新潮文庫販売差し止め  恵庭OL殺害 『受刑者の名誉棄損』

2007年1月24日 東京新聞 朝刊11版 第1面

 二〇〇〇年に起きた北海道恵庭市のOL殺害事件で、懲役十六年の刑が確定した元同僚が月刊誌「新潮45」の記事や、それを再録した文庫本で名誉を傷つけられたとして、出版元の新潮社(東京)などに文庫本の販売、増刷差し止めや一千百万円の損害賠償などを求めた訴訟の判決で、東京地裁は二十三日、新潮社側に文庫本の販売、増刷差し止めと二百二十万円の支払いを命じた。
 高野伸裁判長は判決理由で「殺人以外に、放火や窃盗も犯したと指摘する部分は警察や被害者にも取材しておらず、真実と信じるに足りる理由はない」として名誉棄損を認定した。
 ただ差し止めの対象を放火や窃盗に関する部分だけに限定。これを削除すれば販売、増刷は認められるが、新潮45編集部は「非常に不服なので控訴する」と話している。
 元同僚は大越美奈子受刑者(36)。
 判決によると、新潮社は〇二年一月発行の新潮45(約五万部発行)に「恵庭美人OL社内恋愛殺人事件」との見出しの記事を掲載。同年十一月には、その記事を再録した新潮文庫「殺ったのはおまえだ−修羅となりし者たち、宿命の9事件」を出版した。文庫本はこれまでに約十万部発行されている。
 記事は大越受刑者の元勤務先で起きた放火や窃盗について、客観的証拠がないのに、元勤務先の従業員らの話から大越受刑者を犯人と指摘した。
 高野裁判長は「放火と窃盗に関する部分は大越受刑者の社会的評価を低下させたが、記述はわずかで表現も穏やかな上、時間も経過していることから、全国紙などへの謝罪広告までは不要。表現の自由などにかんがみれば、ほかの部分の販売、増刷差し止めや、文庫本回収の必要もない」と判断した。
 大越受刑者は二〇〇〇年六月、同僚の女性=当時(24)=に対する殺人罪などで起訴され、無罪を主張したが、最高裁で昨年九月、上告を棄却され、懲役十六年の一審札幌地裁判決が確定した。
■出版物への“死刑”
 清水英夫・青山学院大名誉教授(言論法)の話 原則的に言えば販売差し止めは、出版物にとって死刑に等しい重みがあり、相当の理由がないといけない。今回のケースでは、記事の大部分を占めるのは殺人事件であり、原告の社会的評価は殺人事件によって既に低下していることから、損害賠償で足りる事例ではないか。今後は差し止め判決を出す際の基準をより明確に示し、慎重に運用していくべきだ。
<メモ>恵庭OL殺人 2000年3月17日朝、北海道恵庭市の市道で会社員橋向香さん=当時(24)=が遺体で見つかり、同年5−6月、同僚だった大越美奈子受刑者(36)が殺人と死体損壊容疑で逮捕、起訴された。交際していた男性をめぐるトラブルから首を圧迫して殺害し、遺体に灯油をかけて焼いたとされたが、物証はなく、大越受刑者は捜査段階から一貫して無罪を主張。03年3月の札幌地裁判決は、被害者の携帯電話の位置情報が大越受刑者の足取りとほぼ合致していたことなどから有罪と認定。懲役16年を言い渡し、札幌高裁と最高裁も支持、確定した。

 <恵庭事件名誉棄損訴訟>余罪記述部分で新潮社側が敗訴
1月23日20時37分配信 毎日新聞

 北海道恵庭市の女性会社員殺害事件(00年3月)で懲役16年の実刑判決が確定した元同僚の大越美奈子受刑者(36)が、月刊誌「新潮45」と新潮文庫で名誉を傷つけられたとして、発行元の新潮社側に1100万円の賠償などを求めた訴訟で、東京地裁は23日、220万円の支払いを命じた。高野伸裁判長は判決で「余罪があるかのように報じた部分は名誉棄損に当たる」と述べた。
 問題とされたのは同誌02年2月号の「恵庭美人OL社内恋愛殺人事件」と題した記事と、再録して02年11月に発行された文庫本「殺ったのはおまえだ」。大越受刑者が事件前に勤めた別会社の同僚の話として、社内での窃盗や放火も大越受刑者の仕業であるかのように報じた。判決は「確認取材が不十分で、証拠がないのに同僚の話を信じた」と指摘し、余罪部分の記載を残したままでの文庫本の販売や増刷も禁じた。【高倉友彰】
 ▽新潮45編集部の話 判決内容は非常に不服なのですぐ控訴する