福島第二原発3号機のシュラウドひび割れ隠蔽に保安院が関与
福島老朽原発を考える会(ふくろうの会)


■シュラウドの全周に及ぶひび割れ
 東電が福島第二原発3号機のシュラウドに、全周に及ぶひび割れが発見されたと発表したのが2001年7月6日でした。2001年9月5日に行われた東電交渉では、このひび割れは、水中カメラで清掃作業後の状態を確認しているときに、偶然映っていたものを見つけたと説明していました。
東電は、このひび割れを1997年に見つけておりそれを隠蔽していました。この事実は今年8月29日の不正会見では明らかになっていませんでした。これを明らかにしたのは、2001年8月30日付の米国の原子力専門誌の「東電は経済産業省に連絡をとる少なくとも一年以上前から福島第二原発3号機の亀裂の事実を知っていた。」という記事の存在でした。今年9月3日に、グリーン・アクションによりもたらされたこの情報に基づき、グリーン・アクションと美浜の会とふくろうの会の連名で保安院に質問書を提出しました。すると翌日に、東電がこのひびを1997年に見つけて隠蔽していたというニュースが、保安院からの情報として流れたのです。保安院は、これが市民運動側の追及によって明らかになったことを隠すためにリークしたのでしょう。。

■保安院は少なくとも2001年8月には東電のウソを把握していた
記事はもう1つ重要なことを明らかにします。保安院は少なくとも記事の日付の2001年8月30日の段階で、東電がひび割れを隠していた事実を知り得たということです。そして質問書への回答で、保安院は当時、この記事を目にしていたことを認めました。
さて、この記事を目にした保安院はどうしたか。なんと、保安院の担当者が東電に電話をかけたが、記事の内容を否定され、それ以上は何もしなかったというのです。この時期、保安院は内部告発を受けての調査が行われている最中です。電話したら否定されてそれを信じたというのは、調査中の相手に対する態度ではありません。

■応力腐食割れの発生箇所をリング部に限定したもう1つのウソ
 東電は2001年8月24日に保安院に提出した報告書の中で、SUS316Lという材料を使ったシュラウドでは、応力腐食割れは本体ではなく、リング部において発生するものであると評価しています。しかし、今回の一連の不正発覚の中で、この時既に東電は、福島第二原発3号機等でリング部以外のシュラウド本体においてもひび割れを確認しており、これを隠蔽していたことが明らかになっています。つまりひび割れがリング部以外にも発生することを知っていたのです。これは発見時期と並ぶもう1つのウソです。動機は検査の簡素化と隠蔽箇所の発覚を防ぐことでしょう。リング部以外にも検査対象が広がると、検査に時間とコストがかかるし、検査が物理的に不可能な箇所があり、「検査で全て見ています」という建前を通すことができなくなります。

■東電の意図に合致させて指示を出した保安院
 東電の報告を受けて保安院は、2001年9月6日付で、東電の他の号機と他の電力会社にもシュラウドの点検指示を出しています。東電がひび割れを隠蔽していたことが、少なくとも8月30日の時点で明らかになっていましたが、にもかかわらず保安院は、点検指示の中で東電の報告を鵜呑みにする形で、検査対象箇所をリング部の4カ所だけに限定しています。保安院の指示は、東電の意図に完全に合致したものとなっています。
  保安院が東電の意図に完全に合致した形で、点検指示を出した事実は、保安院自身が、東電の不正隠蔽に関与して実際に行った具体的な行為の1つとして捉えるべきでしょう。保安院は、東電にまんまと騙されたと言うのかもしれません。しかし、1989年に国の側が「ヤミ修理」を行わせていた事実や、内部告発者情報を東電に流していた事実等が明らかになり、「正義の味方」の化けの皮がはがれていく中で、そのような言い方は通用しないでしょう。保安院は、福島第二原発3号機のシュラウド問題にも早い時期から深く深く関与し、むしろ保安院の側で主導しながら事が進んでいったのではいかという疑いがますます濃くなっています。

■安全評価の問題
 今回の不正事件に関して、東電は不正を起こしたことを謝罪しましたが、住民を危険に晒した点については謝まっていません。安全上は問題なかったと繰り返しています。
 東電・保安院はシュラウドで疑いのあるひび割れについて、1年間に11mmずつ進展するとの前提で、これが10年間に進展する長さを想定して耐震性の評価を行い、安全上問題がないという結果が出たとしています。しかし、東電・保安院の評価は、ひび割れが、すでに発見されているものだけから成長することを前提にしている点に問題があります。
 柏崎刈羽3号機では、今年8月になってシュラウドにひび割れが見つかりましたが、それは、全周の8%に断続的に点在していました。このことは、ひび割れが発生する条件にある箇所においては、ひび割れは全周の至る所で発生し、それがつながって長くなることを示唆しています。すなわち、1つのひび割れが見つかった場合には、10年後にそのひび割れが成長するだけでなく、同じ条件にある円周のあちこちでひび割れが発生し、成長し、つながって長くなる可能性を考慮する必要があることを示しています。ところが、東電はこれをまったく考慮していません。ついでに言えば、10年後だけを想定しているのも問題です。
 また、1年で11mmしか進展しないという評価も、甘いことがわかります。運転開始から9年しか経っていない柏崎刈羽原発3号機で実際に見つかった亀裂の長さは、最大で230mmでしたが、1年間に11mmの前提では、11mm×2(両端)×9年間=198mmにしかならないはずです。

■ひび割れを放置しての運転を許すな
 保安院は、亀裂があっても、安全上問題ないと評価すれば、修理や交換を行わなくても運転を継続できる「維持基準」の導入を画策してますが、このような安全評価はこうした画策をにらんでのものでしょう。これを許せば、「ひび割れがあるもとでの運転」を、隠蔽、改ざんなどしなくとも、おおっぴらに行うことができることになります。保安院は今回の東電の事件を、こうした安全管理の後退に利用しようとしています。原発の危険性は確実に増すことになり、許すことはできません。



トップ