投稿 「維持基準」導入の法改悪糾弾! 保安院の新解釈=新品同様の基準を正直に適用した東電が間違っていた ひび割れを放置しての運転再開を許すな! |
福島老朽原発を考える会 S |
■「維持基準」の導入を前提とした改正案が成立 12月12日国会において、維持基準の導入を前提とした電気事業法等の改正案が可決成立しました。維持基準の導入は、不正事件により、原発の重要な機器のひび割れが放置されたままでの運転が行われ、住民を危険に晒したことが明らかになったにもかかわらず、その責任が問われることはなく、逆に不正に合わせて安全基準を切り下げようとするものであり、決して許すことはできません。維持基準の具体的な中身は、法律改正後の省令の制定に委ねられており、国会での審議が全くないというのも問題です。さらに言えば、情報開示についての規定が何もないという問題もあります。ひび割れの評価については、電力会社には評価しそれを保存するという義務が課せられるだけで、国への報告義務はありません。国はいつでも報告聴取が行えるのですが、これを行わない情報については、私たちが情報公開請求をしても開示されません。 ■続々と見つかるひび割れ…不正事件はまだ終わっていない 不正事件後に各地のBWR原発で行われている点検において、続々とひび割れが発見されています。シュラウドについて言えば、不正事件には登場しない4つの炉を含め今年8月の不正事件発覚以後に点検を行った9つの原子炉全てでひび割れが見つかるという異常な事態が起きています。ひび割れは自然現象ですから、今年8月を境に、これまで「新品同様」であったシュラウドから、申し合わせたように、突然ひび割れが一斉に成長を始めた、などということは、もちろんあり得ないことです。この事態は、今回明らかになった事案以外にも不正が隠されていることを示唆しています。12月17日には、柏崎刈羽原発2号機で昨年の定検で、検査していないにもかかわらず「異常なし」と報告していた不正が新たに発覚しました。また、浜岡原発4号機のシュラウドのひび割れについて、中部電力は、昨年の点検時のビデオに「筋状の模様」が映っていたことを明らかにし、これが今見つかっているひび割れと一致することを認めています。中部電力は、これを放置し、国に「異常なし」と報告した上で運転を強行していました。明らかに不正な行為です。いずれも市民側が不正の疑いを指摘していた箇所です。このように不正事件はまだまだ終わっていないのです。維持基準導入どころではないのです。 佐藤福島県知事は、一貫して維持基準反対の姿勢を貫いており、12月19日に開催された自民党のエネルギー関係議員の会合でも、維持基準の導入については、「(原発不信の)火が燃えている中で、(安全の)基準を下げるとはどういうことだ」と述べています。福島県議会も、全会一致で、維持基準の早期導入に反対する内容を盛り込んだ意見書を採択しています。新潟県知事は、維持基準の導入については必ずしも反対ではないものの、導入に際しては、国に説明責任を果たすよう要求しています。 ■「新品同様」の原則などはじめからなかったと言い出した保安院 維持基準の中身の規定が省令に委ねられたということは、省令ができるまでは、まだ維持基準は機能せず、現行の基準が生きていることを意味します。維持基準の整備は来年10月までかかると言われているので、それまではひび割れを放置しての運転は許されないはずです。しかし保安院は今、この件に関して、驚くべき姿勢を打ち出しています。 国はこれまで、機会あるごとに、日本の原子力の安全規制は「世界標準をはるかに上回る世界一厳しいものであり、常に新品同様に整備してあるから安全である」などと説明してきました。 電気事業法第39条第1項は、「事業用電気工作物を設置する者は、事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。」と定めている一方で、原発の建設や改造工事等における工事計画認可について定めた電気事業法第47条は、その条件として、「その事業用電気工作物が第39条第1項の経済産業省令で定める技術基準に適合しないものでないこと。」と定めています。つまり現行法令の下では、電気事業者が、運転中の原子力発電所を維持するに当たって従う「維持基準」と、設計時及び建設時に従う「設計基準」は、全く同一のものとして規定されているのです。この点は、通産省がまとめた技術基準の解説書にも記述があります。さらに、この中に位置づけられた「告示501号」という技術基準には、非破壊検査に合格したひび割れのない材料を用いることを求める条項があり、「新品同様」の状態を維持することが要求されているのです。 ところが、保安院は東電不正事件後、「新品同様」の原則を定めた技術基準は、そもそも運転中には適用されず、これを正直に適用していた東電が間違っていたのだという、驚くべき解釈を示しています。保安院が10月1日に示した「中間報告」には、「現行技術基準の設備の設計時、建設時及び使用時への適用ルールが不明確であったため、例えば、設計時及び建設時のみに適用される材料に係る技術基準を、事業者が設備の使用時についても適用しなければならないという判断を招いたこと」との記述があります。これは、不正事件が起こる前々から、原子力発電所の使用時にひび割れ等を放置しての運転が可能であったと解され、これまでの解釈とは全く矛盾するものです。 ■ひび割れを放置しての運転再開の強行を許すな 保安院のこのような姿勢は、ひび割れを放置しての運転はもともと許されていたことにして、維持基準の整備前に、続々とひび割れが見つかっている原発の運転再開を強行するためのものとしか考えられません。現行の法令下で、運転再開を強行するためには、告示501号を無力化しなければなりません。国は将来的には、告示501号をなくしてしまって、民間規格を参考にするというアメリカのやりかたを導入するつもりでいます。しかしそれには時間がかかります。維持基準の整備にもあと1年近くかかります。そこで苦肉の策として編み出したのが、「告示501号は、はじめから設計時及び建設時のみに適用されるものだった」という「新」解釈だったのでしょう。この策により、ひび割れ原発の運転再開を急ぐだけでなく、ひび割れの容認という最大難所を、国会の審議もなにもなしに、解釈の変更だけで乗り切ろうとしているのです。 これは、安全規制を行う側にあるはずの保安院が、不正を犯した電気事業者に対し、ひび割れを放置した運転のために、法令の抜け道を指南しているようなもので、保安院の姿勢には大いに疑問があります。これは、「新品同様」を約束していた地元住民を裏切り、維持基準に反対する福島県知事や県議会を裏切るだけでなく、維持基準導入に際して、説明義務を果たすよう求める新潟県知事をも裏切る行為です。 先日、この問題について、保安院の見解をただす質問主意書が福島瑞穂参議院議員から提出され、議員と共に記者会見も行いました。福島県や新潟県にもこの問題を伝えていきたいと思います。保安院は、「健全性評価委員会」という審議会をつくり、ひび割れが見つかっている原発の安全性を個別に評価し、維持基準の整備前の運転の強行を目論んでいますが、この委員会に対しても、告示501号を楯にとって、ひび割れを放置した運転の強行が法的に不可能であることを確認させ、運転再開を許さないよう、はたらきかけていきたいと思います。 |