保安院4月20日付「調査報告書」及び「総点検評価書」に関する質問事項と
5月23日の交渉での回答

1.臨界事故発覚の経緯について
(1)保安院の4月20日付「調査報告書」では、3月15日に志賀1号機の臨界事故の報告を受けたとなっている。また「沸騰水型軽水炉(BWR)を有する全ての電力会社に対し、過去に起こった制御棒の引き抜け事象について報告するよう要請した」(同3頁)と書かれている。この要請を行ったのはいつか。また,その要請を行った保安院文書(NISA文書)を示されたい。
答:全電力に要請したのは3月15日。口頭で要請しているので、保安院文書は存在していない。

(2)福島第一3号機の臨界事故について、福島県には3月19日の段階で「第一でもすでに50年代に同様の自然に制御棒が引き抜けることは経験済み」という内部告発が寄せられていた。保安院がこれを確認したのはいつか。この内部告発によって事故がようやく明るみに出てきたというのが真相ではないか。
答:これは3月22日にニューシアスに登録されている。その前の日に話しは聞いている。内部告発で出てきたところかについては、保安院としては承知していない。

2.臨界事故の実態と原因把握について
(1)志賀1号機の臨界事故について、北陸電力は「事故当時の平均出力領域モニタのデータは計測器が点検中だったため存在しない」としているが、保安院はこのことを確認したのか。また、北陸電力の言っていることが事実であれば、制御棒の検査中にこの計測器を点検すること自体問題ではないか。
答:平均出力領域モニタ自体は原子炉の運転中に使用するものあり、定検中は使用するものではない。このため定期検査中に当該モニタが点検中だったことについても特段問題はなかったと考えている。

(2)志賀1号機の臨界事故の燃料への影響について、北陸電力の事故報告書には燃焼度の低い燃料集合体の一部の外観検査結果しか公表されていない。この検査では、全てを観察したといえないのではないか。また、シッピング検査は行ったのか。
答:燃料集合体の外観検査、全数検査を北陸電力がやっていたところだったが、3月29日に発生した地震により中断しているということ。
 シッピング検査については、運転時に燃料リークを示すヨウ素の増加傾向は認められなかったので、今回の検査では、特段シッピング検査はやっていない。

(3)福島第一3号機の臨界事故について、東京電力は「予期せぬ臨界」(東京電力3月30日付報告書原117頁)としているが、保安院も同じ認識か。
答:引き抜き操作をしていない制御棒が、意図しないものが、引き抜けが起こってしまったということで保安院としては「想定外の引き抜け事象」として整理している。

(4)福島第一3号機の臨界事故について、東京電力は制御棒引き抜けの「原因は特定されていない」(東京電力3月30日付報告書原119頁)としているが、保安院も同じ認識か。
答:昭和53年という昔の事象であるし、現在において当時の手順書が確認できていないことから、事象発生当時にどのような手順のもとにこのような作業が行われていたのかは不明である。

(5)東芝の元社員が持っていたとされる手書きのデータは保安院でも検討したのか。そこには「SRMが7時間半も振り切れていたことを示すグラフが描かれていた」とのことだが、東京電力が評価に使ったのは、SRMが振り切れる最大値であって、実際にはそれ以上であった可能性があるのではないか。福島第一3号機の臨界事故の実態は把握されたといえるのか。
答:昭和53年の事象なので情報が限られており、詳細は把握できていない。むしろこちらの事象の問題については、7時間半の間臨界が継続したにもかかわらず、運転員の発見が遅れたという、そういう運転管理上の問題でもあるととらえている。

(6)福島第一3号機の事案について保安院は「5本の制御棒引き抜け事象」「制御棒引き抜けに伴う原子炉臨界」と称している。志賀1号機を臨界事故としているのにこれを「事故」としないのはなぜか。
答:志賀1号機は原子炉の圧力容器の蓋が開いていたこと、臨界が発生していたこと、それにおいて放射線障害の発生の恐れを否定できなかった、こういう様々なことを総合的に勘案して、志賀1号機においては臨界事故という言い方をしている。

(7)東京電力は、東芝の元社員が持っていたとされるデータはおろか、引継日誌や運転日誌など、東京電力の社内データについても一切公表せず、自らが依頼した弁護士が見たというだけで客観性は確保されているなどと主張している。これらの資料を全て公開させるべきではないか。
答:今回の総点検の目的というのは、データ改ざんとか必要な手続きの不備、その他同様な問題がないかどうかが趣旨であり、その中でこの事象が3月末に報告された。したがって事実を隠さず出すという趣旨の元に書かれたものと考えている。

3.制御棒引き抜け防止対策について
(1)保安院は、HCU隔離作業時に、リターン運転とするか、制御棒駆動水ポンプを止めるか、制御棒駆動系駆動水量をゼロにすることが必要としている(保安院「調査報告書」21頁)。隔離について3つのいずれかを実施すれば、制御棒引き抜けは絶対に起きないということか。
答:志賀原子力発電所で起こった要因としては、HCUに圧力がかかっている状態でHCU隔離弁である101弁を閉じたために、結果として制御棒が抜けてしまった。したがって、HCUに圧力がかからなければ、今回と同じ作業をしても制御棒引き抜けは起こらない。そういうことで、弁を閉じるという行為はHCUに圧力がかからないようにするためのものであり、この3つの方法が確実にとられておれば、HCUに圧力がかかって制御棒が抜けてしまうというような、そういった事象は起こらないと考えている。

(2)同じ報告書21頁に、「複数本の制御棒が想定外引き抜け状態になったことについては…1本ずつ状況を確認しながら操作することにより回避できることから、設備上の問題があるとはいえない」とあるが、結局操作に頼っているのではないか。度重なる制御棒引き抜け、誤挿入事案は、手順の整備や管理の徹底だけでは防止できないことを示しているのではないか。
答:上記で述べたように、HCUの隔離作業時にリターン運転を確実に行うことによって再発防止は可能と考えている。

(3)隔離操作によって101弁を閉めることにより、スクラムができなくなってしまうのは、構造上問題があるのではないか。
答:そもそも101弁・102弁の弁を閉める行為は、制御棒を挿入した状態でそこから制御棒の引き抜けを防止するための行為なので、特段構造上問題があるとはみていない。

(4)同じ報告書に「制御棒駆動水圧系の設備的な対応の可能性についても視野に入れて、事業者において対策の検討がなされることが期待される。」とあるのは、設備上の問題を認めているのではないか。設備上、構造上の問題についての検討を優先すべきではないか。
答:繰り返しになりますが、制御棒の引き抜けというのは、隔離操作時に適切な作業をおこなうことによって再発防止は可能であるというのが保安院の見解なので、ここで言っている検討の可能性、設備的対応と言っている部分というのは、これによって作業員の負担が軽減されるとか、信頼性向上が見込まれるという観点でここの記載ぶりが書かれているということです。

(5)東京電力によると、福島第一1〜5号機のリターンラインについて、ノズル部のひび割れが多発したために、配管の一部撤去が行われており、今も撤去されたままだという。リターンライン配管の一部撤去、閉止について保安院は全体を把握しているのか。全国のBWRで配管の一部撤去、閉止がされているのはどこか。リターンラインを使うためにはどのような作業が必要か。また、ひび割れを防ぐために、リターンラインの使用に際しどのような制限が課せられているのか。その制限を逸脱しないことをどのように確認しているのか。
答:1977年(昭和52年)頃までのBWRプラントは、運転中にもリターン運転を行っており、この結果何があったかというと、熱い冷却水とこの配管から流れ込む冷水が混じり合うことによって、配管のノズルに熱サイクル疲労によるひび割れがおこったことを承知している。このため現在においては、運転中にはリターン運転はおこなっておらず、あくまでも定期検査中のみリターン運転をおこなっている。
ちなみにリターンラインを撤去しているのは、島根1号とか敦賀1号とかいうのがある。これらプラントは定期検査時には、リターン運転を行うため仮設配管をとりつけて、これによってリターン運転を行っている。
 
(6)臨界防止措置として、北陸電力は「HCU隔離弁(101弁、102弁)の管理を厳重に行うため、施錠措置を行う」としている。保安院もこれを是認し、特別保安検査でこれの確認を行ったとしている。しかし、制御棒引き抜けが発生した際には、施錠により制御棒を挿入させる操作が遅れてしまい、かえって危険ではないか。
答:そもそもHCU隔離弁は、運転時には通常開になっている。開になっているので当然のことながらスクラム等がかかるようになっている。むしろ施錠管理という観点は、作業時にむやみに弁の開操作をすることを防ぐためのものであり、これによって結果的に操作ミスを防止しようという観点でこのような管理をおこなうことになっている。

(7)柏崎刈羽原発3号機で昨年5月に発生した制御棒脱落については検討したのか。報告書に記載がないのはなぜか。
答:この事象は、制御棒を引っかけるためのコレットフィンガー(爪のようなもの)、これを制御棒のインデックスチューブにある切りかき部分にひっかけるという機構になっているが、本事象はこの挿入時に爪のひっかかりが不十分だったためにワンノッチ引き抜けていたというもの。すでに対策として、制御棒が確実に全挿入されたことを確認するという作業手順に改訂されている。さらに本件は、こういう事象が発生したあとに、18年5月にホームページに掲載しており、同日のうちにニューシアスへの登録も行われており、今回の総点検の報告の対象には含まれていない。対象外ということ。

(8)海外の事例について、原子力安全委員会に88年のNRCの警告や海外への情報提供について指摘を受けたが、これに対しどのように対処したのか。
答:志賀1号機の報告書について、海外のオスカーシャムのような事例だとか、海外で発生した臨界事象のようなものについては、報告書の中に取り入れて書いている。また逆に、こういうことが発生したということをいかに世界で情報を共有していくのかの点についても原子力安全委員会から御指摘をうけているが、その点については、例えばIAEAに人を派遣して説明を行わせるとか、あとは制御棒引き抜け事象に関して国際的なワークショップ開催等を行おうとしているところ。

4.保安規定違反による行政処分について
(1)志賀1号機の臨界事故と事故隠しが、保安規定違反(引継、異常時の措置、原子炉スクラム後の措置、記録、報告の項)であるということで間違いないか。福島第一3号機の臨界事故について、原子炉スクラム後の措置の項を問題にしないのはなぜか。

(2)各電力会社の不正事案に共通なものとして、引継日誌の改ざんが多数存在する。これは保安規定違反と判断しているのか。
答:(1)(2)の事実認定に関しては、私どもの評価については、4月20日にとりまとめた「発電設備の総点検に関する評価と今後の対応について」という報告書を出しており、この中でも最も厳しい評価区分である区分の1やその他出された事案を個別に評価をする中で、御指摘の点、例えば、柏崎の件であるとか、これについては保安規定に違反するというように、個別に全て条文に照らして評価している。それに基づいて私どもの評価をやっています。これは(2)も同じで、引継日誌の改ざんについても、保安規定違反にあたるものもあると判断している。

(3)そうであれば、原子炉等規制法第33条を適用しての設置許可の取消処分や運転停止処分を下さないのはなぜか。
答:北陸電力はじめ、いろんなところで遺憾な事項があったが、これについては、当該保安規定違反が、現時点で原子炉の安全を損なうものではなく、原子炉等規制法の33条第2項の運転停止命令が設けられている趣旨や、今回の総点検を指示した狙いからみて、運転停止命令をかけることは適当ではないと考えている。

(4)新聞報道によれば、保安院青山審議官は福島県で、「いま保安規定に反している状態ではないため、停止させる理由はない。」と述べている。「現在の安全が守られていれば、過去の保安規定違反は問題にならない」との趣旨が原子炉等規制法のどこに書かれているのか。
答:原子炉等規制法の法目的に放射線障害防止等書いてある。規制法の趣旨を踏まえれば問題がない。

(5)2002年に発覚した福島第一1号機の検査偽装に対し、発覚当時の安全確認とは全く関係なく一年間の運転停止処分を下したのと対応が全く異なるのはなぜか。

(6)特に敦賀2号の検査妨害は、福島第一1号機と同様の不正であるが、これに対して福島第一1号機と同様の措置をとらないのはなぜか。
答:(5)(6)と合わせて。基本的な考え方は先に述べたとおり。
 福島第一1は、保安規定に定められた漏えい率に関する維持基準への適合性を確認する検査において、漏えい箇所を特定しないまま不正な操作により検査妨害したもの。不正行為については国にも報告していないが、平成14年の段階にあってもなお保安規定に違反して原子炉の安全確保に支障を及ぼすおそれがあった。これを是正させるために運転停止命令をかけた。運転停止命令をかけて十分に安全が確保されていることを求めた。その後保安院は、厳格な漏えい率検査を行うとともに、期間中に品質保証に重点をおいた特別な検査を行い再発防止の徹底をはかった。
 敦賀2号については、漏えい箇所が特定されていたが、修理後の漏えい率試験を直ちに行わなかったことは問題があると思うが、その後格納容器の漏えい率の適合確認が適切にされているということなので、命令を発動する段における、先ほど説明した、現時点で原子炉の安全を損なうおそれのあるものではない、33条の設けられている趣旨もしくは炉規制法の趣旨や、今回の総点検を指示した狙いから、停止命令を発動することは適当ではないということです。現時点において。

(7)保安院は、2003年10月以降に法令に抵触するデータ改ざん等が報告されないことをもって「新しい検査制度が有効に機能している」(保安院4月20日付「総点検評価書」18頁)と判断している。しかし、美浜1号機の違法溶接は今年起きている。このこと一つをとっても、「新しい検査制度が有効に機能している」とは言えないのではないのか。
答:これについてはデータ改ざんに関してであり、平成15年10月の制度改正以降において法令に抵触するようなデータ改ざんは行われていない、報告されていない。法令に抵触するデータ改ざんではないが、関西電力の美浜1号機の溶接検査の手続き不備は19年の2月だと思うが、こういうものがあったことは承知しているが、手続きの部分なので、法令に抵触するような改ざんではないという認識である。現行の検査制度であるが、これは2002年の東電不正問題を踏まえて対応しているが、データ改ざん・不正というものについて定期事業者検査の法定化や罰則の強化については十分機能しているのではないかと思っている。

(8)保安院は、課題として「検査制度見直しの加速」(保安院「総点検評価書」20頁)を挙げているが、事業者が保全計画を立て、事業者に自己責任を負わせるような検査制度の見直しでは、かえって危険な状況になるのではないのか。
答;原子力安全委員会からも御指摘をいただいているが、新しい検査制度については、平成17年11月から「検査の在り方検討会」で議論をさせていただいている。その中で報告書を昨年9月にまとめて、そのとりまとめ結果を踏まえて制度改正の検討を進めている。20年度を目処にスタートさせるべく考えている。具体的には高経年化が進んできていることもあるので、全てのプラント一律の検査から、プラントごとの特性に応じたきめ細かい検査をやっていく。また保安活動全体について、保全プログラム、体系的なプログラムを的確に策定させて、必ずしも頻繁に見直すことのない基本的な事項と、毎回届けていただく点検計画などの保全計画を出していただきそれを我々が確認すると。点検の中身、点検の頻度を科学的合理的に確認した上で・・・考えておりますが、これについても具体的に制度設計を考えている。この方向については、先ほども冒頭に述べたように原子力安全委員会で説明したところ、この方向で加速することが望ましいとの御指摘を受けている。
 これとは別に、今回の総点検の結果を踏まえて、行動計画を5月7日にまとめている。この中で30項目とりまとめてある。その中で検査制度の見直しを加速的にやっていくことに取り組んでいくことによって、つまり検査の充実を図っていく。具体的には起動・停止などの安全上重要な行為とか、後は検査制度、まあまあございますけれども、運転中・停止中を問わず安全確保要件に着目して検査をやっていくということも進めていくことにしている。20年度からの開始を目途としている。こうした制度の見直しについても加速的に評価をして速やかに原子力の安全確保に努めていきたい。