東電・福島T−1 法令で定められた50倍ものアルファ核種を放出していた 東電は保安規定違反、法令違反、法律違反(原子炉等規制法違反) 国は20万円の罰金さえ課さなかった 国・東電一体となった異常な放射能放出の責任を追及しよう |
福島原発T−1号機のアルファ核種汚染・被ばく問題は、昨年(2002年)9月に届いた、「排気筒から異常な放射能が放出されていた」という内部告発が発端でした。福島・新潟・東京・関西の14団体が共同して国に対して質問書を提出し交渉を行ってきました。 昨年12月の保安院交渉後に提出した質問書に対し、国は3月18日付で回答してきました。回答の趣旨は、排気筒から放出されたアルファ核種は「周辺監視区域外の許容濃度の1万分の1程の小さなものであり、なんら問題なし」と言うものです。 しかし、今回の保安院の回答、同時に公表された東電「保安規定」、当時の法令等を検討した結果、国の回答は全く欺瞞的なものと思われます。排気筒での測定値が、周辺監視区域外の許容濃度を上回ってはならないというのが法令の原則であり、東電の社内規定にもそのことが明記されています。 東電は自らの保安規定に違反し、法令にも違反し、原子炉等規制法にも違反しています。原子炉等規制法では、今回の場合のように限界を超えた放出には、罰則までついています。しかし国は、東電の「異常なアルファ核種放出」を隠ぺいし、自らが定めた法律違反であっても何らの罰則も課しませんでした。隠し通せばいいとたかをくくっていたのでしょう。そして「内部告発」によって明らかになると、「1万分の1以下、だから1万倍放出しても問題なし」という論理破綻をきたす小細工を弄して、この問題に蓋をしてしまおうとしているのです。 東電の原発が全て停止する中、運転再開を強引に目論む現状において、福島アルファ問題は、再度、東電と国が一体となって、法律違反まで隠ぺいしていたというその体質を明らかにし、運転再開反対の運動の一助にもなると思われます。 また、国内の労働者被ばくの約5割が福島原発での労働に帰因するという圧倒的事実からしても、このアルファ汚染・被ばく問題は重要な意味を持ちます。闇に消された被ばく労働者達が、そして今でも消えることのない健康被害に苦しむ人々が、高濃度のアルファ核種に汚染された状況で被ばくしていた事を事実でもって明らかにする仕事へと通じます。さらに、プルトニウムを放出しなければ運転できない六ヶ所再処理工場の運転を阻止する運動とも連携するものです。 「排気筒から異常な放射能が放出されていた」という短い内部告発は、東電・国の法律違反という確信犯的な犯罪まで、私達に伝えようとしていたのだと、改めてその重要性を感じています。同時に、労働者被ばくを許さない、プルトニウム汚染を許さないという普遍的問題提起を含んでいるものです。 今回は、排気筒からの放出問題に絞って、保安院の回答を批判しています。この問題を突破口に、東電と国の責任を、具体的にねばり強く追及していきましょう。 1.保安院の「アルファ核種放出は1万分の1」は得手勝手な暴論 「1万倍放出しても法令上も安全上も問題なし」は正式見解か明らかにせよ 東電が福島T−1号機の排気筒から放出したアルファ核種の濃度は、東電文書「松葉作戦」に記載されているもので3×10−13μCi/cm3でした。これは管理区域の許容濃度の2倍です。その後東電が公表したグラフでは、最大値は1×10−12μCi/cm3で、管理区域の許容濃度の6倍以上、周辺監視区域外の許容濃度の約50倍にも達していました。昨年12月の交渉で、原子力安全保安院・安全審査課の水元氏はしきりに「敷地境界でのアルファ核種の濃度は、敷地境界での許容濃度の1万分の1である。そのため排気筒から1万倍のアルファ核種が放出されても法令上も安全上も問題なし」と繰り返しました。 (1)「1万倍放出しても法令上も安全上も問題なし」は国の正式見解か そのため、質問書では「1万倍放出されなければ、法令違反にならない。1万倍放出できる」という発言内容は国としての正式見解であるのかと尋ねました。保安院は、3月18日付の文書回答で、「1万倍放出できる」とストレートには答えていません。しかし「空気中の濃度限界の1万分の1程度であり、十分に低いことを説明したもの」と、事実上、水元発言と同じ内容の回答となっています。また、「1万分の1」という数値は、「気象指針」を用いて「地表面」濃度を採用した計算結果だと答えています。 (2)水元・保安院の論理は逆立ちしている。建屋内の1万倍の汚染を認める暴論 排気筒からの放射能放出は、排気筒で測定・監視しなければならない 保安院の手法はこうです。まず、敷地境界での空気中濃度を「気象指針」を使って、さらに「地表面濃度」を計算することによって、非常に小さな値にしてしまいます(高さ約100mの排気筒から、風に流されながら放射能は拡散します。排気筒高さの上空の濃度と比べて、地表面では1万分の1程度になります)。これによって排気筒から1万倍のアルファ核種が放出されても問題なしとするのです。これではまるで、排気筒からの放出を、敷地境界の地表面濃度で管理する事と同じであり、逆立ちした論理です。そのため水元氏のように、建屋内も単純に1万倍の汚染を認めるという、とんでもない話になっていくのです。このように、水元・保安院の見解は、異常なアルファ核種の放出があっても問題なしとするための暴論です。 (3)「気象指針」は原発の平常運転時被ばく線量評価の基礎となる計算方式にすぎない 地表面濃度を採用する法的根拠を聞いているのに、回答では「気象指針では地表面濃度を計算するとされている」と答をはぐらかしています。しかし次に述べるように、排気筒からの放射能放出に関する法令では、周辺監視区域外の放射能濃度について、「気象指針」を使用して「地表面濃度」を採用するなどとはどこにも記載されていません。 また、原発の平常運転時における被ばく線量の計算は、安全委員会の「発電用軽水炉型原子炉施設周辺の線量目標値に対する評価指針」を使って行われます。その場合、気象条件を考慮に入れて空気中濃度を計算するための評価方式が「気象指針」です。その際「評価指針」は、地表面だけでなく放射能雲全体からの被ばく量を問題にしています。地表面濃度だけではないそのような評価方法は、「気象指針」の付記で指示されています。ただし、「評価指針」で評価の対象となっている放射能は、希ガスとヨウ素だけで、アルファ核種含まれていません。 2.東電のアルファ核種放出は、自らの保安規定違反 (1)保安規定では、周辺監視区域外の空気中濃度は、「排気筒の測定結果で確認する」と規定 今回保安院は、東電の保安規定「福島第一原子力発電所 原子炉施設保安規定」(昭和52年12月9日 14次改正)を公開しました。この「保安規定」の第56条(気体廃棄物の管理)では、下記を遵守するよう明記されています。 「(2)周辺監視区域外の空気中の放射性物質濃度の3ヶ月平均が昭和35年科学技術庁告示第21号の別表第3または第4に定める値の10分の1をこえないこと。」 →この10分の1の値とは2×10−14μCi/cm3。 (上記別表第4の放射能の種類が明らかでなく、アルファ核種が含まれている場合。) 「(3)前号の値を超えない場合であっても排気筒からの放射能放出量が別冊表12(2)に定める放出管理目標値をこえないように努めること。」 別冊 表12 液体廃棄物および気体廃棄物の放出管理目標値
別冊表12は上記のとおりです。東電の放出管理目標値とは、濃度ではなく量であり、アルファ核種は含まれていません。濃度は、前記(2)の科技庁告示21号で規定しているということでしょうか。さらに、アルファ核種が含まれていないのは、原発の通常運転でアルファ核種など出ないというのが大前提であり、一粒たりとも出してならないという「常識」が反映されていると読みとれます。事実、東電の「松葉作戦」では、アルファ核種放出については、許容濃度どころか、検出限界値以下におさえると明記されているのです。 そして上記に続く、保安規定56条の(4)が極めて重要です。全文を引用します。 「(4)前第2号および別冊表12(2)に定める値をこえないことについて次項の測定結果により確認すること」(下線は引用者)。そして「次項の測定結果」とは、(1)排気筒からの放出放射能と、(2)気体廃棄物中のヨウ素131の測定結果と記載されています。 すなわち、排気筒からの放出放射能を測定し、それが科技庁告示21号で定められた2×10−14μCi/cm3と管理目標値の「値」をこえてはならないと規定しているのです。 保安規定では、目標値をこえないように監視するために、排気筒からの放出放射能を常時測定するよう定めているのです(保安規定 別冊表13)。周辺監視区域外の空気中濃度は、「排気筒の測定結果により確認する」ことを東電自らが定めているのです。水元・保安院が言うような「敷地境界での地表面濃度」によって確認するなど、どこにも規定されていません。この保安規定の内容は、次に述べる「規則」第4条の規定の内容を具体的に言い表しています。 別冊 表13 気体および液体廃棄物に関する測定項目(規定第55、56条関係)
(2)保安規定で定めた値の50倍ものアルファ核種を放出していた
東電は、自らが定めた保安規定の50倍ものアルファ核種を放出していたのです。明らかに、保安規定に違反しています。 3.東電のアルファ核種放出は法令違反 (1)「核燃料物質の使用等に関する規則」(昭和32年12月9日総理府令第84号)に違反 そもそも、排気筒からの放射能放出に関する法令は、排気筒からの放出の場合、排気筒で濃度を監視し、排気中の放射性物質の濃度を低下させること。そのことによって、敷地境界で許容濃度を超えないようにすることを要求しているのです。
(2)この「長官の定める許容濃度」の50倍ものアルファ核種を放出していた 排気筒から放出されたアルファ濃度は、管理区域の許容濃度の6倍以上。周辺監視区域外の許容濃度の約50倍にも達します。これではとても「排気筒で濃度を監視して、周辺監視区域外で許容濃度をこえないように」してるとは言えません。事実、東電は、排気筒での測定によって異常なアルファ核種の放出を知りながら、放出し続けていたのです。これは明らかに法令違反です。 (3)保安院は「規則」第4条四項の解釈を明らかにせよ この異常な事態を覆い隠すため、アルファ核種放出を何の問題もなかったかのようにカモフラージュするため、そして東電の法令違反を隠すため、保安院は「気象指針」を用いて「地表面濃度」を計算するという小細工で「許容濃度の1万分の1だから大丈夫」と、東電擁護に必死となっているのです。これが「監督者」のやることでしょうか。 それでも保安院は、東電のアルファ核種放出は法令違反ではないと強弁するのでしょうか。そうであれは、「規則」第4条第四項の解釈を明らかにすべきです。 4.東電のアルファ核種放出は原子炉等規制法違反 (1)排気筒からの放出については、原子炉等規制法第58条第一項によって、「規則」によって定めることが規定されている 前記の「規則」第4条は「法第58条第一項に規定する廃棄の技術上の基準」を定めています。原子炉等規制法の第58条第一項が、基の法律であると明記されています。
(2)廃棄の技術基準に適合しない場合は、国は廃棄の停止等命じなければならない 原子炉等規制法の第58条第一項3では、「規則」で定める技術基準に適合しない場合、排気筒からの放射能放出を停止する等の措置を命じることができると規定しています。 保安院は、法律違反のアルファ核種放出について、なんらかの措置を講じなければなりませんでした。しかし、保安院はなにもしなかっただけではなく、アルファ核種放出に目をつむり、問題にされれば「1万分の1以下」等と東電擁護に血道をあげています。これが「監督官庁」のやることでしょうか。東電のみならず、保安院の姿勢そのものが厳しく問われなければなりません。
5.東電のアルファ核種放出は20万円以下の罰金 しかし、国は罰金さえ課さなかった 原子炉等規制法の罰則は極めて緩やかなものです。しかし、それでも、東電のアルファ核種放出は罰則規定に該当していたのです。原子炉等規制法題79条第五項がそれです。しかし、国は東電に罰金さえ課しませんでした。何のおとがめもなしです。東電と国が一体となって、異常なアルファ核種放出を隠し続けてきたのです。国が定めた法律を破っても見て見ぬ振りです。
6.1978年(S53)9月以前は、なぜアルファ核種を測定しなかったのか 保安規定違反ではないのか、あるいは測定データを隠しているのか 東電が公表した1・2号機供用排気筒からのアルファ核種測定グラフは、1978年(S53)9月から始まっています。これについて東電は、以前電話で「測定指針」(「発電用軽水型原子炉施設における放出放射性物質の測定に関する指針」昭和53年9月29日原子力委員会決定)が定められたのでこの時期から測定していると回答していました。 保安規定では、「放出放射能」は「常時測定」することになっており、アルファ核種を測定しなくていいとはどこにも書かれていません。「測定指針」ができる以前からヨウ素については測定しています。また、「測定指針」以降のアルファ核種については、「測定指針」の「1ヶ月間に1回」に対し、東電は「常時測定」、実際は1週間に1度の測定を行っています。このように「測定指針」は「標準的な方法」を決めているだけでなのです。 この保安規定は、昭和52年12月に改定されたものです。「測定指針」ができる以前に、ヨウ素131とは区別して、「放出放射能」を測定するよう保安規定で定めていたのです。東電が「測定指針」ができる以前にアルファ核種を測定してなかったとすれば、保安規定違反の疑いが濃厚です。また、測定していたが、あまりに多く放出しているため、隠しているという可能性もあります。「測定指針」以前に保安規定で「常時測定」をしていたはずの「放出放射能」のデータを公開させましょう。 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 排気筒からこれだけ異常な放射能放出があったということは、(1)東電は原因調査等について何を行ったのか、(2)建屋内のアルファ核種汚染について、労働者の被ばく問題はどうなっていたのかが次の問題となります。これらの問題については、次回に紹介します。 |