(解説)
六ヶ所・ガラス固化体貯蔵設備での「解析ミス」の本性


 いま問題になっているのは、高レベル廃液ガラス固化体の貯蔵設備に関して、日本原燃が平成8年の設計変更の際に犯していた「解析ミス」である。ここでは、それがどのようなミスであるのか、その本性は何かを具体的に見ていこう。  

1.ガラス固化体の放射能
 ガラス固化体は右図のように、ステンレス製キャニスタに入れられており、高さ134cmである。固化体1本の中には、原発の使用済み核燃料1トンに含まれる放射能のうち、ウランとプルトニウムを除くほとんどすべてが入る。100万kWの原発を1年間運転して生じる放射能は30本のガラス固化体の中に入る。再処理施設内の3貯蔵設備には約8,200本が入るので、日本の全原発が産み出す放射能の9〜10年分が貯蔵されることになる。
 その放射能が出す膨大な熱を空気で自然冷却するのであるが、原燃はその空気冷却の性能を誤って判断していた。固化体の中心温度は、最も高い場合で624℃にもなるのに、それを430℃と偽って申請を出していた。設計上の上限温度は500℃であり、600℃にもなると、固化体は軟化しひび割れて、地下の超長期貯蔵には耐えられないものとなる。そのままそこに永久貯蔵するか、偽って運び出す以外に手がなくなる。

2.ガラス固化体貯蔵設備
 日本原燃の貯蔵設備は、下表のように、再処理施設内に3設備、海外からの返還固化体を貯蔵する廃棄物管理施設内に2設備ある。そのうち、すでに固化体を受け入れているA棟については、平成3年の設計のままで施工されており問題はなかった。その他の4設備については、平成8年に設計変更が申請され、すでに政府から許可が下りていて、KAとKBE設備はすでに施工が完了している。KBWとB棟については許可は下りているが、まだ詳細設計に関する設工認の申請中で、認可はまだであった。

ガラス固化体貯蔵設備を有する建屋一覧(日本原燃2005年1月14日発表)

 そのうちB棟の第2回設工認申請が昨年10月に出されている。その空気冷却性能について、原子力安全基盤機構が独自の解析を行って日本原燃の解析誤りを発見し、原子力安全・保安院が解析のやり直しを1月14日に指示したのである(実は、原燃は昨年12月17日及び24日に、この問題の存在をホームページで認めている)。日本原燃は1月28日にミスを認めたが、それと同じ解析間違いは再処理施設内の3設備でも共通に存在しているのである。

3.貯蔵設備の空気冷却
 貯蔵設備内の貯蔵ピットでは、固化体は右図のように、9本を積み重ねて収納管に入れられている(KA設備だけは7本)。収納管と通風管の間の空気は、固化体の放射能の熱で暖められ軽くなって上昇する。この熱自体が空気の流れをつくる原動力であり、冷却空気の流れによって固化体は自然冷却される。
 冷却空気は、下図に示すように、外部から右側の入口シャフトを通って取り入れられ、固化体貯蔵ピットの下部に入り、各通風管を通って上部に抜け、集まって左側の出口シャフトから外に出て行く。つまり、空気の流路が存在している。
 ところが、その空気流路が同時に放射線の流路にもなるというやっかいな問題がある。固化体が発するガンマ線や中性子線が、空気流路の壁で反射されながら外部にまで通り抜けるのである。これら放射線を遮断するためには空気流路を狭めなければならないが、そうすると空気の流れが悪くなり、冷却性能が落ちるというジレンマに直面する。
 この矛盾の妥協点として、空気流路には下図のように「迷路板」が取り付けられている。放射線は迷路板によって直進を妨げられるが、同時に空気もそこで狭い流路でのジグザグ行進を余儀なくされる。この制約条件の下では、空気冷却の性能は、迷路板の構造にかかっているのである。
 迷路板は流路の入口側と出口側に取り付けられている。その取り付け位置などが平成8年の変更申請によって変更されたのである。右側の旧設計では、入口シャフトと出口シャフトに各2枚がひさし状に水平に付けられているが、左側の新設計では、貯蔵ピットの入口と出口の狭い流路に3枚ずつ垂直に付けられている。その部分の立体図を見ると、空気はそこで横向きにジグザグしながら進むことが分かる。新設計では旧設計より相当に狭い空気流路になること、従って空気の流れが悪くなり固化体温度が高まることは一目瞭然である。



4.原燃の解析ミスとは、その本性
 では、原燃が犯した解析ミスとはどのようなものだろうか。本質的な誤りを一口で言えば、変更後の冷却空気の流れを計算する際に、迷路板の存在を無視したのである。上の迷路板の図で、流路が狭くなっている断面S2及びS3から断面積を求めるべき文献の式があるのに、迷路板がない部分のS1をもって断面積とした。これを原燃は「文献式の解釈誤り」と呼んでいるが、「解釈誤り」など生じようのないことは明らかである。
 では、なぜこのような設計変更をしたかと言えば、それは「施工性を高めるため」だという。コンクリート製のひさしを水平に付けるのは難しいが、垂直に板を付けるのは比較的易しいからである。しかし、そのように変更すると、固化体の温度が上がるのは、設計者には計算するまでもなく一目瞭然であったに違いない。実際、空気の流れを妨げる抵抗力(「圧力損失」)が変更前の4倍になるという元請会社の課長の証言が原燃の報告書に書かれている。ところが、ルーバーが無くなるから大丈夫だろうと判断したというのだから、まったくずさんなことである。
 結果的には、固化体の中心温度と表面温度を設計変更前とまったく同じ値にして申請している。もし、まともな解析をしていれば、今回のような「施工性を高める」設計は不可能だったのである。だから逆に、「施工性」が圧力となって、すなわち工期と工費を縮小するために、虚偽の解析、虚偽の申請に導いたとしか考えられない。すなわち今回の「解析ミス」の本性は、意図的・確信犯的な虚偽であったというべきである。
 誰が見ても直感的におかしいと分かるような元請会社の「解析ミス」を、原燃は丸呑みしたというが、むしろ真実は、一緒になって「施工性を高めた」ということだろう。それを裏付けるように、再処理施設に関する同じ平成8年の変更申請では、大幅な合理化が行われている。精製施設で機器が大幅に削除され、高レベル廃液貯蔵建屋と高レベル廃液ガラス固化建屋が統合され、廃液貯蔵タンクの数が相当に減らされている。すなわち全体的に経費削減が図られている。このような傾向が、ガラス固化体貯蔵設備にも押し寄せたことは想像に難くない。
 この虚偽の申請を行政庁が無批判に容認し、原子力安全委員会もそのまま認めていたのである。

5.再処理施設の健全性は確認されたか
 では次に、このような「ミス」が再処理施設の他の設備にないことを確認したと原燃は言っているが、それは本当だろうか。
 原燃が行ったチェックは、延べ約8,900の式を対象とし、まずそれが「検証された計算式か」をチェックした後、「解釈に誤りの恐れがあるか」を検証している。そこで調べたのは例えば、円環構造の場合の式を角形構造に適用する場合に解釈間違いがなかったかどうかを確認するということだ。しかし今回問題になっている主な誤りは、そのような誤りではなく(そのような誤りも含まれているとは言え、本質的にはそうではなく)、単に迷路板を無視した場合の断面積を計算式への入力値にしたというだけのことなのだ。
 さすがに、原燃もこの点では良心がとがめたのか、問題があると一応は見なした4件の式の場合に、解釈間違いだけでなく、「入力値に問題がないことを再確認した」と述べている。ここでは「解釈間違い」を問題にしているのに、わざわざ「入力値に問題がない」ことを確認したというのは、まさに今回の誤りが入力値の問題であることを再確認しているに等しい。
 結局、今回のような迷路板を無視したのと同じような誤りがないかどうかは、4件を除いて、残りの約8,900件については検証されていないということである。これでは、「再処理施設の健全性」が確認されたことにならないのは明らかだ。さらに、工期と工費の短縮は他の設備にも及んでいる。全ての設備の健全性が改めて検証されなければならない。
 それ故に、すべて健全性を確認したとの前提に立って続けているウラン試験は、ただちに中止すべきである。