美浜の会ニュース No.85


 日本原燃と政府は、使用済み核燃料を使った本格運転と同様のアクティブ試験を3月にも強行しようとしている。これに対して、プルサーマルに反対する全国各地の運動、岩手の放射能汚染に反対する運動、そして青森県内の運動が合流して、アクティブ試験を阻止するために青森県知事宛の要望書を作成し、全国の広範な人々に賛同を呼びかけている。呼びかけ直後から、反原発団体のみならず、反核・平和の諸団体や消費者団体、環境汚染に反対する団体、及び多くの個人から賛同の声が寄せられている。
 原燃と青森県・六ヶ所村の安全協定締結を阻止するために、六ヶ所再処理工場のアクティブ試験に反対する各地の運動と声を結集し、2月10日頃の提出時には全国各地から青森県庁へ出向き、人々の強い意思を青森県知事に示そう。これは、現在の差し迫った課題である。

アクティブ試験入りの準備を急ピッチで進める日本原燃、保安院
 日本原燃は、1月7日から開始したウラン試験の最終段階である総合確認試験を23日に終了し、1月中に原子力安全・保安院に報告書を出そうとしている。25日には、ロイド社による監査結果を公表し、翌26日には「設計等に関する点検結果について」を保安院に提出した。これは、昨年10月のガラス固化体貯蔵建屋の改造工事認可にあたって、再処理工場の「原点に立ち返って点検を行うことを指示する」との保安院の要請によるものである。これら報告書によって原燃は、品質保証体制等は「有効に機能していると総括した」と結論づけた。その日の内にはやばやと保安院は原燃の報告を了承した。また同日、プール水漏れ問題によって設置された国の「総点検に関する検討会」も、原燃の報告を了承し、神田主査は「アクティブ試験に入っても問題ないだろう」とまで語っている。
 保安院は、原燃の出す「ウラン試験報告書」を2月初めにも了承し、12月22日に出した「アクティブ試験計画書」にお墨付きを与え、アクティブ試験入りの準備を、強引に着々と進めている。規制当局とは名ばかりで、ガラス固化体貯蔵建屋の改造工事認可等々に見られるように、保安院が積極的に主導しながら、原燃と一体となって進めている。

自らの決定を踏みにじった原子力委員会
 原子力委員会は1月24日、電力各社が1月6日に公表した「プルトニウム利用計画」を不当にも妥当と判断した。この「プルトニウム利用計画」は、2003年8月5日の原子力委員会決定に従って電力各社が公表したものである。「利用目的のない、すなわち余剰プルトニウム」を生み出さないために、アクティブ試験で分離されるプルトニウムの「利用場所」等を明らかにするよう求めている。ところが東京電力が公表した「利用計画」には「利用場所」が書かれていない。福島県と新潟県から事前に書かないよう釘をさされたためである。また、他の全ての電力会社でもプルサーマルの事前了解は得られていない状況にある。結局、「利用計画」は絵に描いた餅にすぎない。しかも、福島県知事や柏崎市長は「利用計画」の公表を公然と批判し、今後もプルサーマルは認めないと発言している。さらに、プルサーマルに反対する全国25団体の申し入れも行われた。ところが、原子力委員会はただの1回だけ電気事業社からのヒアリングを行っただけで、「利用計画」を妥当と認めてしまったのである。
 27日には、内閣府の参事官が原子力委員会の妥当判断を青森県知事に伝えた。県知事は、電事連から直接確認をとるとして、その場で了解を与えることは避けた。

青森県知事──国のお墨付きを待つだけの「慎重姿勢」
 アクティブ試験実施のためには、青森県と六ヶ所村が、原燃と安全協定を結ぶ必要がある。県はそのための前提条件として、(1)電力各社のプルトニウム利用計画の妥当性確認、(2)ウラン試験報告書に対する国の評価、(3)アクティブ試験計画書に対する国の評価、(4)トラブル事例の整理をあげている。さらに県議会、市町村での議論、県民への説明会等を行うと表明している。また、国や原燃からアクティブ試験の説明を受ける県議会全員協議会は、電事連からプルサーマル実施の確約をとり、国の評価を受けた後、2月20日頃にも開かれる見通しだ。これら一連の儀式を終えて、安全協定締結に進もうとしている。
 県知事は現在のところ「慎重姿勢」を強調している。県知事の「慎重姿勢」は、裏を返せば、プルサーマルを本当に実施するのかとの確認をとるためのものでもある。内閣府参事官の報告だけでよしとせず、わざわざ電事連を呼ぶというのもそのためだ。関係閣僚との核燃料サイクル懇談会で国のお墨付きも得て、「国が安全だと言っている」「国が核燃サイクルを進めると言っている」との使い古したセリフに重みを持たせ、一連の儀式を進めようとしている。
 しかし、「プルトニウム利用計画」は前記のように実効性がなく、電事連に確認するだけでは済まない。電事連の計画では、設置許可さえおりていない大間原発にプルトニウムを譲渡するというシナリオが含まれている。全炉心でMOX燃料を使うという大間原発の立地点は青森県である。青森県知事こそ、自らその妥当性について判断しなければならない当事者である。
 このように現実は、安全協定を結べる状況にはない。

余剰プルトニウムを一層増大させるアクティブ試験
 アクティブ試験では、430トンもの使用済み核燃料が再処理される。青森県知事が「アクティブ試験を事実上の運転開始とみなす」と言っているように、本格運転と実質的に変わりはない(本格運転では年間800トンの処理)。原燃の計画では、2007年度末までに273トンの使用済み核燃料を再処理し、それによって1.6トンもの核分裂性プルトニウムが回収される(残り157トンは2008年7月までに処理予定)。電力各社は、英仏の再処理工場で取り出された約40トン(全プルトニウム)ものプルトニウムを既に抱えている。プルサーマルが進まない中で海外分のプルトニウムさえ使い道がない中、アクティブ試験の実施は、核拡散に結びつく一層の余剰プルトニウムを生み出すことになる。非核兵器保有国でありながら、商業規模のウラン濃縮工場と再処理工場を持つのは世界中で日本だけである。国際社会からも、核拡散防止と北東アジアの非核化にとって悪影響を及ぼすと抗議の声があがっている。韓国では、昨年12月15日、韓国全土の環境団体・労働組合等67団体による六ヶ所再処理工場運転計画の白紙撤回を求める共同声明が出された。また米国民主党議員からは日本政府に対し六ヶ所再処理工場の運転中止を求める書簡が出されている。

プルサーマル反対運動も自からアクティブ試験に反対する
 アクティブ試験で回収されるプルトニウムはプルサーマルで使用されることになっている。しかし、現時点でプルサーマルの事前了解はどこでも得られておらず実施の見込みはない。
 プルサーマル第二陣として名乗りを上げた玄海、伊方、浜岡、島根の各原発の地元では、強力に反対運動が進んでいる。唯一設置変更許可申請の許可が下りている玄海原発プルサーマル計画に対して、12月25日に佐賀県主催の公開討論会が開かれた後も、ねばり強い反対運動が取り組まれている。討論会では、推進側パネラー大橋弘忠氏の「私が安全だと言っているのに理解する気があるのか」等々の住民を愚弄した発言に怒りと批判の声が集中した。会場からは「帰れ、謝れ」の激しい叫びがわき起こった。それはまさに、推進派のおごりを見せつけるものとなった。町村合併によって隣接となった唐津市では、市議会議員全員が参加した特別委員会が開かれ、安全性を中心に議論が続いている。
 大地震まで浜岡原発を止めておこうという広範な運動を背景に、中部電力は1月27日、浜岡1・2号機の運転休止を2011年まで延期すると発表した。そのような中で浜岡4号機でのプルサーマル計画には当然反対の声が根強い。周辺4市の浜岡原発安全対策協議会では、御前崎市長を除く3市長が安全協定の締結等を求め、中部電力の国への変更申請提出はいったん保留となった。島根でも、愛媛でも、プルサーマルを実施させないとの運動が進められている。これら各地の運動は、東電・関電のプルサーマルをストップさせた全国的な流れと固く連携して取り組まれている。東電・関電の運動は、MOX燃料も到着した最終段階で実施をストップさせた。現在の運動は、事前了解を結ばせないという緒戦でくいとめようと全力をあげている。これら運動の力が、現実にプルサーマルを止めている。だからこそ、電事連はプルトニウムの利用計画も現実味のない絵に描いた餅しか出せなかったのだ。
 しかし、アクティブ試験が強行されれば、そこで回収されるプルトニウムの使い道としてプルサーマルの推進が強要されることになる。それ故、各地のプルサーマル反対運動は、自らのこととしてアクティブ試験に反対する運動に合流している。

三陸の海を守れ──日常的な放射能放出を許すな
 アクティブ試験が実施されれば、日常的にプルトニウムまでをも含む大量の放射能が大気と海へ放出される。
 800トンの使用済み核燃料の再処理で、放出される希ガス・クリプトン85の放出量は、炉心の45%が溶融したスリーマイル島原発事故で放出された全希ガス量の約3.6倍にも匹敵する。青森県の人々は、毎日放射能混じりの空気を吸い込むことになる。
 海に放出される放射能は、年間47,000人の経口致死量、年摂取限度では3億3千人分にも相当する。海洋放出では濃度規制が取り払われ、トリチウムは原発の規制の2000倍以上の濃度で放出される。事実、原燃のアクティブ試験計画書には、大気中濃度の測定は予定されているが、海水中濃度測定の項目はない。このような毒物の大量放出が政府公認のもとで行われようとしているのだ。
 隣県の岩手では、豊かな三陸海岸を放射能で汚すなを合い言葉に、精力的な活動が進められている。岩手県議会では、「アクティブ試験について慎重を期すること、三陸沿岸の環境影響評価を行うことの二点を、青森県と原燃に申し入れる」請願が全会一致で採択された。同趣旨の県内署名が取り組まれ、1月25日には青森県に提出された。交渉の場で青森県当局は「音も遠くになれば聞こえなくなる」など無茶な答弁を行った。漁業者が「安全ならば陸奥湾に放出せよとの声もある」と言うと、それは「地域エゴだ」と県当局は気色ばんだ。三陸沿岸の豊かな漁場を放射能から守り、自らの生活と環境を守る生活に根ざした漁業者の声こそ、多くの人々の声である。
 青森県は1月24日の原子力施設環境放射線等監視評価会議で、六ヶ所再処理工場の運転に伴う放出放射能は問題なしと早々と発表した。問題なしと言いながら、青森県の評価でも、精米1sから毎秒90個の放射線が出る。しかし県の評価では、放射能の蓄積は考慮されておらず、海藻や魚類を通じたヨウ素の経口摂取についても無視されている。その理由を明らかにさせなければならない。

高レベル放射性廃液はガラス固化されずに危険な液状で保管
 アクティブ試験では、超危険な高レベル放射性廃液が約215立方bも生み出される。通常は安定なガラス固化体で保管されるが、六ヶ所再処理工場のガラス固化溶融炉ではその技術が未完成である。白金属元素が炉底に溜まり糞詰まり状態となり、その技術は東海村で開発試験を行っている途上にある。固化体を作れなければ、危険な液状のままで保管されることとなる。セラフィールド再処理工場では、廃液の蓄積量は200立方bに制限されている(2015年までに)。この問題だけでも、アクティブ試験などできない状況だ。

アクティブ試験反対の広範な意思を結集し、青森県知事に示そう
 アクティブ試験が開始され再処理工場が稼働すれば、まず青森県でこれまでと違う状況が生じる。取り出したプルトニウムはMOX燃料にしなければならないとMOX燃料工場の建設に拍車がかかり、大間原発では他の電力会社から譲渡されたプルトニウムでプルサーマルが行われ、核燃料サイクルが動きだしたからと使用済み核燃料の「中間貯蔵」施設の建設が進む。まさに下北半島は、そこで核燃料サイクルが回るプルトニウム半島と化すことになる。
 青森の人々は日常的にプルトニウム等の放射能混じりの空気を吸わなければならない。さらに、三陸のホタテも魚も放射能に汚染され、それらが全国の食卓にならぶことになる。
 そして、各地でプルサーマルを推進する圧力も否応なく高まっていく。反原発運動にとって、これらおぞましい近未来を許すのかどうか、その山場に差しかかっている。
 青森県内では、アクティブ試験を阻止するために新たに県内の諸団体の統一行動が開始された。なんとしてもアクティブ試験を阻止しようという強い意思からだ。農業者は、既に出ている風評被害の問題で原燃や県との交渉を続けている。岩手では、豊かな三陸の漁場をなんとしても守ろうと、海に生きる多くの人々が運動に立ち上がっている。
 この10年間、「もんじゅ」反対運動、プルサーマルに反対する運動は、核燃料サイクル政策を押しとどめてきた。全国のプルサーマル反対運動は、どこであろうとプルサーマルを許さない運動を推し進めながら、アクティブ試験反対を自らの運動として、プルトニウム利用という歴史に逆行する危険な道をくい止めるため一致結束している。
 青森の運動、放射能汚染に反対する岩手の運動とプルサーマルに反対する全国の運動から33団体が呼びかけ団体となって、青森県知事に宛てたアクティブ試験の中止を要求する要望書をまとめ、全国に賛同を呼びかけている。呼びかけ直後から、賛同の声が寄せられている。反原発運動だけでなく、反核・反戦・平和の運動に取り組んでいる団体、農業者や食の安全・環境の安全のために取り組んでいる団体や多くの個人の意思を最大限結集しよう。アクティブ試験阻止のため、この全国的な行動を成功させよう。2月10日頃に青森県知事に要望書を提出する時には、全国各地から青森県庁に出向き、人々の強い意思を県知事に示そう。