メキキ・ネット主催 NHK第1回裁判報告会+討論会
第2部「表現の自由」は誰のもの?
2001年10月3日
問題提起者:野原仁(城西国際大学講師)
1.今回の問題が投げかけるもの
@ジャーナリズムの倫理
A表現の自由・知る権利
B日本的「編集権」とは何か
CNHKの欺瞞性
2.ジャーナリズムの倫理
視点:現行法制における法解釈の問題としてではなく、ジャーナリズム機関としての取 材・報道のあり方(=ジャーナリズムの倫理)の問題としてNHKの行為を考える
ジャーナリズムの倫理の基本=市民の「目や耳のかわり」として、真実を伝え、権力者の行動をチェックすること
@外部の取材協力者への対応
A出演者への対応
アメリカ職業ジャーナリスト協会倫理綱領「フェアプレイ ジャーナリストはニュースを集め、それを報道する過程で出会う人々の尊厳、プライバシー、権利および福祉について、いつも尊敬の念を表明すべきである」
・番組の基本方針の大幅な変更は取材協力者への裏切りではないか?
・インタビューや番組内での発言の編集については、出演者に対して全体の中でのコメントの位置づけを説明するとともに、放送前に使用した発言部分を報告することが必要ではないか?また、インタビューをしながら使用しない場合は、正当な理由が必要であり、使用できない旨を出演者に事前に説明すべきではないか?
B外部からの圧力と自主規制
・外部からの圧力といっても圧力をかける主体の種類や圧力の方法などが多様であり、一概に論じることはできないのでは?権力者による番組内容への干渉は問題外!
・自主規制とは多くの場合メディア内部における権力者の検閲ではないのか?
Cメディアの公正・中立
・ひとつの番組内で異なった意見を並列的に紹介するのが公正なのか?
・歴史的事実を歪曲する意見を紹介することが公正なのか?
3.表現の自由・知る権利
視点:メディアの表現の自由や市民の知る権利の基本を知る
@表現の自由とは何か
・表現の自由の根幹は、「権力者を批判する自由」である
・マスメディアの表現の自由は、市民の「知る権利」のために認められている
A知る権利とは何か
・知る権利とは表現の自由の一部である
・知る権利も含む表現の自由とは、民主主義社会の基本条件である
4.「編集権」とは何か
視点:日本的「編集権」の内容を知り、ジャーナリズムの倫理と現行法制における法解釈の2つ視点から考える
@日本的「編集権」とは何か
・報道内容についての決定権が、経営者およびその代理人としての編集責任者のみにあるという考え方
・もともとは占領下GHQの反共政策のもとで、新聞社内の労働運動激化に対して、GHQの承認を受けて、経営者側が「資本の論理」として主唱したもので、1948年3月16日の「日本新聞協会の編集権声明」として具現化
・これまではメディア内部の経営者vs労働者の間で争われてきた(メディアの内部的自由)
・アメリカの多くのメディアも同様な思想に立脚している
A編集権は誰のもの?
・ジャーナリズムの倫理の視点:渡辺武達同志社大教授「編集権はオーディエンスの知る権利、つまり社会の構成員である私たちがまともな社会的判断をするための基礎資料を提供するというメディアの社会的機能に立脚して考えられるべきもので、メディアの経営者や労働者(直接的には記者たち)は一時的にオーディエンスからその権利の行使の代行をまかされているにすぎない」
・法解釈の視点@経営形態と現行法制から、少なくともNHK・民放・新聞などを区別して考えるべき
・法解釈の視点A編集権のレベルを、たとえば「基本方針」「長期方針」「個別方針」などに分けて考えるべき
・放送法第3条「放送番組は、法律の定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」→外部の権力者などからの不当な介入を避けるためのもの
・民放=株式会社=所有権は株主→編集権は株主およびその信託を受けた経営者に帰属?→電波は誰のものか?
・NHK=政府の特殊法人?→受信者の法的地位は?
5.NHKの欺瞞性
視点:NHKの権力迎合の歴史と現状を具体例をもとに検証し、その構造的原因を考え る
@NHKの「編集権」のダブル・スタンダード
・政府自民党ベッタリで、これまでにも政府自民党・財界・右翼の有形無形の圧力により番組中止・改竄を繰り返す(=編集権の放棄)を繰り返してきた(例「ユーモア劇場」「NC9田中角栄報道」「問われる巨大開発」など)
・その一方で、視聴者や野党政治家などからの正当な抗議は「編集権」を「お守りことば」として拒絶
ANHKの権力迎合の歴史と現状
・NHK会長・経営委員長は政府自民党の意向で決まる
・世論調査の結果も政府自民党に都合の悪いものはカット
・NHKに入る最も確実な方法=自民党政治家のコネ
・海老沢恐怖政治体制でNHKのジャーナリズムは完全に死んだ
BNHKのもつ本質的欠陥
・予算&経営委員会人事などには国会の承認(=自民党の承認)が必要
(主な参考文献;現在書店で入手可能な入門書を抜粋)
@ジャーナリズムの倫理
M.クロネンウェッター著、渡辺武達『ジャーナリズムの倫理』新紀元社、1995年
原寿雄『ジャーナリズムの思想』岩波新書 1998年
渡辺武達『メディアトリックの社会学』世界思想社 1995年
渡辺武達「メディアと情報の自由は誰のものか」潮出版社 2000年
A表現の自由・知る権利・編集権
松井茂記『マス・メディア法入門 第2版』日本評論社 1998年
石村善治『現代マスコミ法入門』法律文化社 1993年
長谷部恭男『テレビの憲法理論』弘文堂 1993年
立山紘毅『現代メディア法研究』日本評論社 1996年
田島泰彦ほか『現代メディアと法』三省堂 1998年
BNHKと政治
川崎泰資『NHKと政治』朝日文庫 2000年
島桂次『シマゲジ風雲録』文藝春秋 1995年
津田正夫『メディアアクセスとNPO』リベルタ出版 2001年 |