日本原子力研究開発機構(原子力機構)の新型転換炉「ふげん」の原子炉補助建屋で行われたコンクリートの劣化調査で、壁面からボーリングマシンで掘削した試料を直接強度試験したところ、採取した6カ所のうち5カ所で強度が設計基準値を満たしていないことが判明した。1979年に運転を開始した「ふげん」は、廃炉が決定され2003年に運転を終了したが、原発の老朽化対策のために24年間の運転でどの程度コンクリートが劣化したのか等の調査が行われている。最も強度の低かったところでは、設計基準値22.06N/mm2に対して半分以下の10.6N/mm2しかなかった。マンションであればただちに取り壊さなければならない強度である。設計・建設はこの設計基準強度に基づいて行われ、最近のコンクリート構造物では24から27N/mm2程度が一般的であるとされている[1]。 原子力機構は「掘削してサンプルを取った6カ所の34地点のうち、5カ所の25地点で強度が設計基準を満たしていなかった」とし強度不足を認めているが、「信じがたいデータ。サンプルの採取方法などに問題がなかったかも調べる」とし、直接強度試験の結果を疑う姿勢を示した。原子力安全・保安院も「測定結果は素直には信じられない」、「ハンマーでたたく検査は古くから使われており、今回のデータだけで問題があるとは言いにくい」としている。実測値を前にしても従来の非破壊検査にしがみつこうとしている。 一般に、採取コンクリートによる直接試験はコンクリート強度評価方法として最も信頼されている方法である。ハンマーでコンクリート表面を打撃しリバウンドから表面硬度を評価する非破壊検査は、検査員や手法によって結果が倍程度かそれ以上も異なることがあり、未解決の課題が残されていることが知られている[1]。今回の調査結果は、まず(1)「ふげん」が設計基準強度に満たない状態で最初からずっと運転していた可能性を示している。そうでないならば、(2)予想を遥かに超える早さでコンクリートが劣化したことになる。また、(3)原発の安全評価に用いられている非破壊検査は決して信頼できるものではなく、コンクリート強度を2倍以上も過大評価してしまうことを実物実験で示した。 事態は深刻である。コンクリート構造物はまさに原発そのものであり、原子炉容器と同じく、取り替えが不可能である。コンクリートの健全性は原発安全の根幹であり、耐震設計においても設計基準強度の確保が大前提になっている。「ふげん」だけでなく同じ原子力機構の「もんじゅ」のコンクリートは大丈夫なのか、設計基準強度の確保はどのように調査され担保されているのか。「ふげん」の近くに位置し、ほぼ同時期に建設され、同じ会社のコンクリートが使われた可能性も高い高浜1、2号機や美浜3号機ではコンクリート強度はどのように担保されているのか。保安院は「国内で運転開始30年を超えた原発12基については、すべてコンクリートを採取して強度を測り、問題ないことを確かめている」としているが、運転年数が短くても建設時に意図的に水を混ぜたコンクリートが使われていると強度劣化が著しいことは一般にも知られるようになった。そして非破壊検査では安全は保証できないことが今回明らかになった。個々の原発についてコンクリート強度を直接試験する以外にその健全性を調べる方法はない。電力会社は即刻に直接試験の調査に乗り出すべきである。保安院はそのような直接試験を指導すべきである。調査結果を各電力会社に公表させ、コンクリートの健全性を電力会社に証明させよう。 原子力機構は、自らが設立した「福井県における高経年化調査研究会」の2月13日の会合で、データは「信頼性に乏しい」と報告した。検査を行った会社が、専門業者ではなく地元の協力会社であり、データのばらつきは「作業者の技量」と決めつけて再検査を行うという。そもそもこの検査は、国の原子力安全基盤機構が原子力機構に委託したものだ。そして原子力機構が協力会社に委託して実施した。自らに都合の悪いデータが出れば、その責任を協力会社に押しつけている。しかし、その会社に検査を委託したのは原子力機構ではあり、その会社は「ふげん」の保修管理や放射線管理業務も請け負っているという。協力会社に責任を押しつける原子力機構の姿勢は、そのまま原子力機構への不信となって跳ね返る。また原子力機構は、今回のコンクリート強度不足の全ての測定データを公開することもしていない。さらに、補助建屋の建設当時の工事記録も保存していないという。全くずさんな管理だ。 参考[1] 「コンクリート構造物の非破壊検査・診断方法」谷川監修(セメントジャーナル社、2004) |