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三陸の海を放射能で汚さないで! 岩手県民の運動

三陸の海を放射能から守る岩手の会 大信田尚一郎



美しい三陸の海が危ない 越喜来湾
 1965(昭和40)年、新米の高校教師となった私は越喜来(おっきらい)分校という昼間定時制の高校に赴任しました。生徒のほとんどは半農半漁の家で、春はワカメ養殖、夏はウニやスルメイカ、秋から冬にかけてはノリの収穫で忙しく、イワシの定置網で働く生徒もいました。真冬には、アワビの口開け(解禁日)があり、学校は臨時休校、生徒達は男も女もみんな海で働きました。あれから40年。あの生徒達も、もう50代。彼らも、自分の子ども達に仕事を引き継ぐ年代になりました。同窓会での話題は海です。彼らの誰かが言いました。「センセイ、俺はマグロ船に乗って大西洋までも行ってきたが、この三陸の海ほど美しいところはなかった。この海を汚したら罰が当たる」。今その三陸の海が危ない。


宮古・気仙講演会
 私たちは三陸の海を守るための会を結成して「今世紀最大の海洋汚染」と警告する東京海洋大学名誉教授水口憲哉先生の講演会を盛岡、宮古、陸前高田で開催し90〜300人の漁民や消費者市民を集めました。さらに(1)安全が確認されるまでアクティブ試験は慎重を期す。(2)環境影響評価を行うことという私たちの岩手県議会への請願は全会一致で採択されました。


マーチン・フォーウッド氏講演会と百人委員会
 私たちはその後11月20日 《イギリスセラフィールド再処理工場の今を語る》と題してマーチン・フォーウッドさんの講演会を開催しました。盛岡の主婦2人が共同発起人となって一人1000円出資による《実行百人委員会》をめざしましたが、なんと118人もの委員が集まりました。集会終了後盛岡市内に繰り出しパレードを行いました。このニュースは大きく県内新聞に取り上げられやっと岩手県民の間に知れ渡りました。
 マーチン・フォーウッドさんの講演内容は、美しいカンブリアの海岸地帯が、再処理工場のために放射能汚染され、環境が破壊され、住民に被害が押しつけられたという内容でした。国立公園でリアス式海岸の三陸の海とカンブリアの海は、美しい海岸であることが共通しています。美しい海を平気で汚染する者への怒りが込み上げます。そして、違う点は漁業の規模と、食生活の違いです。三陸の海はイギリス人の十倍もの魚や海草を消費する日本人の食生活を支える大漁場です。この海から出荷されるサンマやサケ、ワカメやウニ、ホヤや、カキが放射能に汚染されてしまったら、東京はじめ各地で消費者の大恐慌が起こると思います。講演は、波飛沫や子どもの歯からのプルトニウム検出など驚くべき話でいっぱいでした。

佐賀県公開討論会
 「プルサーマル計画は是か非か」佐賀県公開パネルデスカッションは岩手でも注目されています。美浜の会の小山英之さんの訴えた「全国の核廃棄物が青森に集められ再処理工場から、結局三陸の海へ流される」という発言は、原子力政策の誤りを適切に伝えています。小出裕章さんの 「微粒子となって肺に吸い込んだプルトニウムはごく微量でもガンを起こす」という主張も実態を正しく伝えています。
 それに引き替え、推進派の二人の学者は何ともすさまじいことを発言してしまいました。「プルトニウムは水に溶けないので食べても大丈夫。肺を切開して埋め込みでもしないかぎりガンにならない」とホントに、彼の東大教授は語りました。「放射性毒は半減期という特性があるので、数万年の半減期のものでも安全に管理出来る」と九州大教授もタシカに語りました。素人の私でも飛沫になったり、煙になってしてプルトニウム微粒子が鼻から吸い込まれる場面はいくらでも想像出来ます。人生80年の人間が数十万年もの永年月の安全をどうやって保障するのか考えられません。こんな人達が進める日本の原子力政策の恐ろしさに背筋が寒くなりました。

青森県知事への要請
 1月25日、「三陸の海を放射能から守る岩手の会」や「豊かな三陸の海を守る会」など岩手の15団体で集めた三村申吾知事宛要請署名簿8720人分を携え、12人で青森県庁に出かけてきました。知事は不在でしたが、鹿内博、渡辺英彦両青森県議の紹介で桜庭洋一資源エネルギー課長に面談し要請が出来ました。
 13社ほどのマスコミ各社の取材する中で、桜庭課長は「岩手県民の意向は重く受けとめ知事に伝える」としました。しかし、「国の安全審査を受けている。県には権限がない」などとも発言し、「再処理工場の廃液の放射能安全基準があるなら示してほしい」という私たちの問いには一言も答えられませんでした。
 「排気ガスは、全てが人間に吸い込まれるわけではなく、廃液も海水で拡散するので、再処理工場周辺で年間0.022ミリシーベルト受ける程度だから安全である」などという係官の発言があり、一般毒物と原子レベルの体内被曝の区別もないことに唖然とさせられました。
 岩手沿岸の山田町議員の田村剛一「守る会」会長は、「越前クラゲが三陸に流れ着いて被害を与えている。六ヶ所の放射能は三陸海岸に流れ着いて、岩手のカキやアワビの体内に蓄積し出荷できなくなると予想される。私の地元では、そんなに廃液が安全というなら陸奥湾に流せばよいという意見さえ出ている。」と追及しました。これに対して桜庭課長は、「陸奥湾に流せばよいとは 国策の原子力政策に対する岩手の地域エゴである。」として色をなして反論しました。それは、本音では廃液が非常に危険な物であることを自ら認めたことを意味します。
 紹介した鹿内、渡辺両県議から「青森県にあるのだから県との安全協定がなされない限りアクティブ試験はないということは双方認める原則である」と確認され、「スケジュール先行の進め方はしない」ということも要望され終了しました。
 このニュースは即日夕方、岩手でもテレビニュースで報道され、翌日の新聞にも載りました。現地青森県に比較して格段に再処理関係の報道が少ない岩手県民にとって広く注目されるニュースとなりました。

私たちの運動の原点
 私たちの運動は、普通の市民が安全に健康に暮らしてゆくことをめざしています。2兆円ものお金を使ってしまった再処理工場と聞きました。こんな無駄はもうやめましょう。半永久的な放射能被害を三陸漁場に与えたならば、日本人の食生活は大打撃を受けます。日本人の大部分は、環境を汚して取り返しのつかない道に踏み込むなどという愚かな選択をするはずがありません。一人ひとりが反対の声をあげれば、三陸の海は守れると確信して、岩手の運動を進めています。