大泉さん夫妻、JCOを提訴
裁判を支援し健康被害を認めさせよう
       阪南中央病院 東海臨界被曝事故被害者を支援する会 Y


 9月3日、臨界事故の被害者である大泉昭一さん、恵子さん夫妻が、JCOと親会社の住友金属鉱山を相手に健康補償を求め、損害賠償裁判を提訴した。原告の大泉昭一さんは「臨界事故被害者の会」代表世話人である。大泉さん夫妻は二人とも事故で長時間被曝し、その後健康を害してきた。JCOは周辺住民が訴える健康被害に全く耳を傾けず交渉は決裂した。二人は被害者を代表して裁判に訴えることを決意された。これからの裁判に注目し、支援していくことを呼びかけます。

事故後入退院を繰り返す大泉夫妻
 大泉さんたちはJCOの事故現場である転換試験棟から道路一つ隔てたすぐ近くに自動車部品製造の工場を持ち、事故当日も何が起こったのかも知らないまま働き続けていた。たまたま近くを通りかかった村役場の職員らしき人に聞くまで実に5時間以上にわたって中性子線を浴びせられ続けた。大泉昭一さんは事故後、持病の皮膚障害が激しくなり、入退院を繰り返している。妻の恵子さんは、事故の晩から激しい下痢が続き、口内炎もできた。JCOの建物を見ると体がこわばり仕事をすることもできず、胃潰瘍になり入院、今年に入ってPTSD(心的外傷後ストレス障害)の診断を受けた。
 働くこともままならず、大泉さんの工場は操業停止に追い込まれた。

「診断書を持ってこい!」「PTSDではダメだ」 ―――― 健康被害を一切認めないJCO
 臨界事故被害者の会はこれまでJCOとねばり強く交渉してきた。JCOは一部の被害者に対して、避難費用などわずかな額であるが、支払う意志を示した。しかし、その雀の涙ほどの補償でさえも、あろうことか最後の段階で、「示談内容については秘密にすること」という条項を要求してきたのだ。被害者の会が削除を求めてもJCOは拒否した。
 他方、健康被害については全く応じようとしなかった。「医師の診断書を持ってこい」と。ところが、恵子さんが「事故の因果関係は明白」とのPTSDの診断書を持っていくと、今度は「PTSDではダメだ」である。事故を起こし、多くの住民を被曝させておきながらこの態度である。このため交渉は決裂し、大泉さんたちは裁判に訴えることを決断された。

国の被曝評価は過小評価 ――― 中性子線被曝の大きさを正当に評価し直せ!
 JCOが健康被害を認めないのは、国が被曝を大きく過小評価し、被害を認めていないことが後ろ盾になっている。国(旧科技庁)は、大泉さんたちの被曝線量を6.5ミリシーベルトと推定した。しかし、私たちの調査では、昭一さんで43.6ミリシーベルト、恵子さんで39.0ミリシーベルトである。この違いは国が行った線量評価のやり方にいくつもの問題があるためである。
 中性子線被曝はガンマ線の被曝に比べて遙かに大きなダメージを受ける。そしてこの中性子が9割を占めたのが臨界事故の特徴である。中性子線の危険の程度を示す線質係数について旧科技庁はガンマ線の10倍という値を採用した。しかし、国際放射線防護委員会(ICRP)は1985年に中性子線の線質係数を2倍、すなわち20にするよう声明している(パリ声明)。これさえも旧科技庁は守らず、あえて時代遅れの値を採用し、被曝線量を低く導いた。さらに中性子線の危険が本当はもっと大きい可能性があることを最近の研究は示している。このことはJCO事故後に国が設置した原子力安全委員会・健康管理委員会の主査代理を務めた佐々木正夫氏でさえ自らの研究の中で認めているのである。
 また、転換試験棟からの線量の距離依存性を求める基準となる評価式を導き出す際に、旧科技庁は測定地点の地形などにより遮蔽効果を受けて低くなった値を含めて平均してしまっている。例えば、本米崎小学校付近の測定地点は窪地で測定値が著しく低くなっているにもかかわらずこのような値をも含めて評価式を導いているのである。
 旧科技庁はこのような不当なやり方で被曝線量を過小に押さえ、いっさい被害が出ないとしてしまっている。この不当性が大泉さんの裁判で明らかにされることだろう。

裁判を支援し、健康被害を認めさせよう
 この裁判は二人だけの裁判ではない。JCOを訴えたくとも様々な事情で原告になれない多くの住民を代表する代表訴訟の性格を持っている。訴状には「『JCOのことを考えるとはらわたが煮えくり返るが、いっしょに被曝した子供のことを考えると、とても訴訟はできない』『あの事故の夜から、体のあちこちに斑点ができて、痛くてたまらない。どんなに痛さを訴えても、JCOは相手にしてくれない』などの、切実な声がこの訴訟にはあるのである」と書かれており、表に出られない多くの被害者を代表する裁判であることが強調されている。臨界事故被害者の会は何回も総会を持ち、会として訴訟に取り組むことを決めている。
まもなく事故から3年がたとうとしている。この3年間の苦しみ、健康不安を持ちながらのこれからの生活、そしてJCOへの怒りが裁判の中で訴えられる。「人間はモノ以下の扱いか」と。
私たちは何回も東海村に足を運び、健康実態調査を行ってきた。多くの住民が健康被害や様々な不安を訴えるのをじかに聞いてきた。被害を覆い隠し、被害者を切り捨てようとするJCOや国を許さず、裁判を最大限支援していこう。
(訴状は支援する会ホームページでご覧になれます。)



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