美浜の会ニュース No.64 |
12月13日、中部電力は配管破断事故に関する「中間報告」を発表した。同日、経産省の保安院も「調査の中間とりまとめ」を出した。破断の原因は「水素の急速な燃焼が関連していた可能性が高いと推定される」として、事実上、配管内で水素爆発が起こったと断定した。 原発で水素爆発が起こるなど、世界で初めての、極めて異常なことである。しかし、この新たな深刻な事態にみあった原因究明は一切なされていない。当該配管での水素の滞留は、その滞留を引き起こすような、これまでにないある種の異変が炉内で起こっていたことを意味する。この炉内の諸条件の変化はどのようなものか、また、それを引き起こしたものは何か。その原因または動機は何であるのかが解明されなければならない。それなしに、「中間報告」が言うような、ただ「水素と酸素が存在していた」だけでは、本質的な原因究明にはならない。 しかし保安院は、おざなりな調査で、原因究明も終了しないうちから、早々と「再発防止策」まで打ち出した。中電は、事故後に運転を停止した浜岡2号を、来年1月にも運転再開しようとしている。強引な事故の幕引きである。 反対運動の焦眉の課題は、@原因究明もできないうちから「再発防止策」を打ち出した「中間報告」と、国・中電の事故幕引きの姿勢に批判の声を集中すること。Aなぜ今回水素が異常に溜まったのか、なぜ水素爆発が起こったのかを明らかにさせること。B浜岡1号炉では、老朽化対策のために、どれだけの水素を注入していたのかを公表させること。C水素の滞留が事故の発端である限り、全てのBWRで、炉内とあらゆる配管内の水素濃度を明らかにさせることである。これらを通じて、浜岡・静岡の運動と連携し、事故の原因を明らかにさせ、国・中電の事故の幕引き、浜岡2・3号炉運転再開策動を阻止しよう。 水素爆発事故 − 前代未聞の極めて異常な事故 破断した配管と支持構造物等の変形の跡は、すさまじい爆発力が生じたことを示している。破断部真上のグレーチング(鉄製の足場)は大きく変形し、熱交換器上部近くまで吹き飛ばされていた。中電の「中間報告」で初めて明らかになったが、余熱除去系熱交換器室の扉は約7メートルも吹き飛び変形していた。「水素爆発」のすさまじさを示している。 原発の配管内部で水素爆発が起こるなど、前代未聞の極めて異常な事故である。多くの住民・作業員が中性子線で被曝させられたJCO事故に引き続き、またも日本で、「世界初」の事故が引き起こされた。このような事故を引き起こしたこと自体について、中電・国の責任が厳しく問われなければならない。 これまで起こらなかった水素爆発が、なぜ今回起こったのか 今回の事故は、通常運転中に月に1回行う緊急炉心冷却装置(ECCS)の起動試験の最中に起こった。中電は、破断部に水素が滞留した理由を「高い部位で、弁でせき止められ蒸気の循環がなかったから」と、いとも簡単に説明している。 しかし、なぜ今回爆発が起きたのかについては、一切明らかにされていない。「高い部位で、弁でせき止められていた」のは運転開始以来25年間変わらない。7年前のL字型配管への変更が、水素滞留に関係しているのか。仮にそうであったとしても7年間何も起こらなかったのはなぜか。ECCSの起動試験は、運転開始以来、毎月1回行われていたはずである。前回の起動試験は10月3日であるが、なんの異変もない。事故前に、水素濃度が上昇するような措置をとっていたのか。あるいは数年間の蓄積で水素濃度が上昇したのか等々は一切明らかになっていない。 なぜ今回起こったのか。この当然の疑問、事故の原因を究明する上で必要不可欠の問題に関し、中電・保安院は具体的に説明しなければならない。 水素滞留 − 炉内の水素濃度の異変をもたらしたものは何か 破断した配管に水素が滞留していたことは、その滞留を引き起こすような、これまでにないある種の異変が炉内で起こっていたことを意味する。この炉内の諸条件の変化はどのようなものか、またそれは何によって引き起こされたのか。その原因または動機が何であるのかが解明されなければならない。 原子炉内では、水素の発生は避けられない。強力な放射線によって、水は絶えず水素と酸素に分解される。水素は冷却水に溶け込み、蒸気とともに配管内を循環する。また、燃料棒被覆管の酸化(水−ジルコニウム反応)によって発生する水素も炉内にたまり続ける。炉内で直接沸騰が起こるBWRでは、この反応が進んでいるはずだ。 さらに、特にBWRでは、応力腐食割れを防止する目的で、意図的に水素を注入している。 この応力腐食割れ対策を目的とした水素注入は、原発の老朽化と密接に関係している。浜岡1号炉は圧力容器の底から水漏れを起こす程に老朽化が進んでいた。浜岡1号炉で、どれだけの水素が、いつから注入されていたのか。年ごとの水素注入量と炉内の水素濃度を公開させよう。 今回の事故は、水素の滞留が発端である。世界で起こったことのない水素爆発が現実のものになった。その限りでは、水素にまつわるあらゆる問題を、洗いざらい明らかにさせなければならない。とりわけ全てのBWRで、炉内とあらゆる配管内に、どれだけの水素が滞留しているのか、水素濃度を測定し、公表するよう要求しよう。老朽炉では、老朽化対策のためにどれたけの水素を注入しているのかを公表させよう。 上記は、原発と水素の実態を明らかにする最初の手だてである。これなしには、水素爆発という新たな爆弾を抱えた原発の一層危険な運転が強行されることになる。 保安院 − 手抜き調査で原因究明もしないまま「再発防止策」 中電と保安院の「中間報告」は、上記のような根本的問題には一切ふれていない。保安院は、おざなりな調査で、事故原因も解明されない段階から「再発防止策」を打ち出した。他の原発へ問題を波及させないことのみに腐心している。「中間報告」は、浜岡2・3号炉の運転再開と、他の原発を止めないことの権力的な表明である。 保安院は、原因調査の指揮をとるとして事故2日後にタスク・フォースを設置した。タスク・フォースのメンバーの名前は、チーム長とサブチーム長以外は公開せず、会議すら非公開である。密室審議以上で、まるでブラックボックスだ。 その保安院の「中間報告」のシナリオはこうだ。まず、水素が滞留する可能性のある配管は、破断した配管と同様の、14基のBWRの余熱除去系蒸気凝縮系の配管だけと断定。机上の検討で、「十分な強度設計があるものは除外」「ガスが抜ける配管は除外」等々で消去法を積み重ねた結果である。 「世界初」「想定外」の事故と言いながら、なぜ水素が滞留したのか等の実態の解明はまったく放棄している。14基の当該配管についてさえ、水素濃度の測定は行われていない。 類似箇所を絞り込んだ上で出てきた「再発防止策」は、@月に1回のECCS起動試験の時だけ、L字型配管内の水・蒸気等を抜くこと。これは11月20日に保安院が電力各社に出した指示である。これも「試験の時だけ」と限定が付く。Aさらに今回、電力各社からの提案として、当該配管に新たな弁を設置する。これによって、配管内の新たな滞留物の蓄積を防ぐことが可能だという。この弁の設置も、「定検中の時期を活用して」行えばいいとする。中電は、早くも弁の取り付け作業を開始した。 事故調査も終了しないうちから、値切りに値切った「再発防止策」などもってのほかである。 事故の幕引きに反撃を! 浜岡2・3号炉運転再開策動を阻止しよう! 水素爆発という前代未聞の事故を引き起こした中部電力は、一貫して住民を愚弄している。12月1日「浜岡原発を考える静岡ネット」主催の集会後、参加者は中部電力に抗議・要望書を提出するために浜岡原発に出かけた。事前に要望書提出の件は連絡してあったにもかかわらず、「連絡が来ていない」等とさんざん文句をつけ、やっと1時間後に受け取る始末である。原発ゲート前では機動隊員が盾をもって立ち、パトカー等の警察車両が駐在し、参加者を威圧し続けていた。さらに後日、村本広報部長は、「浜ネット」の代表の家にまで押し掛け、原子力館で騒いだなどと「抗議」する異常極まりない対応をとった。人権侵害もはなはだしい。13日の住民説明会では、数時間後には「中間報告」を発表するにもかかわらず、「今は答えることはできない」の一点張りであった。議員の前ではぺこぺこしながら、一般住民が相手となると手のひらを返したように威圧的な対応だ。これが事故を起こした者の対応か。 浜岡・静岡の運動と連帯し、中電・保安院の住民敵視の姿勢と「中間報告」による事故の幕引きに反撃しよう。 中電・保安院の「中間報告」の内容と狙いを広範に宣伝し、批判の声をあげていこう。各地で学習会や討論会を開こう。 浜岡1号炉で、なぜ今回水素が異常に溜まったのか。老朽化対策のためにどれだけの水素を注入したのか。炉内の水素濃度等を公開させよう。全てのBWRで、炉内と配管内の水素濃度を測定し公開させよう。 これらを通じて、事故の原因と真相を明らかにさせ、保安院・中電の事故幕引き策動にストップをかけよう。浜岡2・3号炉の運転再開策動を阻止しよう。 |