美浜の会ニュース No.76


 3月26日、関西電力は、フランスのコジェマ社とMOX燃料製造契約を結ぶと発表した。3月中に「基本契約」を締結し、年内に「本契約」を結ぶ。輸入燃料体検査申請の許可を得て、製造を始める。2007年にもプルサーマルを開始する。今回の契約は、MOX燃料16体分で、高浜3・4号機でそれぞれ8体づつ使用するという。定期検査の時期に合わせ、3号機、4号機にそれぞれ装荷し、いっきに2機の原発でプルサーマル開始を狙っている。
 関電はまもなく、コジェマ社の販売担当会社であるコモックス社、元請け会社の原子燃料工業との3社間で、MOX燃料製造の「基本契約」にサインする。
 高浜原発プルサーマル阻止の運動は、いよいよ第二ラウンドに入る。次の運動の焦点は、年内の「本契約」を阻止し、燃料製造をストップさせることにある。この間の成果を引き継ぎ、態勢を整え、コジェマ社でのMOX燃料製造を阻止する新たな運動を開始しよう。

関電・国によって周到に準備されたプルサーマル再開シナリオ
 関電のプルサーマル再開は、関電と保安院、原子力委員会、安全委員会によって、そして福井県知事を巻き込んで、周到な準備のもとに進められてきた。もちろん、資源エネ庁、経産省、政府全体の大きな力が背景にある。
 関電は、昨年10月23日、「MOX燃料調達にかかわる品質保証活動の改善報告書」を国・福井県等に提出した。保安院は、1月中旬に高浜原発や関電本社に立入調査を行い、2月5日、関電の「改善報告書」を妥当とする「評価書」を発表した。これで、MOX燃料契約に進むことにお墨付きを与えた。この保安院の「評価書」は、至る箇所で関電の品質保証活動が不十分であると指摘しながら、MOX契約に進むことを認めるという極めて政治的なものであった。保安院は結局、私たちが出した質問書に答えることはなかった。
 保安院は、その「評価書」を2月5日の原子力安全委員会で報告した。さらに10日の原子力委員会では、BNFL事件当時データねつ造はないと言い続けた関電の桑原氏が、品質保証活動の改善策について報告した。町委員は「海外加工メーカーの品質保証体制の確認は、契約締結前にやるべきではないのか」とわざとらしく質問し、桑原氏はそれに応えて、「2段階契約」という言葉こそ使わなかったが、それに沿った内容を説明し、布石をうった。この「2段階契約論」は、2月20日の福井県との交渉の中で、安全対策課の寺川参事が語った言葉である。寺川氏は「まず基本契約を結び、製造に入る前に本契約を結ぶと、関電から聞いている」と述べた。しかし関電は、私たちの質問書に対しては、「契約形態は未定」の一点張りで、ひた隠しにした。
 また同日の原子力委員会で木元委員は、「一般の方々の中には、問題があったのだから燃料として安全でないと解釈する人もいる。不正はあったが安全性に問題はなかったと表明してもいいのではないか」と挑発的に核心にふれる質問をした。これは、私達が保安院に出した質問事項そのものである。桑原氏は、待ってましたとばかりに、「技術的に安全というだけでなく、信頼感も必要」と、慎重姿勢を匂わせた。しかし、この答えの核心は、BNFLのデータねつ造燃料が技術的には安全だという従来の姿勢を変えないことの表明だ。
 福井県の安管協は、通常は1月開催であるが、今回は保安院の「評価書」が出た直後の2月9日に開催された。保安院と関電の桑原氏が出席し、議題はもっぱらプルサーマル。保安院と関電は手を取り合って、関電の品質保証活動は改善されたと報告。委員の吉村さんが、関電が11月26日付の福井新聞に出した2面全面広告を批判すると、「品質保証がまだ十分ではないにもかかわらず、完全であるかのように書いてあるというご指摘だと思いますが」と、質問の意味を素早く察知し、「その後、保安院のご指摘で改善しているから問題ない」と居直った。保安院は「関西電力の判断ですから問題ない」と踏み込んだ発言をし、エールを交換するほどの蜜月ぶりだ。
 高浜町長は、3月5日の町議会で、関電の品質保証体制についての判断は、「国、関電の地域振興策を見極めた上で判断したい」と発言した。町長は判断を先送りし、関電の契約は4月以降にずれ込むと一部では報道された。これに対し、福井県と関電は町長に圧力をかけたという。
 また、高浜町長が「安全委員会の評価も判断材料」と記者会見で話すと、こんどは11日の臨時安全委員会は、保安院の評価を妥当とする見解を突然発表した。
 このように、関電、保安院、原子力委員会、安全委員会は、福井県当局、高浜町長を巻き込んで、3月MOX契約に向けたシナリオの中で、それぞれの役割分担をしながら突き進んでいった。私たちの質問書や申入書には一切答えることなく握りつぶした。
 そして最終仕上げが、福井県知事による了承表明だった。

もっぱら関電のスケジュールを優先させた福井県知事
 福井県の西川知事は、3月15日午前10時30分、県議会の休会日に突然記者会見を開き、関電がMOX契約に入ることを了承すると発表した。私たちとグリーン・アクション、脱原発ネットワーク福井が、この日10時から予定していた記者会見にぶつけるようにである。そして、20日(土)、祝日であるにもかかわらず、知事は福井県庁に関電を呼び、正式に了承を伝えた。この知事の了承発表にいたる過程も、極めて異様だった。全てが3月中のMOX契約という関電のスケジュールにあわせて進められた。
 西川知事は、県議会の議論においても、県民に対しても、関西電力のプルサーマル計画再開に対する自らの見解を一度も述べることなく、いきなり15日に了承を表明した。県議会の最終日である17日、積極推進の自民党県議ですら、「議会での議論をさけるために15日に表明した」と批判するほどである。さらに当初は、高浜町長の意向を聞いて判断すると言っていながら、町長の表明(3月16日)に先立ち、独断的に了承を表明した。
 公開討論会を開くようとの県民や関西市民の声も無視した。県民の声を聞くべき知事が、ただ関電と国の声だけを聞いた。西川知事は、了承を表明した後、プルサーマル導入で県民の生命を差し出し、新幹線誘致に奔走した。
 関電は、地元で公開討論会を開くという約束も反故にした。カネにものを言わせ、プルサーマル推進の虚偽宣伝を行っただけである。
 MOX契約了承は、このように全て秘密裏にコソコソと進められてきた。このことは同時に、再開プルサーマルの大きな弱点でもある。「県民合意などない」「市民の声を聞いていない」という形で、多くの人々の怒りと批判・不安の火種を残した。

詐欺まがいの保安院−全体の品質保証は不十分で書き直しだが、MOXの品質保証は十分
 保安院の2月5日付「評価書」にはさらに大きな問題がある。政府は昨年10月1日に法令を改訂し、保安規定に品質保証活動の項目を追加した。そして品質保証活動の技術基準として新たにJEAC4111-2003を定め、安全規制の目玉とした。全電力会社は12月末までに保安規定の変更申請を出すこととなった。保安院は「評価書」で、この新たな安全規制に照らしても、関電のMOX燃料調達に関する品質保証体制は改善されたと表明した。
 ところが、3月22日、保安院は全電力会社に通知文書を出し「申請された保安規定変更許可案は極めて画一的なものであり、原子炉による災害の防止上の観点から十分なものではないと判断する」と厳しく指摘し、書き直しを命じた。保安院の原子力発電検査課に電話で確認すると、「この保安規定は、品質保証に関する基本方針であり、MOX燃料調達業務に関する品質保証も、その保安規定に含まれている」という。
 発電所全体の品質保証の「基本方針」である保安規定の書き直しを命じておきながら、その一部分であるというMOX燃料調達に関する品質保証については早々と合格点を与えた。全く詐欺まがいの行為である。保安院は2月5日「評価書」を撤回すべきである。保安院の責任は重大だ。

電事連・政府一体となったプルサーマル巻き返し
 電事連と政府は、一体となってプルサーマルの巻き返しを強めている。九州電力は予定を前倒しして2008年度までに玄海原発でプルサーマルを開始するため動き始めた。四国電力も今年中に地元に申し入れを行おうとしている。日本原電の場合は、露骨だ。福井県知事が、関電MOX契約と同時に発表した敦賀3・4号炉増設許可に対し、日本原電は、まず来年3月までにプルサーマルの事前了解願いを得たいと表明した。その後、増設予定の敦賀3・4号炉は再び運転開始時期を延期すると発表した。日本原電としては、2008年度中に敦賀2号炉でプルサーマルを開始することが先決だということだ。
 他方、東電のプルサーマル計画は今のところ展望がない。福島県知事は、23日、「プルサーマルは拒否する」と改めて表明した。海外での再処理によるプルトニウム約30トンのうち、その1/3を保有する東電のプルサーマルが再開しなければ、本格的にプルサーマルが復活したとは言えない。電事連も政府もそのことは承知している。そのために、九州電力、四国電力のようにわずかなプルトニウムしか保有していない電力会社を第2陣として進める以外に手がないのも実状である。
 経済産業省は、2月12日、電源3法交付金の支給方法を改定し、「プルサーマル危険手当」で推進をはかろうとしている。これまでは通常の原発と同じだと宣伝しておきながら、それもかなぐり捨てる。MOX燃料で発電が開始されれば、発電量を3倍に換算して交付金を算出する。使用済みMOX燃料の貯蔵に対しては、通常の2倍の交付金を出すという(1トンあたり40万円を80万円に)。搬出先のない使用済みMOX燃料に対する「核のゴミ手当」である。
 これらの巻き返しは、昨年8月の原子力委員会決定の「核燃料サイクルについて」、10月のエネルギー基本計画に基礎をおいている。また、原産会議は2月24日、原子力長期計画の改訂にあわせ、「提言『向こう10年間に何をすべきか』」を発表した。その中で、既存原発の経済性最優先の運転、プルサーマル、六ヶ所再処理工場、「中間貯蔵」施設推進を最重要課題と位置づけている。
 これら巻き返しの最先頭に立っているのが関電のプルサーマルである。

プルサーマル復活の衝動力──溢れかえる使用済み燃料対策
 電事連・政府が、ここまでプルサーマルに固執する衝動力は一体何か。それは、原発サイトで溢れかえる使用済み燃料対策である。
 使用済み燃料の搬出先は、六ヶ所再処理工場の燃料プールと「中間貯蔵」しかない。六ヶ所再処理工場の燃料プールでは約300カ所の不正溶接が見つかり、少なくともすぐには搬入できない状態にある。日本原燃と保安院は、この不正溶接問題についても、原因を一切明らかにせず、ウラン試験開始に向けて、準備を始めている。とにかく不正溶接問題にケリをつけ、ウラン試験を開始することで、再処理工場稼働に道をつけ、使用済み燃料搬入を狙っている。もちろん、六ヶ所プールだけでは足りないため、東電・関電は「中間貯蔵」施設建設のため血眼になっている。
 しかし、六ヶ所再処理工場のプールにしろ、「中間貯蔵」にせよ、搬入した使用済み燃料が「核のゴミ」では引き受け手がない。そのためには、プルサーマルの実績を積んで、「核燃料サイクルが動いている」こと、使用済み燃料は「再利用のための有効資源」であることを示さなければならない。プルサーマルと六ヶ所再処理工場、「中間貯蔵」を3点セットで進める以外に道がない。
 原発サイト内の使用済み燃料プールの状況は逼迫している。最も際だっているのが、東電の福島第2原発だ。特に3号機では、通常の燃料交換の半分しか、プールの空きスペースがない。関電の高浜原発も、あと1.6回の定検の燃料交換でプールは満杯になってしまう。そのため、リラッキングというぎゅうぎゅう詰めとプールの共用化によって窮状をしのごうとしている。だが、それでも数年先には満杯になる。
 青森県むつ市をはじめ、「中間貯蔵」推進攻撃もまたすさまじい。福井県の小浜市議会では、関電系列会社出身の議員が先頭に立ち、24日に「中間貯蔵」誘致決議を強行採択した。小浜市民の1/3以上の1万4千名もの反対請願署名の声を踏みにじり、わずか3千4百の推進署名と議会内の数の力にものを言わせた、まさに暴挙である。和歌山県の御坊市議会では、「中間貯蔵」の名を伏せて、「調査特別委員会」を設置した。
 「中間貯蔵」の強引な推進攻撃、六ヶ所再処理工場のウラン試験の強行策動等に見られるように、90年代後半のプルサーマル推進の時期と比べて、使用済み燃料問題は一層逼迫している。だからこそ電事連・政府は、しゃにむに計画を進めてくる。さらに、一度失敗している分だけ、「二度と失敗は許されないプルサーマル」として用意周到に進めている。
 このことは同時に、プルサーマル反対、六ヶ所再処理工場反対、「中間貯蔵」反対を鮮明にして、それぞれの運動が一層深く結びついて進んでいけば、大きな打撃を与えることができることを示している。

コジェマ社との本契約を阻止しよう
 関電プルサーマル反対運動の次の焦点は、コジェマ社との「本契約」を阻止し、MOX燃料製造をストップさせることにある。
 関電はコジェマ社を契約先としたことについて、「製造能力、実績、経営力などを総合的に勘案した」結果だという。もちろん、基本的には、再開プルサーマルの契約先が、あのデータねつ造事件のBNFLでは、福井県に受け入れられないという事情があった。
 しかし、コジェマ社の「製造能力」は極めて低い。河原の石のようなゴロゴロとした大きなプルトニウム・スポットができてしまう。これがコジェマ社の「製造能力」であり、あのBNFLよりもMOX燃料の品質は劣る。関電のプルサーマル計画は、燃焼度やプルトニウム富化度の点において、海外の実績と比べて遙かに危険なものである。その危険なプルサーマルで、大きなプルトニウム・スポットのある劣悪な燃料を使用すれば、事故の危険性は一層大きくなる。
 また、コジェマ社には、様々な疑惑がついてまわっている。コジェマ社は、米国の核兵器解体プルトニウムを使ってMOX燃料を製造する契約を昨年8月12日に米国エネルギー省と締結した。この契約では、地震に耐えられない等の理由で、許可を取り消されたカダラッシユのMOX工場で製造するという。関電は昨年秋の私たちとの交渉で、この件については、コジェマ社が契約先になれば調査すると述べていた。しかし、このことについては契約前に回答することを拒否している。
 2001年12月に関電は、当時コジェマ社のメロックス工場で製造していたMOX燃料の製造を中止すると突然発表した。関電は、その理由を何ら具体的に示していない。当時、フランス政府のプルトニウム持ち込み許可が出る前に製造を始めたのではないかという疑惑についても、関電は具体的な説明を一切拒否してきた。60億円もの賠償金をコジェマ社に支払いつつ、自らの責任は一切ないと居直り続けている。関電とコジェマ社の関係は、このように既に暗い影を引きずっている。
 さらに、コジェマ社は、フランスの核兵器産業の根幹をなす会社である。核兵器の材料であるプルトニウムを提供し続けてきたのが、コジェマ社である。まさに「死の商人」だ。フランス政府は、軍事部門と民事部門を一体化して、独自の核政策を進めてきた。フランス原子力庁(CEA)の予算の約4割が核実験関係であり、残りが原発・再処理工場・MOX工場等々の予算である。コジェマ社の親会社アレバ社は、その株式の約8割をCEAが保有している国有企業である。このような会社と取引を行うことそのものが道義的に許されるものではない。
 このように、コジェマ社との契約には、現時点でも既に多くの問題点がある。これらを今後具体的に明らかにしていこう。

全国の運動と連帯し、関電プルサーマルの第2ラウンドに取り組もう
 いよいよ関電プルサーマル阻止の第2ラウンドが始まった。
 まずは、コジェマ社との「本契約」を阻止するため、コジェマMOX燃料の危険性、暗い影を引きずる関電とコジェマ社の疑惑等々を徹底して暴いていこう。関電のデタラメなプルサーマル推進宣伝を批判していこう。その一環として、関西と福井の市民は、関電の新聞広告が虚偽広告だとしてJARO(日本広告審査機構)に申し立てた。関電プルサーマルの危険性を多くの人々に伝えるための準備にとりかかろう。
 県知事の了承に反対して、この間、グリーン・アクション、脱原発ネットワーク福井、原発設置反対小浜市民の会等と共に、度重なる県への申し入れや、小浜市・敦賀市での講演会、関電交渉等を行ってきた。また、インターネットを通じて呼びかけた福井県知事宛のメールは、多くの人々の協力を得て、3週間あまりで全国から518通も寄せられた。反原発運動だけでなく、環境問題、ジェンダー問題、反戦・平和運動に取り組む人々にも知事宛メールは広がり、プルサーマルへの関心が広がっている。このような多くの人々に、関電プルサーマルの危険性を訴え、運動の輪を大きくしていこう。
 新潟、福島はもちろんのこと、新たにプルサーマルが狙われている九州等のプルサーマル反対運動と連携を密にして取り組もう。六ヶ所再処理工場のウラン試験反対、「中間貯蔵」施設反対の各地の運動と連携していこう。
 年内のコジェマ社との本契約阻止に向け、準備を開始しよう。