ハンブルグでの国際劣化ウラン/ウラン兵器会議
資料の翻訳



(翻訳資料1)

プレスリリースと会議の議決についての声明
世界ウラン兵器会議
核戦争のトロイの木馬

2003年10月21日                       ハンブルグ

世界劣化ウラン/ウラン兵器会議は、ハンブルグ(ドイツ)において2003年10月16日から19日にかけて開催された。これには5つの大陸から、20カ国を代表する200人以上が参加した。それらの国々とは、イラク、アフガニスタン、日本、合衆国、カナダ、スエーデン、アイルランド、フランス、ドイツ、スイス、ベルギー、オランダ、オーストリア、デンマーク、イタリア、スペイン、アルジェリア、そしてキューバであった。科学者、医療専門家、イラクの医療および環境の専門家、独立系研究者、国際法専門家、軍事専門家、核兵器実験密告者、アフガニスタン国際戦争犯罪法廷訴追者、帰還兵とその家族、市民、非政府組織、そして平和活動や反グローバリゼイション活動家から、35名以上が登壇し、彼らの最も最近の活動結果とその不法な兵器の影響に関する問題が発表された。この会議の直前に、イラク人科学者であるソアド・アル・アザウイ博士は、国際的に知られている、「核のない未来賞」を賞金の一万ユーロとともに10月12日に受賞された。彼女は、1991年の湾岸戦争によってイラク南部の大気と土壌、水が劣化ウランによって汚染されていることを見出したその結果を発表した。

全員が出席するプレナリーセッションが行われた最初の2日間に続いて、重要課題に焦点をあてたワークショップが2日間行われた。その重要課題とは、科学、国際法並びに国際的組織化、そして、帰還兵と市民への影響であった。それらのワークショップは、その課題に関する合意点を見出し、今後のさらなる団結した国際的活動計画をつくり出すための戦略を議論した。プレナリーセッションでは英語が使用されたが、ドイツ語と日本語への同時通訳付きであった。

6団体の独立系映画製作者がその会議を取材し、4カ国からの6つの写真展が行われた。その展示には国際的に名高い日本人写真家の森住卓氏による最近のイラクの写真も含まれていた。ワークショップのセッションが行われていた間には、関連するビデオや映画の上映が一般に公開された。

会議はインターネットに生中継される予定であったが、インディ・メディア(IndyMedia)のサーバーの原因不明のトラブルによって、会議期間中に生中継にアクセスすることは不可能であった。そのサーバーの問題が解決した後に、会議の様子はインターネットに再び放映されることになる。その予定は会議のウエッブ・サイトに記載される:http://www.uraniumweaponsconference.de

新聞の記者会見は10月17日にもたれたが、主要なメディアほとんど集まらなかった。彼らは未だに問題の重要性をつかみ損なっているようである。会議の話題は幾つかのメディアにだけのぼったが、大半はアルタナティブな、すなわち進歩的な部分である。会議のコーディネーターをつとめたマリオン・クープケルは次のように述べた。「私たちはこの会議が、合衆国と英国とが、そしてNATO軍が、イラクで、ボスニアで、モンテネグロ、セルビア、そしてアフガニスタンで使用した"劣化"ウラン兵器がもたらしている悲惨な健康問題を明らかにするために続けられている活動の一部分であると考えています。今日、7000人近くのドイツ兵はコソボとアフガニスタンでの汚染地域に駐留しています。」

圧倒的多数の会議参加者は次のことに同意している:
・劣化ウラン/ウラン兵器の使用は、現在の法律(国際法と合衆国軍事法)と協定に違反している。
・将来のキャンペーンと協定によって、劣化ウラン/ウラン兵器の「禁止」を「廃棄」という言葉に置き換えなければならない。
・2004年のイラクに対する独立系の国際戦争犯罪法廷を支持する。
・イラク人専門家によって発表されたイラク南部における劣化ウランによる環境汚染と疫学的証拠は、劣化ウランと増加が観察されている放射線に関係する疾病との直接的つながりを明らかにしている。
・本会議は、劣化ウランのような、微細な放射性微粒子による内部被曝に対して国際放射線防護委員会(ICRP)モデルを利用することを退ける。そして、欧州放射線リスク委員会(ECRR)に、その2003年に公表された低レベル放射線についてのリスクモデルを、劣化ウランからの健康リスクの分析に拡張することを進言する。
・政府当局や原子力ロビーを背景にした学会から加えられる改ざんや資金的な圧力とは無関係に、信頼できる研究結果を提供するための、独立した研究と教育のための学会、「自由大学」の設立が緊急に必要となっている。
・国連環境計画(UNEP)や国際保健機構(WHO)は、原子力ロビーの一部であると認識されている国際原子力機関(IAEA)と無関係になるような圧力を加えられるべきである。これは汚染された地域の包括的な調査を実施するためにはどうしても必要である。汚染された地域には、離れたホット・スポットや除染された戦場、ウラン兵器実験場、世界中の製造工場や軍事施設が含まれる。
・影響を受けている兵士や市民に対して即刻の医師による手当がなされるべきである。

会議の決議と結論についての完成したものはまもなく次のサイトで見られるようにする:http://www.uraniumweaponsconference.de


(翻訳資料2)

世界劣化ウラン/ウラン兵器会議第1号決議
ハンブルグ、ドイツ
第2稿:2003年10月19日

ICRPリスクモデルに関する会議声明
1) 本会議は、劣化ウランのような小さな放射性微粒子からの内部放射線被曝に対して、国際放射線防護委員会(ICRP)のリスクモデルを適用することを退ける。その理由は、そのような微粒子からの被曝によっては生体組織に局所的に高い密度の電離がもたらされるからであり、このことはICRPが受け入れている外部放射線線量モデルによる平均化の方法によっては適切にモデル化できないからである。このICRPモデルが依拠している知見は、誤りであり、時代遅れである。このモデルは、炎を前にして暖をとることと熱い石炭を食べてしまうことを比較するようなものでしかない。
 これに加えて、あるひとつのウラン微粒子に近接する生体組織が、複数の放射線飛跡を受けることは、遺伝子の変化を引き起こすより高いリスクをもたらすことになる。なぜならば最初の放射線へのヒットに反応している最中の細胞が、再びヒットされるからである。今ではこれが科学的知見になっている。5マイクロメートルよりも小さなウラン粒子からは、一日あたり2回のヒットがもたらされる。
2) 本会議は、さらに小さい劣化ウランの微粒子は、リンパ系を通じて身体のあらゆる部分に輸送されることが可能であると考えている。そのために、最終的にはあらゆるガンがもたらされるようになるにもかかわらず、リンパ腫や白血病の観察が支配的になっているのだと考えている。
3) そのような小さな微粒子は胎盤に進入することが可能であり、そして、おそらくそれによる放射線は胎児に影響を与えるのであろう。
4) 本会議は、欧州放射線リスク委員会(ECRR)に対し、内部放射線被曝のリスク評価のためにその委員会が2003年に開発した、その公衆衛生的なモデルを劣化ウランによる健康影響の分析のために、拡張することを強く主張する。我々は他のあらゆる独立系グループがこの重要な問題について発言することを呼びかける。

「自由大学」に関する会議声明
 本会議は、独立した研究と教育とをになう機関、「自由大学」を設立する緊急の必要性があると考える。そこにおいては産業の急速な拡張や有害物質及び放射線物質の環境への放出に関係する、現在の深刻な健康と環境、そして経済問題がとり組まれるであろう。
 そのような大学は、多国籍企業や政府、そして軍からの資金によって研究が制約をうけることに束縛されないという意味において「自由」であり得る。
 そのような大学の最初のプロジェクトのひとつは、特に劣化ウランの影響を含む、低線量の人造放射線と健康との関係についての調査になるであろう。
 本会議に参加した科学者は、互いに劣化ウランと健康との問題に関係する新しい研究やアイデアについての情報を提供するネットワークになるであろう。本会議に参加した科学者は、ハンブルグウラン兵器委員会(Hamburg Commission on Uranium Weapons)と名付けた新しい機関を設立することに合意する。

                                   第2稿、2003年10月19日


(翻訳資料3)

世界劣化ウラン/ウラン兵器会議第2号決議
ハンブルグ、ドイツ
最終稿:2003年10月25日
科学者声明

 ウラン兵器の使用がもたらしている結果に関して、以下の決議文に記しているところは疑問の余地のない事実であることを本会議はここに断言する。
 ウラン弾はその衝撃と同時にセラミックや他のウラン酸化物の微粒子に転換される。その直径は0.001?1.0マイクロメートルの範囲にあり、平均的な直径は0.01マイクロメートルである。
 そのような物質は完全に新しいものであり、それの持つ性質や効果を、ウラン鉱山事業や加工工程おいて発生するウランダストに関する従来の研究と科学的に関連づけることは不可能である。
 ウラン酸化物は数百マイル(数千キロメートル)にわたって飛翔することができる。
 劣化ウランのダストがその標的の近くに留まるということはなく、地球物理学的なメカニズムにしたがって広い範囲に飛散する。これはその紛争から10年が経ったイラクの砂漠において見出された(バスビー(Busby)、イラクのデータ)。また、それは使用されてから13ヶ月後のコソボのジャコブの通りの粉塵の中に見つかっている(バスビー、日本テレビ、BBC)。国連環境計画(UNEP)によれば、それはウラン弾の使用から13ヶ月経ったコソボで採取された全サンプルの46%に確認されており、ボスニアでもモンテネグロでもまた発見されている。
 酸化ウランのセラミックス微粒子がそのような移動をするのは、乾燥した天候によってそれらが再浮遊するからである。このことはトリウムTh-234に対するウランU-238やプロトアクチニウムPa-234mの同位体比を測定することによって実証されている(バスビー、ストラスブール2001)。ウラン酸化物のセラミックス微粒子は、コソボの濾過前の水の中にも見つかっており(UNEP)、ボスニアとモンテネグロではUNEPによって直接大気中で測定されている。このように、その微粒子は紛争から長時間が経った後でも吸入されることが可能である。それらがかつて使用された全域において、あらゆる人があるリスクの下におかれることになり、それはその使用や汚染から数年に及ぶ。このことは、2001年にプリェスト(Priest)がコソボで実施した尿検査によって実証されているところであり、その際に診断を受けた20人は全員が汚染されていることが判明した。また、被曝から10年後に行われた湾岸戦争帰還兵の尿検査によっても証明済みである(ドラコビッチ(Durakovic)、シャルマ(Sharma))。
 リスク評価に関わる諸機関や軍が利用している国際放射線防護委員会(ICRP)モデルは、劣化ウランによる被曝線量は、観察し得る健康影響をもたらすには低すぎるものであると予測している。しかしながら、このICRPモデルは内部放射線に対しては適切なものではない。というのは体内に取り込まれた微粒子からの放射線は、生体組織の局所に高い被曝線量を与えるからである。ICRPモデルは外部放射線と平均的線量とを使ったひとつの近似でしかない。
 ウラン酸化物の微粒子への被曝がもたらす健康影響については動かしがたい証拠が存在している。このなかには1991年の湾岸戦争後に、ガンや白血病、リンパ腫が急激に増加していることを示しているイラクのガン登録がある。そのイラクのガン登録データが示している事実として、1991年の時点では、小児白血病の発症ピークは通常0歳から4歳のグループに見られていたの対し、1991年の戦争当時に誕生した集団では、5歳から9歳のグループにピークがあった。そして、この中には本会議で発表されたイラクにおける先天傷害(birth defect)の増加、湾岸戦争帰還兵の子供における同様の増加が含まれる。
 *ガンやリンパ腫、白血病を含む湾岸戦争症候群の遺伝学的要素が存在する。
 *2001年5月に行われたイタリアのコソボとボスニア平和維持活動に参加した軍人の調査によると、バルカンに駐留した兵員のリンパ腫が明瞭かつ有意に3倍に増加し、それは通常の軍人集団と比べて7.5倍過剰であった。
 *英国議会において英国医療研究審議会(Medical Research Council)が報告したように、英国の湾岸戦争帰還兵におけるリンパ腫は、マッチングした参照集団と比べて、統計学的に有意な2倍の過剰になっている。
 *1995年から2001年の間のサラエボガン登録によると、リンパ腫と白血病が10倍以上増加していることが記されている。
 *ボスニアとコソボに駐留したスペインとポルトガルの兵士の間で、リンパ腫と白血病とが統計学的に有意に増加していることを示す証拠がある(本会議で発表されたスペインのデータ、エディ・ゴンザルス(Eddie Gonzales)によるポルトガルのデータ)。

 最後に、劣化ウランの微粒子の生物学的効果に関する科学的な証拠としては、さらに健康影響に関係するものとしては、次のような理論的あるいは細胞学的(細胞生物学的)な証拠があげられる:
 *1マイクロメートルの微粒子が30マイクロメートルの範囲にある組織に与える線量は、1年当たりにして、約500から1000 mSv(ミリシーベルト)である(バスビーと矢ヶ崎の計算によれば、5 mg吸引すれば、直径が1マイクロメートルならば109個の粒子を、直径が0.1マイクロメートルならば1011個の粒子を取り込むことになる。これは成人のリンパ系のそれぞれの細胞に一個の粒子をもたらすのに十分である。)。
 *末梢リンパ球における2動原体染色体異常と環状染色体異常とを調べた英国の湾岸戦争帰還兵に対する染色体検査は、異常が5倍から10倍に増加していることを示している。他の研究とも合わせて考えると、これは100から500 mSvの外部被曝に相当すると考えることが可能である。また、これは外部線量に対するフィイルムバッジの記録線量が500 mSvであったチェルノブイリの消防士において確認されている染色体異常と同様のものである。これはほとんどの国における法的な線量限度の500倍である。
 *最近の研究によってウラニルイオン(UO2++)がDNAと強く結合することが示されている、これは何年も前から染色技術の基礎になっている事実である。
 *最近の理論的な考察によれば、ウランのような高い原子番号を持つ元素の粒子は、外部からの自然放射線のエネルギーを集中させ、光電子による高い密度の電離によって組織の局所に損傷をもたらすことが示された。年間の線量が1 mSvであれば、1マイクロメートルのウラン粒子によって吸収され、局所的に散乱される電子による線量は1000 mSvに達する。

                                      会議に参加した科学者一同
                                          2003年10月25日


(翻訳資料4)

世界劣化ウラン/ウラン兵器会議第3号決議
ハンブルグ、ドイツ
2003年10月19日採択
汚染地域の包括的な調査が必要である

 本会議は、イラクとアフガニスタンにおける劣化ウランによる汚染を包括的な調査に取り組むことが、焦眉の課題として必要になっていることを強調する。それには環境の全ての要素(水や大気、土壌)、並びに、人々の健康に関する側面が含まれなければならない。このような劣化ウランの汚染評価の実施に関しては、国連環境計画(UNEP)や世界保健機関(WHO)が責任を負うべきであると我々は認識している。彼らには、これらの調査や他の必要とされる研究を、意味のある時間のわく内において遂行し、結果を公衆に対して公表することが期待されており、かつ、そのような責任に問われている。特に、そのような調査の結果が、どこかの政府であるとか国際原子力機関(IAEA)のような機関によって変更されてしまわないようにすることが期待され、かつ、責任も問われている。
 汚染地域にいる人々に対する、全ての医学調査を伴う、疫学研究もまた開始されるべきである。それには尿中の劣化ウラン分析や生体組織片検査、染色体検査、そして細胞遺伝学的検査が含まれるべきであるが、これらだけにかぎってはならない。医薬品や医師の手当を含め、既に影響を受けたり、現在影響を受けている人々に対する処置が高度に必要とされている。

                                   第1稿、2003年10月19日
<参加報告>
<翻訳「ECRR2003」 発行:美浜の会 頒価1000円>