4.第1回締約国会議(COP1)
(1)会議の論点
1994年3月に条約が発効し、1年後の1995年3月にドイツのベルリンで第1回締約国会議(COP1)が開催されました。この会議は「気候サミット」と呼ばれることもあります。この会議で討議されるべき論点は以下のとおりでした。
- 1) 温室効果ガス削減の数値目標と目標年度や2000年以降の行動について
- (条約4条2項(a) 、(b) の妥当性)
- 2) 共同実施の基準
- 3) 手続き規則
- 4) 途上国への資金援助のメカニズム
(2)温室効果ガス削減の数値目標と目標年度について
気候変動枠組条約4条2項(a)、(b) に掲げられている「温室効果ガスの排出を2000年までに1990年レベルまで戻す」との約束だけでは気候変動防止は実現できないという認識をもつ国が多かったのですが、条文の強化を具体的に提案した国は小規模島嶼国連合(AOSIS)だけでした。この議定書案はAOSIS案と呼ばれています。
このAOSIS案は、「二酸化炭素(CO2)の人為的な排出を2005年まで に少なくとも1990年レベルから20%削減する」ことを提案するものです。
このAOSIS案を交渉の最初のステップに、と期待されていましたが合意を得られず、議論は難航しました。
当初、途上国グループのG77+中国や、サウジアラビアなどの産油国が、地球温暖化には科学的裏付けが不十分だとして条約の強化に反対し、これに対して小規模島嶼国連合(AOSIS)やEUなどは条約の強化に賛成の立場をとりました。G77+中国は更に、今後の条約強化の議論より先進国の義務が十分に実施されているかを問題にするべきとの意見でした。
しかし途上国の中でも強行に議定書採択に反対していたインドが、グリーンペーパーと呼ばれるたたき台になる文章を作成し、途上国のリードをとりはじめたことで、混沌は解決へと前進しました。グリーンペーパーは、産油国を除く途上国の支持を集め、そのグループは、G72(またはグリーン・グループ)と呼ばれました。
グリーンペーパーはG72内での話し合いの結果、(1)既存の条約上の約束は不十分である、(2)条約強化のためには具体的数値を盛り込む必要がある、(3)途上国へ新しく義務を課さない、(4)排出削減と途上国への財政援助・技術移転をリンクさせる、(5)すべての当事者が誠実に討論に参加する、などにまとめられました。しかし途上国の約束の強化を要求する一部の先進国(アメリカ、オーストラリアなど)と対立し、最終的にはCOP1最終日の未明に、やっとベルリン・マンデートと呼ばれる文書が合意されました。
ベルリン・マンデートの要点は以下のような内容の議定書または他の法的文書を1997年の第3回締約国会議(COP3)で決めるということです。
- 先進国の条約への取り組みを強化するために詳細な政策と措置を決める。例えば、2005年、2010年、2020年といった特定の時間枠内で、温室効果ガスの排出量の削減または抑制の定量的な目標を設定する。
- 途上国に対しては、新たな義務を課さないが、既存の義務の実施を促進する。そして、このベルリン・マンデートによりCOP3で採択されるべき議定書の作成のための特別機関が新たに設立されました。それが、AGBM(アド・ホック・グループ・オン・ベルリン・マンデート)です。そして、21世紀初頭の気候変動防止の取り組みを決める重要なこのCOP3が、97年12月に京都で開催されるのです。
(3)共同実施の基準について
気候変動枠組条約では、温室効果ガスの排出抑制・削減のための政策や措置を、複数の締約国で共同で実施することを認めています。しかし、その詳しい基準については決めていません。まず最初に問題となったのは、以下の2項目でした。
- 1) 対象国を先進国だけに限定するのか、全締約国にするのか、
- 2) A国がB国に資金協力してB国の排出量を削減したとき、その削減量をA国に還元するのか(クレジット)。
共同実施を認めている条文が、附属書I締約国(先進国)を対象にした項目であったこと、また、先進国が自国の排出量削減の努力をせず、安易に排出削減のコストの安い途上国を巻き込もうとしているのではないかなどの理由から、意見が分かれていました。
先進国は共同実施(クレジットを認め、全締約国が対象)に賛成。途上国は準備会合まで意見が分かれていましたが、結局クレジットを含めることは反対だが試行期間中は途上国も参加するということでG77+中国の間でコンセンサスを得ることができました。
アメリカがクレジット導入を強行に主張しましたが、ブラジルを除くラテン・アメリカが共同実施の任意参加に同意してきたため途上国と先進国の妥協が成立、試行期間中はクレジットを導入せず附属書I締約国以外の国は任意に参加するということで合意しました。
また、名称も共同実施という言葉は条約上は附属書I締約国間のものに限定されるとの解釈(途上国側の見方)や、クレジットを認められるのが共同実施だとの解釈(先進国側の見方)から、共同実施活動となりました。共同実施活動は、先進国から途上国への資金援助・技術移転にも寄与すると目されています。
(4)手続き規則
気候変動枠組条約は、条約の改正手続については「原則としてコンセンサス(全員一致)とし、あらゆる努力により合意に達しない場合は、最後の解決手段として出席し、投票する締約国の4分の3以上の多数決で改正できる」と定められていますが、議定書などの採択手続きは定められていません。そのため、議定書を採択するためには、まず、議定書をどのように採択するかを決めねばなりません。条約で定められていない手続き規則は、各国のコンセンサスで決めなければなりません。しかし、議定書の採択などの投票ルールに関しては利害の対立が大きく、COP2では決めることができず、COP3に持ち越されてしまいました。
(5)途上国への資金援助のメカニズム
途上国グループは、途上国の意見が反映されにくい地球環境ファシリティ(GEF)は暫定的にのみ用いるよう求めているのに対し、先進国はGEFを恒久的に利用していくことを求めました。EUはGEFに加え、これまで用いられてきた多国間銀行や財政援助、民間部門も利用していくべきという提案を行いました。 様々な議論がなされましたが、合意に至らず持ち越しとなっています。
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