【翻訳資料】

チェルノブイリ − 終わらない破局
WISE News 530 2000年5月26日


 国連は1986年のチェルノブイリ原発大事故がもたらしている結果に関する報告書を最近になって公表した。それは未だ結末を迎えるに至っていない大災害である。

(530.5170) ワイズ・アムステルダム - チェルノブイリの大災害から既に14年になるが、最悪の状況はこれからだ。国連人道問題調整事務局(?)(OCHA)による新しい報告書「チェルノブイリ-終わらない破局」は、その史上最も悲惨な原子力災害によって被害をこうむった地域で起こっていることの現状を概観している。(ワイズ・ニュースコミュニケ529.5163:「14年目のチェルノブイリ:終わりのない悲劇(Never-ending story)」を参照、そこではこの報告書を簡単に紹介した)。ほとんどの人はその原発事故を歴史の1ページに送られたひとつの事件と考えているが、真実はそうではなく、その事故は最も被害を受けた3つの国々に住む人々に壊滅的な打撃を今も与え続けているのである。炉心溶融や放射能雲についての爆発的とも言える新聞記事こそ、その大見出しから消えて久しいが、人間の、経済と社会の、そして健康と環境の、本当の破局はまさに始まったばかりである。その報告書の編集者は、ベラルーシ、ウクライナ、ロシア共和国という、最も大きな被害を受けた国々の状況について概観を与えている。

 放射性降下物の約70%はベラルーシに降り注ぎ、そのためベラルーシは被害を受けた国々の中で最もひどく汚染された。その森林の20%は今も汚染された状態であり、6000平方キロメータの耕作地での農業は法律で禁止されたままである。全国家支出の9%が、チェルノブイリ大災害の直接の結果を軽減するためにつぎ込まれ、10万9千人が移住した。

 ウクライナでは、150万人の子供を含む、およそ350万人が事故の直接的被害を受けた。チェルノブイリ事故によって、約7万3千人のウクライナ人は今も不治の病人にされ、事故サイトより30キロメートル圏内の立ち入り禁止区域から、9万1千200人が移住を余儀なくされた。ウクライナの5万平方キロメートル以上が汚染された。経済危機の結果、ウクライナ政府はチェルノブイリ救済のために元々予定された資金のほんの一部しか投入できていない。

 ロシア共和国では、270万人が住む5万7千平方キロメートルの土地が汚染された。総計20万人のロシア人が緊急除染作業に参加したが、そのため彼らのうちの4万6千人が現在病気を患っている。最も危険な地域から5万人が移住した一方で、30万人の子供を含む、180万人が現在も汚染地帯に居住し続けている。「事故精算人(リクビダートル)」を別にして、57万人が被曝者として登録されている。ウクライナと同じく、ロシア政府も必要な救済基金の一部を支給できるに過ぎない。

 100万人もの人々が汚染レベルの高い地域に今も住んでいる。このようなスケールの移住は、途方もなく巨大な経済的重荷であり続ける巨大な作戦である。緊急の救援と移転に要するはっきりしたコストとは別に、チェルノブイリ事故はその地域の富を生み出す能力を粉々にした。とりわけウクライナは、かつてその地域は全ソビエト連邦の人々に食料を供給したのであるが、いまやそこは全ての物資を輸入するにまで衰えた。その地域の人々は当局の情報をほとんど信用していない。彼らは食品に貼られた放射線安全ラベルを信じない、彼らは自国の農産物を信じない、そして彼らは当局を信用しない。当局の情報に対する一般的な不信と恐ろしい病気や遺伝的突然変異についての避けられないうわさに加えて、長期間の放射線被曝に対する限られた知識が、百万の人々の心と考えの中に心理学的トラウマや継続的なパニックをもたらしている。

 今までのところ、目に見える最も大きな健康に対する被害は甲状腺ガンである。事故の最中には放射性ヨウ素-131の膨大な放出があったが、それは甲状腺に作用し甲状腺ガンや他の甲状腺疾患をもたらすものである。ヨウ素-131の半減期は短いので素早く崩壊してしまい、その地域に汚染は残さない。しかしながら甲状腺ガンが発症するには時間がかかり、最も傷つけられやすいのは幼い子供や事故時には生まれていない赤ん坊であった。甲状腺ガンの患者数は事故の約5年後から増え始めた。その発症数は増え続けている。ある地域では事故前に比べてその発症数が百倍を超えている。科学者達は当初、発症数は2006年まではピークを迎えないと予想し、場合によってはその数が6千600人に達すると予測したが、最近になって発症数は予測を通り越してしまった。1万1千人の甲状腺ガンが既に報告されている。世界保健機構(WHO)の国際甲状腺プロジェクトは、相対的に低い放射線被曝であったとしても、甲状腺機能不全症としても知られる、甲状腺機能低下症候群がもたらされることを示唆する証拠を見つけている。甲状腺機能低下症は次のような症状をもたらし得る:新生児では精神と身体の成長遅れ;子供に対しては矮小発育症;成人に対しては、無気力倦怠感、冷え過敏症、体重増加、手足のむくみ、月経量の増加、不妊症と心機能の低下。これまでに統計が示すところによれば、甲状腺ガンはチェルノブイリ事故と直接因果関係のあるガンの最初の種類である。少なくとも事故後の10年間は他のほとんどのガンが目立ってはいないが、現れてくるのには15年から20年を要するのかも知れない。他の種類のガンが現れたときには、それが放射線被曝によるものであることを証明するのは難しいだろう。というのは、医学に放射線被曝によるガンと他の原因によるガンとを識別する能力が無いからである。

 最近の研究は、事故発生当時子供であった何人かの人達が、自身の肉体の組織を認識するのを誤りそれがあたかも外部感染媒体であるかのように攻撃してしまう変異抗体を発現していることを明らかにした。肺や心臓、腎臓の疾患もチェルノブイリ事故の放射能放出にさかのぼることの出来ることにも数々の証拠が光を照らしている。

 種々の研究プロジェクトが明らかにしているチェルノブイリの環境と健康への影響については幾つかの論争もあるが、ひとつだけ絶対にに明らかなのは医学的研究を続けることである。この研究がどうして被害を受けている地域に住む人達にとって重要なのかについては幾つかの理由がある。まず第一には、放射線被曝の健康に与える影響についてのより深い理解は正確な診断と適切な治療にとって基本的なものである。第二には、おそらく同じ程度に重要であるが、その健康への影響についてのより良い理解が、被害を受けている地域に住む、汚染とともに生活するという心理学的影響から極度に健康を損なうに至っている、住民達に納得のいく励ましを与えるのを容易にする。

 総面積で15万5千平方キロメートルがいまも危険な放射性物質であるセシウム-137とストロンチウム-90によって汚染されたままである。それらは長い半減期を持っており次の世紀のほとんどにわたってその環境を脅かし続けるだろう。被害を受けた地域は森林と主要な農耕地からなっている。ウクライナだけでも、百万ヘクタール以上の森林が汚染されている。森林も農耕地もともに人々の生活を成り立たせる。それらはいまや実際上不毛である。耕作穀物とともに自然の恵みの源もまた汚染された -イチゴやキノコ、魚、動物の全てが生命を脅かされている。放射性物質が土壌をゆっくりと浸透するにつれて、それらは地下水面にしみだし河川や湖水を汚染する。放射能汚染の脅威は、数百万人の水源となっている、ドニエプル川に迫っている。

 「チェルノブイリ -終わらない破局」の著者達は、正当にも彼らの結論として、汚染地帯の人道的支援のための国際社会からの関心が欠如していることを指摘している:「EBRDはチェルノブイリ発電所の2007年までの完全な一新を期待する。この作業のために既に計4億ドルが約束された」。「供与国からの資金のわずか3%が、事故がもたらしている人々への惨禍を軽減するための実際的な影響を与えるだろう」。

 チェルノブイリの大災害で被害をこうむった人々は異なる3つの国に住んでおり、そしてその惨事がもたらした結果は非常に変化に富んでいるため彼らは極めて多くの異なった政府や非政府組織の記録に入れられているので、援助の分配と実施には異なった組織の大きなネットワークが巻き込まれている。このような理由のために、the United Nations Undersecretary-General(国連人道問題担当事務次長)とthe Head of the UN OCHA(国連OCHA首席)は、国連の国際協力調整役として働いており、そのジュネーブ事務所は供与者達に対する窓口として機能している、「チェルノブイリ信託基金」はこれらの資金を受け取り管理運営する目的の下に創設された。この権能付与は、チェルノブイリの関する国際協力に関する、1990年から1999年の間に可決された一連の国連総会の議決によってOCHAに割り当てられた。OCHAは援助と分配を調整するためにモスクワ、ミンスク、そしてキエフのチェルノブイリ中核グループに、社会心理学的リハビリテーションコミュニティとトレーニング施設を配置した。OCHAはまたthe Inter-Agency Task Force on Chernobyl(チェルノブイリに関する組織間タスクフォース)とthe Quadripartite Coordination Committee at Ministerial Level for International Cooperation on Chernobyl(チェルノブイリの国際的協力に対する閣僚級調整委員会)の作業を招集・調整しており、さらに両機関に対して事務機能を提供している。



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