水、農作物、畜産物への広範で深刻な放射能汚染
食品の放射能暫定規制値の緩和反対!
現行の暫定規制値でも人々に大量の被ばくを強要。
大気、土壌、食品等から全体で年間1mSvという現行の被曝限度を守れ

 福島県を中心に広範な地域で水と農作物、牛乳への放射能汚染が確認されている。国・厚生労働省は3月17日、食品衛生法に基づく食品摂取規制の「暫定基準」を一方的に定めた(右図)。通常では考えられないような汚染レベルが許容され、高濃度の汚染と被ばくを容認するものとなっている。しかし、ほうれん草、かき菜、キャベツ、ブロッコリー、菊菜、パセリ等々、その暫定基準すら大幅に超えるような汚染レベルのものが次々と見つかっている。国は福島、茨城、栃木、群馬の4県について、検出品目の出荷制限と摂取制限を指示せざるを得なくなった。福島県と周辺都県では、水道水からも放射能が検出されている。東京都では一時的に数値が下がったとして乳児への摂取制限を解除したが、茨城県では暫定基準を超える汚染が検出され続けている。
 さらに、土壌自体が既に汚染されている。福島第一原発から約40km離れた福島県飯舘村の土壌からは、1kgあたり16万3千Bqという高濃度の放射性セシウムが見つかった。この数値は、チェルノブイリ事故の際、強制移住の対象とした土地の汚染レベルに匹敵するとの試算もある。ものとなっている。さらに、汚染は海洋へも広がり、魚介類や海藻への汚染が確認されるのは時間の問題である。
すでに相当量の放射能が環境中に放出されてしまったことは疑いない。海外の関係当局からはチェルノブイリ事故の20%〜60%のセシウムがすでに放出されたとの試算も出始めている。国・東電は、どんな核種がどの程度の量放出されたのか、。汚染がどの程度広がっていると予測されるのかを隠している。しかも、事故収束の目途はまったく立っていない。今後も放射能の放出は続き、放射能汚染は拡大するだろう。
 政府は「直ちに健康に影響が出るレベルではない」とガン・白血病や遺伝的影響といった晩発的な被害がいずれ確実に発生することをごまかしている。さらに、内閣府の食品安全委員会は25日、暫定規制値を緩和する方針を固めた。「2倍程度まで規制値を引き上げる見込み」と報道されている。まず、これに反対の声をあげよう。
このままでは、多くの人々、とりわけ放射線に弱い子ども達がまっさきに被害を受けることになる。一層の被ばくを強要する食品の放射能暫定基準の緩和に反対しよう。現行の暫定基準を厳しくし、食品を含む全体としての被ばくを、現行の年限度である1mSvを厳守するべきだ。

1.水と野菜だけでも年許容線量の10倍を超える被曝
 厚労省が定めた暫定基準は、原発事故を想定し、原子力安全委員会が定めていた「飲食物摂取制限に関する指標」を用いている。事故時を想定したものだ。そして、放射能汚染の長期化が予想される中、枝野官房長官はこの基準を「一生飲食し続けても安全」と強弁している。とんでもないことだ。
国民栄養調査によると、野菜類の平均摂取量は1日当たり約280グラムである。暫定基準の野菜約280gを1年間食べれば、それから受ける被曝線量は約5.2mSvとなる(放射性ヨウ素で約4.50mSv、セシウムで約0.66mSv)。水の摂取量は1日当たり2リットル程度。暫定基準の水を1年間飲めば、約6.7mSvの被曝となる(ヨウ素で約4.8mSv、セシウムで約1.9mSv)。水と野菜だけでも、年間の被曝線量は約12mSv、年間許容線量1mSvの10倍を超える。通常、食品から受ける放射線量は年間0.3mSv程度である(UNSCEAR2000年報告書)。暫定基準は、その30倍以上の被曝をもたらすのである。牛乳・乳製品や穀類、肉や魚介類も考えれば、食品摂取全体から受ける放射線量と人体影響は、さらに大きなものになるだろう。大気と土壌からの外部被曝も相当なレベルとなっている。30km圏外でも外部被曝による一日の積算線量は1mSvを超えている。このような状況の中、食物摂取によるこれ以上の被曝は許されない。食物摂取からの被曝や吸入摂取による被曝、外部被曝といった全体としての被曝線量について、従来の年間1mSvの限度が厳しく守られるべきだ。

2.WHOの水質基準の30倍、原発の排水濃度の7.5倍の水を「安全」とする暫定基準
 暫定基準は飲料水に含まれる放射性ヨウ素の規制値を300Bq/kg、セシウムを200 Bq/kgとしている。これに対してWHO(世界保健機構)の日常的な飲用水の水質ガイドラインでは、ヨウ素、セシウムに対する規制の目安を10Bq/kgに設定している。ヨウ素の暫定基準は、WHOよりも30倍も高いことになる。また、法律に定められている原発の排水放出口でのヨウ素の濃度限度は40Bq/kgである。原発の排水よりも7.5倍も汚染されている水でも「安全」ということにされてしまった。
また、野菜類の規制値は、放射性ヨウ素で2000Bq/kg、セシウムで500Bq/kgに設定されている。しかし、これまで国は370Bq/kg(セシウム)を輸入禁止の基準としてきた。チェルノブイリ事故後、国内流通が認められなかった汚染食品ですら、今では「安全」なものにされている。現在、チェルノブイリ事故の被災地となったウクライナでは、放射性セシウムの制限値を、野菜で40Bq/kg、穀物製品で20Bq/kg、水で2Bq/kgと定めている。それと比べても、暫定基準は10倍以上も緩い基準となっている。

3.ガン・白血病、遺伝的影響といった晩発的影響・確率的影響を過小評価する暫定基準
 放射線は、細胞を貫いて生命の設計図であるDNAを直接に傷つける。そのため被曝の影響は、ガン・白血病や遺伝的影響といった晩発的な健康被害として姿を現すことになる。1986年のチェルノブイリ事故では、1990年代に入ってから子ども達の間で甲状腺ガンが急増した。
 たとえ、放射線によるDNAの損壊がごく微小であっても、その損傷からガンが成長することはある確率で起こりうる。そのため、このような放射線影響を確率的影響と呼ぶ。
ICRP(国際放射線防護委員会)は、これ以下なら確率的影響が発生しないという境界線(しきい値)は存在せず、どんなに放射線量が低くとも、受けた被ばく線量に応じて、ガン・白血病の発生リスクは増大するという立場に立っている。日本の国内法もこの考えに基づいている。
 国は「一生食べ続けても影響は出ない」としているが、まったくの虚偽である。放射能に汚染された食品を食べ続ければ、被曝する住民の間からのガン・白血病の発生は確実に増大する。人口密集地での事故であり、その被害は甚大なものとなるだろう。健康影響を明確にするため、国は今回の事故に即した集団被曝線量を算出し、随時明らかにするべきだ。

4.内部被ばくの特別の危険性を考慮に入れていない暫定基準
 チェルノブイリ事故の深刻な健康被害は、事故時の被ばくだけではなく、その後、継続的に汚染された食品をとり続けたことがもたらしたと言われている。レントゲン撮影のような外部被ばくの場合、臓器や組織は外側から平均的に薄く広く、一回限りの放射線を浴びる。しかし、食品を通して体内に取り込まれた放射性物質は、基本的に、臓器や組織の中、骨の表面に沈着し、付着した部分の周辺の細胞に、持続的、集中的に放射線を浴びせることになる。その結果、同じ線量であっても、人体への影響の出方はまったく異なる。ところが、暫定基準の元となる計算では、このような内部被ばくの特別な危険性が考慮されていない。

5.子ども達、乳幼児と妊婦への被ばく影響をまったく考えていない暫定基準
 国の暫定基準は、あくまでも標準的な成人を対象に想定されたもので、年齢差や性差、等により放射線に対する感受性に差異があるという事実を無視している。とりわけ、細胞分裂が活発な成長途上にある子供たち、乳幼児、胎児が放射線に対する敏感な感受性を持っていることがまったく考慮されていない。しかし、放射能を含んだ食物を多くの子供たちや妊婦も口にすることになるのである。牛乳・乳製品のヨウ素131規制値300Bq/kgに対して、国は粉ミルクを100Bq/kgとし、後になって飲料水に限り乳児に対する規制値を300Bq/kgから100Bq/kgに引き下げた。しかし、子ども達への放射線の影響は成人の10倍、胎児についてはそれ以上あると考えるのが普通だ。
 ICRPの勧告でも放射線事業従事者の年限度は50mSvとされているが、妊娠可能な女性作業員の線量限度は3ヶ月で5mSv、妊娠中の女性作業員については内部被ばくで1mSvとなっている。母体と胎児は影響が大きいので特別な保護を必要とするという認識に立っているのである。しかし、暫定基準には、そのような観点はほとんどない。

 まずは、目の前に迫る暫定基準の緩和に反対しよう。現行の暫定基準でも、多くの人々、とりわけ子ども達は放射線被ばくを強要されることになる。大気や土壌から飛んでくる放射線による外部被曝、浮遊するチリを吸い込むことによる内部被曝、そして食物摂取による内部被曝、これらすべての被曝をあわせて、現行の年限度である1mSvを厳しく守る措置をとるよう国に要求しよう。

(11/03/29UP)