JCO事故・健康被害訴訟 第18回法廷
村田証人・市川証人が低線量被ばくの健康影響を証言
「原爆被爆者の脱毛は熱線、爆風のため」(JCO側弁護士)

阪南中央病院・東海臨界被曝事故被害者を支援する会 



 9月6日、JCO臨界事故の健康被害訴訟第18回法廷が開かれた。今回は、原告側証人として、村田三郎氏(阪南中央病院 内科部長兼検診センター長)と市川定夫氏(埼玉大学名誉教授)の2人が証言に立った。村田証人は主尋問60分、反対尋問60分、市川証人は主尋問30分、反対尋問30分の予定で行われたが、村田証人には裁判官からも尋問があるなどして少し予定を上回った。両証人とも低線量被ばくでも人体への影響が起こりうることをそれぞれの立場から証言し、JCO側が主張するしきい値以下では人体影響はないという論拠を批判した。
 最後に、裁判所は次回の原告側証人として、山内知也証人(神戸大学)を採用した。これで被ばくの直接的影響を証言する証人は原告側の主張通りに全員が採用されたことになる。さらに原告側の文書送付嘱託が採用され、日本原子力研究開発機構(旧動燃)と茨城県に事故時の放射線測定データをすべて提出するよう裁判所から要請することになった。次回は12月20日に決まった。


村田三郎証人 ・・ 広島・長崎の原爆被爆者の健診・診療・実態調査を通じて低線量被ばくの被害を主張

 最初に証言に立った村田証人は、阪南中央病院(大阪府)で広島・長崎の原爆被爆者の健康診断や診療、実態調査を行ってきた経験から、従来起こらないとされてきた低線量の被ばくでも放射線障害が起こっていることを主張した。JCO側は200〜250mSv以下の線量では確定的影響は起こりえないと主張している。村田証人はこれに対して、爆心地から2.5km以遠、DS86の被ばく推定線量で10〜20mSv以下の被ばくをした人たちの中にも一定数に脱毛などの急性症状が現れ、その発現割合が放射線の遮蔽の有無によって顕著な差が生じているとする文献を証拠に、放射線の影響であることを論証した。主尋問は伊東弁護士が担当し、丁寧に村田証人の証言を裏付けていった。
 これに対してJCO側は、国際放射線防護委員会(ICRP)などを持ち出し、低線量で脱毛などの急性症状があるということは国際的に承認されていることかと、従来通りICRPの権威を振りかざす尋問を行った。村田証人は、「これまでの教科書、成書としては、症状は出ないことになっているが現実に影響が出ていることが大切」と主張した。JCO側は挙げ句の果てに、原爆での脱毛が熱線や爆風のためではないかと言い出し、傍聴席から失笑が漏れた。
JCO側:原爆で3kmでも爆風が大きく、2kmでも白い紙が燃えたとの記述がある、脱毛にも寄与しているのではないか。
村田証人:爆風と熱線が脱毛に影響したということを書いた論文は見たことがない。あり得ない。
JCO側:脱毛、脱毛とおっしゃるが、脱毛にも程度がある。何本抜けたら脱毛なのか。
 村田証人は、JCO事故で被ばくした職員や住民らの染色体を調査し、中性子線の生物学的効果比(RBE)を従来の10でなく、50〜70でなければ説明できないとした佐々木正夫氏らの研究を「非常に重要」と取り上げた。これに対し、JCO側は「わからないとも書いている。結論がでていないのが結論なのでは」と佐々木氏の研究を否定しようとした。村田証人は膨大な労力のいる研究で異常が出ているということが大事なところと反論した。
 JCO側の弁護士は、専門的な話で自分が不利になると、証人の発言内容をゆがめた上で、「はいか、いいえで答えてください」と質問し、たびたび証言を遮ろうとした。これには裁判長が「まだ話の途中なので」と証人の話を続けさせるという一幕もあった。
 村田証人は、かつて福島原発で働く下請け労働者の健康実態調査も行っており、その内容も証言した。その中で、各人の被ばく線量は被ばく手帳を持っていないためにわからなかったと証言した。これに対し、JCO側の弁護士は全く実態を知らない質問をした(JCO側弁護士は長尾訴訟で東京電力の代理人にもなっている)。
JCO側:村田先生も意見書を書いている長尾訴訟では、長尾さんは手帳を持っていたではないか。手帳は本人が保管しているのではないか。
村田証人:長尾氏は、まれなケース。自分が現場監督をしていたので持っていた。通常はセンターで保管しているが、本人にも教えない。事業所を通じてでないと。事業所が倒産していれば永久に無理。
 補足尋問の後、裁判官から村田証人に直接尋問があった。低線量被ばくが、いつから問題となりだしたのか、昔より低線量被ばくに対する認識は進んでいるか等、低線量被ばくに関心を示していた。


市川定夫証人 ・・ 中性子線の生物学的効果比はムラサキツユクサで46
           中性子線被ばく――局所集中的損傷の重大性を証言


 続いて証言に立ったのはムラサキツユクサという優れた実験材料を用いて長年研究を続けてきた遺伝学の市川定夫氏であった。市川証人は、中性子線が人体にはいると陽子をはじき飛ばし、局所集中的に損傷を与える危険性を強調した。また、中性子線の生物学的効果比はムラサキツユクサ雄蕊毛(ゆうずいもう)で得られた値が低線量域で46であり、佐々木論文の結論とも合致することを述べた。
 JCO側が裁判の直前に提出した書証には、市川氏の研究を否定する山口氏という研究者の見解が取り上げられていた。当日それに目を通した市川氏は反対尋問を待つまでもなく、主尋問でこれを論破した。
海渡弁護士:今日提出された乙97。保健物理の山口さんという人は知っているか。
市川証人:知っている。79年に実験を始めたのを知っていた。ムラサキツユクサは私が株を分けたもの。1年ごとに発表するのが普通なのに、なかなか発表がなかった。85年に発表するとき、私のところに連絡はなく報道関係のみにあった。前日には「風向を含む25項目すべての気象条件」との関連を発表するとしていたが、当日になると24項目になり肝心の風向が消えていた。風向は空欄の枠だけが残っていた。それですぐにインチキだとわかった。
 先制攻撃でJCO側は武器を奪われてしまったのか、反対尋問ではこのことについて取り上げずじまいだった。


未公開データを要求する文書送付嘱託と原告側・山内知也証人の採用

 証人尋問終了後、裁判長から文書送付嘱託について「茨城県に要求するデータすべてとあるが、東海村近辺だけでよいのではないか」と原告側に尋ねた。伊東弁護士が「主旨は公表されていないものも含めてすべてという意味です」と答えると、「それでは文書送付嘱託と山内証人を採用します」とあっさりと採用が決まった。この意義は非常に大きい。数十mSvの被曝で確定的影響が出るはずがないという判断なら山内証人の採用はないので、数十mSvの被曝と認めれば昭一さんの関係で因果関係を認める方向の動きと見ることができる。文書送付嘱託によってこれまで隠されてきたデータが法廷に明らかにされることを強く期待する。次回期日は12月20日、午前10時30分から1時間半と決まった。