美浜の会ニュース No.77
[数値等を一部訂正 6/17]


 六ヶ所再処理施設のウラン試験が目前に迫ってきている。劣化ウランの未照射燃料棒を切り刻んで硝酸で溶かし、別に用意した劣化ウラン溶液も用いて施設の中を通す試験である。これによって施設のほぼ全体が劣化ウランという放射能で汚染されてしまう。新たな原子力長期計画(長計)の策定論議も始まろうとしているいま、そこで六ヶ所再処理の行方自体も問題になろうとしているのに、なぜウラン試験を急ぐのだろうか。せめて新しい長計が出るまでの約1年後まで凍結できない理由は何もない。ウラン試験の実施をいま許すのかどうかが、核燃料サイクル全体から見ても、差し迫った問題の焦点になっている。
 6月6日に、六ヶ所再処理、バックエンド・コスト、プルサーマル、中間貯蔵施設等の問題に取り組んでいる青森から九州までの人たちが集まり「全国会議」を開いた。ウラン試験の凍結が、その会議で最重要の共通課題であり活発な議論が行われた。翌7日には、これらの問題で経済産業省と原子力委員会(近藤委員長等3名の委員)との交渉が行われた(別紙報告参照)。
その会議と交渉結果を踏まえ、地元と全国が連携してウラン試験の凍結を求める運動を進め、同時に、核燃料サイクルを問題にする大きな連帯の中で、各々の独自課題に取り組んでいこう。

ウラン試験に移行できる条件は未だ整っていない
 ウラン試験を行うためには、青森県及び六ヶ所村と日本原燃との間に安全協定が締結されている必要がある。この点、青森県の蝦名副知事は6月3日に、ウラン試験で想定されるトラブル事例を原燃が事前に県民に説明しておく必要があるとの考えを示した。この発言は、プール不正溶接等の問題意識を引きずっていて、ウラン試験に慎重な姿勢を示しているかのように一見受け取れる。しかし、このトラブル事例はすでにプール問題検討会の中で原燃から出されており、原子力安全・保安院も基本的に容認している内容なのであり、その面では形式的手続きの域を出ない。原燃は、早速6月11日に、修正ウラン試験計画書とともにトラブル事例集を公表した。
実は、我々が注目すべきなのは、トラブル事例という言わば作り事よりも、ウラン試験を実施するための条件が実際にどれだけ整っているのかという点である。このことは「化学試験からウラン試験への移行条件」としてウラン試験計画書にも書かれている。
 その内容や化学試験報告書(その1、その2)及び6月7日の交渉で原子力安全・保安院の青木氏に確認した点などから、移行条件の現段階について次のような重要な注目点が浮上してきた。
(1) 安全協定の締結はウラン試験へ移行するための前提条件である。
(2) 「建屋毎の確認事項」として、「化学試験の各項目が終了していること」、「不適合等の措置がなされていること」がある。ところが、これらについて次の点が問題になる。
 [1]化学試験報告書は昨年12月まで分の「その1」に加え、今年5月末までの「その2」が6月14日に報告された。これらの報告にある不適合について原子力安全・保安院の承認がないとウラン試験に入れない。さらに、ガラス固化施設の化学試験は1月に開始されて実施中であり、遅れていたBP施設の化学試験は6月から開始されたところである。
 [2]「その1」で報告されていた化学試験に係る不適合は2件ある。2件中の1件(第2酸回収系の配管の改造)は再試験を実施したと「その2」で報告されている。
 [3]上記2件中の残りの1件の不適合は、「臨界安全に係る施錠弁に関する計算機ソフトウエアの改造」に関してである。化学試験報告書(その1)表−12によれば、臨界管理分析項目(ウラン濃度、プルトニウム濃度)のうちの一部の項目で監視用の制御盤に表示されないものがあった等の問題である。臨界安全に係わるきわめて重要な問題として、6月10日付毎日新聞の1面でも紹介された。ところが、この重要な問題の再試験は、ウラン試験前までに行うのでなく、次のアクティブ試験開始までに行うという。事実、ウラン試験計画書の25頁に、「臨界安全に係る施錠管理がシステムとして問題なく機能すること」が確認事項として今年の3月16日に付加されている。化学試験での不適合がウラン試験の中にまで持ち越されたことは明らかである。劣化ウランでは臨界になることはないというのが理由のようだが、試験は段階毎に確認することが原則とされているため理由にならない。しかも臨界という本質的に重要な不適合なのに、このようなことが許されてよいのだろうか。
 [4]化学試験に直接関係しない不適合も含めると、まだ工事等の終了していない不適合が67件も残っており、そのうち56件はウラン試験開始までに終了させるという。残りの11件(前記臨界安全の1件を含む)はウラン試験以降に持ち越すという。つまり、化学試験段階での不適合11件を抱えたままウラン試験に入るとしているが、こんなことが許されてよいのだろうか。 
(3) ウラン試験を行うために必要な保安規定が認可され、それに係る規定・基準類が整備されていることが必要である。ウラン試験は3つの区域に区切って行われ、保安規定の変更はその都度に行えばよいことになっていると保安院の青木氏はいう。その保安規定の最初の変更申請はすでに提出されているが、まだ承認は出されていないので、この面でもまだウラン試験には入れない。
(4) では、最初の保安規定変更申請が承認されたら、そこの区域のウラン試験を開始してよいのだろうか。保安規定だけで言えば、開始できない理由はなくなる。しかし、そのような部分的な保安規定の承認だけで、はたして安全協定を締結してよいのかとの疑問が生じる。安全協定は施設全体の安全を前提として結ばれるはずのものである。保安規定の、他の2つの区域に関する2回の変更はまだ後で申請されるのであり、それらが承認されるかどうか分からないのである。それなのに、あたかも承認されたかのような扱いをして安全協定を締結することはできないはずだ。
 要するに、化学試験の段階で浮上した問題が未解決であり、保安規定もまだ整備されていないため、ウラン試験に移行できる条件は未だ整っていないということである。
現在の運動は、これら移行条件の一つひとつを具体的に的確に捉え、厳しく監視する必要がある。ガラス固化施設などで現在継続中の化学試験は「今年10月までに終了する」という(6月15日付デーリー東北)。少なくともその時点までウラン試験の安全協定は締結できないはずだ。
ところが他方、蝦名副知事は原燃に対し、ウラン試験で予想されるトラブル事例の県民への説明を求めており、6月17日に六ヶ所村で実施される予定である。これはウラン試験実施を前提にした行為であり、安全協定の締結を急ぐためだと考えられる。6月20日ごろに県議会で案の説明、7月末ないし8月初めに安全協定の締結というスケジュールが予想されている。しかし前記のように、いまはとても安全協定案が提起できる段階にはない。このことを県民に訴え世論を高めよう。
地元では、風評被害などを問題にした新たな運動が農業者を中心に起こっている。その動きの中で、来るべき安全協定の条項が、単に頭によってではなく現実の生活基盤から批判され、実際に被害にあう広範な人たちの中に議論を巻き起こすように問題にされ、それらの議論が安全協定の内容に対する批判として集約されていくことに期待したい。

六ヶ所再処理工場に経済的合理性はない
 いま、六ヶ所再処理工場の行方がこれまでにないほどに広く問題にされている。大きな新聞記事を我々は頻繁に目にしている。その背景には、電事連が行ったバックエンド費用の試算がある。
 バックエンド費用は全部で約19兆円であり、そのうち六ヶ所再処理工場分は11兆円で約60%を占めている。原発の発電単価は5.6円でLNG火力の6.4円と比べて遜色ないという。これらは本格的な電力自由化を控えて国民負担を求めるために、やむなく電事連が初めて明かした数字である。実は19兆円は、原発の発電単価をLNG火力程度に抑える必要から逆算した数字であって、実際にはその3倍程度になるのではないかと見られている。六ヶ所再処理工場の建設費が当初の3倍に膨れ上がったことを見ても、とてもフル稼働などできそうにないことからも、十分あり得ることである。プールの不正溶接等や、その対応の仕方からも、日本原燃に対する信頼度は地に落ちている。
 19兆円は余りにも膨大な額であり、これを国民負担させるのは無謀である。しかも、この費用には第二再処理工場の費用がまったく含まれていない。もし六ヶ所再処理工場と同程度を見込めば、さらに約11兆円が上乗せされる。その国民負担まで言い出せるような状況にはない。
 バックエンド費用の試算の中では、使用済み核燃料のうちの半数を六ヶ所で再処理することになっている。残りの半数は貯蔵しておくが、全量再処理という建前が生きているとした場合、いずれは第二再処理工場に持ち込むのだという仮想が成り立つ。この点、6月7日の経産省交渉では、第二再処理工場がいつ建つかはまったく決まっていない、2060年ではなく2400年かも知れないと役人も認めた。要するに実際には、第二再処理工場は影も形もないのである。
 そうすると、なぜ40年間だけ六ヶ所再処理工場を動かすのかが必然的に問題となる。膨大な費用負担を国民に強制し、膨大な放射能をばら撒くことの合理性は何もない。六ヶ所再処理工場の経済的合理性は、長計の中で検討されるはずだが、まずはワンススルー(直接処分)とのコスト比較が最初になされるべきであろう。その結果は、長計議論の行方に大きな影響を及ぼし得るような基礎となる。
 この点、6月7日の経産省との交渉では、資源エネ庁の2人は口をそろえて、コスト比較は長計で行われるように聞いていると断言した。これは経産省では常識になっているらしい。同日の原子力委員会との交渉では、近藤委員長は口をにごしたが、木元委員は、私はコスト比較はやるべきだと思うと明言した。
 間もなく始まる長計策定会議の中で、再処理路線とワンススルー路線とのコスト比較が行われるのは必至の状況であると言える。近藤委員長は「タブーなき議論」をと言っているが、それは提案されたことは検討することだと、6月7日の交渉の場で説明した。
 このようなときにウラン試験を行うことは、解体費を跳ね上げるだけでなく、その既成事実によって長計策定会議での議論に制約をかけることになりかねない。この面からも、ウラン試験は凍結すべきである。

プルサーマルの準備作業を中止せよ
 昨年8月5日の原子力委員会決定によって、再処理とプルサーマルとのリンクが明確にされた。日本は余剰プルトニウムをもたないことを国際的に示すために、プルトニウムの使い道を明示すること、その使い道はプルサーマルしかないために、プルサーマル計画で具体的に使えることを電力会社は示すべきだと指示された。
現在海外に約33トンの核分裂性プルトニウムがある。これを2010年までにプルサーマルでどれだけ消化できるのかと7日の経産省交渉で聞くと、そのような計算はしていないという。実際には、電事連の計画どおりPWRで予定の8基がすべてプルサーマルを実施しても、2010年までには7トン程度しか消化できない(MOX集合体1体中28kgの計算)。BWRではそれより少ないので、どう頑張っても消化は全部で8トンに到達しない。そこに2006年頃から六ヶ所再処理工場分を加えるのは、余剰プルトニウムを持たないという原則に反することになる。
 この点を6月7日の原子力委員会交渉で糾すと、驚くべき答えが返ってきた。木元委員は、昨年8月5日の原子力委員会決定は、実は決定ではないという。IAEAで12年間仕事をしたという町委員は、「IAEAは日本のプルトニウムの状況をちゃんとした道具で厳密に調べているから」、すぐに使わなくも国際社会の信頼を損なうことはないという。さらに事務局は、プルサーマルについて「現長計の中で16〜18基で進めることを期待するとは書いてありますけれども、具体的にどこで何をやれとは書いていませんので、それは基本的に事業者の問題と思います」と明言した。なんと、プルサーマル推進は国策ではなかったのだ。関電は、もっぱら「国策ですから」プルサーマルをやるんだというが、ただの影を見ていたということになる。
 いずれにせよ、再処理の行方が不透明ないま、プルサーマルの準備作業は中止すべきである。

中間貯蔵施設計画を中止せよ
 6月6日の「全国会議」には、中間貯蔵施設問題を抱えるむつ市、小浜市、及び和歌山県から参加があり、九州からも報告が行われた。むつ市の中間貯蔵施設をめぐっては、第二再処理工場の目途もないのにすぐには承認できないとの姿勢を県知事が示しているため、早く推進したいむつ市との対立が表面化している。
 経産省交渉で我々は、第二再処理工場が影も形もないのに、「中間」などと言って人々をだまして誘致するのはやめさせてほしいと主張した。この問題の議論は時間切れになったため、これだけで再度交渉をもつことに経産省も合意した。

 以上のような情勢を踏まえ、我々は六ヶ所再処理工場のウラン試験を凍結させるために地元の運動と連携し、支援するとともに、全国的に連帯した力で政府や長計策定会議に働きかけていきたい。さらに、プルサーマルという独自課題で、九州・四国の運動との連携を密にして反対運動を強化していこう。