美浜の会ニュース No.82(6/9) |
5月30日、「もんじゅ」最高裁判決は、安全審査の対象を「基本設計」のみに限定し、その基本設計の範囲・内容も行政の裁量権にゆだね、国の安全審査に違法性はないとした。この傾向は、原子力安全・保安院や原子力安全委員会の審査では、「もんじゅ」判決前から顕著になっていた。最高裁が、これに追随したのである。 「もんじゅ」判決直後の6月3日、六ヶ所再処理工場のガラス固化体貯蔵建屋の除熱解析に誤りがあった問題で、政府は近藤正道議員の質問主意書に対する答弁書を出した。その中でも、保安院の行う安全審査は基本設計のみであり、ガラス固化体の温度は詳細設計・設工認の問題であるとし安全審査の対象外とした。そして解析の誤りを見抜けず、許可を与えた国に責任はないとしている。また、玄海プルサーマルの安全審査では、安全委員会は独自のダブルチェックさえ行わないと表明している。 このように、政府・電力会社は一体となって、初めに結論ありきで、安全性を具体的に検証することを放棄し、なんとかプルトニウム利用を形あるものにすることだけに腐心している。このように人々を愚弄するやり方でしか推進できないのが、現在の腐朽した原子力行政とプルトニウム利用の実態である。 しかし、このことは同時に、政府・電力の弱点でもある。まったく投げやりで、危険性を省みず、人々の生命をもてあそぶやり方も、もう我慢の限界に近づいている。「もんじゅ」の不当判決が、新たな怒りを呼び覚ましている。欺瞞的な安全審査の皮を一皮むけば、「もんじゅ」もプルサーマルも六ヶ所再処理工場も、その危険な姿が浮かび上がる。 英国のソープ再処理工場の大事故によって、ソープの永久閉鎖が問題になり始めている。六ヶ所再処理工場では、6月9日、またしても使用済み燃料貯蔵プールで漏えいが発覚した。2001年のプール漏えい事故後に総点検を行い、安全は確保されているとしていたのではなかったのか。大事故が起きる前に、予断に満ちた欺瞞的な安全審査に対し、プルトニウム利用の危険な実態を示し、対置していこう。それを通じて人々の不安や怒りの声を集約し、プルトニウム利用の停止へと一歩ずつ追いつめていこう。 行政のしもべと化した「もんじゅ」最高裁判決糾弾! 最高裁判決は「もんじゅ」の安全性を保証してはいない 5月30日、最高裁判所は、「もんじゅ」の安全審査に違法性はないとした不当極まりない判決を下した。名古屋高裁金沢支部の原告勝訴判決を破棄し、最高裁が自ら判断を下した。最高裁は、自ら行うべき「法律が適切に適応されているかどうか」の法的審理を放棄し、事実をねじ曲げた上で事実審理を行った。判決は安全審査の内容を「基本設計」に限るとし、その基本設計の範囲と内容については、「行政の合理的判断(裁量権)」を全てに優先させた。行政の違法をただすはずの司法が、行政のしもべと化して、「国のメンツ」を守った判決だ。最高裁は、恥を知るべきだ。 しかし同時に、この判決は、現在の「もんじゅ」の安全性を保証したものではない。安全審査の「基本設計」の中身について、ナトリウム漏れ事故に対して、床にライナーが敷設してあることのみで足りるとした。ライナーの厚みがどれほど必要か、ライナーに穴があくことはないのか等は全て詳細設計・設工認の問題として、「安全審査」の対象外とした。原告弁護団が強調したように、「安全審査は抽象論ではない」。安全審査の対象を不当に切り縮めた判決は、同時に、現在の「もんじゅ」の安全性については言及できないことを自ら露呈している。 提訴から20年目にして言い渡された不当判決は、その中身を知れば知るほど、多くの人々に、「もんじゅ」廃炉への新たな決意を呼び覚ましている。人生の多くの時間を裁判闘争に注ぎ込んできた原告団に、改めて敬意を表したい。原告団は、この20年間の闘争の上にたって、新たな運動を継続すると表明している。 核燃料サイクル機構は、3年後の運転再開に向けて「もんじゅ」改造工事に着手しようとしているが、世界は既に高速増殖炉の開発から撤退している。既に「もんじゅ」には建設・開発費に1兆円以上、事故から10年間、ナトリウムの固化防止のために電気ヒータで加熱するなどの費用に年間100億円もの税金を投入してきた。今後も血税を投入するなどもってのほかだ。「もんじゅ」廃炉に向けて、地元の運動と連帯して、新たに進もう。 玄海プルサーマル−安全委員会はダブルチェックを事実上放棄 玄海プルサーマルについて、安全委員会はダブルチェックを事実上放棄しようとしている。理由は、関電の高浜3・4号でPWRのプルサーマルの安全性は確認されているからという。高浜3・4号の安全審査では行った専門部会も設置せず、市民からの意見募集も行わず、3人の担当安全委員のみで判断するという。「もんじゅ」判決とは違って、こちらは審査の形式すら手抜きしようとしている。 これに対して、地元と全国の反プルサーマル運動が連携してけん制をかけた。全国60団体の連名で、ダブルチェックを行うよう安全委員会に申し入書を提出した。4月28日には、唐津市議会の三浦議員も参加されて安全委員会との交渉を行った。5月13日には地元団体が中心となり、佐賀県知事に対し同様の要望がなされた。安全委員会は5月17日に文書で回答し、高浜3・4号の安全審査で安全性は確認されているとして、玄海プルサーマルについての独自のダブルチェックは行わないことを表明した。この問題については、当会の小山が既に3月に質問を出し、それに対する同趣旨の回答が5月16日の安全委員会で決定されている。 当初は、九電がプルサーマルの変更申請を出してから(2004年5月)、約1年で安全審査は完了すると予想されていた。しかし、安全委員会は現在まだ答申を出せない状況にある。この背景には、安全審査の形式及び内容の問題とあわせて、地元での新たな反対の動きがある。5月10日には、地元の漁協が「プルサーマル絶対反対」を掲げ、玄海原発周辺で200隻の海上デモを行った。漁協の組合長は「30年間危険ととなりあわせで生きてきて、さらにプルトニウムという毒性の強い燃料を使うことに不安がある」と語っている。さらに、佐賀県議会では「エネルギー問題研究会」が設置され、プルサーマルが第一の議題となった。5月26日には第一回目の会合が開かれ、吉岡斉氏の講演が行われた。次は資源エネ庁が講師になるという。研究会は、今後月1回の会合を重ねるという。地元でのこのような動きが、安全委員会の早期の安全宣言をけん制している。 安全委員会は、玄海プルサーマルの安全性の根拠として、高浜プルサーマルの安全審査の内容を挙げる。しかし、その高浜の安全審査そのものに重大な欠陥が潜んでいる。第一に、高浜の安全審査では、プルトニウム・スポットはわずか1個だけが存在するという前提で審査がなされている。現実離れした話だ。玄海のMOX燃料は、コジェマ社で製造されると予想されるが、コジェマ社のMIMAS方式では、プルトニウム・スポットが多く存在することが明らかになっている。 さらに、燃焼度が4万を超えると、核分裂生成ガスが多く放出されるが、この問題については、1998年の高浜の安全審査以降、新たな論文が発表されている。MOXでは、ウランと質的に異なり、ガスの放出率の高いことが一層明らかになってきた。高浜の安全審査は、この事実を無視している(詳細は6頁参照)。 これらの安全問題に蓋をして、玄海プルサーマルの安全性にお墨付きを与えるなどとんでもない。玄海プルサーマルも伊方プルサーマルも、海外の実績と比べても、高燃焼度燃料で、プルトニウム富化度も高い危険な計画だ。島根2号でもプルサーマル計画が浮上している。国が触れられたくないこの安全性問題を、具体的に追及していこう。 六ヶ所再処理工場−ガラス固化体貯蔵建屋の虚偽解析は安全審査の対象外 日本原燃は、またも使用済燃料プールで漏えい事故を引き起こした。2001年のプール水漏れの後に総点検を行い、問題なしとしていたのではなかったのか。原燃と保安院の体質及び責任を厳しく追及しよう。ウラン試験の中止を要求しよう。 原燃は、来年1月からアクティブ試験(使用済み燃料を使った試験)を開始し、再来年5月に本格運転を行うという。そのため、ウラン試験の最終段階である総合確認試験が今年秋頃から予定されている。保安院は原燃に対し、この総合確認試験に入る前に「ウラン試験中間報告」を提出させ、総合確認試験に入るかどうかを判断するという。使用済み燃料を使った試験で施設の汚染を食い止めるためには、使用済み燃料プールの水漏れ問題の追及と、総合確認試験を中止させることが当面の焦点になる。 今年初めに明らかになった高レベル廃棄物ガラス固化体貯蔵建屋での「設計ミス」問題は、何ら解決していない。原燃は、「文献式の解釈誤り」が原因として、既に建設済みの2建屋(再処理施設内の東棟とガラス固化建屋)については、4月18日に設工認の変更申請を出し、保安院の許可が下りれば改造工事に着手しようとしている。青森県は、この改造工事が完了しなければ、総合確認試験は承認しないとしている。他の2建屋(西棟と廃棄物管理・B棟)は、工事の前提である設工認の認可がまだ出ていない段階にあり、その再申請だけで問題をかたづけようとしている。 この貯蔵建屋の問題は、「設計ミス」というより、明らかな虚偽解析である。そのことは、まだ建設されていない貯蔵建屋・西棟での設計変更に伴う問題で一層明らかになる。西棟では唯一、建屋の面積を小さくしてガラス固化体をぎゅうぎゅう詰めにする変更申請がなされた(2001年)。この変更申請によって、ガラス固化体の収納量は1.75倍になったが、収納面積と冷却空気流路幅は1.33倍にしかなっていなかった。この変更によって、冷却空気の流れが悪くなるのは一目瞭然だった。しかし原燃は、ガラス固化体の温度の解析値を変更前と全く変えなかった。原燃は、このぎゅうぎゅう詰めへの変更理由を「貯蔵の効率化」と称している。もし正直な解析をすれば、設計上限の500℃を超えるため、虚偽の申請をしたことは明らかである。 この新たな西棟の虚偽解析問題については、近藤正道議員(参議院・社民党)が5月20日に質問主意書を提出された。政府は、6月3日付で答弁書を出してきた。その内容は、保安院の審査は「基本設計又は基本的設計方針について審査を行っているところであり、より具体的な施設の安全性については、・・・設工認を行う段階で、詳細設計を基に確認」するとしている。すなわち、ガラス固化体の温度については、基本設計の範囲外であり、許可を与えた保安院の責任は問題にならないとしている。また、同様の誤りがないのかについては、「特に確認をしていない」と無責任に答えている。「再処理止めよう!全国ネットワーク」と青森県内の団体・個人も同様の質問書を4月下旬に原燃に出しているが、「まだ時間がかかる」としてなしのつぶてである。原燃に対して、回答を要求しよう。 なぜこのようなずさんな解析がまかり通ったのか、その責任はどうなっているのか、他に同様の誤りがないことをなぜ確認しないのか等々を追及していこう。国の「六ヶ所再処理施設総点検に関する検討会」は、六ヶ所村で6月にも開かれる予定である。プール水漏れ問題と、この虚偽解析問題を取り上げるよう、働きかけを強めていこう。これらを手がかりにして、ウラン試験・秋の総合確認試験を阻止する運動をつくり出していこう。 青森の隣県である岩手では、「三陸の海を放射能から守る岩手の会」が結成された。再処理工場による海の汚染に反対し、県民や漁業関係者への働きかけが始まっている。この新たな運動と連携し、人々の不安を集約していこう。 英国のソープ再処理工場でプルトニウムを含む溶液が大量流出 ソープの永久閉鎖が問題になり始めている 英国のソープ再処理工場では大事故が起きている。事故は4月中旬に発覚した。せん断・溶解された使用済み燃料20トンを含む83立方メートルもの硝酸溶液が、配管から流出した。昨年8月から配管の破損が始まっていたという。約9ヶ月間も漏えいは放置されたままだった。ソープを運転する英国原子力グループ(BNG:以前のBNFL)が発表した5月27日の内部調査報告によれば、配管の金属疲労が原因だという。しかし、なぜ9ヶ月間も漏えいが放置されていたのか等については明らかになっていない。ソープに常駐していると言われる規制当局NIIの職員が、なぜ漏えいに気づかなかったのか等、未だ調査中である。BNGは流出した溶液の回収作業を進めているだけで、復旧のめどすら立てられないでいる。 今回のソープの事故は、再処理工場で起きる漏えい事故の深刻さを示している。高レベルの放射能溶液が、密閉されたセル内であるとはいえ一端流出してしまえば、その回収だけでも非常に困難となる。また、破損した配管の取り替えも簡単ではない。さらに、ソープ再処理工場の収益を、他の老朽化したマグノックス炉の廃炉費用などに当てる計画であったが、事故によってこの計画も頓挫している。今年4月からソープ再処理工場等の所有者となった原子力廃止措置機関(NDA)は、「ソープの永久閉鎖」を口にし始めている。これらは、英国の再処理からの撤退のみならず、ブレア政権の原子力復帰政策(新原発建設)にも影響を与えるに違いない。ソープの事故は、六ヶ所再処理工場で同様の事故が起きる可能性を示唆している。 さらに、ソープでの再処理が中止されれば、日本のプルサーマル計画にも影響を及ぼす。日本の電力各社は、英国とフランスにおよそ半分ずつ再処理を委託している。九電や四電のBNFL委託分がまだ未処理であれば、それらのMOX計画は一層小規模なものとなる。わずか数回のMOX装荷のために、多くの人々の不安の声を封じ込め、危険で費用のかかるプルサーマルをなぜ進めるのかという疑問を誰もが感じるに違いない。各電力会社に対し、ソープで再処理されていない使用済み燃料がどれほどあるのかを明らかにさせよう。そして、このようなずさんな事故を引き起こす英国との再処理契約を破棄するよう要求していこう。 ソープの事故を、六ヶ所再処理工場とプルサーマルを阻止していく契機としてもとらえ、情報を共有し、英国の運動と連帯していこう。 また、5月のNPT会議のとき、これと軌を一にして、米国の「憂慮する科学者同盟」などの呼びかけで、日本政府に対する「六ヶ所再処理工場の無期限延期を要求する声明」が出された。核不拡散体制を強固なものにしていこうとする反核平和運動と反原発運動が連携する形となった。これは、日本の核燃料サイクル政策への外圧となり、国内外の人々の目を六ヶ所再処理工場に向けさせることにつながるだろう。 予断に満ちた安全審査に対し、危険な実態を具体的に対置していこう 海外の新しい状況を踏まえながら、運動に取りかかろう。それぞれの課題の状況に合わせて、具体的な安全審査を放棄した行政のずさんな実態を、一つひとつ暴露していこう。予断に満ちた欺瞞的な安全審査の皮をはぎ取り、プルトニウム利用の危険な実態を示し、対置していこう。それを通じて地元の人々の不安や怒りの声を集約し、全国的な運動と連帯していこう。 まずは、玄海プルサーマルの安全審査放棄と、安全性が確認されていない点を具体的に問題にしていこう。六ヶ所再処理工場では、新たなプール水漏れ問題と、ガラス固化体貯蔵建屋の虚偽解析の問題に焦点を当て、ウラン試験の中止・秋の総合確認試験を阻止する運動をつくりあげていこう。そのステップとして、「検討会」への働きかけを強めよう。そして、「もんじゅ」の運転再開阻止と廃炉に向けた新たな取り組みに連帯していこう。 政府と電力は一体となって、投げやりで、無責任に、ただプルトニウム利用をなんとか形あるものにすることだけに腐心し、人々の生命をもてあそんでいる。腐朽したプルトニウム利用を、その停止へと一歩ずつ追いつめていこう。 |