比較しての検討であると断っている。「・・地震調査研究推進本部等の評価とは異なっている活断層もあるため、・・隣接する活断層と連動して活動した場合を想定して、念のため影響を検討しました。」と。
 関電の評価と推本の評価とを比較すればどうなるのか。関電が連動を想定したのは、B断層と野坂断層である。しかし、連動した場合の断層長さや地震規模・マグニチュードMを示していない。他方推本は、野坂断層帯(B断層系、野坂断層、野坂南方断層)を長さ約31km、M7.3程度と評価している。関電は、どのように評価したのだろうか。
 他方、断層モデルを使用した地震動評価だけから、「本ケースの地震動は基準地震動SS-1Hを下回る」(右上図参照)と結論づけている。ところが、基準地震動Ssの策定では、2種類の評価方法−断層モデルによるものと応答スペクトルによる地震動評価−を用いており、Ssはむしろ基本的に応答スペクトルから決められている。ところが連動性の検討では、なぜか「応答スペクトルに基づく地震動評価」は省かれている。その理由を明らかにしていない。
 断層モデルによる評価では、モデルの想定いかんで地震動評価が変わり、過小評価を招く場合があると専門家は指摘する。

◆なぜ他の活断層の連動性は考慮しないのか
 連動性の検討が、なぜ前記の断層だけに限られるのだろうか。大飯原発と高浜原発の基準地震動は、Fo−A断層のみを基にしている。このFo−A断層と直近にあるFo−B断層が連動すれば、地震規模・マグニチュードはいくらになるのか。関電の断層評価から長さを単純に合計しても約35kmもの長さとなる。この断層の連動性の評価は、不可欠ではないか。
 さらに、美浜原発を挟んで並行しているC断層と白木−丹生断層が連動して動くことはないと断定できるのか。これらの連動性も検討するべきである。(左図)
また、美浜原発に大きく影響すると考えられる柳ヶ瀬・関ヶ原断層帯の連動性についての検討もない。この断層帯について推本は、長さ約100kmと評価し、M8.2程度の巨大地震が発生する可能性があると指摘している。
これらの活断層の連動性の検討は行われていない。




◆主要断層の過半数が新たな活断層(11断層)―これまでの活断層調査の誤謬への反省なし
 バックチェックで「考慮した主な活断層」を21断層としている(右表)。
 このうち、11断層について、「これまでの評価」では、考慮対象外、評価外、敷地に影響が少ないなどの理由から主要な活断層とみなしていなかった(右表で●印の断層)。ところが、これらの活断層が、主な断層の過半数を占めている。しかも、美浜原発の基準地震動の基になるC断層、大飯原発と高浜原発の基準地震動の基になるFo−A断層も、これらの新たに考慮し直した活断層なのである。
 これほど重要な評価変更を行っているにもかかわらず、従来の活断層評価に誤りがあったことに対する反省は、皆無である。
 これまでの誤った評価についてどのように総括するのか。その責任を明らかにするべきだ。
 
 参考までに、兵庫県南部地震によるバックチェック時での関電等の電力会社の主張を掲載した(次頁・下線は引用者)。
 ここには、「敷地周辺の活断層は全て考慮した」とある。真っ赤な大嘘であった。

 ちなみに、兵庫県南部地震で観測された最大加速度は818ガルであった。今回関電が新たに策定し基準地震動の想定は、600ガルであり、兵庫県南部地震の観測最大加速度を下回っている。

◆減少した機器の「安全余裕」
老朽化の検討や断層の連動性の正当な検討を加味すれば「安全余裕」は無くなる

 中間報告では、美浜と大飯の基準地震動Ssを最大加速度600ガルと想定している。高浜では550ガルである。美浜と大飯は従前が405ガルで1.48倍の想定、高浜では1.53倍(従前360ガル)である。この基準地震動による主な機器の「安全余裕」を「中間報告」から抜き出して下表にまとめた。
原発名/機器:評価項目(単位) 評価基準値(許容値) 評価値(応答値) 「安全余裕」基準値/評価値
美浜1号
 制御棒:挿入性(秒)
 蒸気発生器・支持構造物強度(MPa)
1.8
444
1.73
382
1.04
1.16
高浜1号機
 制御棒:挿入性(秒)
 原子炉容器・支持構造物強度(MPa)
 原子炉格納容器・本体構造強度(MPa)
1.8
385
282
1.73
317
223
1.04
1.21
1.26
大飯1号機
 制御棒:挿入性(秒)
 原子炉容器・支持構造物強度(MPa)
 余熱除去系配管・本体構造強度(MPa)
2.2
385
333
1.93
370
257
1.14
1.04
1.29

 安全余裕が限度(1.0)に近づいている。しかもこれらの機器で、老朽化が考慮された様子はない。老朽化による評価基準値の低下を考慮すれば、また、活断層の連動をより安全側に評価すれば、基準地震動が大きくなり、安全余裕が限度を割り危険な状態となると予想される。

 この「中間報告」は、今後、原子力安全・保安院の耐震・構造設計小委員会に設置された地質・地盤合同ワーキンググループのサブグループ・Cグループで審議される。関電を追求するとともに、審議内容を監視していこう。


−資料−
1995年に、科技庁原子炉規制課が、福井県にある原発と「もんじゅ」について、「活断層は避けて立地する」と「耐震設計」に明記した文書を掲載する。

(08/04/18UP)