■放射線とガン・白血病との因果関係を全面的に
否定する暴論「しきい値は200mSv ■「実効線量当量」ではなくて「実効線量」で評価せよ ■ホールボディカウンタからの被曝線量計算は過小評価の疑いがきわめて濃厚 |
科技庁事故調査対策本部は11月4日、「潟Wェー・シー・オー東海事業所の事故の状況と周辺環境への影響」と題する資料を公表した。これは東海臨界被曝事故の全体的な規模と周辺住民の被曝等について科技庁が自身の見解を示す、事故から1ヶ月後の、はじめての文書であり、安全委員会事故調査委員会がまとめた「緊急提言・中間報告」の技術的なバックグラウンドになっている。 マスコミを含め、最も衆目を集めた内容は、東海村からの避難要請があった350m圏内でも、またそれ以遠でも、一般人の年間被曝限度である1ミリシーベルトを超える、場所によっては大幅に超える被曝があったことを事実上認めていることである。すなわち、科技庁と安全委員会による事故対応の失敗によって、多くの住民に被曝が強要されたことは、もはや誰にも否定できなくなったのである。 ところが科技庁は、被曝の事実が隠せないことが明らかになるや、被曝によるガン・白血病等、晩発性障害の発生にはしきい値があり、それは200mSだという前代未聞の特異な見解を打ち出してきた。周辺住民・労働者に被曝はあったが、1〜50mSvの範囲であり、十分しきい値=200mSvを下回っている。3人を除けば影響も被害も一切ないという強引な幕引きをおこなおうとしている。周辺住民・労働者の被曝と被害をすべて切り捨て、一切の責任と補償の義務を放棄するつもりである。事実、「緊急提言・中間報告」では周辺住民の被曝は一貫して無視され、依然として「被曝者は69名」という主張が繰り返されている。本当に影響がないのなら、住田氏や科技庁の役人こそ、率先して「水抜き作業」に参加し、強烈な中性子線の中に突入するべきではなかったのか。 さらに、被曝線量の評価も不当に過小評価されている。科技庁は@周辺住民の被曝を低く見せかけるために、ICRPでさえすでに訂正した「実効線量当量」を評価に用い、中性子の危険を半分に値切っている。中性子による被曝は半分しかカウントされていない(【理論的な基礎資料】)。Aさらに、実際の線量計の半分の表示の結果しか示さず、明らかに大幅な過小評価となるNa-24−ホールボディカウンタ(WBC)の結果があたかも正しいかのように主張し、一人一人の住民が被った実際の被曝量は、評価値よりもさらに低く、問題にならないことを印象づけようとしている(【実際の測定値に基づく線量評価】)。科技庁と安全委員会は、事故発生から実に1ヶ月以上もの間、被曝の事実を住民に隠し続けた。事故直後には、医者でも看護婦でもない、電力会社の社員がサーベイメーターを住民に向け、「健康調査」と称した行為を繰り返し、住民を黙らせ、だまし続けるのに加担した。そして今回の報告では被ばくを過少に評価し、またもや住民に真実を伝えようとしていないのである。 科技庁報告はまったくの暴論である。事故の起こし方も最悪であったが、その対応も最悪であった。しかし事故調査と終息のさせ方はそれらを超えてむごいものである。科技庁は被曝した住民を切り捨てようとしている。それもウソにゴマカシを重ねるようなやり方を用いてである。あからさまな周辺住民・労働者の被曝と被害の切り捨てを許してはならない。長期の健康調査と管理を実施させなくてはならない。政府・科技庁・安全委員会の責任を徹底的に追及しよう。 放射線とガン・白血病との因果関係を全面的に 否定する暴論「しきい値は200mSv」 科技庁は、報告書の中で次のように述べている。「がんの増加に代表される確率的影響も、一般的には実効線量で約200ミリシーベルト以上の線量でのみ現れるとされている。従って、今回の事故に関連しては、直ちにがんの増加などの健康影響を懸念する必要はない」 つまり科技庁は次のことを主張しているのである。 @放射線による確率的影響(ガン・白血病等晩発性障害の発症、遺伝的影響)にはしきい値が存在する。Aそのしきい値は200mSvである。 日本の法令が依拠するICRPですら、こんなデタラメな被曝の「リスク評価」を主張してはいない。日本だけ、科技庁だけのまったく特異な主張である。科学的根拠も何もない。まったくの嘘、デタラメである。悪質なデマゴギーである。「あなたは200mSv受けていないのだから被害が出るはずがない。調子が悪いとすれば、それは精神的なもの」「だから訴えてはいけない、文句も言うな」と住民を脅しつけ、口を封じることがその狙いである。 このような主張がまかり通っているのは科技庁報告の中だけではない。放医研所長の紙上でのコメント、広島大学教授のテレビ番組での発言等々、推進派の学者、研究者、マスコミは口をそろえて「ガン・白血病の発生は200mSv以上、200mSvまでなら被害はない」と言い立てている。嘘でも何でも言い続ければ、本当になるとでも言うかのようである。どこで誰が糸を引いているのか。政府・推進派の事実上の統一見解となっている200mSvしきい値論に対する徹底的な批判が必要である。絶対に撤回させなければならない。 第一に、被曝と晩発性障害や遺伝的影響の間にしきい値など存在しないことはすでに確定した事実である。議論の余地はない。ICRP自身ですら「線量反応関係にしきい値を生ずることはありそうにない(1990年勧告)」と認めているのである。そもそも「確率的影響」という概念そのものが、しきい値が存在せず、線量に応じて確率的な被害が確実に発生するという事実を表現している。 第二に、200mSvという数値自体、まったく異常なものである。200mSvもの線量を浴びれば、急性の障害が起こっても不思議ではない。通常250mSvを超えれば急性障害(「確定的影響」)が出るのである。そして、200mSvなどという高線量はもちろん、どんな低い線量であっても、被曝した線量に応じて晩発性障害は発生する。 @チェルノブイリでも、数m〜数十mSvの被曝で被害が出ている。50mSvを受けた子供の染色体異常も報告されている。 Aアリス・スチュアートはX線を照射された妊婦を調査し、2mSv程度の被曝でも、小児ガン・白血病の発生率が倍加することを突き止めた。放射線に対して特別に感受性の強い(成人の10倍以上)子供たちや、幼児、妊婦に対して、どうして200mSvもの放射線を浴びても問題はない、などと言えるのか。 B大気圏内核実験によるフォールアウトによって乳児死亡率が増加していること。また、TMI事故では最大被曝線量1mSv程度と言われているが、それでも乳児死亡率の増加が認めらることを、スターングラスの研究は明らかにした。 Cマンクーソによるハンフォード原子力施設の労働者の追跡調査は、平均蓄積量13.8mSvでも、有意にガン死の増加が起こることを示している。 Dアメリカのゴフマンとタンプリンは広島・長崎の調査データを批判的に検討し、ABCC、ICRPによる公式のリスク評価が10倍以上も過小評価されていることを暴きだした。 これまでの原発の歴史30年余。さらに遡って核開発の歴史約半世紀。広島・長崎に始まり、原子力と核は、大量の被ばく者、被害者を生み出してきたし、今なお生み出し続けている。そもそも、被曝被害の具体的事実、大量の事実こそが、放射線と被害の間に厳然と存在する因果関係を余すところなく証明している。 浜岡原発での被曝労働で白血病を発症し亡くなった嶋橋伸之さんの積算被曝量は8年半で50.93mSvであった。岩佐嘉寿幸さんはたった1回の原発内労働で放射性皮膚炎に襲われ、今なお深刻な全身症状に苦しめられ続けている。のべ数十万と言われる原発内被ばく労働者の存在が因果関係を雄弁に物語っている。科技庁の主張は、今回の事故における被害者を切り捨てるだけではない。すべての被曝者の受けた被害、苦しみを丸ごと否定し、足蹴にするものである。現在を否定し、過去を否定し、未来をも否定するものである。 何を根拠に、200mSv以下ではガン・白血病は発生しないなどと言うのか。その具体的根拠を示せ!さもなくば撤回し、謝罪せよ!政府・科技庁に怒りの声をぶつけよう。 「実効線量当量」ではなくて「実効線量」で評価せよ 科技庁は、「臨界継続時の周辺環境に達する中性子線量およびガンマー線の線量」に関して【理論的な基礎資料】を公表した。それは「ある人が表に示された距離に事故発生時から示された時刻まで屋外に滞在した場合の線量を示し」たものである。ここには大きな問題が隠されている。彼らは被曝線量を「実効線量当量」で表しているのである。この「量」を使うと、現在の知見に照らせば、中性子の危険性が過小に評価されてしまうことになる。少なくとも、現在法令への取り入れ作業が進んでいる「実効線量」で被曝量を表すべきである。事実、発ガンのリスクについて科技庁が言及した200ミリシーベルトは「実効線量」での値であり、「実効線量当量」ではない。実は、「実効線量」では中性子の危険性が「実効線量当量」でのそれよりも2倍危険であるとして計算される。今回の事故の大きな特徴は、大量の中性子が漏れ出たことであり、住民と労働者とが被った被曝はもっぱら中性子によるものである。過去に例を見ない中性子被ばく事故だったのである。つとめて中性子の影響をより正確に評価するべきなのは当然である。 科技庁の【理論的な基礎資料】によれば、臨界が終息するまでに、東海村から避難要請のあった境界である350mでは2.1ミリシーベルトの被曝があり、公衆の被曝限度である1ミリシーベルトの被曝があったのは約420mの距離であったことになる。しかし「実効線量」で評価すれば350mでは約2倍の4ミリシーベルトの被曝となり、1ミリシーベルトの被曝があった距離も480mまで拡大する。また【理論的な基礎資料】では、80mの距離での最大被曝線量は160ミリシーベルトとされている。しかし「実効線量」では少なくとも294ミリシーベルトとなる。この値は急性障害が現れても不思議ではないような高い被曝量である。 国際的に確定している「実効線量」を無視し、2倍もの過小評価を導くことが明らかな「実効線量当量」をなぜわざわざ使用するのか。これは明らかに犯罪的な行為である。絶対に許してはならない。 |
時刻 | 9月30日 16:00 | 10 月1日 06:15 | ||
距離(m) | 実効線量当量 | 実効線量 | 実効線量当量 | 実効線量 |
80 | 110 | 202 | 160 | 294 |
100 | 62 | 114 | 90 | 165 |
150 | 21 | 38.4 | 31 | 56.8 |
200 | 9.3 | 17 | 13 | 23.7 |
300 | 2.5 | 4.55 | 3.6 | 6.55 |
350 | 1.4 | 2.54 | 2.1 | 3.82 |
500 | 0.34 | 0.616 | 0.49 | 0.888 |
1000 | 0.0076 | 0.0137 | 0.011 | 0.0198 |
1500 | 0.00031 | 0.000554 | 0.00045 | 0.000805 |
ホールボディカウンタからの被曝線量計算は 過小評価の疑いがきわめて濃厚 ホールボディカウンタで測定した体内のナトリウム24量から被曝線量を推定した【実際の測定値に基づく線量評価】は、過小評価の疑いがきわめて濃厚である。なぜなら、冷却水抜き取り作業者の装着していた線量計の測定値とホールボディからの計算値が2倍も食い違うからである。ホールボディから計算すると、被曝量が実測値の半分になってしまう。その具体的な理由を科技庁は一切示していない。それにも拘わらず、科技庁は、大幅な過小評価となる計算値の方を正しいものとして扱い、実際の線量計の測定値を否定するというきわめて不当なことをおこなっている。複雑なコンピュータ解析を駆使し、「精密に」計算することで、被曝量を半分に値切る。MOX燃料における制御棒飛び出し事故の解析と同じである。パラメータをちょっといじればたちまち「安全」になるのである。これが彼らの常套手段である。何の根拠も示さず、実測値である120mSvを無視するなどというデタラメを許してはならない。 (Ym&H) |
作業者 | @個人線量計(mSv) | Aホールボディカウンタからの計算線量(mSv) | @/A |
B | 120 | 62 | 1.9 |
A | 98 | 71 | 1.4 |
L | 69 | 36 | 1.9 |
M | 65 | 20 | 3.3 |
K | 58 | 30 | 1.9 |
N | 55 | 23 | 2.4 |
P | 59 | 23 | 2.6 |
N | 55 | 23 | 2.4 |
O | 48 | 21 | 2.3 |
Q | 46 | 30 | 1.5 |
J | 43 | 20 | 2.2 |
C | 40 | 21 | 1.9 |
R | 39 | 15 | 2.6 |
D | 30 | 16 | 1.9 |