美浜の会ニュース No.80 |
日本原燃は1月14日に、六ヶ所再処理施設と廃棄物管理施設にある5つのガラス固化体貯蔵設備のうち、4設備の冷却機能に関する解析をやり直すよう原子力安全・保安院から指示され、1月28日に「解析ミス」を認めて公表した(本当は、原燃は12月21日のウラン試験開始より前の17日及び24日に、解析に問題があるという認識をホームページで公表している。原子力資料情報室の調査によれば、22日に保安院から原燃に「照会」がいったという)。 三村青森県知事と古川六ヶ所村長は、1月31日に国会内に中川経産相を訪ね、国による「厳正な審査」を要請した。青森県の自民党県連も2月12日に中川経産相に同趣旨の申し入れをするという。さらにこの問題は、2月15日の県議会全員協議会で議論されることになっている。 他方、再処理施設では、昨年12月21日からウラン試験が開始されている。日本原燃は1月14日の指示を受けた後、15日から17日まではウラン試験を中止した。問題になったガラス固化施設がウラン試験と関係ないかどうかをチェックするためという、わけの分からない理由によってである。しかし1月18日から再開し、21日からは劣化ウランの入った模擬燃料棒を切り刻む本格的な試験に入り、現在もまだ続けている。 一昨年から昨年3月にかけては、使用済み核燃料貯蔵プールの穴あき問題で、原燃の品質保証体制と「再処理施設の健全性」が問題になった。総点検の結果、昨年3月に保安院は、「再処理施設が設計通りに適切に施工されている」ことが確認されたとし、「再処理施設の健全性」が成り立っていると判断して、ウラン試験に入ることを認めた。しかし、今回発覚した設計に係る問題は、昨年3月の評価で前提とされた設計の無謬性が成り立っていないことを示している。設計上の欠陥が再処理施設に内包されている可能性が新たに浮上した。 それゆえ、原燃にはウラン試験を行う資格もないとことになる。この問題を広くアピールし、ウラン試験をただちに中止するよう要求する運動をつくりだしていこう。 1. 原燃の「解析ミス」の本性 ―― 建設費が膨れあがるという背景のもとで ―― この問題の重要性は、原燃のいう「解析ミス」をどう捉え、その本性をどう規定するかにかかっている。「解析ミス」とは実は、確信犯的な虚偽であったとしか考えられないのである。 原燃の「解析ミス」は、高レベル廃液ガラス固化体貯蔵設備で起こった。ガラス固化体貯蔵設備は、再処理施設に3設備、海外からの固化体を受け入れ貯蔵する廃棄物管理施設に2設備が予定されている。そのうち、廃棄物管理施設の既設A棟は、平成3年の申請に基づく設計に従って建設されており、すでに固化体が貯蔵されている。今回の問題は、残りの4設備について、平成8年に設計に関する変更申請がなされたときから始まっている。 ガラス固化体1本には、原発の使用済み核燃料1トン分の放射能(ウランとプルトニウムを除く)が濃縮されて含まれる。再処理施設内の3設備に収納される約8,200本の固化体には、日本の全原発から排出される放射能の約10年分が含まれることになる。その放射能の出す膨大な崩壊熱を奪うような冷却機能が貯蔵設備には要求される。冷却に失敗して固化体の温度が500℃を超えると、固化体は軟化し、ひび割れを起こして安全上の問題が生じる。 この冷却は空気冷却で、後の解説で示すように、外部から入り内部の固化体貯蔵ピットを通って再び外部へと抜ける空気の流れに依存している。すなわち空気の流路が形成されているのだが、その流路は同時に、固化体が発する放射線(ガンマ線と中性子線)が通り抜ける通路にもなる。それゆえ、空気冷却機能と放射線防護とは二律背反の問題となっており、この矛盾の妥協点として、空気流路に迷路板を置く措置がとられている。結局、空気の流れ具合、したがって冷却の度合いは迷路板に依存することになる。 さて、原燃が平成8年の変更申請で設計変更したのは、まさにこの迷路板の位置と構造(及び材質)であった。その結果、空気流路が狭まることは一目瞭然であり、固化体の温度が上昇することは、計算するまでもなく明らかだった。変更前には固化体中心温度が430℃だったが、変更後では設計上限の500℃を上回ることが容易に予測されたはずである。事実、今回の解析やり直しで、430℃は624℃にもなることが明らかになっている。このことが設計者に分からなかったはずはない(もし分からなかったとすれば、それはそれで恐ろしいことだ)。そして事実、元請会社の課長は、圧力損失(空気の流れを弱める抵抗力)が4倍になると認識していたことが原燃の1月28日付け報告書に書かれている。ところが実際には、迷路板を無視するような解析を行い、固化体温度を変更前とまったく同じ数値にして変更申請を出している。 明らかに虚偽の申請であり、これが「解析ミス」の本性なのだ。こうなることは設計変更する時点で分かっていたはずなのに、なぜ設計変更したのだろうか、その動機が問題になる。それは「施工性を高めるため」と説明されているように、工事費を削り、工期を短縮するためだった。結局、「施工性を高める」ために設計変更したが、正直な解析では固化体温度が設計上限を超えるため、空気流路に迷路板がない場合の断面を採用して、解析を意図的にごまかしたのである。虚偽申請はまさに確信犯である。 この背景には、再処理工場の建設費高騰問題がある。建設費は当初8,400億円と見積もられていたが、工事開始から3年目のまさに平成8年にはなんと1兆8,800億円と発表された。その頃から、こんな膨大な費用がかかる再処理に対し批判の声が強まっていった。そのために、再処理施設の設備全体で大幅な経費削減に迫られた。今回のガラス固化体貯蔵設備の設計変更もそのような流れのなかで起きたに違いない。 事実、この変更申請がだされた平成8年には、再処理施設で全体的に大幅な経費削減が図られている。たとえば精製施設では多くの機器が削除され、高レベル廃液貯蔵タンクなどの削減も行われた。このような傾向が、ガラス固化体貯蔵設備でも「解析ミス」という虚偽へと導いたに違いない。そうなると、すべての設備で、同様の虚偽がないかどうかが問題にされなければならない。 2.政府の許可は取り消されるべきだ 誰が見ても虚偽の解析結果を含む変更許可申請が、国の安全審査でもまったく無批判にパスし、許可されていた。このような許可は当然取り消されるべきである。 当会も含む「再処理とめよう!全国ネットワーク」は2月1日に、この問題で保安院に申入書を手渡して交渉した。その席で保安院は、少なくとも詳細設計に係る設工認の誤った申請を認可したことは間違いであったと明確に認めた。 ところが、基本設計に係る変更申請の許可については、固化体温度のような問題は詳細設計の範疇であるので、保安院や原子力安全委員会に責任はないと主張した。貯蔵設備の空気冷却設備は「安全上重要な設備」に選定されているのに、そのような無責任が通用するのだろうか。具体的な審査内容から見ると、次に記すように、固化体の温度評価などは審査とけっして無関係ではないことが明らかになる。 例えば、廃棄物管理施設の増設B棟の基本設計審査に関する保安院の平成15年5月付安全審査書15?16頁においては、「この時のガラス固化体温度の計算値は表面で約320℃、中心部で約470℃となるとしている。・・・。これらの評価は、適切な計算方法及び計算条件により行なわれており、妥当なものであると認められる。・・・。したがって、本変更における貯蔵ピットでのガラス固化体の貯蔵時の冷却に対する考慮は、妥当なものと認められる」と記述している。このような具体的な数値を含めて安全委員会の審査を受け、平成15年12月に経産省によって許可されている。 また、平成3年5月の廃棄物管理施設A棟の審査のときは、当時の科技庁が安全審査書で「ガラス固化体の温度解析等について、申請者とは別途に評価を行い、その妥当性を確認した」(46頁)と述べている。つまり、基本設計であっても、行政庁が独自の解析を行ってチェックしているのである。 しかし、A棟以外の4設備については、基本設計の審査において独自の解析をすることもなく、誰が見ても奇妙な虚偽の解析結果がまかり通ったという無責任ぶりだったのである。それどころか保安院は、「段階的規制」を行うから審査で見逃しがあっても大事はないと開き直った。例えば、今回の問題の場合、ガラス固化体貯蔵設備を使用する前に、発熱する模擬固化体を入れて温度を測る試験をするからその時点で欠陥が分かるという。この試験の性能には強い疑問があるが、それよりも、自らが原燃の虚偽を見逃したことの責任逃れをするために「段階的規制」を持ち出すなどは言語道断ではないだろうか。保安院がこの問題について真摯な姿勢をもつのであれば、なにはともあれ、まずは問題の起こった設備についての許可・認可を取り消すべきである。そればかりか、他の施設・設備で同様の虚偽が行われていないかどうかを点検すべきである。 ところが、保安院はこの問題を何事もなかったかのごとく扱うことにやっきになっている。まずは、昨年12月17日段階でこの問題の存在を原子力安全基盤機構から知らされたにも係わらず、それを青森県に知らせることなく、21日のウラン試験の開始を待ってから原燃との打ち合わせに入っている。そして今度は、1月28日の原燃の記者会見では、原燃は早くも問題の迷路板設計に関して修正する設工認申請を提出する方針まで打ち出している。こんなことが保安院の了承なしにできるわけがない。 それどころか、青森県知事までが、原燃のこの方針をいち早く了承する意向を示した。六ヶ所村長とともに1月31日に中川経産相に会って「厳密な審査」を要望したのも、この修正設工認の審査時のことだった。政府と原燃ばかりか青森県までもがぐるになって無責任を決め込み、ウラン試験の継続を強行しようとしているのである。 3.ウラン試験を中止させよう 昨年3月に保安院はプール問題に終止符を打ったが、その際、総点検によって「再処理施設の健全性」について、「再処理施設が設計通りに適切に施工されているという点から設備及び建物の健全性が、現時点において全体として確認されている」と評価した。この評価に立って、ウラン試験に入ることを認めたのである。 しかし今回は、前回では正しいと前提にされていた設計について疑義が生じたのである。原燃は今回のミスは「文献式の解釈誤り」だと称して、延べ約8,900の式に解釈誤りがないかどうかチェックしたと主張しているが、この点検では今回のような誤りがないことが確認されたことにはならない(後の解説参照)。それどころか、設計に係る同様の虚偽が広く存在している可能性さえ浮上したと見なければならない。したがって、昨年3月の保安院の論理に立つなら、原燃がウラン試験を行う資格は消滅したというべきである。 ところで原燃は、今回再処理施設について問題が発覚したのはガラス固化施設であり、いまウラン試験を行っているのはそれとは「切り離されている」別の施設なので、ウラン試験はこのまま継続しても差し支えないと主張している。しかし、ガラス固化施設も他の施設もつくったのは「切り離されて」いない同一体の原燃である。とりわけ、現在でもウラン試験の対象になっている精製施設では、平成8年の変更申請で大幅な機器の削減が行われている。そこで設計に係る今回のような虚偽がないかどうかが厳密に再点検されるべきである。すべての施設・設備について、総点検がなされるべきである。 原燃はウラン試験の最終段階ではガラス固化施設もからむことは認めており、それより前に迷路板の修正設計を片付ける必要があると言っている。しかし、そもそもガラス固化施設では、ウラン試験に入る前に終了していることが前提条件となっている化学試験が、未だに継続中なのである。青森県は、なし崩し的にウラン試験に入ることを許し、ウラン試験安全協定を締結したが、今回の問題が起こった以上、安全協定は直ちに凍結されるべきである。 青森県の人たちは、このような原燃や国や県の姿勢に憤りを強め、その姿勢を追及することに新たな意気込みを示している。当面は2月15日の県議会全員協議会が追及の舞台になるだろう。またMOX工場をめぐる原燃の説明会でも、この問題をとりあげて社長の態度を具体的に問題にしている。 当会も含む「再処理とめよう!全国ネットワーク」は青森県の団体・個人とともに、1月28日に原燃が記者発表すると同時に、原燃と保安院に抗議文を出し、青森県には要請書を提出した。2月1日には改めて3者に対し、ウラン試験を中止するよう申入書を提出した。原燃と保安院とは提出時に内容に立ち入って交渉した。さらに、2月14日には問題の第14回「六ヶ所再処理施設総点検に関する検討会」が開かれる。この検討会は、プール問題のときに設置されたもので、プール問題と原燃の品質保証体制について相当に詳しく検討し、我々もそこに何度も要望書を出して介入したが、結局は昨年3月に保安院の見解を妥当として容認したといういきさつがある。「再処理とめよう!全国ネットワーク」は、その14日の検討会に向けて、2月9日に要望書を提出した。その中では、検討会としてウラン試験の中止勧告を出すよう、強く要望している。 いまこそこの問題で原燃と国の責任を追及し、ウラン試験の中止を求めていこう。青森県がウラン試験の中止を求めるよう働きかけを強めよう。 当会はグリーン・アクションと共催で、2月20日に、美浜事故問題とともにこの問題で学習・討論会を開催する。そこでは、鎌仲ひとみ監督作成のビデオ「六ヶ所村通信No.1」も上映する。関西ではそこをウラン試験中止に向ける運動の新たな出発点にしたい。ぜひ多くの人たちが参加されるよう呼びかけたい。 |