美浜の会ニュース No.86 |
日本原燃は多くの反対の声を踏みにじって3月31日にアクティブ試験を開始した。4月1日から使用済み核燃料のせん断を開始し、主排気筒から放射能を放出している。9日まで8体の使用済み核燃料をせん断したところで、4月11日にハル(燃料被覆管)洗浄液の漏えい事故を引き起こした。事故の様態・原因などはまだ明らかにされていない。 そのような中で原燃は、「16日には使用済み燃料を溶解した溶解液等の分離建屋への供給を開始しました」と17日にホームページで公表した。燃料のせん断から次のステップ−溶解液から核分裂生成物を分離し、プルトニウムとウランに分配する工程−に進んだ。核分裂生成物の分離は高レベル廃液を生み出す。低レベル放射性廃液は、せん断・溶解・分離等のあらゆる工程から生み出される。タンクが一杯になれば放出するという。いよいよ原燃は、放射能を海へ放出しようとしている。報告は予告なしで行われ、モニタ表示も極めて不備である。これまでせん断した使用済み核燃料は8体で約3.6トン。ここから分離されるプルトニウムは約30s。使い道のない超猛毒のプルトニウムの蓄積を始めようとしている。原燃のガラス固化は未熟なため、高レベル廃液は液状のまで保管されることになる。 滋味豊かな青森の農産物や三陸の海の幸を放射能汚染から守ってほしいという消費者の声は、急速に広まった。青森県知事と県議会議長は6日「青森県産品の販売促進支援」を電事連に要請した。その後偶然にも事故当日に、青森県農協中央会は、「風評被害が広まれば青森県農業・農業者にとって死活的問題となる」として、県知事に安全性の確保などを求める要請書を提出した。どちらも、県政をあげて取り組んでいる青森農業の行く末に危機感を感じ始めたことの現れである。岩手や宮城では、三陸の漁業者を中心に怒りの声が高まっている。安全な食品を求める消費者の声と、安全で豊かな食材を作り続けたいという生産者の願いは一つのものだ。それを破壊するのがアクティブ試験であり、再処理工場だ。 現在の運動の焦点は、アクティブ試験開始後初めての事故を契機として、一刻も早く試験を中止させることにある。そのために、事故の具体的態様をリアルにつかみ、事故原因、通報の遅れ等々を厳しく追及していこう。原燃と青森県に抗議の声を集中しよう。今回の事故は単なる人為ミスではない。プール水漏えい事故等で証明済みの原燃のずさんな体質が引き起こしたものだ。今回の事故の真相も明らかにしないまま、次々と工程を進めていくなど断じて許されない。それは放射能の海洋放出を準備することにもなる。分離工程をただちに中止するよう要求しよう。原燃に染みついた事故隠しとスケジュール優先のやり方を許していけば、本当に取り返しのつかない大事故へとつながっていく。食品の安全だけでなく人々の生命が脅かされることになる。青森県がこれまで同様「厳しく注視していく」という何もしない姿勢をとり続けることは許されない。県民の安全に責任をもつ立場として、原燃を厳しく監視しなければならない。この間急速に広がった運動を基盤に、アクティブ試験を早期に止めよう。事故の真相を明らかにさせよう。 1.プルトニウムを含む洗浄水の漏えい事故─事故の公表は1日半たってから アクティブ試験強行からわずか12日目にして原燃は事故を引き起こした。4月11日午前3時40分ごろ、六ヶ所再処理工場・前処理建屋の溶解槽セル内においてハルを洗浄した水約40リットルが漏えいした。漏れた洗浄水中には、あらゆる種類の放射能が大量に含まれていた。たとえばプルトニウムは、再処理工場から1年間に外部に放出されるのと同程度あるいはそれ以上もが含まれていた[詳細は「日本原燃のずさんな体質を示すハル洗浄液漏えい事故」参照]。 この事故を原燃が青森県に通報したのが6時間後、ホームページで公表したのが12日の午後。公表まで約1日半もかかっている。公表が遅れたのは、県や六ヶ所村と取り決めた「情報・公表区分」(今回の場合はB情報:1リットル以上100リットル未満の漏えい)に従ったためだというが、原発立地県ならばこのような通報・公表の遅れはただちに問題になる。しかし青森県知事は原燃を呼びつけることもせず、県当局が「大事に至らなかったが、県民に不安を抱かせないよう慎重にやってほしい」と話しているだけだ。こんな姿勢で青森県民の生命が守れると思っているのだろうか。他方、三沢市などの隣接市町村連絡協議会は、14日になって「地域住民の不安感をさらに高め、信頼を損なうものだ」として、安全操業に向けた社員意識の一層の徹底や再発防止を原燃に要請した。 この事故は原燃の余りにもずさんな体質が引き起こしたものだ。このまま試験を継続すれば、どんなひどい事態が到来するか知れたものではない。アクティブ試験を早期に中止させよう。 2.異常なまでの情報秘匿─その上、分離工程に着手─放射能の海洋放出を準備 今回の事故は、使用済み核燃料をせん断した時に出るハルの洗浄槽で起きた。この事故について原燃がホームページで公開している内容は極めて簡単なもので、短い文書とポンチ絵が一枚ついているだけである。 そもそも洗浄槽にはどれだけの洗浄液が入っていたのか、洗浄槽の大きさはどれくらいか等という基本的情報すら書かれていない(洗浄液が200リットル入っていたことは電話で問い合わせて初めて分かったこと)。今回の作業・試験の目的、漏えい水の処理方法等、これら最低限の情報さえ公表していない。原発事故時にも、電力会社は肝心な情報を隠すのが常套手段だ。しかし、原燃の情報秘匿は、極めて異常である。 マスコミはこぞって「漏えいは施設内にとどまった」「外部への影響なし」と原燃のスポークスマンのごとくに報じている。「セル内にとどまったから大丈夫」ではない。なぜこんな事故が引き起こされたのか、事故の具体的状況はどうだったのか、責任の所在はどうなっているのか等々が問題である。外部への放出についても、気体の放射能が排気筒を通って放出された疑いがある。 原燃は早々と、間違って取り外した閉止プラグと接続用部品が同じ色だったため、違う色をつけて見やすくするなどの子供だましの「再発防止策」をあげている。これで分離工程へと試験を進めている。それは、放射能の海洋放出を準備するものでもある。 原燃に対して抗議の声をあげ、事故の状況等を具体的に明らかにさせていこう。分離工程を即刻中止するよう要求しよう。青森県に対し、原燃に事故情報を公開させるよう働きかけよう。 3.3月31日のアクティブ試験強行の背景 年度末の最終日3月31日午後2時58分、日本原燃はアクティブ試験を開始した。そのわずか1時間前に、国に対して「使用計画書」を提出し、3月中の再処理量4トンを0トンに書き換えたことになっている。この「使用計画書」の提出が1時間遅れておれば、アクティブ試験は違法行為となるところだった。まさにドタバタの駆け込みである。 この日は使用済み核燃料をクレーンでせん断機の手前まで移動しただけで、せん断は4月1日からだった。原燃が31日にアクティブ試験入りに固執した直接の要因は、各電力会社から受け取る再処理費用の2005年度分の収入を得るためである。一部報道では、わずか1日で、1年分の再処理費用である約2800億円を受け取るとも報道されている。当然これは私たちの電気料金から支払われている。4人家族で9200円。放射能放出の準備のために、わずか1日で1万円弱も支払ったことになる。格差拡大、不安定雇用の増大、大量の失業者、社会保険料・医療費負担の増大の中で、こんなことがまかり通るなど断じて許されない。原燃社長は31日の記者会見で「スケジュールありきではないが、経営上の利点がある」と述べている。一体いくらの再処理費用を受け取ったのか明らかにすべきである。 アクティブ試験入りを前に、国と電事連はプルサーマル推進を強引に押し進めた。経産大臣は3月26日に佐賀県に飛び、佐賀県知事の事前了解とりつけに動いた。国は2006年度中にプルサーマル受け入れを表明した立地県には新交付金を出すことを決めていた。さらに二階経産大臣は、この新交付金とは別に、また新たなプルサーマル交付金をつくるとまで表明した。カネの力で強引にプルサーマルを押し進め、アクティブ試験入りのお膳立てをも狙ったものだ。しかし佐賀県や九州、四国などではねばり強い反対運動が続いている。 他方で、原燃がアクティブ試験を急いだのは、急速に広がっていった反対の声を封じ込めるためでもあった。とりわけ岩手県内、三陸沿岸で反対の声が強まっていた。原燃、青森県知事、六ヶ所村長は3月29日に形だけの安全協定を締結し、アクティブ試験実施にゴーサインを出した。その前日、原燃は岩手県内で、アリバイ作りのためにたった2ヶ所、2時間の説明会だけで、形だけの「安全」を繰り返した。実際に被害が及ぶ人々に対する説明責任もはたさず、放射能汚染を憂慮する声を無視して、アクティブ試験を強行した。この原燃の傲慢な態度は、三陸の漁業者達の怒りを一層かき立てることとなった。 4.急速に広がったアクティブ試験反対の声 アクティブ試験反対の声は、短期間の内に急速に広がっていった。2月7日に青森県が農産物に放射能が混じることを公認してから、それまでの反対運動の枠を超えて、青森県産・岩手県産のおいしい食材を食べ続けたいという全国の消費者に運動が広がっていった。この間の運動を跡づけて、今後の運動の糧にしよう。 (1)ブルサーマル反対と「プルトニウム利用計画」に反対する視点から アクティブ試験反対の運動は、玄海や伊方のプルサーマルに反対する運動と連携しながら出発した。原子力委員会は、アクティブ試験の前には電力各社がプルトニウムの使い道である「プルトニウム利用計画」を公表することを事実上義務づけていた。関電交渉・東電交渉が精力的に取り組まれ、プルサーマル実施の目処がない事を追及していった。結局、今年1月6日に各電力会社は「利用計画」を公表したが、東電はプルサーマル実施予定の原発名すら書くことができなかった。原子力委員会との交渉、質問主意書の提出、IAEAへの働きかけ等々が連携して取り組まれた。しかし原子力委員会は、1月24日、なんの実態もない「利用計画」を了承し、アクティブ試験入りのお墨付きを与えた。日本の余剰プルトニウム問題・核拡散の脅威は、韓国の反対運動や米国の議員から激しい批判を浴びることとなった。 (2)2月10日の青森県への申し入れ行動−反プルサーマルと岩手、青森の運動が一つになって アクティブ試験実施のためには青森県や六ヶ所村が原燃と安全協定を結ばなければならない。県に対し、安全協定を締結しないようにと、全国の声が結集した。県知事への要請書には243団体、1260名の個人から賛同が寄せられた。2月10日の県交渉には、新潟・岩手・東京・関西からと青森県内から人々が手弁当で駆けつけた。新潟からは、プルサーマルなど実施できる状況にはないこと、このままアクティブ試験に突き進めば青森県が核燃料サイクル施設の全てを背負い込むことになると訴えた。「三陸の海を放射能から守る岩手の会」からは、岩手県内の強力な運動を背景にして三陸の海を放射能で汚染するなと迫った。青森の農業者は、農業を守るのが県の役目ではないのかと訴えた。反プルサーマルと岩手、青森の運動が一つに結びついた。交渉では、青森県が1月24日に公表していた、アクティブ試験が始まれば米や野菜に放射能が混ざるという資料について、県としての正式な見解であることを確認した。 このことによって、アクティブ試験強行までの2ヶ月弱の間に、「食の安全を守ろう」を合い言葉に、反原発運動の枠を超えて全国の消費者に運動が広がっていった。 (3)青森県の「攻めの農業」と根本的に対立する、食材の放射能汚染 ちょうどこの頃、青森県は県政をあげて「攻めの農林水産業」を推し進めていた。2月に「決め手は青森県産」をキャッチコピーとし、青森県産品の販売促進に力を入れ始めていた。県内で次々と開催されるアクティブ試験の説明会は副知事にまかせ、三村知事は東京・大阪など大消費地の百貨店や市場に出向き、ハッピ姿よろしく軽いのりで「リンゴ売り」に専念していた。 青森の農業者は、開拓民として、そして厳しい気候の中で農業を守り育ててきた。手塩にかけた農作物が放射能で汚染されることを許すことはできなかった。「再処理工場について勉強する農業者の会」の会員は2月21日、風評被害による損害賠償を求めて、県の風評被害認定委員会に仲介を申し立てた。「風評被害をまき散らしているのはおまえだ」と県内で公然と批判されても、毅然として立ち向かっている。その姿勢は、自らの農業への誇りによって裏打ちされている。 青森県が放射能が食材に混ざることを公認してから、各地の運動は、「おいしい青森県産の食材を安全に食べ続けたい」とこれまで経験したことのない運動に取り組んだ。青森県の出張所である、大阪情報センターや東京事務所、名古屋事務所、岩手県事務所に出かけ、アクティブ試験と食の安全は両立しないことを訴えた。大阪中央市場や築地市場・大田市場に出かけ、青森の農協職員や流通業者達にも訴えた。直接話をする中で、青森の農業者が生産物が汚染されることを心底憂慮していることが伝わってきた。「食の安全」を求める消費者の声と生産者の気持ちは同じものである。その両方を破壊するのが、日常的に放射能を放出する再処理工場である。 BSE問題等で食の安全が大きな問題となる中、また破壊が続く自然環境を守りたいという広範な意識の中で、「青森産品を守ろう」「三陸の海の幸を守ろう」「三陸の海が危ない」という声は、瞬く間に広がっていった。マスコミが報道しない中、多くのブログ開設者がこの問題を取り上げた。ブログやソーシャル・ネットワーキング・サービスで議論になり、釣り仲間や女性団体などにも広がっていった。さらに、農協や漁協に手紙を書いたり、魚市場でチラシをまいたり、生協に問い合わせたり等々、それぞれの意思で具体的な行動が始まっていった。 これらの運動が消費者の中に急速に広まった基礎には、青森産・三陸産の食材の優位性がある。青森産のリンゴ・長いも・ニンニクは全国一の生産高をほこり、特にニンニクは75%のシェアを占めている。例えばニンニクでは、輸入品との価格差が5倍であっても、その品質の良さが多くの消費者に支持されている。青森県ではこれまで、食品のトレーサビリティにも力を注ぎ、他県のリンゴと比べても残留農薬などが少ないことも消費者はよく知っている。生産者のたゆまぬ努力が、「青森産」というブランドを押し上げ、全国で愛されてきた。豊かで美しい三陸の海が育んだ海の幸もまた同様である。 「食の安全」を要求する消費者の声は、わずか1ヶ月程の間に広まっていった。この声を押しとどめることはできなし、今後一層広まっていくに違いない。青森産品や三陸産品が豊かであればあるほど、この流れを止めることはできない。消費者の声と生産者の声が一つになれば、再処理は必ず止められる。これは、短期間の集中した取り組みを通じて得られた確信であり、展望につながるものでもある。 (4)青森県への波紋 このような中、青森の農業者達は消費者の声を気にかけ始めている。徐々にだが、しかし確実に反応がでてきている。青森県農協中央会などには全国の消費者から多くの手紙やFAX、メールが寄せられているという。 アクティブ試験開始から1週間目の4月6日、青森県知事と県議会議長は東京に出向き、電事連に「青森県産品の販売促進支援」を要請した。「放射性物質による本県農水産物への影響を心配する動きも見られる」と述べている。農業者の危機感を反映してのことである。これに対し、電事連の勝又会長は「引き続き関連会社などに青森県産品の良さを紹介し、利用拡大に努める」と答えている。実際に電事連は、雑誌の広告等を通じて青森県産品の紹介などを行っている。しかしいくら電事連といえども、県内全ての農畜産物を買い取り、農業者達を養える訳がない。ましてや、農業者の魂までは買えない。 この知事達の要請のその後、事故当日の4月11日に、青森県農協中央会等は「県産農畜産物の安全性確保と販売促進に関する要請書」を知事に提出した。この時には事故のことは知らずにいた。要請書の中では、「食の安全・安心に対する国民の関心が一層高まっている中で、今回のアクティブ試験実施について、県外の消費者等から県内JA・中央会・全農県本部に対し、本件農畜産物の安全性を危惧する声が、多数寄せられている。なかには、本件農畜産物は危険であり、購入しないという強い意見もあり、県内農業者及びJA関係者の間には大きな不安が広がりつつある」として「本県の農業振興と農業者のくらしを守る」ことを要望している。要請事項は2点で、まず「風評被害は本件農業・農業者にとって死活問題となることから」、風評被害が発生しないよう原子力の安全性について国や事業者に広報活動等を働きかけるよう要請している。もう1点は、「消費者から安全・安心であるという評価を得ている県産農畜産物の販売促進に努めること」である。これら内容は、アクティブ試験の中止を要請するものではない。しかし、既に風評被害の発生を自ら心配している。苦悩と危機感の現れだ。 しかし「原子力の安全の広報活動」によって、食品に混入する放射能を消し去ることはできない。アクティブ試験が続く限り、再処理と「県産農畜産物の安全・安心」は両立しないことがさらに一層誰の目にも明らかになってくるに違いない。 5.事故を契機にアクティブ試験を早期に止めよう 今回の事故の真相を明らかにさせ、原燃のずさんな管理実態を浮かび上がらせ、試験の中止へと追い込もう。既に、青森と岩手の運動は連携して、県との交渉、原燃との交渉を準備している。このような運動と連携して、広範に事故の実態を広めていこう。 分離工程を即刻中止するよう要求しよう。岩手の運動と連携し、海への放射能放出を止めよう。 私たちはグリーン・アクションと共同で4月22日に「アクティブ試験を中止させるために学習・討論会」を開く。事故の実態・原因等について検討する。またこの間の取り組みを交流し、跡づけ、これからどのような取り組みが必要なのか等について議論を深めたい。食の安全を求める消費者の声と生産者の真情を一つにして、アクティブ試験を早期に中止させていこう。
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