−裁判傍聴報告−
東海村臨界被ばく事故裁判 第17回5月10日法廷
次回法廷から中性子線被ばくによる人体影響の立証へ


 5月10日、水戸地裁で東海村臨界被ばく事故裁判の第17回法廷が開かれた。今回の法廷では、原告側が採用を求めている次の証人を裁判所が認め、被ばく影響の立証という次の段階に進むことができるかどうかが焦点であった。
 これまで被告JCOは主治医や専門医等、具体的な身体症状を立証する証人の採用に関しては、それほど強く争わなかったが、被ばく影響関係の原告側証人の採用については執拗に反対し続けてきた。JCOは、「そもそも健康被害など存在しない」と主張し続けており、「健康被害が存在しない以上、事故による被ばくとの因果関係については論じる必要がない」との立場を基本的に取り続けている。その上で、「しきい線量=1Sv」以下では人体影響は生じ得ないと主張し、また、放射線被ばくに関する科学的知見とは、国際的な原子力関係の組織や研究機関によって受け容れられているものだけであるから原告側証人は採用すべきでないとも主張してきた。要するに、中性子線被ばくの人体影響について具体的にやり合いたくないという姿勢である。
 今回の法廷でも、裁判長が被告JCOに対し「次の証人の採否について意見がありますか」と訊ねると、「すべての証人について採用する理由はない」との主張を行った。しかしその後、裁判長が「採否について5分だけ時間をください」と言い、相談のため3人の裁判官は一時退廷。その後、裁判官が入ってきて、「山内証人は保留。村田証人と市川証人を採用します」と述べた。
 JCO側が執拗に証人採用は不要と反対している中、裁判所は新たに2人の証人を認めたのである。JCOが一番嫌がっている証人であり、その意義は大きい。続いて裁判所と原告・被告双方の側の弁護士との間で打ち合わせが行われ、次回法廷の期日は9月7日に決定した。
 村田三郎証人(阪南中央病院医師)は、阪南中央病院がこれまで実施してきた広島・長崎の被爆者の実態調査を中心に、JCOが主張するしきい線量よりはるかに低い線量でも健康被害が発生していることを証言される。また、市川定夫証人(埼玉大学名誉教授)は専門である放射線遺伝学の観点から、低線量放射線の生物影響について証言される。
 法廷終了後、場所を移して弁護士から簡単なレクチャーと意見交換が行われた。「とにかく、2人の証人を新たに認めさせ、山内証人についても採用の可能性十分ありという非常に大きな勝利」との意見が出された。今回、大きく前進したというのが参加者の共通した意見であった。
 また、事故直後におこなわれた健康診断での問診結果を茨城県が公表したことについて報告があった。これは、臨界事故被害者の会と県との交渉の中で存在が明らかとなり、同会が県に公表を要求し続けてきたものである。1838名のうち371名(20%)が何らかの症状を訴え、悪寒(29名)、吐き気(14名)、頭痛(87名)、下痢(57名)、喉の痛み(48名)等々となっている。驚くほど自覚症状の訴えが多い。県はわざわざ「(これらの)症状は、被ばく線量が概ね1シーベルトを超えないと現れない・・・・集計された症状は被ばくの影響により生じたものではない」というただし書きをつけている。この資料は、これまでの原告の主張を補強するものである。今後も、JCOの加害責任を問うこの裁判に対し支援を行っていきたい。

(H)