10月29日、福井県敦賀市にある原子力安全・保安院の福井県事務所で、原山正明統括管理官と交渉した。市民は大阪、京都、福井から6名が参加し、8団体の要望・質問書を提出した。福井県防災センターの2階会議室で、午後1時20分から約1時間、大飯3号機の圧力容器出口管台のくぼみを残したままでの運転再開について議論した。 統括管理官は、「配管肉厚の技術基準53ミリは守らなければならない」ことを認めた。また、くぼみを残したままでの運転再開を認めないようにという要望事項と、直ちに他の原発でも同部位を検査するようにという私たちの要望については、本院に伝えると語った。また、インコネル600部位の検査の頻度を上げる方向で保安院として検討中とのことだった。 事前に出していた要望・質問書では、保安院がくぼみを残したままでの運転再開を了承していることに関して、その安全性判断の根拠となる法律の条項と学協会規格の条項についてコピーを渡してくれるよう要請していた。これについては、実際に評価を行った本院の安全審査課等から入手してほしいということだった。 いくつかのポイントについて報告する。 ◆「技術基準の53ミリは守らなければならないが、応力が許容値以下なら問題ない」 関電は、交渉などで「技術基準の53ミリを割り込んでもすぐに問題になるわけではない」等と主張している。これについて、統括管理官は、「技術基準の53ミリは守らなければならないもの」と述べた。しかし同時に、「守るべきですけど、配管にかかる応力が許容値以下なら問題ない」とも語った。これは、配管に求められる性能が応力評価を満足すればいいとする「性能規定化」だ。これは、2002年の東電不正事件以降に維持基準を導入する過程で持ち出してきた評価手法だ。しかし、この応力評価も含めて、具体的な数値(必要肉厚という配管の板厚)で示さなければ、「技術基準を満たす」という法的な規制はできないはずだ。事実、美浜3号機事故では、2次系配管については、「必要肉厚を満足しているかどうか」が技術基準の判断根拠であり、必要肉厚以下の配管については取替等が行われた。抽象的な応力評価を強調することは、安全規制とその根拠となる法的基準を極めてあいまいにしてしまうものである。 関電が、くぼみを残したままで運転再開した場合、11ヶ月後に53ミリを割り込めば技術基準に「違反」したことになるという点については、よほどこの「違反」という言葉がイヤなのか、沈黙を続けながらも、最終的には認めた。 法律に基づき安全規制を行い、電力会社を監督するはずの保安院が、自ら定めた「技術基準を維持しなければならない」(電気事業法39条)を、「応力が許容値以下なら問題ない」と抽象化するなど許されることではない。 ◆くぼみのままの運転再開を了承したのは、「(補修の)準備に時間がかかるから」 関電などのPWR原発では、インコネル600部材の蒸気発生器入口管台溶接部等で、応力腐食割れが多発している。そのため、傷の部分を削ったり、管台の溶接部を取り替えたりしている。保安院は、8月27日付の高浜3号機のSG管台の応力腐食割れについて、「予防保全対策として内表面全周の切削部分について、より耐食性に優れた690系ニッケル合金により復旧している」と関電の補修を評価している。しかし、今回の大飯3号機では、削っただけで、肉盛り溶接の補修は行わない。 これについて、なぜ肉盛り溶接等での復旧を指導しないのかと問うと、統括管理官は、「(補修の)準備に時間がかかるからです」と即座に答えた。SG管台の場合とは全くことなる対応である。事実関電は、この部位の肉盛り溶接について、補修技術や工具をこれから開発し、その間はくぼみのままで運転するとしている。安全性を最優先させるのであれは、「補修・復旧」を優先させるべきなのに、長期間の停止では経済性が損なわれるという関電の姿勢を、保安院があっさりと認めてしまっている。 ◆「検査、評価、補修の体系的な規格の整備ができている状況ではない」−保安院指示文書をやっと認めた統括管理官 統括管理官は、保安院は今年2月5日にインコネル600についての指示文書(2008.2.5付)を出しており、しっかり監視している旨を強調した。その上で、関電の今回の対応はそれを満足するものだという。 そこで市民側が、その指示文書を示し、そこでは、「ECT(渦電流探傷検査)で0.5ミリ 深さ程度の欠陥が存在しうることを念頭においた工事の実効性等の検証が十分なされているわけではないこと」、さらに「600系ニッケル基合金溶接部に対する検査、評価、補修の体系的な規格の整備ができている状況ではないこと」と書かれていると文章を示した。そして、現時点で関電の対策を問題なしとするのはおかしいのではないのかとたずねた。すると統括管理官は、何度もその保安院指示文章を読み、時間をおいてやっと「そうですね」と認めざるを得なかった。そうであれば、やはり、「大丈夫などといえないはず」と市民側は厳しく批判した。 [参考] ◎蒸気発生器一次冷却材出入口管台溶接部内表面におけるき裂への対応について 2008.2.5 保安院指示文書 ◎同上(解説) 2005.2.5 保安院 ◆傷の進展速度−「もっと早いものもある」、「漏えい監視を指示している」 大飯3号機では、約7年間に深さ20.3ミリまで傷が進展していた。圧力容器出口管台部では、国内初の深い傷だった。これについて、「傷の深さの評価はできなかったが、検査で傷が存在することは確認できた」との統括管理官の発言には参加者一同唖然とした。関電の計算では、検査で確認できない3ミリの傷が既に存在したと仮定して、年平均の進展速度は、約2.5ミリとなる[(20.3−3)÷7=2.5]。 これについて、統括管理官は「大飯3号の場合、特に進展速度が速かったわけではない。実験などではバラツキがあるが、もっと早い進展速度のものもある」と話し出した。実際、原子力安全システム研究所などの論文では、@インコネルの場合には、傷の「潜伏期間」は存在せず(関電はこれまで、この潜伏期間を約20万時間(約18時間)などと評価していた)、A傷の発生域での速度は0.6ミリ/年、その後の伝播域での進展速度は12.3ミリ/年等が報告されている。これらを念頭において、「想定内の進展速度」と言いたかったのだろう。また、関電が対策として行う「ウォータージェットピーニング」は、「傷をなくすものではない」と統括管理官は認めた。 それなら、なおさら、検査をすぐやるように指示を出すべきで、また大飯3号機もこのまま運転すれば53ミリの基準を割り込む可能性があると市民側は主張した。すると、「安全余裕がある」などと言いだした。「安全余裕とは何ですか?」と問うと、口をつぐんで明確に答えない。さらに、「漏えい監視の指示を出している」と言い出すので、それでは貫通を前提にした話で、原発の心臓部である原子炉容器出口管台で「漏えい監視」とはまったく安全をないがしろにしていると市民側は反発した(注:この「漏えい監視」はSG管台に関して出された指示で、圧力容器上蓋管台については出されていないのだが)。すると、「インコネルはねばり強く、すぐに破断するわけではなく・・・」と話し出した。1991年美浜2号機SG細管破断の前に、関電が念仏のように唱えていた「インコネルはねばり強く・・・」をいまさら聴くとは、関西の市民としては遠い昔にタイムスリップしたようだった。原発の心臓部で、漏えいを容認するなどもってのほかだ。 大飯3号機では原発の心臓部に国内初の深い傷が入り、20ミリ以上も配管を削って、それを補修することもなく、関電は11月初めに前代未聞の危険な運転を始めようとしている。全体として原山統括管理官の対応は、「技術基準は守るべき。しかし、許容応力を満足していれば問題ない。計算上は満足している。安全だ」と強調した。さらに、「貫通亀裂が起きてもすぐに破断するわけではない」等と驚くべき発言まで飛び出した。これに対して、参加した福井県民は「安全だと説明されても、ぜんぜん安心できない」と強く訴えた。 [参考] ◎ 「600合金溶接金属のPWSCC発生域における亀裂進展速度」 (08/10/30UP) |