井上澄夫さんからいただいたメイルを転載します。_あの_西村がどのような人物
かがよくわかります。
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テーマ 西村発言を考える
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本稿は、私、井上澄夫が、大阪府吹田市の開村和子さんと瀬川勝さんが発行してい
るミニコミ『With you』に寄せたものであるが、お二人の許しを得て転載す
る。(脱稿、99年11月9日)
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西村発言の根底にある思想をえぐる
井上澄夫
本年10月5日、自自公連立政権発足のさい、防衛政務次官になった自由党の西村
真(眞)悟・衆院議員(以下、西村)は、就任後16日目の10月20日、雑誌『プ
レイボーイ』掲載のインタビュー記事が原因で更迭された。
インタビューにおける西村の発言が、さまざまな方面から批判されたのは、当然す
ぎるほど当然である。だが、彼の発想(思想)の問題点をじっくり考えてみるために
は、問題の発言に先行する発言や、彼の論文、あるいは辞任後の発言を含めて検討す
る必要があるだろう。
そこでまず11月2日号同誌の記事の要点を記そう(インタビュアの質問を括弧で
くくる)。
〔西村さんといえば、九七年、尖閣諸島に上陸し、議論を巻き起こしたことで有名で
すが、防衛庁の政務次官になられた今こそ、晴れて上陸という予定はないんですか
?〕
必要があったら行きます。でも、今は尖閣諸島に行くよりも、六本木の風俗店に行
くほうが難しくなってきましたわ。
〔行くのはいいけど、また中国が文句言ってきそうですね。〕
文句もなにも、あそこは日本の領土なんですから。それに外務省には(自由党の)
東(祥三)政務次官もおるから。ま、外交で解決できんかったら、オレのところ、防
衛庁でやるけど(笑)。
〔国会でも今までどおりの発言で答弁するつもりですか。例えば「自衛隊は軍隊であ
る」とか。〕
ボクの意見を聞かれたらね。政府としての見解以外に、政務次官たるオレの意見を
聞きたいんやったら言うたろうやないけ。
〔別の雑誌で、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の不審船に対して国がとった行動
について「2隻の船を花火を上げてお見送りしたようなもの」と発言してましたけ
ど、また来たら、次官としてどうするおつもりですか?〕
今の段階では海上警備行動の発令でしょう。でも、今度はホンマにやる。
〔ホンマにとは?〕
ホンマに撃って、そんで撃沈する。
〔(西村が、かつてF15に乗った件に触れて)政務次官になったんだから、もう乗
りたいものは乗り放題ですね。〕
そうそう。柔らかい乗り物(女)には乗れませんけど、カタイ乗り物には乗り放題
ですわ(一同爆笑)。
〔政務次官になって、いちばんやりたいことはなんですか〕
政務次官になったからというより、政治家としてのライフワークは国軍の創設です
わ。
〔自衛隊じゃなくて国軍〕
もちろんそうです。
〔地球防衛軍というのはどうですか?〕
そらオモロイ(笑)。全世界への展開。「大東亜共栄圏、八紘一宇(はっこういち
う)を地球に広げる」や。ボクは民族主義者やけど、民族主義者でなかったら政治家
の資格はないと思ってるからな。
〔今の政治家は特に防衛問題で歯切れが悪いですよね。〕
「攻撃的兵器は持たない」とかね。攻撃的でない兵器ってなんだ? 水鉄砲かっ
ちゅうねん。
〔「専守防衛」というのも意味がわからない。〕
あれは相手が撃つまで撃ったらアカンっちゅうこと。ところが今、相手が持ってる
のはミサイルでっせ。一発で何十万人と死ぬ。それ撃たれてから反撃しようにも、命
令を下す内閣総理大臣が死んでしまっておれへんがな(笑)。
〔パキスタンの今度のクーデターでインドとパキスタンの間で核戦争の危機が叫ばれ
てますが、やっぱり危険な状態なんですか?〕
いや、核を両方持った以上、核戦争は起きません。核を持たないところがいちばん
危険なんだ。日本がいちばん危ない。日本も核武装したほうがええかもわからんとい
うことも国会で検討せなアカンな。
〔それは政務次官である西村さんが国会で発言するんですか。〕
個人的見解としてね。核とは「抑止力」なんですよ。強姦してもなんにも罰せられ
んのやったら、オレらみんな強姦魔になってるやん。けど、罰の抑止力があるからそ
うならない。
〔社民党がまた「いつかきた道」って言うんじゃないですか?〕
まあ、アホですわ、あんなもん。何を言うとんねんと。だからボク、社民党の(集
団的自衛権に反対を唱える)女性議員に言うてやった。「お前が強姦されとってもオ
レは絶対に救ったらんぞ」と。
〔強姦という言葉が、すごくお好きなんですね(笑)。〕
あ、ちょっと使いすぎるな(笑)。でも、これを言うたら事態が明確になるんです
わ。例えば、集団的自衛権は「強姦されてる女を男が助ける」という原理ですわ。同
じように言えば、征服とは「その国の男を排除し、征服した国の女を強姦し、自分の
子供を生ませる」ということです。逆に、国防とは「我々の愛すべき大和撫子(なで
しこ)が他国の男に強姦されることを防ぐこと」…。
次に、これは、問題の発言に数カ月先行してなされたものだが、『正論』本年8月
号の、櫻田淳という右派評論家との対談「男たちよ、愛する者のために死ね!」にお
ける発言を、先のインタビューを念頭に置いて引用してみよう。
〈国家の至高の目的は、国民の命を守ることではなくて、命を捨ててでも守るべき
国家の価値、国家の存続を確保するということ。/われわれすべてが自分の身と家族
を守るために武装権を持っている。だからアメリカに行っても必ず射撃訓練してく
る。/日本は、(黒澤明監督の)『七人の侍』でいうならば、アメリカという青い目
の侍を雇って守ってもらっている状況です。日本は平和主義という観念の遊戯に囚わ
れて自らを守ろうとしない。東アジアの情勢は日清戦争前夜に似てきたと私は思って
います。いよいよこれはみんなが武装して、脅威に対抗する時代がやってきたと考え
ざるを得ない。国家の最低限の要件は、共同体の防衛機能保持ですから、ここでやっ
と国家の要件が見えてきた。/政(まつりごと)の根本は、この共同体の永続です。
そのために死んだ人がいるから共同体は永続している。だから共同体の永続を目指す
政は、決して共同体のために死んだ人々を忘れてはならない。/考古学では旧人類も
出てきてるわけでしょ。日本は、先祖の、また子孫の霊の宿る島ですよ。だから、俺
はこの島のために死ぬ。/(日本人の)価値観の共有は、自然に伝わった日本語のな
かに端的に現れている。それは敬語、謙譲語の発達です。敬うべき究極の中心を持っ
た言葉の世界、これは社会体制としては天皇ということになってくる。/ヨーロッパ
大陸を例にとれば、民族浄化というのは、相手の国の男を殺して、女に自分の子供を
産ますということなんです。だから国防というのは、自分が強姦され、いやいや子供
を生まされないためであり、それを見抜くことができない女では困る。とはいえ、
やっぱり男は女を守らなあかん。/この頃の若い男は精子が減少しているというで
しょ。死ぬために生きろとなぜ教えられないのか。国のために死ねと教えてやった
ら、きっと精子の数も増えると思うけれどね(笑い)。/結局、男はみんな愛する者
のために、簡単に、あっけなく死ねばいいんだ(笑い)。〉
この発言で確認できることは、『プレイボーイ』での発言が、防衛政務次官になる
前からの彼の持論であるということである。辞任後、西村は開き直ってあれこれ発言
しているが、それも参考になるので拾ってみよう。11月4日号の『週刊新潮』に掲
載された「私の『防衛論』どこがケシカランのか」は、こうのべている。
〈『プレイボーイ』の記事の中の発言が大きな問題になってしまった。なぜあんな
現象が起こってしまったのか、それは今考えても、私にはよくわかりません。/わか
らないなりに現象を分析してみると、私の発言で騒動が起こっているにもかかわら
ず、私には対処できない形で物事が動いていました。/あのとき私に向けられたの
は、問題を提起したこと自体に対する非難で、私はそれについて説得することは不可
能です。ですからなす術がなかったのです。/まさにそうした状況の中で、いつ辞め
るのかという問いかけだけが360度から飛んできて、結果において防衛行政の停滞
を招いた。/防衛庁は危機に対処するための組織です。危機の本質とは、いつどうい
う規模で何が起こるかわからないということです。したがって、記者に囲まれて大臣
がトイレにも行けないような停滞を何日も続けることは、決して許されることではあ
りません。/騒動は私の発言が起こしたものですから、私にはその空気を除去するこ
とができる。それが辞任の理由です。/なぜ「強姦」という言葉を使ったのかも説明
しましょう。国防というのは抽象的に論じてもわかりません。極めて具体的に論じな
ければわからない問題です。/私が言いたかったのは、国防が破綻したら、それこそ
口にするのも嫌な事態が起こるということ。あなたのガールフレンド、母親、妹が
「民族浄化」される。それを防ぐために国防が必要なのだ。国防というのは、具体的
なイメージを持って、初めて危機意識が芽生えるものなのです。それなのに、私が
使った言葉のみを取り上げて、私が女性蔑視をしているという指摘がある。私は国防
を大切にし、女性を大切にする体制を作るべきだと言っているのですよ。それがなぜ
蔑視なのか。しかも私がそれ(強姦)を欲しているという風な報道まであるのです
が、こちらに至ってはもはや驚天動地のことです。/マスコミは私の首を取ったつも
りでしょうが、まだ私の首はつながっている。これからも国家のお役に立てる仕事を
する道を歩んでいきます。私がなんで今回のような問題を提起したのかといえば、そ
れはこの国家を愛しているからです。決して私利私欲からではありません。〉
西村はまた、本年12月号の『正論』でも好き放題に語っているが(「緊急インタ
ビュー・朝日新聞よ、時の空気でメシを食うな」)、それも少し引用しよう。
〈(ユーゴスラビアにおける)民族浄化の実態は明らかに強姦です。われわれ日本
民族が存続するためには女性を守らねばならない。女性さえ守れば、われわれ民族は
存続できるわけです。女性こそ国防に関心を持たねばならない。なぜなら女性が産ん
だその息子が一旦緩急があれば戦う立場に立つわけです。/マスコミがあそこまで騒
げば、政治家は口をつぐまざるを得ない。今のところ口をつぐんでいないのは小生だ
けということになりますね。/内閣総理大臣官邸の廊下にも防衛庁の本部の廊下にも
記者が満ちあふれて自由に往来する。このようななかであの空気が起これば、行政が
停滞して廊下が歩けなくなっているわけですから、これは一種の暴力です。〉
ついで記しておくと、『正論』の同じ号に、福田和也という、1960年生まれの
若手「文芸評論家」が「西村眞悟氏を潰していいのか」なる、はなはだ激越な〈国
士〉気取りの一文を「緊急寄稿」しているが、そこにはこうある。
「西村眞悟議員が、潰されようとしている。ただ防衛政務次官を罷免されただけで
なく、あらゆるメディアからの攻撃を受けて、その政治生命を絶たれようとしてい
る。/氏は、核武装の是非について議論すべきだ、と提議したにすぎない。その折の
比喩が、多少くだけたものであっても、媒体が若者向けの雑誌であることを考えれ
ば、問題にするにはあたらないだろう。/わが国の周囲には、中国、ロシア、北朝
鮮、アメリカという、核攻撃能力を備えた、あるいは備えていると考えるべき国が存
在している。これらの国とは、国交の親疎があるものの、何時致命的な国益の対立が
生じてもおかしくない、軋轢の可能性を秘めている。一旦危機が生じた場合に、これ
らの国が、わが国への核攻撃という選択肢を絶対にとらない、と言い切る合理的根拠
がない以上、その抑止策を考えておくことは当然のことだ。/核兵器の惨禍をくいと
めることが出来るのは、核廃絶のプロパガンダではなく、核攻撃の抑止であるとい
う、ごく当たり前の事実に私たちは目をつぶってきた。反核運動に熱中する人々の意
を受けた代議士たちは、本来の責任を果たすことから逃げてきた。今でも逃げてい
る。西村眞悟ただ一人を除いては。/過日、偶然テレビをつけると、画面に西村氏
の、防衛庁からの離任式が映しだされていた。自衛隊の儀杖隊の栄誉礼を受けて、門
を歩み出ていく西村氏の相貌は、戦後の政治家でただ一人、とも云うべき軍を閲する
にふさわしい責任感と緊張感に満ちたものだった。かような政治家が防衛庁の任を解
かれ、政治生命を脅かされていることに慚愧しないのであれば、一体この世に嘆くべ
きことがあるだろうか。」
つまり右派ジャーナリズムは、〈掌中の玉〉としての西村を、なんとしても防衛し
たいのである。その雰囲気はいくつもの右派のメディアに如実に反映している。西村
の開き直りインタビューと福田の西村支援「緊急寄稿」を掲載した『正論』(本年1
2月号)には、日本再生の会、西村眞悟を支援する女性の会、西村発言を支持する青
年の会共催によって、本年11月17日、東京で開催される「西村眞悟支援緊急集会
・西村眞悟大いに語る《国防を議論してこそ国会議員である》」の一頁大の広告が出
ている(西村の似顔絵のネクタイが「菊の紋章」にみえる)。
軍の動向でいえば、西村の防衛政務次官としての活躍を、防衛庁の制服組が期待し
ていたという報道もある。さもありなんというべきだろうが、それにしても、松島悠
佐(ゆうすけ)・元陸上自衛隊中部方面総監の次の主張は、驚くべきものである。
「西村議員のこれまでの発言や行動は、私自身、防衛の現場で勤務していた経験か
ら、その考えに同調することも多かった。『国防の基本は憲法に定めるべきであり、
そのために憲法を改正しなければならない』『国の自衛権は国際法で認められている
ものであり、自衛の行動は国際の法規と慣習に準拠して行うべきである。わが国が政
府見解で足かせをしているのは適当ではない』『国防は国家存立の基本であり、今回
の省庁改編で防衛庁を省に昇格すべきだ』『不審船への対処は自衛権の発動で対処す
べきであり、威嚇射撃だけでは国益は守れない』などの主張は、わが国周辺の情勢を
考え、かつ国際的な視点に立てば、主権国家として当然のことである。/西村議員の
かねてからの主義・主張は、安全保障の基本に真っ向から取り組もうとしない歴代の
政府に対し、目を覚ませとの警鐘であったとも思う。/今回のわが国の核武装検討の
発言も、わが国はいつまで(ママ)米国の核に守られているだけでよいのか、という
問題を提起したかったのだろう。政府が掲げた『非核三原則』を見直すことの問題提
起がだめなら、憲法を見直す問題提起もだめなのかと問いたい。世界の情勢が変われ
ば、憲法でも、政府の基本政策でも見直して然るべきではないか。/この機会に、西
村議員の発言の背景にまで踏み込んだ議論を期待したいものである。」(99年11
月4日付『産経』、「私にも言わせてほしい」欄)
ところで、本年8月号と12月号の『正論』は、西村をこう紹介している(表現
は、同誌のまま。)
〈昭和二十三年(一九四八年)、大阪府堺市生まれ。京都大学法学部卒業後、弁護
士を経て、平成五年(九三年)七月の衆議院選挙で民社党から出馬し、初当選。平成
六年(九四年)の民社党解党にともない新進党に入党。現在二期目。自由党所属の衆
議院議員(大阪十七区)。著書に『誰か祖国を思わざる』などがある。平成九年(九
七年)五月、中国の尖閣諸島領有権主張に対し政府が弱腰を続けるなか、敢然として
同島に上陸・視察。〉
辞任に当たり、西村は、記者会見で「今回の事態は私の発言が起点だが、後になっ
て、なぜあの問題提起がこういう事態になったのかと、みなさん自身説明できなくな
るかもしれませんよ」とうそぶいた。すでにみたように、辞任は「これ以上防衛行政
の停滞を招くことは断じてならないと判断した」からであるという。その傲慢な姿勢
は、政治情勢総体の今後のさらなる右旋回を見越しつつ、右翼・右派勢力の拍手喝采
を当て込んだパフォーマンスとみるべきだろう。
実際、西村が果たす役割は、小沢一郎党首率いる自由党の体質そのままに、自民党
より右の位置から、政治情勢の基軸を右へ右へと牽引しようとするものである。
昨年10月号の『VOICE』(PHP研究所発行)に、西村は、「スパイ防止法
を制定せよ!」なる論文を寄せた。そこで彼は「明治四十一年に制定され昭和二十二
年に削除されたわが国刑法八五条」(最高刑死刑の国家機密防衛規定)を基軸とする
戦前のスパイ防止法体系(国防保安法、軍機保護法、軍用資源秘密保護法など)を
「踏襲すべき」とのべ、新たなスパイ防止法も「死刑を最高刑とすべき」と主張して
いる。この論文から少し引用しよう。
〈スパイ防止法制定反対論は、言論の自由の侵害というものからくる。つまり、ス
パイ防止法が報道の自由、国民の知る権利の侵害であるというものである。はたし
て、そうか。それらの権利が無制限な権利ではないことは常識である。/行政の情報
公開は国家機密にも無制限に及ぶべきなのか。これは国家機密の存在自体を否定する
暴論・妄説である。これは理論ではなく、じつは、わが国の機密を否定することに
よってわが国を「国家」として認めない政治的意図のもとになされている。そもそ
も、情報とは内容を把握して管理されねばならないのであり、公開するのも管理、秘
匿するのも管理である。したがって、情報公開法とスパイ防止法は諸外国がそうであ
るようにセットで制定されなければならないものである。/このように反対のための
理論は破綻している。〉
さて、ここまで詳細に引用すれば、西村がどういう人物であるか、誰にもおよそ見
当がつくであろう。西村は、皇国思想をもつ国粋主義者、偏狭な民族主義者、国家・
国権主義者であり、古典的な軍国主義者、武装平和主義者である。戦後生まれである
が、戦前の国家体制に強い愛着を感じている。
しかし、先の引用中、『正論』の本年12月号にある次の発言は、やはり十分な注
目に値する。あえてもう一度記そう。
「われわれ日本民族が存続するためには女性を守らねばならない。女性さえ守れ
ば、われわれ民族は存続できるわけです。女性こそ国防に関心を持たねばならない。
なぜなら女性が産んだその息子が一旦緩急があれば戦う立場に立つわけです」。
つまり〈大和撫子は、日本民族の存続のために子どもを産むべきであり、産まれた
男子は、日本国家のために命を捨てるべきである〉と、西村は確信しているのであ
る。このような民族主義、国家・国権主義に基づいて、彼は露骨な性差別表現を繰り
返してきた。
女は「柔らかい乗り物」で、男はみんな「強姦魔」(オレらみんな強姦魔)、そし
て、男はみんな愛する者のために、簡単にあっけなく死ねばいいんだ、と主張してき
たのである。
西村の性差別意識を、無数の女性たちが、そして男性たちも厳しく糾弾しているこ
とを知りつつ、先に触れた福田が「比喩が、多少くだけたものであっても、問題にす
るにはあたらない」と抗弁していることに、西村を支持する彼ら右派論客の人間観、
あるいは性差別意識が、すさまじく露呈している。
西村の辞書には、「人権」という言葉も「民権」という言葉もないようだ。彼に
とっては、「日本国家の存続」が至上の価値であり、その価値の中心には天皇が位置
している。それゆえ「国民」は、そのような「国家の存続」のために死すべきである
というのである。彼にとって、人間は、「国家存続」のための、使い捨ての駒、モノ
にすぎない。西村発言の根底には、このような思想がある。
西村が〈来たれ、若人よ、ともに日本再生をめざして〉と呼びかけて「西村塾」を
開いていることも知られていい。更迭された後、同塾のインターネットのホームペー
ジには、若者から西村発言への共感のメッセージが、次々に寄せられている。その事
実こそ、事態の深刻さを物語っていると私は思う。最後に、危険極まりない事態が進
行しているという認識を、より鮮明に共有するため、湯澤貞・靖国神社宮司の、ごく
最近の次の証言を記しておく。
「小林よしのりさんの『戦争論』が出ましたでしょう。あれを見て(若い人が)ず
い分お参りにくるんですね。それが分かったのは、遊就館(「英霊」顕彰のための戦
争賛美資料館、引用者)に、ご覧いただいたあとで感想を書いていただくコーナーが
あるんですが、数年前までは戦争の体験者がいろいろと思い出を書いてくれたんで
す。それがいまは逆になりまして、若い方の発言が非常に多いんです。
自分は『戦争論』を見てここへ来ました。遊就館を見たけれども、自分たちが学校
で学んだ日本の近現代史と、小林よしのり氏のいうことや、靖国神社を見るのとずい
分違うということに気がついた。もういっぺん日本の歴史を勉強し直したい、という
ようなことを書いている方がいるんです。」(99年11月4日付『産経』夕刊)
【筆者 いのうえ・すみお、東京都は戦争協力をするな!平和をつくる市民連絡会、
沖縄・一坪反戦地主会関東ブロック】
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