3/18保安院と交渉
被災者切り捨て、関電トップ免責の「最終報告書(案)」に批判集中


 保安院の美浜事故「最終報告書(案)」をめぐる市民との交渉が、3月18日午後2:30〜5:00、参議院会館で、近藤正道参議院議員の紹介により開かれた。市民は東京・新潟・静岡・京都・大阪から8名、保安院からは検査課森下班長と防災課白神班長が参加した。ポイントに絞って紹介する。(投稿:ふくろうの会S)

■被災者救出の可能性など検討しなくともよいとの姿勢
 関電は事故発生時に、配管破断により被災者が出ていることを確認した後も、被災者救出のために必要な、蒸気を隔離する操作をなかなか行なわなかった。これに対し保安院は「最終報告書(案)」で、「被災者は事故発生直後に被災していると推測できることからすると、運転員が流出量を低減させる操作を行ったとしても、必ずしも事故被害の低減に直ちに結びつくものではなかったと考える。」としている。交渉では、どうせ止めても助からなかったからいいのだというこの保安院の評価に批判が集中したが、「(蒸気が)出てしまった後ですから」を繰り返した。

 市民側:運転操作に被災者救出という観点が欠落していることを認めますか。
 保安院:運転マニュアルには被災者云々は書いていませんから。
 市民側:運転操作の中で考慮はできなかったのか。それは問題ではないか。
 保安院:それを取り上げて問題視していません。一気に出てしまった後ですから。

 交渉の別の場面で保安院は、今回の事故を想定したマニュアルはなく、蒸気を隔離する操作は当直長の判断によると回答している。マニュアルにしても運転員の判断にしても、事故時の運転操作に被災者の救出という観点が欠落していることは明らかである。これを批判し二度と被災者を出さないように監督すべき保安院が、被災者救出の観点から運転操作の検討を行なうことそのものを無駄だと切り捨てる姿勢をとっている。市民側はこの部分の記述を削除するよう要求した。

■関電が美浜3号機の事故配管のリスト漏れをいつ知ったのかもわからず
 配管のリスト漏れの経緯について質した。関電は、事故の約1ヶ月前に大飯1号機の主給水管の大幅減肉を確認し、これの対応として関電若狭支社が追加点検部位の抽出を指示し、美浜3号機の事故配管が未点検であることを美浜発電所が確認したと「最終報告書(案)」に記している。しかし、指示は主給水系配管についてであり、これによりなぜ美浜発電所が復水系の事故配管について確認を行ったのか、なぜその結果を若狭支社に知らせなかったのか、といった点が疑問になっている。しかし交渉はそれ以前の問題で引っ掛かり、保安院は、関電報告の上記の記述を確認しておらず、関電がリスト漏れを知ったのは事故後ではないかと述べるありさまであった。これでは事実関係の把握という、事故調査のいろはの「い」もできていない。保安院は減肉についても、実態を把握するための調査を拒み、おざなりな調査で都合のいい結論を導いていた。このような姿勢で、まともな原因究明や再発防止策などできるはずがない。交渉の場で保安院は、大飯1号機の「新事実」について、事実関係を確認し結果を明らかにすることを約束した。

■福島第一原発5号機の配管余寿命延ばしはまるで他人事
 東電が福島第一原発5号機において、余寿命が1年以下の部位を確認しながら、1年以上運転を継続した件について、保安院は「最終報告書(案)」で「これは、従来の事業者の管理方法の問題点を示唆するものである。」と記しているが、当時保安院自らが下した評価については一切書かれていない。保安院は昨年9月の段階で、この事例を確認しながら運転継続を容認し、10月に福島県から問合せを受けると、自ら配管の余寿命を引き伸ばす理屈を立てて福島県に対抗していた。保安院は関電の余寿命伸ばしを批判しているが、東電の事例については、同じことを保安院が行なっていたのである。また10月の保安院の見解は、東電の評価の土台を否定するものであった。技術基準を無視し、判断基準をぐちゃぐちゃにしたのは保安院の側である。交渉で市民側は、保安院の行為についても評価し、反省を記載するよう要求した。この件の担当者である保安院の検査課森下班長は、「そう言われてしまえば、身も蓋もない。」を何度も繰り返すだけであった。

■経営トップの「安全第一」はホームページにある口先だけのものと認めるが…
 技術基準不適合の常態化について、保安院の「最終報告書(案)」は、「安全第一という関西電力(株)の方針とは裏腹に、現場の第一線では、定期検査工程を優先するという意識が強かったことを示すものであった。」と責任を現場に押し付け、経営トップを免罪している。

 市民側:安全第一と言っていたのは、どこで誰が言っていたのですか。
 保安院:ホームページにも出ていますけど、言っていますよね。
 近藤議員:まさにトップ免責の論理そのもの。こんなものは通用しないですよ。
 保安院:そういう意識はないし、むしろ現場は一生懸命定検をやろうと思ってやっていたと。
 市民側:電力自由化の中で徹底した効率化をやっている。トップのそういう姿勢が浸透していくのは当然ではないか。
 保安院:安全第一と言いながらアクションを起こすことをやっていなかったのが問題。
 市民側:それはどこにも書いてないですね。保安院がこういうのを出せば関電はすぐに、保安院さんが言っているとおりトップは安全第一でした、現場はこうでしたと…。

 保安院は、経営トップの安全第一がホームページに出ているだけの口先だけのものであることを認めた。しかし、「最終報告書(案)」はどうひっくりかえしてもそのように読みとる事はできない。保安院は今後書き加える部分だとしたが、市民側は全面的に書き直すことを要求した。

■指針の概念はがらりと変わる…事故にかこつけた検査合理化の布石
 交渉は、保安院が通達で出した減肉管理の暫定指針にも及んだ。そこで保安院は、これまでのPWR指針の管理の概念を変えていると明言した。

 市民側:暫定指針ですが、「その他部位」が…
 保安院:そういう概念で見てはダメです。「その他部位」とか「主要系統」とかいう概念は引きずっていません。
 市民側:基本的に概念を全部がらりと変えるということですね。
 保安院:そうです。減肉が発生しやすい場所というのを選びなさいと。
 市民側:(それ以外については)電力にまかせるわけですね。20年で10%でもいいわけですね。
 保安院:それで管理されるならいいですよ。

 従来は、偏流発生箇所を減肉管理の対象とし、それを主要系統とその他部位に分けて、それぞれの管理方法を決めており、その他部位でも10年で25%を点検することになっていた。しかし今後は、減肉発生箇所だけを対象とし、残りの部分については10年間の中期計画さえ立てれば電力の自由にするというやり方で、原則的に管理の対象からはずそうとしていることが明らかとなった。これでは、従来の指針よりも後退し、電力の裁量で検査の箇所をいくらでも減らすことができるではないか。事故にかこつけての点検の合理化をこのようなやり方で減肉管理についても行なおうとしている。機械学会での動きを含めて監視が必要であろう。