(創刊:2001年8月18日)
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★メディアの危機を訴える市民ネットワーク┃メ┃キ┃キ┃・┃ネ┃ッ┃ト┃
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                        メール・ニュース vol.6(2) 発行:2002年2月26日
                           登録者数:304人
                            http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html
                 《↑HPが引越ししました。ご注意を!》
■もくじ■

〈今回送信分〉

1.NHK「女性国際戦犯法廷」改ざん番組放映一周年集会報告
  ≡番組出演者もBRO申し立てか!米山リサさんから裁判支援メッセージ≡

2.最近の出来事・イベント情報

〈次回送信予定〉

浅野健一さんレポートでNHK「やらせ爆弾漁法」裁判の連載報告開始!


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  NHK「女性国際戦犯法廷」改ざん番組放映一周年集会報告
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                 河野真太郎(メキキ・ネット事務局)

 第三回口頭弁論があった1月30日は、奇しくも改ざん番組放映一周年。同夜、
江戸東京博物館で行なわれた記念集会には180名もが参加しました。

◆改ざん番組をビデオで検証
 東海林路得子さんが開会の辞で、アフガン報道の「大本営発表」化が示す現在
のメディア・報道の病理の深刻さを強調した後、改ざん番組(ETV2001『問われ
る戦時性暴力』)の上映が行われました。検証のポイントとして、1)司会の町
永アナウンサーのコメントが「法廷」に対して否定的な形に改変されている(そ
のほとんどが新撮、つまり放送直前に新たに撮られたもの)、2)秦郁彦氏のコ
メント挿入、3)「法廷」を評価してその意義を引き出すようなものであったは
ずの米山リサさんのコメントが大幅に削除され、従って番組内での米山さんの存
在が周縁化されていることなど三点が示され、参加者は食い入るように番組を見
つめていました。私自身も、この一年で明らかになってきた事実を前提に改めて
映像を見て、なりふり構わぬ「改ざんぶり」に、憤りを新たにしました。

◆原告松井やよりさんの裁判報告
 提訴の理由は次の三点です。(1)「女性国際戦犯法廷」は一つの歴史的事実
であり、隠蔽・改ざんされることは許されない。(2)改ざん、特に秦郁彦のコ
メント挿入は元「慰安婦」に対する侮辱であり、このような改ざんを行ったNHK
の責任を追及する必要がある。(3)より広くメディアの現状を野放しにできな
い。NHKが改ざんプロセス公開を執拗に拒んでいて、そこが攻防線となっており、
裁判の過程でもNHKの嘘つき・隠蔽体質が明らかになってきているそうです。NHK
側の弁護士の数に驚いたがめげずに戦っていくと宣言されました。
(『創』2002年1-2月号 坂上香「私が見たNHK番組「改変」と過剰な自主規
制」(上)。先ごろ発行された3月号に続編。是非、ご参照下さい。)

◆ 「法廷」国際実行委員会共同代表 尹貞玉(ユン・ジョンオク)さんの論評
◇◇ NHKは「慰安婦」被害女性をどう傷つけたか ◇◇
 挺対協を設立し、名乗り上げた元「慰安婦」は当初の11人から142人にま
で増え、492回にわたるデモを行ってきた。95年の女性のためのアジア平和
友好基金(国民基金)は屈辱でしかない。96年のジュネーブ国際人権委員会で
「誰のための国民基金か」、「被害者はこれを望んでいない」というと、「それ
でも渡す」との答え。これは国家による暴力ではないのか。 日本国内での裁判
は困難を極めた。日本政府はハルモニたちがみんな死ぬのを待っている!「法廷」
はこのような状況で待望されたものだった。92年に石門子(シーメンズ)で、
どうやら複数の遺体が収められている「慰安婦」の墓に出会った。「法廷」の後、
判決を伝えるために再び訪れたら墓は無くなっていた。判決を報告したかった。
このように意義深い「法廷」、「天皇有罪」を消去したNHKは許されない。また、
日本の視聴者の知る権利の侵害ではないのか。秦郁彦による侮辱も許されない。
姜徳景さんの絵を思い出す。当時の少女たちのハンをはらすため責任者の処罰を!

◆東京大学社会情報研究所教授 吉見俊哉さんの講演
◇◇ 日本のメディアは「女性国際戦犯法廷」をなぜ報道しなかったか ◇◇
 前半は改ざんの過程を時系列で整理し、改ざんと削除の内容についておさらい。
改ざんによって元「従軍慰安婦」の女性たちが、告発する主体という立場から、
被害者として観察される立場に、変えられてしまったという見解が示されました。
 続いて、大きく三つに分けて問いと分析がなされました。
(1)抑圧の4つの次元がある。
   1.NHK→視聴者:「知る権利」の侵害(メキキ・ネット)
   2.NHK→「法廷」主催者:「信頼・期待利益」の侵害(バウネット)
   3.NHK/NEP21→制作プロダクション(DJ):責任の転嫁
   4.NHK経営者→番組制作者:内部的自由の圧殺
 むろん元「従軍慰安婦」たちも抑圧対象である。現在、1+2/3+4で問い
が切断されている。つまり、現実はメディア内部での複雑な抑圧体制が、視聴者
や取材対象などメディア外部の人権侵害につながっているのに、それを問題にす
る側がそのリンクを問えていない。
(2)編集権
 戦後、GHQの占領政策と反共政策が天皇制と合体して、その体制の下で(経営
者に帰属する)編集権という概念が生まれた。アメリカのヘゲモニーのもと、冷
戦体制を抱擁するものとしての権威主義的天皇制が、メディア企業への「抑圧委
譲」を形成する概念として編集権が確立された。集会後に吉見さんの話を聞けた
のですが、この連続体を「父権制」というふうに呼んでおられました。
(3)国内メディアの沈黙
 詳細なデータを示して、国内外メディアによる「法廷」報道の量的・質的な差
を分析。特に質的な差として次の4類型がある。
1)加害者追求型(国外、沖縄などのメディア)
2)被害者救済型(一番多い)
3)「法廷」批判型(産経新聞)
4)「法廷」黙殺型
 (読売など。3までは当然に出てくる反応なので、これを一番問題にすべき)

最後に駆け足で、メディア内の保守化と報道の産業化の関係に言及した後、講演
を終わられました。
(参考文献『裁かれた戦時性暴力』VAWW-NETジャパン編 白澤社)

 9時15分に会場全館が自動消灯(!)とかで、大急ぎで退出。しかし、この
事件に対する怒りを新たにしつつ、それが広くメディアの状況とリンクしている
ことを確認できた、内容の濃い集会でした。

     ゜'・:*。.:*:・'゜★゜'・:* *:・'゜★゜'・:*。.:*:・'゜

2002年1月30日 江戸東京博物館
NHK「女性国際戦犯法廷」改ざん番組放映一周年集会に寄せるメッセージ
───―――――――──────────―――─────────────
                                米山リサ

NHKによる「ETV2001」四夜連続シリーズ「戦争をどう裁くか」の第二夜は、
「女性国際戦犯法廷」の世界史的・思想的意義を考える番組として放送されるは
ずでした。女性法廷は、日本軍の性奴隷制度を「人道にたいする罪」としてはじ
めて裁いた、画期的な取り組みでした。しかし、一年前の今日、実際にテレビで
映し出されたのは、「問われる戦時・性暴力」と題する改ざん番組でした。「N
HK裁判」の第三回口頭弁論が、その発端となった番組の放映からちょうど一年
にあたる日に行われたという因縁に、不思議な力が湧きあがってくるのを感じて
います。

一年前、番組を見て、何かとんでもないことが起きたにちがいない、と真っ先に
異変を察知し、即座にSOSメールを私のもとに送ってくださったのは、鈴木香
織さんでした。鈴木さんとは、「反ひのきみ」のMLでご一緒していました。そ
の直後、まったく偶然にロスアンゼルスに立ち寄られることになっていた松井や
よりさんと、共通の友人のアパートではじめてお会いすることになり、問題の放
送の録画を見たのでした。

そこで私が目にしたのは、NHKとの合意のもとに制作に関わったものとはまっ
たく異なる内容の番組でした。スタジオ収録のさいに受け取った台本やVTR内
容や、二度にわたる長時間の打ち合わせなどにもとづいて作られた番組とは、ま
ったく違っていたのです。延々とつづく散漫で無意味なVTR、不自然なカット、
意味を成さないスタジオのコメントなど、番組として成り立っていない支離滅裂
な内容に、検閲や改ざんの痕を見て取った視聴者は、はたして大勢おられたので
しょうか。

私は番組が「女性法廷」を中心に扱う番組であるという合意のもとに、スタジオ
収録に応じました。スタジオ収録のさい、私はいくつもの論評をしました。法廷
は国境を超えた連帯が生んだエンパワメントの場であったこと。生存者の女性の
証言をどのような態度で受けとめることが大切なのか。法廷の主催者が「責任者
処罰がなくては和解はありえない」というスタンスを明確にしていることの意義。
昭和天皇の有罪判決と社会変革の可能性について。法廷は、加害・被害、植民地
化される側・する側といった、歴史のなかで生まれてきた差異を踏まえることで、
どのような新しい連帯を築きうるかを示した重要な例であること。しかし、今に
して思えば、「法廷」そのものが番組から消されてしまっていたのですから、私
のコメントもまた、残されるはずはなかったのです。坂上香さんが明らかにされ
たところによれば、吉岡民夫NHK教養部長が大幅に改編を迫った後、私を番組
から完全に消してしまうことも提案されていたのだそうです。にもかかわらず、
発言を細切れに切断したり継接ぎにしたりして、誤解を生むようなかたちで残し
たのでした。それは私の研究者としての心構えを踏みにじるものでした。

しかし、改ざん番組の問題点は、「法廷」の意義や内容を隠してしまったことだ
けにとどまりません。「法廷」そして従軍慰安婦制度について、誤った真実をつ
くりだし、伝えてしまったことが、何よりも重大な問題です。法廷で証言をした
女性たちが、まるで誘拐や強制連行の事実を偽っているかのような、侮辱的で誤
った知識を与えてしまった女性アナウンサーのナレーション。そして私が合意し
た当初の番組内容にはなかったはずの、秦郁彦氏の長々としたインタヴュー。そ
れらは悪意に満ち、「法廷」を歪曲し、法廷に関わる人々を貶めるものでした。
今もなお断じて許せないのは、「法廷」を信じて証言を行った生存者の女性たち
の姿や声を、このような誤った真実を伝える改ざん番組によって用いられてしま
ったことです。証言者たちの人格権、肖像権が侵害されたのです。これは映像と
言葉による暴力にほかなりません。

このような意味で、VAWW−NETによるNHKの提訴は、問題の根本を突く
ものであると、私は今も確信しています。ETV問題を黙認し放置することは、
日本軍の暴力の犠牲者にたいする抑圧と暴力に、私たち自身が再び手を貸してし
まうことを意味しています。VAWW−NETによる「NHK裁判」は、それを
しないぞ、という意思表明でもあるのです。

そもそも、VAWW−NETがNHKを信頼し、その番組企画に合意していなけ
れば、NHKは、被害者の女性たちの証言や肖像を番組に利用することはできま
せんでした。NHKは、証言者の映像や声を提供者の意図に反するようなかたち
で用い、しかもそれを辱めるような内容の番組として放送してしまったのです。
番組協力者であり、証言者との仲介にあったVAWW−NETに対して、説明責
任を果たし、きちんとした謝罪をする義務をNHKは負っているのです。しかし、
NHKは頑なにそれを拒否しつづけてきました。法の行使に訴えるということは、
巨大な企業組織の圧倒的な力に立ち向かわなければならないとき、最低限、自ら
の存在を確保するためのなくてはならない必要な手段です。

NHKが「法廷隠し」の番組改ざんを行った背後には、右翼による圧力があった
とうわさされてきました。ETV問題は、一部の排外的で差別的なナショナリズ
ムによって、ジャーナリズムやメディアが歪曲されるという問題でもあります。
VAWW−NETの法廷闘争は、9.11以降いっそう閉塞してゆく日本のメディ
アに対して、警鐘を打ち鳴らしつづけるものとなるでしょう。いっぽう、番組は、
三つのタブー(天皇批判、従軍慰安婦制度問題、フェミニズム批評)に触れたた
めに改ざんされたともいわれました。しかし、事態をこのように説明し、納得し
理解しただけでは、タブーの存続をゆるしてしまうことになります。タブーとは
私たち自身がつくるものです。私たち一人一人が、タブーなんて元々ないんだ、
と自らに言い聞かせ、そのような理解と真実を共有してゆくことで、それを有効
に打ち砕いてゆくことができるはずです。

改ざん番組放送から一年を経た今日、ここにお集まりの皆様と、怒りを新たに共
有し、私なりに「法廷」の意義、「NHK裁判」の意義を考え、広く訴えてゆく
努力を今後もつづけてゆきたいと思います。さいごにこの決意をお伝えして、私
のメッセージを終わります。

了
                 ★

       BRO申し立てについての決定と経緯について
       ――――――──────────―――──
                        米山リサ

 改ざん番組の放送以来、太平洋を超えて、多くの方々がこの問題を自分の問題
として深く共有してくださり、さまざまな角度から、有意義で密度の濃い議論を
交わしてくださいました。そのおかげで、いくつもの困難な時期を乗り越えるこ
とができました。その議論から導かれたひとつの結論として、この度、ETVの
番組において私個人に対する人格権・著作権の侵害と放送倫理違反があったこと
をBROに申し立てることを決めました。私の正式な代理人を引きうけてくださ
っているのは、これまでもメディアと人権の問題や、アムネスティ運動で活躍さ
れてきた山下幸夫弁護士です。BROには、山下弁護士をつうじて、1月15日
に正式にこの件について通告しました。ただ、BROが申し立てを受理する要件
として、NHKと私との二者間の事前交渉が決裂した、というものがあり、現在
のところ、BROからの問い合わせにたいして、NHK側は、個人の権利侵害に
ついての申し入れはなかった、そのような申し入れがあれば話合いに応じる意思
がある、と答えています。そのような経緯から、まず、山下弁護士をとおして、
NHKと直接の交渉をもつことになりました。私としては、これまでもいろいろ
なかたちでこの点についてもNHKに訴えてきたつもりでいましたので、NHK
のこのような回答は腑に落ちないところもあります。しかし、受理は先送りとな
りましたが、今回、BROの仲介で、NHKがはじめて具体的な交渉にむかう前
向きな姿勢をとってくれたことは、それなりに歓迎したいと思います。よい成果
が得られることを祈ってください。

以上


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[最近の出来事・イベント情報]

◆◆「根津さんの処分をとめよう」緊急署名
授業で従軍慰安婦やオウム真理教事件、学校の「日の丸・君が代」問題などを取
り上げ、「指示を待つだけの人間にならないで」と教えた根津公子さんに対する
行政の執拗な攻撃が続いています。
署名提出は2月25日となっていましたが、まだまだ目が離せません。
詳しくは下記のホームページをご覧ください。
http://www1.jca.apc.org/anti-hinokimi/nezu/index.html
http://www.din.or.jp/~okidentt/nezusan.htm
http://lovepeace.org/ks-m/peace/mokuji.html

◆◆第三回 英知大学・公開討論会
「アフガニスタン難民は今!
    - パキスタンのアフガニスタン難民キャンプ視察報告会」
日時 :3月9日午後1時より
場所 :英知大学(兵庫県) H - 301教室
参加費:無料
講師 :松浦悟郎(日本カトリック正義と平和協議会会長)
問い合せ:日本カトリック正義と平和協議会jpj@jade.dti.ne.jp  


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800字前後にまとめて、件名あるいはSubjectを「投稿」として
mekikinet-owner@egroups.co.jp へお送りください。
長文は掲載不可です。お名前(公表を控える場合は仮名でも可)と
タイトル(題)をお忘れなく!
採用は発表をもってかえさせていただきます。

★ご感想、ご意見もお寄せください。
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                      (6号編集担当・鈴木香織)

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│発行= 2001年2月26日                                              │
│発行所=メキキ・ネット事務局                                      │
│ ホームページ: http://www.jca.apc.org/mekiki/index.html         │
│ 電子メール: mekikinet-owner@egroups.co.jp                      │
│ FAX: 020-4666-7325                                          │
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