海外の加圧水型炉で多発する上蓋管台でのひび割れ
米デービス=ベッセ原発の圧力容器上蓋に大穴−冷却材喪失事故の一歩手前だった

関電はインコネル600製の管台を持つ上蓋未交換の高浜3・4、大飯3・4のECT検査を即刻実施せよ


海外での上蓋貫通部でのひび割れの頻発とその危険性
 1990年代に入って、まずフランスで、続いてスウェーデンやスイス等、さらに2000年代以降アメリカで加圧水型炉の上蓋管台にひび割れが発生するという事故が頻発しており、大きな問題となっている。特にアメリカでは、2001年にオコニー3号機で見つかった円周方向のひび割れや、今年に入って発覚したデービス=ベッセ原発での貫通割れと漏出したホウ酸による上蓋母材の大規模腐食など、極めて深刻な事例が次々と見つかっている。上蓋管台のひび割れは深刻な問題である。円周方向に割れが進展すれば、管台の破断から制御棒飛び出し事故と冷却材喪失事故、さらに重大事故へと発展する危険性がある。
 1991年9月、フランスのビジェイ原発3号機の制御棒駆動機構の管台で最初に損傷が見つかった。圧力容器に耐圧試験(通常の125%の水圧)を実施した際、上蓋管台の溶接部の亀裂から水が漏れだしたのである。その後、フランスEDFが上蓋貫通部の検査を実施したところ、1993年8月までに、検査された29基の原発のうち19基でひび割れが見つかった。さらにその後、スウェーデンやスイス等の他のプラントにおいても同様の損傷が発生していることが判明。しかも、フランスにおける損傷例では、ほとんどが軸方向の割れであったが、スウェーデンのリングハルス2号における損傷は、軸方向の割れに比べてより深刻な円周方向の割れであり、円周上に18cmもの亀裂が確認されたのである。
 2000年に入って今度はアメリカで、次々と損傷が見つかりはじめた。全69基のPWRのうち、2002年8月時点で、33基について検査が実施され、うち13基でひび割れが見つかっている。中でも2001年に見つかったオコニー3号機の事例は深刻で、軸方向に入ったひび割れから円周方向165゚に及ぶ割れが確認されている。その他の3基でも円周方向のひび割れが見つかり、9基では一次冷却水の漏洩が確認されている。フランスの場合は、検査した原発の約7割、アメリカでは約4割にひび割れが発見されていることになる。これら一連の上蓋貫通部でのひび割れの主原因は、欧米日の原発の管台の材質として広く使われてきたインコネル600にある(※リングハルス2号機の管台はインコネル182)。これまでも一次冷却水中でのインコネル600の応力腐食割れ問題は指摘されてきたが、上蓋での損傷問題を受け、NRCは改めて「[原子力]産業の経験は、600合金が応力腐食割れに弱いことを示した」とその危険性を強調している(NRC INFORMATION NOTICE 2001-05)。インコネル600製の管台は、PWRにとってのアキレス腱的存在である。

米デービス=ベッセ原発でのひび割れは上蓋本体を腐食し、冷却材喪失事故の一歩手前だった

管台周辺の劣化領域【写真:NRC】
 今年2月27日、米・デービスベッセ原発で深刻な上蓋部の腐食が発見された。同炉は、1月18日に燃料交換のため停止し、NRC公報2001-01(オコニー1・2・3号、アーカンソーニュークリアワン1号での圧力容器上蓋貫通部ノズル亀裂問題を契機とする調査の通達)に従って制御棒駆動装置の貫通部について超音波探傷検査を行っていたところ、3本のノズルの貫通亀裂が判明した。その内1本のノズルを修理するため、周辺のほう酸堆積物を除去すると、厚さ約18cmの上蓋母材内部に深さ約15cm、幅約10〜12.5cm、長さ約17.8cmの空洞部が見つかった。貫通孔近傍の低合金鋼部分が腐食してぽっかりと穴があいていたのである。最も腐食が進んでいた部分では、圧力容器内側にある厚さ9.5ミリのステンレスの内張(クラッド)が露出している状態であり、その後の調査の結果、ステンレスの内張にも約3ミリの深さの亀裂が認められている。文字通り皮1枚という状態で、炉内の150気圧もの圧力を支えていたのである。圧力容器そのものに穴が開く寸前であり、冷却材喪失事故(LOCA)の一歩手前の状態であった。NRCは、「構造マージンが著しく劣化して」おり、「LOCAの可能性があった」としている(2002/03/20 NRC公聴会)。
 原因は調査中であるが、漏れ出た冷却水によってホウ酸が堆積し、湿潤環境下でホウ酸による腐食が進展したものとされている。ホウ酸の析出による上蓋の腐食は、これまでに経験したことのないまったく新しい事態である。NRCはデービス=ベッセ原発での事態を受け、公報2002-02を3月18日に発行。米国内で稼働する69基のPWRを操業している全企業に対して、上蓋の健全性についての情報と、今後圧力バウンダリが正常に機能しうる根拠について報告するように求めた。さらに8月9日には、補足検査の実施を勧告する通達を出した。

関電は上蓋を交換していない高浜3・4号機、大飯3・4号機のECT検査を即刻実施せよ
 関電は、上蓋を交換した7基については、交換に伴って、管台の材質をインコネル600からインコネル690に変更した。しかし、大飯3・4、高浜3・4号機については交換を実施せず、炉頂部の温度低減化工事ですませ、インコネル600のままでも「応力腐食割れは発生しない」としている。しかしフランスでは、289℃という比較的低い温度で3基の原発がひび割れを起こしている。4基の改良工事による温度低下は310℃→294℃(高浜)、307℃→289℃(大飯)である。フランスではそれと同じか、それよりも低い炉頂温度ですでに損傷が起こっている。上蓋を交換していない関電の4基について、事故の危険性は否定できない。関西電力はその4基について、ひび割れやその兆候はないのか即刻検査すべきである。しかし、10月8日の交渉で関電は、これら4基については温度低減化工事を施したので「検査する必要は当面ない」と答えてきた。「当面とはどのくらいの期間か」と問うても、「まったく決まっていない」という返事。フランスでの事故例を挙げても「知らない」と言うばかりである。しかも大飯3・4号については低減化工事前も後も一度も検査をしていないという。これでは低減化工事前にすでに傷が入り、工事後にもひび割れが進展し続けている可能性は否定できない。

関電は交換した古い上蓋を再検査せよ
 さらに関電は、交渉の中で、取り替えた古い上蓋についても「再点検の必要性は感じない」と言い続けた。「再点検は供用中のものに限る」というのがその理由である。東京電力の場合、すでに取り替えたシュラウドの検査不正も問題となっており、現在供用中のものにだけ問題が限定されているわけではない。すでに取り替えたものは点検しないという関電の姿勢は極めて不自然である。再検査によって、損傷の隠蔽が発覚することを恐れているとしか思えない。また、渦電流探傷検査が本当にどの程度の精度を保証するものなのか、このような取り出した管台を破壊検査にかけてはじめて本当に分かるはずである。このことは、いまだにインコネル600製の管台を使い続ける上蓋未交換の原発の健全性を今後保証していくためにも必要な作業であるはずである。関西電力は、SG保管庫に保管されている古い上蓋を徹底検査し、過去の検査資料も含めて検査結果を公開すべきである。四国電力は交換済みの上蓋も検査するとしている。今回の東電の検査記録ねつ造事件を通じて、改めて情報資料の公開が大きな問題になっている。この事件を重く受け止め他山の石とするならば、再検査は当然である。



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