関電、配管管理に新たな手法を導入=「見かけ上の減肉」
「測定点のずれ」を理由に「減肉なし」とし、配管管理の手抜きに腐心


 関西電力は5月11日、福井県原子力安全専門委員会に「美浜発電所3号機2次系配管の点検結果について(第3回報告)」を提出し、その「抜粋版」をホームページに掲載した(以下第3回報告)。
 この第3回報告は、単なる点検結果の報告ではない。「抜粋版」全40頁のうち、「添付資料−5 これまでの点検結果に基づく考察」が29頁と7割もの分量を占め、関電はこの「考察」の中で、2次系配管の「見かけ上の減肉」という新しい考え方(概念)を展開している。この「見かけ上の減肉」の導入こそが、第3回報告の主要な内容と言ってよい。
 関電は「減肉率」という計算上の数値にのみ着目して、点検結果を「実質的な減肉」と「見かけ上の減肉」にふるい分けている。一方、実際の測定値は軽視された。その結果、第3回報告書は、@炭素鋼配管では「その他部位」の減肉率は小さかった、Aステンレス鋼配管では明らかな減肉は認められなかった、と結論づけている。逆に言えば、このような結論を導き出すために「見かけ上の減肉」を導入し、減肉を「実際には減肉ではない」ものにしてしまったのである。
 日本機械学会が2005年7月を目途に策定を進めている配管管理の新たな規格では、「その他部位」は管理対象外とされ、ステンレス鋼配管は基本的な管理の枠組みには含められていない。上記@Aの結論は、このような機械学会の考えに沿うものとなっている。また関電は、このふるい分けの結果について、「機械学会へのデータ提供」を行うとしている。「見かけ上の減肉」の狙いは、機械学会に点検箇所削減の「根拠」を提供することにもある。

余寿命5年未満(次回定検時)の配管の4割近くが「見かけ上の減肉」

図1:第3回報告(5月11日)より作成
 関電は「見かけ上の減肉」かどうかのふるい分けを行うにあたって、余寿命5年未満(次回定検時)となった箇所(104箇所)を選び出し、これのみを「分析」の対象としている。104箇所の内訳は、「主要点検部位」が45箇所で「その他部位」が59箇所である(図1)。関電は、これらの部位に対してふるい分けを行った結果、「主要点検部位」については17箇所(約38%)、「その他部位」について22箇所(約37%)が「見かけ上の減肉」であるとしている。余寿命の短い配管のうち実に4割近くが「実際には減肉ではなかった」ということになる。
 また、関電の点検結果整理票には、減肉とは逆に配管の肉厚測定値が時間と共に大きくなっている「肉太り」とでもいうべき奇妙なデータが多々見られる。関電は、この「肉太り」データをそのまま採用して、余寿命を長くしている。そして、関電の分析対象104箇所に、これら「肉太り」箇所は含めていない。

減肉率が大きくなっている「その他部位」は全て「見かけ上の減肉」
 また、関電は減肉率の分布をグラフとして示し、減肉率毎の「見かけ上の減肉」の箇所数を拾い出している(図2・図3)。これを見ると、減肉の激しい箇所ほど「見かけ上の減肉」だったことになる。特に「その他部位」については、減肉率が比較的大きくなる箇所(0.5×10-4mm/h以上)はすべて「見かけ上」のものということにされてしまっている。


図2:第3回報告(5月11日)より作成


図3:第3回報告(5月11日)より作成


「見かけ上」の理由は「測定点のずれ」。これではどんな減肉でも「測定点のずれ」を原因にできる。

図4
 関電は第3回報告の中で、「見かけ上の減肉」となる原因を3つ挙げており、中でも「測定点のずれ」を大きな理由としている。図4を見て欲しい。「測定点のずれ」とは、実際の測定点が(1)→(2)→(3)というように、形状変化部で肉厚の薄い方へずれたというものである。しかし、測定点が実際に移動していたという証拠があるわけではない。関電は、「シンニング部※の近くで減肉しているのだから、おそらく測定のずれが原因だろう」などという憶測に基づいて、これを「見かけ上の減肉」としているだけである。このような手法がまかり通るのであれば、減肉傾向を好き勝手に「測定点のずれによるもの」にしてしまうことが可能になってしまう。また、「見かけ上の減肉」があるのであれば、「見かけ上の肉太り」も同じ確率で存在するはずである。しかし関電は、このような「見かけ上の肉太り」については一切考慮に入れていない。さらに、測定点がずれるとしたら、それ自体が大きな問題である。検査の度に違った場所を測定していたのでは、正しい減肉率も余寿命もまったく把握できない。4割近くもの配管が「見かけ上の減肉」だという関電の主張に従えば、配管検査における肉厚測定には何の信憑性も置けないことになる。
※シンニング部とは、溶接継ぎ手の段差をなくすため、溶接する配管同士の内面を勾配をつけて削る加工を行った部位のこと。

測定点が一斉に同じ方向にずれたという奇妙な関電の主張
 第3回報告は、「測定点のずれ」について1つだけ点検結果整理票を例示している。この例に即して、関電のデタラメぶりを見てみよう。
 整理票では、測定点Aの4回目(第21回定検2004.08)の肉厚測定の結果が全周方向で急激に小さくなっているため、減肉率が比較的大きなものとなっている(図5)。これに対して関電は、「シンニング加工部の測定点のずれなどにより過大な減肉率になっている」と断定している。当然「測定点のずれ」が生じていたという証拠は何一つない。それどころか、測定点Aの測定値を見ると、配管の全周8方向すべてで大幅な減少を示している。「測定点のずれ」でシンニング加工部のより薄い方向へずれる可能性があるならば、同じ確率でより厚い方向へずれる可能性もあるはずである。ところが検査箇所Aでは、8箇所すべての測定値が同じような幅で減肉しているのである(8方向すべてで12mm〜14mm減少)。関電の説明に従えば、検査箇所Aでは8箇所すべてで、測定点が管厚のより薄い方向へ一斉にずれたということになる。このような偶然が起こることは確率論上ありえない。


図5:第3回報告(5月11日)に掲載された点検結果整理票から該当箇所を切り出したもの


ステンレス配管での減肉も「見かけ上の減肉」。ステンレス配管での減肉を絶対認めない関電
 美浜3号機では、蒸気発生器ブローダウン水回収管の45度エルボ部で計算必要厚さを割り込むような大幅な減肉が確認されていた。この配管は、基本的に減肉は発生しないとされていたステンレス鋼製である。点検結果整理票を見ると、激しく減肉していることがわかる(図6)。関電は2月14日のプレスリリースで、当該配管については取替えると発表していた。
 ところが、第3回報告の「別添−5」では、破壊検査の結果「減肉の兆候は認められなかった」と結論づけ、検査結果が大幅な減肉を示していたのは、基本的に「測定点のずれ」によるものだったとしている。ステンレス配管での減肉も「見かけ上の減肉」だったというのである。
 しかし、関電の説明は明らかにおかしい。点検管理票に記載された4回の測定値は、円周上のすべての測定点について、一様に減少傾向を示している。つまり、関電の説明に従えば、測定の度に、シンニング加工部のより肉厚の薄い方向へと都合良く測定点が移っていったということになる。こんな偶然はありえない。


図6


「見かけ上の減肉」で配管管理の手を抜くな!
 以上見てきたように、「見かけ上の減肉」とは、彼らが認めた典型的な「減肉」像に合致しないような測定値については、恣意的な理由をこじつけ「減肉ではない」と決めつけ、現実の測定値を無視することである。そもそも、余寿命の短い配管の検査結果をわざわざ「分析」して、「見かけ上の減肉」をふるい分ける必要がどこにあるのか。配管の交換・補修を極力減らし、検査を簡略化するが目的であることは明らかである。「見かけ上の減肉」なるものが持ち込まれれば、現実の減肉は見逃され、美浜3号機事故を繰り返す危険性が増大することは明らかである。第3回報告は、「自社の他発電所の点検計画への適切な反映を行う」と記し、「見かけ上の減肉」を他の原発にも押し広げるような意図を表明している。安全性無視・効率最優先の危険な「見かけ上の減肉」という新たな管理手法を許してはならない。